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プロローグ

初めてまともにプロットを作って書いてみました。


よろしくお願いします!

どれくらい眠っていたのでしょうか。

私が目を覚ましたのは見慣れない洞窟の中でした。


キラキラと水晶が輝く不思議な洞窟。

たしか、物語の中で龍に攫われた姫が眠っていた空間がこんな感じでした。

もっとも、その場合私が姫ということになってしまいますが。


それはいけません。

私は王子様を待ち望むようなフローラルな頭は持ち合わせていません。

どちらかというとお姫様を攫う側ですし。

悪魔神ですから。


体を起こして精一杯伸びをします。

固い床で眠っていた所為でしょうか、体中の関節がパキポキと小気味の良い音を立てます。


伸ばした腕が視界に入ります。

それは、数々の白い棒状の物で複雑に構成されていました。

はて、私の腕はこんなにも細くて白かったでしょうか。

太かった覚えは無いですが、ここまででは無かったはずです。


嫌な予感がした私は、近くにあった水晶に近づきそれを覗き込んでみました。


なんということでしょう!


そこに映っているのは、ボロ布を纏う一体のガイコツ。

あまり骨に詳しくないので絶対とは言えませんがおそらく人間の女性と思われます。

おおよそ百六十センチを少し越えたくらいの体格のそれは、真っ暗な眼窩でこちらをじっと見つめてきます。


私が右腕を上げると彼女は左腕を上げます。

左腕を振ると、右腕を振り返してきます。

字面では分かりにくいですが、鏡移しの動きを真似て返してきているのです。


彼女は私にハートを打ち抜かれて、故に私の真似をしているのでしょうか。

いいえ、そんなことはありません。


この水晶がなんらかの魔導具の類で、どこか遠くの他者の映像を映しているとか、そんなわけでもない限り答えは一つです。

そう、このガイコツはおそらく私です。


はてさて、なぜ私はガイコツのような姿をとっているのでしょう?


一つ目、私は元からガイコツだった説。


これは違います。

私の姿は人間の女性だったはずです、こうして今ガイコツになってしまっているので説得力はありませんが、少なくとも昔はそうだったのです。


二つ目、何者かに呪いの類の術をかけられてこの姿になってしまった。


可能性としてはなくはないですね。

呪術に対して高い抵抗力を持つ悪魔族の神とはいえど、私はまだかけだしのひよっこです。

悪魔神として生まれてまだ十数年。

高位の呪術者にはあっけなくやられてしまうくらいには弱っちいはずです。

ですが、私に危害を加えるならば私の部下が黙っていませんし、そもそもガイコツに変異させる理由が分かりません。

……黙ってませんよね?

見捨てたりしませんよね?

んんっ、それはともかく私に危害を加えられる実力があるならさっさと殺してしまったほうがいいわけですし、この可能性は低そうですよね。

もしそうならなんでしょうか、私の美貌に嫉妬した他の悪魔神の仕業だとでも?

私も罪な女です。


冗談は置いとくとして三つ目、眠る前の私が必要に駆られてこの姿をとっていた。

この可能性もありますが、わざわざガイコツの姿に変わらなくてはならない状況とはどのような場面なのでしょうか?

想像力に乏しい私にはさっぱり分かりません。


可能性としてはこのくらいでしょうか、私としては三つ目であってほしいところですがガイコツにならなければならない状況というのがさっぱりです。

ここはひとまず、今までの状況を思い出してみましょうか。


……


…………


………………


あーもう!

つまらない!


悪魔神としてこの世(というか魔界だからあの世? まあどちらでもいいですけど)に生まれ落ちて早十数年。

神としてまだ若輩である私は悟りました。


神様ってつまらない!


寝る必要がないので毎日毎日ずっと書類整理!

暇が出来たら魔法や剣術の稽古、さらには勉強!

食事はエネルギーを摂取するだけの味気ないよく分からないなにか!


