死の部屋
目の前に机と椅子がある。 たぶん、来客用の椅子だろう。 ボクはその椅子に腰かける前に少女に話しかけた。
「ここ座って大丈夫?」ボクの声に少女は直ぐに応答してくれた。
「あなたのために用意したんですよ。 どうぞおすわりくださいな」丁寧な言葉でボクを椅子へと誘う彼女はて慣れている感じだった。
席に座ると周囲の状況に目が行った。 この空間最初は何もなかったような気がするけど今はどことなく白塗りの靄のようになっている気がする。 目を凝らしたら何か見えるかもしれないけど。 何も見えないかもしれない。 そんなもやもやした気持ちにさせる空間だなぁ、とボクは考えていると。
「お菓子と紅茶はいかがですか?」ボクが死んだにも関わらず、哀れみの視線など送らず、少女が聞いてくる。
「貰うね」ボクは少し落ち込みながら紅茶を受け取った。 正直、せっかく手にした命をあんなチンピラ風情に取られるとは思っていなかったボクとしては、慰めてほしい気持ちでいっぱいである。
そんな思いは考えていないようで、少女の一言は冷酷であった。
「また死にましたね」
ボクは下を向きながら「はい……。」と静かに答えた。 前回は夢だと思っていたため、セクハラもできたが、今回は心底落ち込みモードである。
少女は淡々と話を続ける。
「今回あなたが死んだ原因なんだと思いますか?」よくわからない質問にボクは困惑をしていると。
「単純に死んだ理由を考えてみてください」と少女は一言。
「ボクの防御力が低かったとか?」適当な答えをとりあえず答えてみる。
「そうですね。 その通りです」少女は笑顔でボクを見る。 かわいらしい笑顔だ。
「えっ? あっているの?」確かに刺し傷を受けた結果、 出血が多すぎて死んだみたいだからいいのかなぁ。 まあ、いいか。
「それで、どうしてそんな質問をしたのかい?」ボクはこの質問の理由を少女に確認した。 誰でもするだろう。 だって意図知りたいし。
「あぁ、えーっとですね。 次の復活のために必要なことなんですよ」少女は特に隠すことなく言ってきた。
あれ? ボク、また復活できるの? 想定外の一言に混乱する僕に対し、少女は話を続ける。
「前回みたいに変に使いにくいスキルではなくて今回は優秀なスキルを付けてあげますね」
前回? 前回って一番初めの復活の時か。 確かに、ミノタウロスに普通に勝てたし、なんか変化している気はしていたけど、スキルついてたんだ。 てっきり、人間やめた影響かと思っていた。
「ごめん、話をしているところ悪いんだけど、いろいろ整理させて」ボクは少女の話が勝手に進む前に中断して質問をした。
「まず、ボクは復活できるの? 蘇れるの?」一番重要。 ここがとにかく重要だ。
「蘇れますよ」少女の即答にボクは歓喜した。 マジでか。 やったぁ。 次こそ長生きしてやろう。
ボクは平静を装いながら次の質問をする。
「前回のスキルって何?」次に重要な質問。 まったく無能なボクにはかなり重要な項目。
「あなたが復活したときに有しているスキルのことです。 名前は【フェアプレイ】と言います。 相手と同じように戦えるように、力、速度、防御力の三つと、武器を同じようにするスキルです。 まあ、今回みたいに相手が弱いとすべて未熟で正直過信できない能力ですが」なるほど、チンピラに負けた理由は相手が弱すぎるから対してステータスアップしなかったのか。 それで、ミノタウロスに勝てた理由はボクの方が小回りが利いていて、力はミノタウロスクラスだったからなのね。
うん? 待てよ。 でもこれだと随時発動している感じだから、次も同じ感じになるんじゃ?
