第九十八話 元気
キリスト教の宣教師とのちに送られる軍隊、存在を消されたキリスト教の神、あとは元気いっぱいの少女で 俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫が会いに来てくれて、新選組の屯所にて、朝食です。
時代は幕末、200年以上続いた武士の世 平和な世が、ゆっくり だが着実に終わろうとしていた。アメリカ イギリス オランダ スペインと、諸外国は帝国主義が持て囃され、戦争ばかりをしていた。戦争は確実に人が死に、それを防ごうと技術も進歩する。当然、長らく鎖国をしていた日本とは、技術と火力では差があり 太刀打ち出来ない。ただし、徳川幕府の行った 鎖国政策の、全部が全部 間違いではなかった。欧米では他国を侵略する時には、まずキリスト教の宣教使が送り込まれ、ある程度 その国を把握した後に、軍隊が送り込まれる。
戦国時代には、織田二郎三郎信長公から、豊臣秀吉、徳川家康と継ながれ、宣教使がキリスト教を広めるのは構わない。ただし、軍隊を送り込む兆候が見られたら、キリスト教は禁止した。この際っ際の判断が、簡単ではない。宣教使は、キリスト教を広めようと、神の存在を信じて 善意で日本にやって来ている。軍隊は、悪意ではないかもしれない。でも、少なくても 日本に対しての侵略は、悪意でしかない。キリスト教における神の存在を信じろと言われても、既に 織田二郎三郎信長の時に、キリストは、ゴッド・ファザーの怒りを買い 消えて無くなったことを、俺は知っていた。そんな際っ際の判断を出来ない徳川幕府は、いっそ閉じて鎖国をする道を選んだ。それが、200年以上日本が平和であった理由の1つだ。
ただし、幕末期 若者たちや、幕末の志士と言われる者たちの手によって、諸外国に対して弱腰だと、徳川幕府は非難された。そして 実際に、図体だけは大きい 草食恐竜のような徳川幕府には、諸外国との交渉能力がなかった。非難は間違いではなく、徳川幕府も 前例のないことでは動けず、いっそ若者たちに任せてみようと、時代が大きな転換期を迎えようとしていた。徳川幕府が駄目となると、時代の中心は天皇の居る 京の都で、俺たち新選組も幕府の事情を知っているし、最後の侍として幕府方だが、時代の中心に存在していた。
そんな事を考えながら、俺 土方歳三が、門番がてら 新選組の玄関に置いてある座椅子にて、いつも通りゴロゴロしようと思ったら、名は哀姫という 年齢が6歳で固定されている、明るく無邪気な少女と目が合った。
「馬鹿トチーヤイ!馬鹿トチーヤイ!遊びに来もしたヤイ。中に入っても、よろちいヤイか?」と、哀姫。
「別にいいけど、カナパンマン こんな早い時間から来て、朝食を食べたかい?出汁の入ってない味噌汁と、米に牛乳 牛肉なら、今の新選組なら、いくらでも用意出来るよ」と俺。
「馬鹿トチーヤイに会えるなら、朝食なんて入りもせんヤイ。お邪魔し申すヤイ!」と哀姫。
哀姫は、俺の右隣りで にっこり笑顔だ。そんな中、新選組の局長 北野 武が、吉原遊郭より朝帰りをして来た。
「おうっ、トシ坊!おはよう。げっ、哀姫が居る…。」と、吉原遊郭から朝帰りで、俺が玄関に居ることは想定していた馬鹿局長も、哀姫の存在に バツが悪く、言葉に詰まっている。
「おはよう、馬鹿局長。さあ 元気いっぱいの哀姫がいる中、馬鹿局長は何処から 朝帰りだい?」と俺。
「ちょっと、吉原の方に…。哀姫、こんな朝早くから トシ坊に逢いに来て、朝食ちゃんと食べてから来たのか?」と、北野 武 新選組 局長。
「馬鹿トチーヤイに逢えるなら、朝食なんて 入りもせん!入りもせんヤイ」と哀姫。
「うん、先ず 馬鹿局長。新選組ならではの、朝食を哀姫に出そう。出汁の入ってない味噌汁はともかく、会津地方の越後産の米や 牛乳、源爺特製の牛肉料理とかね。あとはカナパンマンは、熱熱ホカホカが好きだから風呂だね。これを機に、ガスで沸かす風呂を作ろう。屯所に有る 風呂を設計する上で、ガス管を通せるよう作ってある。先ずは、飯だ」と俺。
「おうっ、ガスで風呂を沸かすのか。これで電球を付ければ、24時間 いつでも風呂に入れるな。トシ坊、風呂のガス管の設置は、おいらが担当するよ。切った張ったじゃ、おいらより強い侍が、新選組にはごろごろいるし、おいらも何か 手柄を立てたいしな」と、北野 武局長。
「了解。じゃあ、ガスで沸かす風呂と電球の設置、それから電気を通すのも、馬鹿局長に任せるよ。ただし、俺に対して 報告 連絡 相談は忘れないように。そんじゃ カナパンマン、朝食の時間ですよ」と俺。
