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4 蜘蛛さんの群れが現れました

どうしましょう、クォーツが目を合わせてくれません。


彼女に手伝ってもらい糸から脱出してから一時間ほど歩きました。

その間、クォーツは私に冷ややかな視線をぶつけ続けています。

私が彼女の方を向くと、ぷいとそっぽを向いてしまいます。


「く、クォーツさん?」


「……………………」


話しかけてみても無反応。

こちらを一瞥して、すぐに顔を背けてしまいました。


これも私が主として相応しくない痴態をさらけ出したことが原因です。

ああもう、穴があったら入りたい!

この場に穴を掘って埋まってしまいたい気分です。


あ、クォーツがため息を吐きました。

これは私が不甲斐なくて、愛想を尽かしたって事ですか?

もしそうなら私の命運が尽きてしまったということです。


先ほどの戦闘(と呼ぶのもおこがましいほどのなにか)で、今の私には戦闘能力がほとんどないことが分かりました。

以前と比べ遙かに重い身体、低くなった基礎能力。

これらのせいで、思うように戦えなかったのです。

負けた言い訳ではないです。

いいですね、決して言い訳ではないですよ?

比較的弱いとされる蜘蛛さん一匹にやられたのが悔しくて、言い訳しているのではないんですからね!


そんな私に比べて、クォーツは戦闘力が高そうです。

あの蜘蛛さんを一撃で倒してしまったのですから。

私は生憎目を閉じていたためにその現場を見ませんでしたが、少なくとも私より強かった蜘蛛さんよりも、クォーツは遙かに強いはずです。


ここで彼女に見捨てられることは、即ち死を意味します。

なんとしてでも、私はクォーツに守ってもらわなくてはなりません。

先ほどの痴態で、プライドなんてものはとっくに砕け散りました。

正直今思い出すと死にたいくらい恥ずかしいです。


さあクォーツ、私はあなたに守られるためならいくらでも媚びへつらいますよ!

いまならなんだって言うことを聞いてあげちゃいます!

だからお願い、せめて話を聞いてクォーツさん!


そんな私の思いが通じたのか、クォーツが私と目を合わせてくれました。

これはワンチャンありますよ!


「|《所有者様》(マスター)、安心してください。私は怒っていませんから」


柔らかな微笑みを湛えてクォーツはそう言います。


「私はあなたの導具です。ですから、私は|《所有者様》(マスター)がどのような事態に陥ろうとも、決してあなたを裏切りません」


彼女はそっと私の頬骨に手を当ててきました。


えっと、これは私はクォーツに守ってもらえるってことでいいんでしょうか?

なんか、残念な子とか、か弱いアホの子を相手にしている様な態度なのが、少し気に触りますがまあよいでしょう。


では、何故先ほどから冷たい目線を私に浴びせていたのでしょうか?


「先ほどから|《所有者様》(マスター)は、やけに怯えているようでした。ですので、あなたを怖がらせないように安心させるにはどのように接すれば良いのか、それを考えていたのです」


何この子……凄くいい子だ……

悪魔神が作り出した魔人とは思えないほどにいい子だ……


私も、彼女に見合う主にならなくてはなりませんね。


「んんっ、ではクォーツ。私を危険から守ってください。期待していますよ」


出来るだけ尊大にそう言ったのですが、クォーツは優しげな視線をこちらに向けて、微笑みながら「はい、|《所有者様》(マスター)」と返してきました。


もしかして、彼女からは私が悪魔神として精一杯背伸びをしている幼子に見えているのでしょうか。


確かに私は神としては赤子同然ですが、自我が目覚めてから数日のこの子にいわれると悔しいものがありますね。

直接言われたわけではないので、完全に私の被害妄想なのですが。


ゴゴゴゴゴゴッ!


「ん?」


私が悶々としていると、なにやら突然、洞窟の奥から地鳴りのような音が聞こえてきました。


「……クォーツ、この音はなんでしょうか?」


困ったときのクォーツさん。

私は思考停止で彼女に問いかけます。


「はい、私の予想では、先ほどのグラッジスパイダーの群れだと思われます。この魔物は、死んだ同種の体液に惹かれ集まる習性を持っています。そのため、集団でこちらに向かってきているのだと考えられます」


全身を蜘蛛の体液で濡らしたクォーツは、そう答えます。

全身を蜘蛛の体液で濡らしています。

全身緑色です。


「……マジですか?」


「マジです」


「私たちの所に向かってきているのですか?」


「厳密には私個人に向かってきていると思われますが、そうですね」


「…………マズイですよ!?」


地響きは前方から聞こえてきます。

足が遅かったので後方に逃げられるとは思いますが、残念ながらここまでの道で分かれた箇所はありませんでした。

最初にいた場所は、ここに通じる道しかありませんでした。

つまり、真っ正面から立ち向かうか、突っ切るしかありません。


「どどどどどうしましょうクォーツ!? 私、あんなのの群れとなんて戦えませんよ!?」


パニックになる私を、クォーツは抱きしめます。


「安心してください、私が守り抜きますから」


……あ、ちょっと冷静になった。

抱きしめられたことで安心したわけではなく、ガイコツと抱き合う美少女を客観視してしまったためですけど。

シュールな光景ですよね。

こんな状況でも真面目になれない自分の性格が恨めしい。


クォーツが私から離れます。

どうやら蜘蛛さんの群れが到達したようです。


クォーツは数歩前に出て、スッと構えを取ります。

蜘蛛さん達は、カチカチと顎を鳴らし、こちらも戦闘態勢に入ります。

私は数歩下がり、観戦の体勢になります。


このへんにポテチかなにか落ちていないでしょうか?

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