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3 初めての相手は蜘蛛さんです

おはようございます。

現在の洞窟内は、温度と湿度共に快適。

キラキラと輝くクリスタルが少々眩しいですね。


「おはようございます、|《所有者様》(マスター)」


ふと横を見ると、無表情のクォーツがいました。


無表情です


あれー、昨日嫉妬のスキルを与えて自我が目覚めたはずなんですけどねー?

もしかして、クォーツちゃんはクールな感じの子なのでしょうか。

嫉妬深くてクール。


いいですね、たまりません。

しかも彼女は私お手製の美少女です。

私の元の姿もそれなりに美人でしたが、この子はそれを遙かに越えていると思います。


いやー、作っておいてなんですが私が嫉妬しちゃいそうです。


「おはようございます、クォーツ」


うーんと伸びをしながら立ち上がります。

関節がパキポキと音を立てました。


身体の状態を確かめます。

……うん、大丈夫みたいです。

魔力も体力もばっちり、問題なし。


「さてクォーツ、今日から私は力を取り戻すためにここら一帯の魔物を狩ろうと思います。狩り尽くしてやります。あなたはどうしますか?」


「私はあなたのものです。あなたに付き従います」


おおっと、私の渾身のデビルスジョークが通じていないぞ。

狩り尽くしてはいけないでしょう。

自我が目覚めたてで、正しいことが分からないから私から学ぼうとしているのでしょうか。

それともまさか、私はここら一帯の魔物を狩り尽くしかねないような女だと思われているのでしょうか。


もし後者なら地味にショックです。

私泣いちゃいますよ?

まあ私自身、私は力さえあればここいらを気まぐれで焦土に変えかねない女だとおもっているのですけどね。


おそらく今回は前者なので、あとでジョークや常識を教えてあげないといけませんね。


「んんっ、クォーツ、では行きましょうか」


「はい」


クォーツの簡素な返事を聞きながら、一夜を過ごしたこの場所を後にします。


この時私は、短い時間とはいえ生活していた場所を離れることに一抹の寂しさを覚え――ることなんてもちろんなく、移動中間が持たないだろうなー、なんてことを考えていたのでした。






「…………いや、おかしいでしょう」


目の前には、まだら模様のどぎつい色をした、私よりも遙かに大きな八本足の節足動物。

八つの目をこちらに向けて、牙を携えたアギトから黄色い粘液を絶え間なく零しています。


いくら悪魔とはいえ私も女の子、ちょっとこういうのは遠慮願いたいのですが……

思わず後ずさってしまう私に、クォーツが淡々と解説してきます。


「グラッジスパイダーと呼ばれる魔物です。単体では比較的弱いとされていますが、群れとなると格上の種族でも狩ることが出来るようになります。基本的に温厚な種族ですが、飢えていると同族であっても捕食する性質を持ちます」


え?

いやいや、こんなのが比較的弱いとか冗談でしょう?

これ以上の生物がわんさかいるんですかこの世界。

どんな魔境ですか。


「キシャーッ!」


ああもうこっちにむけて威嚇してきていますよ!

クォーツの解説が正しいなら蜘蛛さんはお腹がすいていて私たちを食べようとしているって事ですよね!

あんなの私の手には負えません、というよりあんな怖いのと関わりたくないです!

私、骨ですから美味しくないですし、てか食べられませんから!

さあクォーツさん、蜘蛛さんはきっとあなたを狙っているでしょうし、私が手塩にかけて二時間くらいで作ったあなたならあいつを倒せるはずです!

やってしまいなさい!


そんな期待の視線をクォーツに向けると。


「???」


こら、首をかしげないでください。

可愛いじゃあないですか。

思わず守ってあげたくなってしまいます。


よくよく考えたら、私って目玉がありませんからそりゃあ視線でコミュニケーションを取るのは無理ですよね。

どこ見ているか分からないですものね。

というか、目玉がないのにどうして目が見えているのでしょうか?


そんなアホみたいな事を考えていたら、蜘蛛さんが八本の足を動かしこちらに突っ込んできました。

何で骨ばかりの私の方にくるんですか!?

絶対私美味しくないですよ!

出汁くらいには使えるかも知れませんけど、あなたそんな知能ないでしょう!

あ、意外と遅い。


もう一度クォーツを見やると、三歩ほど後ろに下がっていきました。

どうやら、ここは私が戦う、危ないから下がっていろ、とでも言っているように思われたみたいです。


違うんです!

あなたに戦ってほしいんですよクォーツさん!