ブラック企業ですよね、ここ。

最近になってサボることを覚えた私は、魔界ではない世界を眺めてサボっている時にこの言葉を知りました。

たしか地球とかいう場所で使われていたはずです。

すぐにサボりがばれて姉様にボコボコにされたので正確な意味は分かりませんが、使用している人種を見た限り、職員にとって劣悪な仕事環境を指す言葉のはずです。


間違いありません、ここはブラック企業です。

クソみたいな職場です。

このままでは私は過労死してしまいます。

一応不死の存在ではあるのですが、おそらく私程度の不死性では労働には勝てないでしょう。


なので、私はこの魔界から逃亡することにしました。


もちろん籠の中の鳥であった私は世間知らず、魔界から出る方法なんて知りません。

ですから、つい先日姉様の部屋からとある秘密導具を盗んできました!


じゃーん!

叡知の水晶!


これは魔力を込めると知りたい知識を教えてくれるという、手のひらサイズの便利な水晶です。

なんでも教えてくれるそうです。

姉様の宝物です。

もし盗んだと知れたら私は死にます。

ぶっちゃけ衝動的に盗んできたので逃亡の計画なんて立てていません。


まずいです。

今更ですが後には引けません。

盗みがばれていない今自白したとしても、きっと姉様は許してくれません。

悪魔のような方ですから。

ていうか、悪魔ですから。


いくら姉とはいえ、普通の悪魔に怯える悪魔神がいるそうです。

私です。


さてさて、もう私には選択肢は一つしかないのですからさっさと行動に移すとしましょうか。

水晶がなくなったことに姉様が気がつくのも時間の問題でしょうし。


今現在、私は悪魔城の執務室にいます。

この部屋には私以外誰もいません。

やけに適当な管理体制ですね、私が逃走するという可能性を考えていないのでしょうか。

ずいぶんと信頼されているみたいです、私。

今からその信頼を、裏切ります。

罪悪感なんてありませんよ、逃げられるほうが悪いんです。

それに私も、悪魔神の一柱ですし。

この程度のことを躊躇うようなら天使にクラスチェンジしますよ。


そういえば、魔に堕ちた天使を堕天使といいますが、天に昇った悪魔はなんと呼称されるのでしょうか?

堕ちるの逆ですから……翔悪魔?

語感が悪いですね、翔悪魔は駄目です。


おっと、こんな事を考えている暇はありません。

早く逃亡に移らなくては。


「水晶さん水晶さん、どうすれば魔界から出られますか?」


魔力をこめて、水晶に呼びかけます。

するとどうでしょう、頭の中に女性の声が響くではないですか!


『個体名タナトスが実行可能な方法では、空間魔法を用いて次元に穴を開けるのが最も成功率が高いと思われます。また、次点としては魔術師の召喚に応じる、というものを推奨します』


……えっ、それだけですか!?

けっこうな量の魔力を注ぎ込んだつもりだったのですが、これだけしか教えてくれないってどういうことですか!?

私が無能だからそれくらいしか方法がないって言いたいんですか!?


……まあいいです。

無機物如きに憤慨するなんて大人気ないことはしません。

現に私は無能ではないですが有能とは言えませんからね、これくらいしか方法がないということも納得してあげます。

無能ではないです、本当ですよ?


水晶さんの声ですが、非常に無機質ですね。

なんというか、感情がこもっていない感じがします。

可愛らしい声なのにもったいないですね、水晶さん。


ちなみにタナトスというのが私の名です。

姉様が名付けてくださいました、とある世界の死の神の名前だそうです。

格好いいですよね、死の神。

私の少年の心が揺さぶられます、生憎私は女性ですが。


両親ですか?

会ったことがないですね。

というより、私に親はいるのでしょうか?

物心つく前から働かされていたので、自分のこととはいえその辺よく知らないんですよね。

そもそも私たち悪魔ってどのようにして生まれるのでしょうか?

