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18 おさる騎士戦争決戦

「ってゃ!」


短い気合いと共に、右斜め上からタナトスと名乗った悪魔は剣を振り下ろす。

突進の勢いと体の捻りによる力を全て乗せた大降りの一撃。

勢いよく振られた剣先を、ラーンは僅かに体を反らすだけで紙一重に躱す。

その動きを追うように、地面に迫ったタナトスの持つ剣の刃が、慣性を無視した動きでラーンの脇腹目掛けて跳ね上がった。

その切っ先が彼の鎧に触れようとした瞬間、剣の側面に閃光が走る。

ラーンが自らの剣でタナトスの攻撃をはじき飛ばしたのだ。


軽い剣だ。

ラーンは内心安堵し、同時に納得する。

おそらくだが、そもそもこのタナトスという悪魔は近接戦闘を得意としていないのであろう。

死者を甦らせ手駒に加えるほどの魔術を扱うのだ、本来は遠距離からの魔法による支援が彼女の戦法であるとラーンは予想する。

タナトスが決闘に応じてくれたことに、ラーンは再び感謝した。


この世界において決闘を挑むという行為は、自らの敗北を認め、なおかつその後の身柄の保証を得るためのものだ。

決闘を挑んだ側は、相手に対して降伏せねばならない。

挑まれた側は、挑戦者の提示する条件が呑めるものであるならば挑戦を受ける。

決闘の前に交わされたこの条件は、神の力により絶対遵守される。

勝敗が決した後に全ての戦いは終了する。

これがこの世界における決闘だった。


剣による勝負なら、まだ自分にも勝機がある、ラーンはそう考え武器を握りしめた。

自分がここで勝利すれば、部下含めた騎士団は国に帰ることが出来る。

そうすれば、この危険な悪魔についての報告も可能だとラーンは思った。


魔法を使う隙が出来る前に倒す、これしかない。

息を吸い込みラーンは心を落ち着ける。

周りの風景が色褪せ、舞い踊る木の葉がお互いに擦れあう音すら遠くなっていった。

今の彼の世界には、自らと少女の二名しかいない。

剣を中段に構えると、今度はラーンの方からタナトスに向かって斬りかかった。


「ッシ!」


大上段に構えたタナトスの胸元に向けて、一閃。

殺意の籠もった銀の輝きが少女に迫る。

見えない何かを引き裂く手応えと同時に、ラーンの剣がタナトスを捕らえた。

小柄な少女の纏う衣服が切り裂かれ、どす黒い血飛沫が大気を染める。


唖然とした表情のタナトス。

手応えからして、防御のための魔術でも体に施していたのだろう。

それに頼り切ったが故に、彼女は回避を行わず、上段に剣を振り上げたのだ。


「キャアアアアアアアァァ!?」


数秒遅れて事態が飲み込めたのか、タナトスが甲高い叫び声を上げる。

胸を押さえて地面に倒れ、苦しみもがき始めた。


少々あっけなかったが、決闘に勝利することができた。

ラーンは血振りをし、剣を鞘に収める。


「ふぅ……」


緊張の糸が切れ、ついため息を溢してしまう。

ふと集落の方を見れば、開戦時に現れた少女が慌てた様子でオロオロと戸惑っていた。


その時、彼は気がついた。

決闘が終わったというのに、誰も声を上げないことに。


まさか――

はっとして、切り伏せた少女の方向をを見やると。

神すら射殺さんばかりの眼光を携えた瞳で、タナトスがこちらを睨みつけていた。






ああもう、いったいです!

まさか、結界ごと斬られるとは思いませんでしたよ!


ふつふつと、自分の中で騎士に対する殺意が沸き上がります。

手加減していて攻撃を受けたら逆上する、いかにも小物な悪役のようだと自覚しますが、どうにも怒りが抑えられません。


滴る血液を気にせず、私は立ち上がりました。

黒に穢された深い赤。

そんな色をした魔力が私の全身から溢れ出し、手に持つ剣に絡みつきます。


再度地面を蹴って、騎士に向かい飛び出します。

先ほどのお遊びのような剣劇とは違い、全力の一撃をたたき込みます。


彼は剣を盾にするように、上方からの私の攻撃を受け止めました。

宙に浮いたまま、魔力を後方に噴射することで私は騎士を押しつぶしにかかります。

騎士の足下に亀裂。

放射状に広がるそれは次第に広くなります。

騎士の足下の地面は、数秒で耐えきれなくなり音を立てて陥没しました。


耐えきれなくなったのは大地だけではありません。

ピシリ、と小さく響いたのは騎士の持つ剣の刀身。

私の口元に、嗜虐的な笑みが浮かびます。


押しつぶす力を強めようと、一瞬力を抜いたその時。

首に衝撃が走りました。


焼け付くような痛みの先には、煌びやかな装飾の施された一本の短剣。

それが、私ののど元に突き刺さっています。

押さえつける力が弱まった瞬間、騎士が投擲してきたのでしょう。


小賢しい。

短剣を引き抜くため剣から片手を離した瞬間、私の体は後方へと吹き飛ばされました。


頭の奥が、燃えるように熱くなります。

たかが人間に、この私が手こずるなんて!


怒りに燃えるまま短剣に手を伸ばす私を、紫電が包みました。

私が触れた瞬間、短剣が雷光を放ち始めたのです。


「くっ!」


痺れる体を強引に動かし、痛みを無視して短剣を握りしめます。

痛い痛い痛い焼ける焼ける焼ける痛い痛い痛いっ!


それを引き抜く頃には、私の衣服はぼろぼろに崩れ落ち、私自身の体もも所々炭化していました。


キッ、と騎士を睨みつけます。

彼は、唖然とした表情でこちらを見ていました。

茫然自失といったありさまです。

おそらく、奥の手であった先ほどの短剣ですら私を殺すことが出来なかったという事実が受け入れられないのでしょう。


絶好の機会です。

剣は蒸発してしまいましたが、私にはまだこの拳があります。

この怒りを晴らすために、文字通り私自身の手で殺してあげましょう!


騎士に向かって、全力で拳を突き出します。

魔力を纏ったそれは、吸い込まれるように彼の胸元に進み。


「そこまでです!」


両者の間に入ったクォーツの右半身を消し飛ばしました。

遅れました、すみません

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