慎重さにかけたせいで
メイドさんのいるバリ・ユー道具店を後にすると、周囲は暗くなっていた。 今日一日はいろいろなことがあって疲れた。 少しでもきれいなところで寝たい。 と考えていた時、レアが一言発した。
「では、ベリー、ニーナ今日のところは一旦休むか」レアは周囲を見渡し一言。
同調するように「そうだね。 今日はもう遅いし、あたしたちの本拠地へ案内するよ」ベリーが話し出した。
本拠地と言うのは、彼女たちが寝泊まりしている場所のことだろう。 どんな場所かすっごく興味がある。
でも気になることがある。
「二人とも。 今日仲間になったばかりのボクをそんな場所に連れて行っていいのかい?」さすがに都合よく行き過ぎていると思ったボクは直ぐに確認を取ることにした。 正直もともとボッチだったボクが、こんなに都合よく友達もできて、友達の家に招待されるのは、出来すぎだと思ったのだ。
そんな疑問露知らず「ニーナ。 今日確かに仲間になったばかりの私たちだが、私たちの命を救ってくれたのも君なんだぞ。 そんな恩人を警戒するわけがないだろう」ボクのことを完全に信頼しているレア。 信頼してくれるのはいいのだが、彼女は人が良すぎるため、もしも騙された時が怖くなる。
「そうだよ。 ニーナ。 もしもそんな危険な人だったら、あたしたちのことなんか助けないでしょ」ベリーも似た感じの考え方か。 二人とも人が良すぎるよ。 ボクが男でも招き入れたんじゃないの。 これからボクは二人が変な男に騙されない様に気を付けないと。
「わかった。 二人とも。 じゃあ、今日から二人の寝床でお世話になるね」これからレアとベリーのことを守ると誓いボクは寝床へと向かった。
華やかな町の夜をしり目にボクたちは移動を開始した。 町並みは昼と違いピンク色に染まっている。 ビキニのような薄い恰好をした女性。 少女が多く歩いていて、男の人を誘っている。 ボクも男ならすぐに引っかかってしまいそうだ。 いや、女のボクでもすぐ引っかかる。 だって女の子が好きだから。
そんなことを考えていると、レアが軽蔑した視線を男に向けながら通り過ぎて行く。
「すまない、ニーナ。 この町の夜はあまりいいものではないんだ。 女を慰み者にする最低な人間が多くてな」レアは心底嫌そうに通り過ぎていく。 確かに良いものではない。 そうだ、良いものではないんだ。 レア、ボクはまだ過ちを犯していないから嫌わないでね。 心の中で独り言を言うと、いきなり男が四人ほど前に出てきた。
「なんなんだお前たち?」レアは警戒したように剣に手を伸ばし周囲を確認する。
男が一人話し出す。
「いやね。 君たちみたいな可愛い冒険者はこんな夜の時間ボディーガードが必要と思ってね」あからさまにボディーガードする気などなさそうな雰囲気で話しかけてくる。
「お前ら程度の腕前のボディーガードなら不要だ」相手を挑発しながら、四人の男の間を抜けようとするレア。 もちろん、邪魔されるわけで。
「おっと、通さないぜ」複数の男が道を通さまいと邪魔をする。
「じゃあ、お小遣いくれない? お姉さんたち? 冒険者なら金があるんじゃないの?」やっぱり金目当ての犯行か。 わかりきっていたけど。 情けないな。 男なら働いて稼げよ。 内心男たちを軽蔑しつつ様子を見守るボク。
レアは男たちに対し「女に手を出して金品をせびるのは男としてどうなんだ」と説教を開始する。 男たちは馬鹿にしたように笑っている。
「楽な方がいいじゃんさ。 まあ、言うこと聞いてくれないなら、痛い目に遭ってもらうよ」男たちは一斉に襲い掛かってきた。
二人がレアの足止めをし、もう二人がボクとベリーを襲おうとしていた。 たぶん、強そうなレアを二人で足止めして、ボクとベリーを人質にするつもりなのだろう。 だけどそんなにうまくいかないんだよ。 ボクはそう考えていた。
「ねぇ、君たちさっきの女の人たちより弱そうだよね」案の定ボクに対してナイフを向けてくる男の一人。 正直ミノタウロスの鉈に比べたら全然怖くない。
ボクは自分の力に自信があった。 今は雑魚モンスターにも負けそうとは言ったものの、ミノタウロスを倒した実力があると思っているからだ。
ボクは男に挑発をする
「そんなことないと思うよ。 お兄さんの方が弱そうじゃん。 女の子狙っているあたり」的確な挑発だと思う。
挑発に対しこめかみをピクピクさせて男はナイフを握りしめ「本当に弱いかは、体で体験しな!!」とすぐに襲い掛かってくる。 やはり単純だ。 こんな挑発に引っかかってしまうあたりかなり馬鹿らしい。
ボクの顔めがけて平然とナイフの切り傷を付けようとする男に対し。 ボクは華麗にナイフの刺突を避ける。 ……うん? 避けれたと思ったけど避けられていない。 ボクの顔には少量の血が流れだしている。 あれ? ボク普通に弱くない?