そのうち水晶さんに聞いてみましょう。


話を戻しましょうか。

水晶さんが言うには、空間魔法で次元の穴を作り出しそこから逃走するのが一番成功率が高いそうです。

次に、魔術士に召喚される方法。


前者は確実にすぐばれます。

次元の穴を開けるほどの大魔法、使えなくはないですがこの執務室がボロボロになります。

絶対に姉様が気付いてここに飛んできます。

逃げ出す前に捕まる可能性が高いです。

捕まると、どんな目に遭うか分かりません。

怖いです。


後者は運ですね。

悪魔神を召喚出来るほどの実力者が私を今、このタイミングで召喚する可能性がどれだけあるのでしょうか。

天文学的確率だと思います。

これが二番目に成功確率が高いとか信じられません、前者の成功率もひょっとしたらもの凄く低いのではないでしょうか。


これはもう、前者を選ぶしかないですね。

選択肢なんて、姉様の水晶を盗んだときからなかったんですよ。

覚悟は出来ていませんが、やるしかないのです。


早速、空間魔法で次元の穴を執務室に作り出します。

直径一メートルほどのブラックホールが執務室の床に現れました。

書類や本などを貪るように吸い込んでいきます。

行き先は分かりません、穴の先を指定出来るほど私はこの魔法に精通している訳ではないですから。

まあきっとどこかにはつながっているでしょう、後のことはそのとき考えればいいのです。


激しい轟音を轟かせながら満たされることなく周囲の物を吸い込む次元の穴。

……えっと、想像以上にやばい感じでした。

この中に入るのは正直怖いです。

超怖いです。


待ってください、心の準備をさせてください。


「こんなに危険そうだなんて私、聞いてませんよ水晶さん。本当にこの中に飛び込んで大丈夫なんでしょうか?」


『個体名タナトスの耐性から推測すると、約七割の可能性で生存が可能です』


三割死ぬってことですか!?

安全でないってことですよね!?

命賭けてまで脱走したいわけじゃないんですけど!?

どうしてさっきそれ言ってなかったんですか!?

私が聞いていなかったからですよね、魔界から出る方法しか聞いてなかったですものね!


私が尻込みしていると、執務室のドアが勢いよく開いた。


「ね、姉様っ!?」


姉様が来た。


「――――ッ! ――――ッ!」


なにか凄く怒鳴っているけど轟音で聞こえません。

聞こえないのだけれど、内容は大体想像がついてしまいます。


姉様の怒気に怯み、私は足を竦ませてしまいました。


「あっ!?」


バランスを崩した私は、頭からブラックホールに飛び込みます。

ああ、この中に入ると痛そうだな、痛いのは嫌だな――

そんなことを考える私が最後に見た光景は、私に向かって手を伸ばす姉様の姿でした。


………………


…………


……


思い出しました。

私は今、魔界から脱走してどこかよく分からない場所にいるのですね。

ガイコツになった理由は、次元の穴の中で色々と消耗した結果でしょうか。

何をどうしたらガイコツになるのかは分かりませんが、気にしても仕方のないことですしその疑問は放っておきましょう。


懐を探ると……ありました!

叡知の水晶!


良かったです、もし次元の穴の中でこれを落としていたらいろいろとまずいことになっていました。

姉様の物をなくしたとなれば、凄まじい折檻が待っていることでしょう。


ふう、と一息つきます。


計画性もなにもあったものではない私の魔界からの逃亡は、無事とは言えませんがなんとか成功したみたいです。

魔界に戻った時が恐ろしいですが、そのことは戻るときに考えましょう。


ついに! 私は自由を手に入れたのです!

魔界に残った同胞の迷惑なんて知ったことではありません。

せっかくの自由ですし、楽しまなきゃ損ですよね?


さて……魔界から出られたのはいいのですが、今から一体どうしましょうか?


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