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人生の始まり

「ぎぇぇぇええええええ!! 痛い。痛い。痛い」少女の悲痛な叫びが聞こえる。

少女は膝の下をバッサリと斬られたため、あるべきはずの足がなく、代わりに本来見えないはずの、赤と白のコントラストとでも表現できる、肉と骨の断面が見えていた。

卑怯な策を使い、ミノタウロスから二人の少女を救い出した少女が目の前で悲痛な叫びをあげている。 その光景を二人の少女は黙ってみることしかできていない。

騎士甲冑の少女は悔しそうに、ミノタウロスを睨みつける。 鋭い眼光は、隙あらば必ず相手を殺すという気概に満ち溢れていた。  

魔法装束の少女は、自身の失態が招いた責任から、どうにか、少女を助ける方法を探している。 だが、手を出すことができない。 

そう、この二人は理解している。 どんなに力を合わせようが、ミノタウロスを止めることはできないと言うことを。 今、二人が本来考えなければならないことは、犠牲になっている少女の救助方法ではなく、逃げ切る算段だ。 そのことにいち早く気が付いたのは、騎士甲冑の少女だった。 

「ベリー、もう彼女を救うことはできない。 彼女命を無駄にしないため、すぐに逃げよう」力ないことへの悔しさから、声が震えている。

「ダメだよぉ。 あたしは逃げられないよぉ。 あたしのせいであの人死んじゃうなんて……」弱々しく騎士甲の少女へと反論する。 だが、言葉とは裏腹に、彼女の瞳にはミノタウロスへの恐怖が染みついていた。

「そ、そうだよ。 あの魔法ならきっとまだ救えるはずだよ。 閃光を司る……」ベリーは思いついたかのように、魔法の詠唱を始める。

だが、パチンっと音が鳴り詠唱が止まった。

騎士甲冑の少女がベリーを平手打ちしたのだ。

「この状況がわからないのか、彼女はもう足を切り落とされているんだ。 どう考えても私たちでは助けられない」諭すように、ベリーに言い聞かせる騎士甲冑の少女。

「でも、でも、あたしがあんなに油断しなければ、こんなことには」ベリー自身も分かっているのだ。 もう助けられないということを。 

「どうしよもないんだ。 私たちは弱すぎる」悔しそうに騎士甲冑の少女はベリーを連れ、逃げ始めた。


ミノタウロスは少女の体を食べている。

先ほどの叫び声はもはやなく、代わりに気色の悪い音が聞こえてくる。 グチャバリギチャ。 元々人間だったものは足だけとなり、他はすべてミノタウロスの胃袋の中。 残りの足も全て食べ終わると、ミノタウロスは雄たけびを上げる。

『ブウォオオオオオオオオオオオオ』

二人の少女は、後ろを振り向かず、必死で逃げている。 後ろを振り向くと責任感と罪悪感で押しつぶされてしまいそうになるからだ。 遠く、遠く、せめて、ミノタウロスが見えなくなるまで必死で逃げ続けた。 だが、彼女たちは知らない。 ミノタウロスにはある特性があることを。


「なんで、なんでまだあたしたちを追ってくるの?」ベリーはゼエゼエ息を切らせながら必死で逃げている。 そのたびにたわわに実った果実が揺れている。

「そんなこと知るか!! あの少女を食べたから満腹になっているはずと思ったが、そういう訳ではないということじゃないか?」騎士甲冑の少女は重そうに走りながらベリーの質問の答えを予想で答える。

騎士甲冑の少女の考えは正解だった。 それは、ミノタウロスの特徴に関係する。 ミノタウロスは暴食を摂ることで、有名だが、人間を食した場合のみ、通常よりも多く摂取しようとするのだ。 具体的な理由は不明だが、一説には人間があまりに美味しすぎるため、食力を抑えることができないのでは? と言われている。

二人は相も変わらず、必死で逃げている。 だが、次の瞬間、ミノタウロスが自身の持つ鉈を勢いよく進行方向に投げてきた。 相当な威力だったようで、風圧がすさまじく、二人ともこけてしまった。

