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箱舟旅団冒険記  作者: 月也青威
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第一章:魔剣クラルヴァイン

黒靄さんのちょっとした暴露回です。





星核(ケアン)がマナを生み出し、そのマナから精霊が生まれ、マナを元に精霊が作り上げた世界、それがエレオス。

星核(ケアン)が生命を流転させる事でマナに満ち溢れたエレオスには、数多くの種族が生存している。


人間は元より、エルフやドワーフ、小人族(ピグミー)

獣が人型となった獣人族、翼を持つ鳥人族、強大な力と角を持つ鬼人族などの亜人種。

物質界である地上に住む彼等の事を総じて、人類(ヒト)と呼んでいた。


クラルヴァインのような魔人族も、人類(ヒト)の中の亜人種と言うカテゴリに含まれるが、その生まれと強大すぎる力、そして悪魔に近い生態から、魔族よりの主だと認識されていた。



〈ん?魔族と悪魔って違う種族なの?〉

〈あぁ。こいつらも性質が似ているから混同されがちだが、悪魔は精神生命体。

対して魔族は魔物に知能が芽生えて進化し、自我を得て人型となった者達の事だ〉



魔族も心臓部に魔核(カルブ)を持つものだが、その最大の特徴は躯に刻まれた刺青のようなものだ。

顔や首など目立つ場所にあるそれは、己が種族を誇るかのようで、誰が見ても一目で魔族だと解ると言う。


人類(ヒト)が生きれば争い事は起きる。

争いは死を招き憎悪や悲哀、怒り、嘆きを生み、それらは溜まり積もって澱み、やがてはマナを穢す。

穢れたマナは災いを呼び、災いは魔物となって人類(ヒト)を襲う。


そんな魔物が自我と知能を持った者が魔族であり、それ故に魔族は多種族を忌み嫌い、見下し、蔑み、害を為す。



〈世界各地で争いが耐えなかった時代、魔族共は瞬く間に数を増やし、人類(ヒト)の領土を侵し始めた。

その結果、世界の半分近くが魔族の領土となり、やがて人類(ヒト)との争いは世界全土に広がった。

それが凡そ千年前。─────人魔戦争。俺が魔人族として生まれたのは、丁度この頃だ〉



千年前…といってもクラルヴァインは封印されてから経過した年月を、正確に知っているわけではない。

もしかしたらもっと前かも知れない、とは言っていたが、それくらい昔に世界を揺るがす対戦が勃発したのだ。


人魔戦争。


当時、世界の全てを掌握し、人類を根絶やしにしようとした魔族と、そんな魔族から世界を、生きとし生ける全ての人類を救い、抗おうとする人類(ヒト)