ボクは男に「ちょっと待って」と言うが、男は大したことない挑発で怒りがマックスの模様。 これは、になやましろ大ピンチ。 変に挑発なんてしないで捕まっていればよかったかも。 ボクはむなしく心の中で独り言を言った。
「オラァアアアアア」男の刺突は一向に止まない。 ボクは必死で避けている。 避けては後退して避けては後退を繰り返している。 だが、どの攻撃もほとんどギリギリで当たっている。 正直痛い。 でも、ここで叫んだらいろいろまずい気がして。 我慢している。
どうしよう。 どうしよう。 この状況をどうにかするために必要なもの。 必要なものは何だろう? この状況で必要なもの……。 相手と対等に戦える武器が欲しい。 でも、そんなのないし。 と思った瞬間。 ボクは利き手が光り出していることに気が付く。
これは、もしかして、能力の覚醒? もしも覚醒としたら、勝てるかもしれない。 と言うか負けるわけない。 だって人間やめたボクだよ。 当然大丈夫なはず。 過信するボクは右手を強く握りしめ、男に殴り掛かる。
「ううぉやぁああああ!!」ボクの回心に一撃だ。 受けてみるがいい!!
男はボクの殴り掛かった手を掴み俗にいう背負い投げのようなことをする。 あれ? これは基本敵がやられる技じゃないかな? 少し考えていると。 「女のくせに調子乗りやがって」ナイフを投げ捨て男がボクに馬乗りしてくる。 女子として男の馬乗りとか勘弁なんですけど、とか思っていると顔面に何度もパンチをされた。 ボクは咄嗟に右手を見たがそこにあったのは男が持っているものと同じナイフ。 起死回生とかそんなの関係なくただのナイフだった。
「グヘェ、ボフゥ、ウグゥ、ゲボォ」ボクは顔を殴られながらいろいろな効果音を言った。 これ女子がされる扱いじゃない気がする。
男の方はとにかく何度も何度も殴り掛かる。 目が充血していてかなり怖い。 なんでこんな奴にけんか売ったんだろボク。 そんなことを冷静に考えていると、ボクの体は限界を声に出していた。
「ぐすん……。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 お願いですから。 もう殴らないでください」我ながら恥ずかしいことを言っている。 これでもボクはミノタウロスを余裕で倒した女の子なのに。 泣きそうな気持、いや、もう泣いている。 鼻水と鼻血垂らして泣いている。 こんなとこ誰にも見せたくないや。
男はそんなボクを見ながら笑って「許す気ないから。 このままズタボロのぼろぞうきんみたいにするつもりだし」
このクズが。 女子にそんな事すんな。 ボクは可愛い可愛い少女なんだぞ。 可愛い可愛い女の子なんだぞ。 くっそぉこんな時になんでミノタウロス倒した時の力でないんだよ。
ボクが内心悔しさと悲しさと惨めさと虚しさに苛まれながら男を見ていると、徐々に力が出なくなってきた。 最初はあんなに元気に謝っていたのにいつの間にか、口を動かす気も起きなくなって、なぜだろうと思うと、 ボクの周囲の血だまりに目が言った。
これ、ボクの血? すごい量だけど。 ボクは納得した。 出血多量で死にそうになっているんだ。 また死んじゃうんだ。 もう何回死ねばいいんだ……よ。
「……ましろさん」この感じ前も感じたことがある。
「になやましろさん」ああ、あの時と一緒だ。
「はい、なんでしょうか?」ボクは直ぐに椅子に座りたぶん紅茶を楽しむ謎の少女と対面した。
そう、性懲りもなくボクはまた死んだ。