「どうしよう、レア」騎士甲冑の少女にベリーが話しかける。

「どうするも、何ももう逃げるのはきつそうだな 一か八か戦うしかないだろう」当然のように騎士甲冑の少女、レアが語る。

「先ほどの少女には大変申し訳ないことをしたが、もう腹をくくって戦うぞベリー」盾を構えながら立ち上がるレア、その姿はまるで一番槍を務める兵士の長のように勇敢であった。

「やっぱり、こうなっちゃうんだね。 ごめんねさっきの人」申し訳なさそうに魔法の帽子を深くかぶり、魔法のステッキを構えるベリーは、恐怖でまだ足が、ガタガタ震えているが、必死で立っている。


ミノタウロスは二人の少女をどのように食べようかと考えているようで、左右ちらちら睨みつける。 そのたびに、ベリーはビクッとするが、ミノタウロスはそのしぐさを見逃さなかった。 まずはベリーから食べようと、鉈を持ち突進してくる。 

「やっぱり、ベリーから狙うか。 このクズ野獣」元から想定したように、レアが盾を持ち突進を防ぐ。

ミノタウロスの突進は強靭で何メートルも後方へと追いやられたが、どうにか止めることができた。 だが、突進を止めようがミノタウロスの猛攻を防ぐすべはない。 

『ぶぉぉおおおおお』ミノタウロスは何度も、何度も鉈で盾を切りつける。 徐々にではあるが盾から、嫌な音が聞こえてくる。 このまま耐え続けると近いうちに壊れそうな勢いだ。 その時後方で声が聞こえた。

「万物を守りし守護人よ、我が前に立つ同胞に守りと言う名の祝福を。 アイギス」ベリーの支援魔法により、壊れかけていた盾が光り出す。 そして、壊れた個所も全て治り、元通りの状態になった。

ベリーはアイギスと言う高等魔法を使っていた。 この魔法の特徴は数分の間盾をどのようなものでも破壊できない完璧なものに変更する力と、壊れていた盾をもとの状態に戻すという力がある。 だが、この魔法には弱点がある。 術者の魔力消費が非常に多く、乱発できないということだ。 そして、案の定ベリーは苦しそうな顔をする。

「大丈夫か? ベリー もう少しの辛抱だ。 どうにか私がこの状況を」必死で受け止め続けるレアだが、限界まではさほど時間がかからなかった。

ミノタウロスがでたらめに何度も何度も盾に切りかかる。 先ほどアイギスで治った盾だが、すぐに壊れかけてしまった。 と言うか壊れていた。 盾を奪われたレアは必死に剣で鉈をはじいている。 多くの斬撃を盾で受け続けた腕には疲労がたまり、些細なミスを起こしてしまう。

「ぐ」鉈による攻撃で変形した地面に足をすくわれてしまったのだ。 体制を崩したことをミノタウロスは見逃さず、渾身の一撃でレアを薙ぎ払う。

「ぐはぁっ」ミノタウロスの一撃でレアの騎士甲冑はボロボロになってしまった。 骨も何本かイってしまったようで、身動きを摂れずにいる。

「ベリー逃げろ」どうにか出すことのできる声で忠告をするレアだったが、時はすでに遅かった。

ベリーの目の前にミノタウロスが立っている。 ベリーは目の前の光景に恐怖し動けない。 いつもなら、とりあえず質問をするレアも、今は頼りにならない。 どうにかこの状況をよくできる方法はないのだろうかと必死で考えているが、そんなものはないとすぐに結論づけてしまう。 どうにか、どうにか助かりたい一心で、小さな声でボソボソとばれない様に詠唱しだした。 

「閃光を司るヒカ……」ベリーの両足の狭間にミノタウロスは鉈を振り下ろす。

「ひぃいい」ベリーの広げた両足の間に自分と同じ大きさぐらいの鉈が刺さっている。 その光景に思わず失禁をしてベリーは顔を真っ赤にした。

『ウォォォオォフォフォフォ』その光景を見ていたミノタウロスが心底おかしそうに、ベリーの下を眺める。 まるで、「こいつ漏らしやがた、恥ずかしくねえのかぁ」とでも言いたいような雰囲気だった。