決して相容れない者達の戦いは、300年近く続けられた。


人類にとって魔族を始め魔に属するものは、忌むべき敵であり、魔族にとって刺青(シルシ)のない者は排すべし敵。

そんな考えが当たり前の事として根付いた時代に、クラルヴァインは悪魔と人間の子として生まれた。


魔族より上位とはいえ、悪魔も魔に属する者。

魔人として生まれたクラルヴァインを庇護する者など、人類(ヒト)側にいる筈もない。

また魔族側も下等生物(人間)の腹から生まれた子を仲間と見る筈もなく…。

子は半端者、忌み子と蔑まれ、悪意と拒絶の中で育った。



〈人類差別による迫害ってやつだね。そんな差別と迫害の中で育った子の心が、荒み、歪み、暗く澱むのは無理からぬ事。

この世の全てが己の敵であるとの考えに凝り固まるのは、当たり前の事だった。



〈それで、まぁ、その、何だ。戦う術を得た俺は、目についた生き物を片っ端から殺しまくり、最終的には人類(ヒト)も魔族も関係なく殺しまくった〉

〈あ~~~~~~~ららぁ~~…。大量虐殺来ちゃったよ〉



さらにブッ飛んで世界ぶっ壊す、とまで発展しなかったのは良い事…、と言うよりは不幸中の幸いだったと言えるのかも知れない。


あの当時はそんな事まで考えていなかったが、そうなっても構わない、くらいの事は思っていたのだろう。

この世の全てを憎み全てを壊し、ただひたすらに命を狩り取り続けた。



〈戦場にも乗り込んで殺しまくっていたからな、当然のように双方から討伐隊が差し向けられた〉

〈そんな事してたらまぁそうなるよねぇ…。それで魔剣になったと?〉

〈いや、討伐隊は全て蹴散らした〉

〈うわ〜お。あっさり言ったよこのヒト〉



流石『自分は強い』と自信満々に言うだけの事はある。

魔族側も人類(ヒト)側も、被害を拡大しただけで討伐作戦は失敗に終わった。


しかし、時代は人魔戦争の真っ只中。

どちらにとっても厄介極まりない存在であり、放置出来ない案件だった。

人類(ヒト)側はクラルヴァインの存在を持て余していたが、魔族側は少し違ったらしい。



〈当時、魔王の側近に受肉した悪魔の将が1体存在していてな。俺はそいつに殺された。

詳細は覚えてはおらんが、姑息な手段で追い詰められ後ろから一突きだ〉

〈それは確かに姑息だねぇ…〉



実に魔王の側近とは思えない姑息っプリだ。

悪魔将校(笑)とか言ってしまいそうである。


その上その悪魔将校(笑)はクラルヴァインの魔核(カルブ)を己の剣に宿し、その力を利用したと言う。


こうして魔人の青年は魔剣クラルヴァインとなり、その力を利用され続けたのだ。



〈大人しく使われてた訳……ないよねぇ〉

〈当たり前だろう〉



苦笑混じりの白靄の言葉に、クラルヴァインはきっぱりと断言した。


悪魔は魂を喰らう。

魂を喰らう事で強くなる性質は、悪魔特有の物。受肉したからと言ってその性質がなくなるわけではない。


クラルヴァインの魔核を武器に宿した悪魔将校は、魔剣を用いて人類(ヒト)の軍を斬り伏せ、その魂を喰らい続けた。


クラルヴァインも悪魔の血を引く者故、後に魂喰(こんじき)の力を手に入れたと言う。



〈その上、俺は喰った魂の力を取り込み奪う事が可能でな。喰った魂の中に、相手の精神を侵食して崩す力があったのだ。

それを利用して、ゆっくりと将校の精神を侵食し、魂を喰らってやったのだ〉

〈うわ、えげつな!自業自得だとは思うけどエゲツナイね!〉

〈ふん。あの将校の性根が腐っていた上に軟弱だっただけだ〉



自身が最上位種である悪魔である事に高い誇りを持ち、多種族をどこまでも見下していた自尊心の塊。

誇り高き悪魔の将でありながら、“魔人族ごとき”の力を利用して己が強いのだと天狗になっていた。


そんな奴が側近とあっては、魔王何て奴も高が知れている。

結局悪魔将校はそのままクラルヴァインに取り込まれ、魔王軍は内部崩壊を始めた。


結果、魔族側はそのまま人類(ヒト)側に敗戦し、どこぞの小さな島にまで追われたと言う。


そしてクラルヴァインは攻め込んで来た人類側の英雄、アーデルベルト・ランセルとの一騎討ちの末討ち取られ、剣も叩き壊されたらしい。



〈まぁ、魔核は無事でな。奴もそこまで詳しくなかったようで、そのまま放置されたのだ〉