「少女よ。 質問なんだけど、このフェアプレイ随時発動していると不便なんだけど直せるの?」ボクは次のことも考え質問する。 できないとかなり不便。
「直しときますね。 随時ではなくあなたが必要と思ったときに心で願ってもらえるような使用に」少女は特に嫌な顔もせずに対応してくれるようだ。 少女はやっぱり天使のような子だな。
「ありがとね。 じゃあ、最後次付くスキルって何?」質問ばっかだけどこれも気になる。 変なスキルならここで変えてもらえるかもしれないし。
「次あなたに与えるスキルは【フィジカル・アーマー】です。 物理攻撃をあなたの魔力分だけ無効にする能力です」なかなか強そうなスキルじゃん。 やったぁー。
「それで、あなたの魔力ならば……。 ギリギリ三回まで防御可能です」少し、少女の顔が悲しい顔つきになったような? まあ、気にせずに、気にせずに行こう。
「何か不満点はありますか?」少女はボクにスキルのことで確認を取る。
「不満なんてないよ。 これでボクはまた強くなれそうだしね」能天気にボクは答える。
「強くなるとは思いますが過信しないでくださいね。 また死にますから」少女の優しい忠告にボクは「わかってるって。 次は死なないようにするから見ててよ」軽口をたたいていた。
「本当に気を付けてくださいよ」少女はかなり心配した顔でボクを見てくる。 うるんだ瞳は子犬を思わせるようで、愛玩動物のようであった。
「もう、わかってるって。 そんなに心配すると……こうだぁ」ボクは少女の背後に回って胸を揉みしだく。 前回夢だと思ってやっていた行動だが、今回はリアルで行うこの背徳感。 かなり素晴らしいな。
「い……いやぁ、またそんなとこ触らないでください。 うぅ……」少女は前回同様に初々しい反応をする。 ボクは調子に乗って「やっぱり、結構好きでしょ。 こういうの」と耳元でささやくと。
「こんなこと、嫌いです。 破廉恥です。 最低です」顔を真っ赤にしてボクを突き放した。 今回はこのぐらいにしといてやろう。
「ごめん、ごめん。 ふざけすぎた」ボクは下をペロっと出し、謝罪をする。
少女はボクを軽蔑したような目で見ながらも「あなたが心配させまいとする気持ちはわかりました」と言い少し距離を取る。 なかなか、視線は痛かったが、前回のショックでしゃなく、少し快感のようなものも感じ始めていた。 そしてボクは現実世界でできない分のセクハラを今度からここでやろうと決めた。
ボクの決意が固まったところで、少女はまだ軽蔑の目を向けながら話を進める。
「それでは、また門を開きますから。 早く帰ってください」今回は前回みたいなしんみりした感じではなく、早く追い出される感じだ。
「うん、帰るよ」ボクは元気に返事をして、少女と別れを告げようとする。 だが、その前に聞かなければならないことがある。
「あのさぁ、前回は聞き忘れたけど君の名前ってなんていうの?」本来最初にするべき質問だ。 だが、ここに来るときはいつも切羽詰まっているため忘れてしまう。 そのため、今回はちゃんと気が付いたタイミングで質問したのだ。
「あなたには教えていませんでしたね。 私の名前は……? なんでしたっけ?」少女は自身の名前を思い出せなくて困惑している。 なんでっしたっけ?って言われても。
「わからないの? 自分の名前が?」ボクも困惑の視線を送る。 そうすると、少女は「とりあえず、イクスと名乗りますね」と名乗った。
「何処から出たの? その名前?」一応聞いてみる。
「私が好きな言葉【経験】から来ています。 まあ、深く追及するのは野暮です」イクスは顔を真っ赤にして言い放つ。 結構可愛かった。
「とりあえず、私の名前はイクスです。 これでいいでしょ」まあ、いいや。 それで。 そんなことより早く蘇りたいし。
名前を聞き終えたところで、ついにまた、ボクは蘇る。
次はどんな言い訳しようかな? ちょっと考えとこ。 っと考え、ボクは前回同様、蛇や草が絡まった不気味な門の前に立つ。 そして一言「バイバイ、イクス」
「はい、また一時的なサヨナラですけど」また、ブラックジョークを言ってボクを見送るイクス。
そして門が開く。