「フシャーッ!」


わっ、蜘蛛さんが飛びかかってきました!

バックステップで蜘蛛さんの射程外へと逃れます。


着地後、深呼吸をして心を落ち着けます。

私は一応悪魔神なんです、アワアワとパニックに陥ってみっともない姿を晒すわけにはいきません。


落ち着けー私、こんな時どうすればいいか姉様に教わったではないですか。

今がそれを実践するときです!

さあ思い出せ私!


「ほう、どうやら私と本気で戦うつもりのようですね……?」


戦闘の際には何らかの格好いいセリフをはくのが常識と言っていたのを思い出したので、凄惨な笑みを浮かべてそう呟きます。


壁に張り付いた水晶に映った私が目に入ります。

私の頭部はガイコツなので、笑みが全然笑っているように見えません。

蜘蛛さんに言語が通じるのかも分かりません。

一応この世界で使われている言葉で言ったんですけどね。


……なんだか頬が熱い気がします。


なんですか、「ほう、どうやら私と本気で戦うつもりのようですね……?」って!

意味不明な上に脈絡がなさ過ぎるでしょう!

ああもう、クォーツが困惑しているじゃありませんか!

恥ずかしいなあ、私のバカ!


そんな私の内心を知ってか知らずか、蜘蛛さんはまたも飛びかかってきます。

避けられそうになかったので、両腕で牙を受け止めます。


「ぐぬぬ、せっかく友人的な方が出来たのに蜘蛛さんの所為で恥をかいてしまったではないですか! どうしてくれるんですか!」


そう怒鳴りつけてみますが、蜘蛛さんはキシャーと鳴くばかり。


そうですよね、私の自業自得ですものね。

責任転嫁するにしても、姉様の所為であって蜘蛛さんは悪くないですもんね。


「シュウッ」


一向に冷静になれない私に向かって、蜘蛛さんが口から糸を飛ばしてきました。


ちょっ、蜘蛛って普通お尻から糸を出すんじゃないんですか!?

想定外の攻撃に、まともに糸を浴びる私。

みるみるうちに糸は私に絡みつき、私は上半身を拘束されました。


「こんのお!」


自由な足で蜘蛛を蹴り飛ばしますが、反動で地面に倒れてしまいました。


痛いです。

確かスキルに痛覚無効があったはずなのになぜか痛いです。

絶賛職場から逃走中の私が言えることではないですが、スキルさん仕事してください。


ただ蹴っただけで蜘蛛さんが死ぬとは思えません。

急いで糸から脱出し、起き上がらなくては。


じたばたと転げ回る私。

……駄目っぽいです。

糸から出ることは私の力では無理みたいです。


せ、せめて起き上がらなくては!


……やはり腕が使えないと無理でした。

出来る人はいるかもしれませんが、私には無理でした。


倒れる私の視界に、八つの光が差し込みます。

蜘蛛さん、戻ってきてしまわれました。


シュルシュルと、更に糸を巻き付け始める蜘蛛さん。


こうなってしまったらどうしようもないですね。

潔くこのセリフをはきましょう。


「くっ、殺せ!」


蜘蛛さんがニヤリと笑ったような気がしました。


「嘘です冗談ですすみません殺さないでくださいうわーん! クォーツ、クォーツ助けて-!」


怖いです!

超怖いです!

私は恥も外聞もなくわめき散らします。

蜘蛛さんはそんな私にかまうことなく糸を吐き続けます。


何もない眼窩から、涙が流れ落ちた気がしました。


私は死を悟り、瞳を閉じました。


グシャリ。


蜘蛛さんの鋭い牙が私の身体に刺さるのを、ゆっくりと待ちます。


待ちます。

待ちます。

待ちます。


あれ?


一向に蜘蛛さんが襲ってこないので、不思議に思い目を開きます。

不味そうだから食べるのを止めたのでしょうか?


そこには、蜘蛛をかかとで踏みつぶしたクォーツがいました。


二メートル近い蜘蛛を、片足で。

どのように踏みつぶしたのでしょうか、ジャンプ?


緑色にテカテカと光る蜘蛛の体液が、彼女の全身を汚しています。

せっかく私が作った服まで汚されています。


「助けを求められたので、助けました」


見下ろすようにして、クォーツが私に向け言葉を発します。

やけに冷たい目を向けてきています。


……自我が生まれてからまだそう経っていないのに、ずいぶん感情の発達がはやいみたいですね、クォーツ。

今朝無表情だな、なんて思ったのは撤回します、あなたはクールな女の子ですよ。


気まずさから、私は彼女から顔を背けました。

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