恥ずかしさと恐怖から、笑っているミノタウロスから離れようとするベリー。 だがそれほどミノタウロスは甘くなかった。

逃げようとした足を掴むミノタウロス。

「はなせぇ、放せ この変態」自由だった片足だけを使い必死でもがくベリー。 だがミノタウロスは一向に離す気配がない。それどころか次の瞬間。

「え、なに……なんで上に持ち上げているの」自身の体を片足だけで持ち上げられている状況に疑問を抱きながら、恐怖していると。

「えぇぇっぇぇぇぇぇぇ」ベリーは勢いよく下へと叩きつけられた。

「かはぁっ」激痛のあまり言葉でないベリーその光景を見ているレアは「やめろぉ」と叫んでいた。

またも、ニタリと笑うミノタウロス、死なない程度に何度もベリーを叩きつけていった。

最初の方は「やめろぉ」と叫び続けたレアだったが、ミノタウロスはそんなことお構いなしに何度も叩きつける。

「やめてくれ、お願いだ。 大切な仲間なんだ。 私ならどうなってもいい、ベリーには酷いことしないでくれ」と必死の懇願をするレア。

笑いながら、叩きつけるミノタウロス。 ついにはベリーの反応もなくなり、ミノタウロスは飽きたように、口へと運ぶ。

「お願いだぁ、助けてやってくれ。 私ならまだいたぶりがいがあって楽しいぞ。 お前が望むなら、なんだってやってやる。 そうだ、お前の慰み者になても構わない。 だからお願いだ、どうにかベリーだけは。 大切な親友だけは食わないでくれ」動かない体に鞭をうち騎士甲冑を脱ぎ捨て、半ば全裸に近い状態で懇願をするレア。 

笑うばかりで、一向に話を無視するミノタウロスはついに、ベリーの体を口へと運び込んだ。

その瞬間ベリーは考えていた。

「あたしの一生もこれまでか……。 お金を集めるだけの寂しい人生だったなぁ。 あーあ、こんなことならさっきの人助けて恩を売って死にたかったなぁ。 でも、あたしだけでなくてレアも死んじゃうよなぁ。 どうにか生きてくれないかな。 レアだけは絶対に生きてほしいなぁ。 大切な親友だもん。 親友だけはどうにか守りたいなぁ」彼女は涙を流し、親友にサヨナラと心に残し、小さい声で詠唱する。

「破壊を望むる灼熱の爆炎よ、我を贄とし我が前にいるものに永劫の終焉を。」ベリーは自身の魂を魔力に変換する伝説魔法レジェンダリーマジックを使い、レアだけを助ける選択をした。

「お願い、だれかベリーを。 ベリーを助けて」レアの悲痛な叫びがこだまする。 誰も返事をするわけもなく一人の少女の人生が終わろうとしていた。


だが、「まってました!!」軽い口調が周囲にこだまする。

二人の少女は状況を理解できず周囲に目をやった。 だが、誰もいない。 彼女たちはこの絶望的な状況に頭がおかしくなったと考えていた。

『ウォ?』ミノタウロスの様子が何かおかしい。 自身の腹を必要に摩っている。

『ウォォォォォォォオオオオオオオ ギュウウウウウウウウン』変な雄たけびとともに腹に白い光が見えた。 最初は小さかった光が徐々にではあるが大きくなり、その正体を少女二人は理解した。

鉈だ、ミノタウロスが使っているものよりは小さいが同じ形状の鉈である。 ギコギコと内部からミノタウロスの腹を開き、人一人分ほどの切れ目が開かれ、見覚えのある少女が体を出してくる。

「いやぁーさすがにくっさいわぁ。 ミノタウロスの中」

血まみれの少女ではあるが最初にミノタウロスの餌食になった少女だった。

「じゃあ、これから反撃開始としますか」血まみれの少女は鉈を持ちぶんぶん振っている。

決して強そうには見えないが、この状況を。軌跡を起こしてくれそうな淡い希望を周囲にもたらした。


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