〈で、ちゃっかり他の武器に逃げ込んだわけか〉

〈あの時はまだ殺し足りないと思っていたからなぁ…。魔剣として存在し続けていれば、力を望む阿呆が出てくると思ったのだ〉

〈まぁ、いるでしょうけどね…〉



とことん凶悪な殺人狂だったのなと軽く呆れれば、だから引くと言ったんだとバツが悪そうに呟いた。

思惑通り、クラルヴァインの力を求める“阿呆”は後を絶たず、多くの者達の手を渡り歩いた。

そうして人魔戦争終結から凡そ五百年、クラルヴァインは様々な者の手に渡る。


そしてその都度所有者の魂を喰らっては肉体を奪い、本能の赴くままに殺戮を繰り返し災いを振り撒き続ける。

その結果、“最強にして最凶”の魔剣、とまで言われるに至ったと言う。



〈それで封印されちゃったと〉

〈まぁ、そういう事だ。だから大して面白い話ではないと言っただろう。

俺としても当時の事は若気の至りが過ぎて、思い出すのも億劫なのだ。これくらいで良いだろ〉

〈あー…。自分以外は皆敵ってやつねー。

まさに厨二全開の黒歴史だもんねぇ〉

〈言葉の意味はよく解らんが、良い意味ではない事は理解した〉



何とも頭を抱えて悶えたくなる言葉の響きだ。

実際クラルヴァインは苦悶するように頭を抱え、黒靄がぐにゃぐにゃと激しく揺れて、躯の輪郭も歪んでいた。



〈今はもう昔みたいな気持ちはないんだよね?〉

〈う…うむ、ないな。人間や魔族に対する嫌悪はあるが、自分からどうこうしようとは思っとらん。それに…〉

〈それに?〉



最後に言い澱んだクラルヴァインだったが、僅かな時間白靄を見つめた後になんでもないと話を切り替える。

何を言い澱んだのかしつこく問い返したが、クラルヴァインは結局話そうとはしなかった。



〈そんな事より!お前の質問には答えたのだ、どうするのかお前も答えろっ!俺の提案を呑むのか?〉

〈あぁ、それね。いいよ〉



若干慌てた様子で話題を戻したクラルヴァインの問いに、白靄は先達ての慎重さはどこにと思う程、あっさりと了承した。

その余りのあっさりさは、クラルヴァインの方が面食らったくらいである。



〈…いやにあっさりだな〉

〈別に元から不満があった訳じゃないからねー。ただ確認しときたかっただけ。

嘘言ってるようにも見えないし、過去は丸っと黒歴史だけど話してみて悪い奴とは思わなかったし?〉

〈だから黒歴史言うのはヤメロッ!!〉



ちゃっかりクラルヴァインをからかいつつ、最初から提案は呑むつもりだったと明かす。


本当に心の底から全てを憎み壊そうと考える悪人だったら、何の抵抗も出来ない白靄の魂を取り込んで人形を奪うくらいするだろう。

それをせず根気強く何も知らない自分に色々教えてくれて、今後の面倒も見る、とまで言ってくれたのだ。


そんなお人好しに近い彼を、災いを呼ぶ魔剣だったからと言って拒む理由など白靄にはなかった。


それに、異世界から来た己が、封印術式と結界とで封鎖されている魂の寝所内部に、延いてはクラルヴァインの目の前で転生したのには、何か意味がある気もする。


『この世に偶然はない。あるのは必然だけ』


そんな言葉を、遠い昔どこかで聞いた気がする。

その言葉に従うのならば、己がここに転生したのも、双子の人形と共に来たのも、クラルヴァインのと出会ったのも全て、必然だったのだろう。



〈…ふん。変わった奴だ。魔剣で、魔人族の俺を相手に運命共同体などと…〉



どことなくネガティブ発言にも聞こえるが、そう呟いたクラルヴァインは穏やかな空気をまとっている。

それは暖かな喜色を宿して見えた。



〈それはそれとして、人形を器にするってどうすれば良いわけ?〉

〈あぁ。ただ人形に重なるだけで良い。その人形はお前の魂と同じ波長を持つから、それで十分だ〉



人形は元々人形(ヒトガタ)と呼び、形無きモノ達の器として、昔からよく使われている。

人の姿をして空っぽだからこそ、器に最適なのだと言う。

魂が宿りやすくもありで、魔核の容れ物にもなりやすいのだが…。


因みにクラルヴァインは波長を自分で合わせる事が可能だ、との事。

封印されて力を奪われて、魂も欠けて魔核も壊れかけているのに、そこはかとなくチート臭が漂う御仁である。




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