「馬鹿トチーヤイも、一緒ヤイか?」と、哀姫。
「勿論。美味しい朝食を食べよう」と俺。
俺、哀姫、馬鹿局長とで、屯所へと向かう。
屯所では、新選組の隊士たちが、ガヤガヤと朝食の時間だ。
「トシさーん!珍しいですね、こんな時間に屯所へ来るなんて」と、新選組の元気印の一番隊 隊員、安藤 ジュンヤが言う。
「うん、基本的には 誰が居て誰が居ないかを把握しておくためにも、門番がてら 新選組の玄関に居るのだけど、今日は 俺の宝物が逢いに来てくれた。出汁の入っていない味噌汁はともかく、美味しい飯を朝食を食べてこなかった 哀姫に、食べさせたくてな」と俺。
「しょえー、ここが新選組のとんちょヤイか」と、物珍しそうに 哀姫が言う。
「おしっ、とりあえず 哀姫には、牛乳と飯だな。おいらが、持って来るよ」と馬鹿局長。
馬鹿局長は厨房へ行き、哀姫の分の朝食が、先に運ばれて来た。そして、北野 武 新選組 局長が、誰かの為に使いっ走りをするなんて そうそうないので、何が起こったの?と、八番隊 隊長 安藤優子さんと、八番隊 副隊長 井上源三郎が、厨房から顔を出す。
「カナちゃん!それで 局長殿が、使いっ走りを…。ようこそ、カナちゃん 新選組へ」と、歓迎する安藤優子さん。
「源爺、俺 牛乳飲んだら、ステーキ」と俺。
「かしこまりました。哀姫様の分も、ステーキを作らなければいけませんね。では、腕によりをかけることにいたしましょう」と源爺。
俺の分の朝食も、馬鹿局長の分の朝食も、運ばれて来た。哀姫は「豪勢ヤイね。いただきマンモス」と言って、俺の右隣りで 朝食をパクついてる。食事の場合、どこで何を食べたかも大事だが、誰と食べたかも大事だ。「おいちいヤイ。おいちいヤイ」と、哀姫がご機嫌なので、いつもより美味い朝食となった。
「源さん。朝食食べ終わったら、新選組の屯所の風呂に、ガス管を通さないといけない。新選組の局長の、おいらの仕事としてな。ガス管の設置ぐらいは、出来ないと おいらは、何の手柄も立ててないからな」と、北野 武 新選組局長。
「確かに、お風呂だけじゃなく 厨房にも、ガス管はつけたいですね。それだったら私よりも、一番隊 隊長の斎藤一君にお願いすれば、すぐに設置 出来ると思いますよ」と源爺。
「おっ、斎藤さんか。早速、頼んでこよう」と馬鹿局長。
「カナは、馬鹿トチーヤイと一緒に居るヤイ。朝食のお礼に、安藤優子リンのお手伝いをするヤイ」と哀姫。早速 カナパンマンは、片付けの手伝いを始める。
「馬鹿局長、ガス管の設置は有り難いけど、事故だけは起こらないように注意してくれ。ガス 大爆発で、新選組 全滅なんて、シャレにならないからな」と俺。
「ゲラゲラゲラ笑。確かに事故だけは、シャレにならない。新選組は、せっかくの侍の組織なのに。それじゃあ おいらは、ガス管の設置の件で、斎藤さんにお願いしに行ってくる」と、北野 武局長。
吉原遊郭からの朝帰りなのに、馬鹿局長は、颯爽と出掛けて行った。
《2017/10/03今現在、2回目の東 清二として、やっと本当に最後の最後の人生を送る 俺は、挫折と敗北を知った。念能力を禁止され、才能を奪われ、真実の目も 東家当主の目もなく、何の取っ掛かりも失ってしまうと、こんなに弱くて脆い 自分になる事を知った。最低最悪の人生とは覚悟していたが、想定を超える状態で これ程しんどいとは…。寿命までは、あと14年。当座、6年凌げば あとは経験則で、何とかなる。今日、夢に 俺の相方の桜井和寿が出てきた。俺の側の人間たちも含め、色んな人たちを待たせたままだ。全てのキーパーソンは俺だが、俺のキーは念能力だ。これが復活しないと、何も出来ない。日本が災害大国になり、日本中どころか世界中が、不幸になり めちゃくちゃになり 糞まみれになってもだ。念能力だけ、哀姫だけ、俺の持ち物だ。帰って来い!》
こうして 新選組の屯所での朝食に、俺の宝物 哀姫が加わった。哀姫は、俺と一緒に居られて 尚且つ、クソ大和田や大和田の側の人間たちが居ないと、明るくて無邪気で元気な女の子だ。存在するだけで、周りは照らされ明るくなる。太陽の堕とし子の、俺の光を 月のお姫様 哀姫は、照り返してくれる。努力を継続できない すぐにやる気を失う俺にとっては、哀姫の存在や応援が、勇気と希望をもたらせてくれる。哀姫は、今頃 何処で、悲しんでいるのだろう?次回の話は、新選組の屯所の風呂に、ガス管が作られます。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!