第九話 死別
久し振りに書いたので、結構大変でした。お楽しみいただけたら、幸いです。
第九話 死別
リュシフェル
江戸城内でお世話になった御家老が、とうとう病になり病床についた。医者いわく、もう永くは無いらしい。唐沢師範と共にちゃんと最後を看取る。
「ゴホゴホッ、こんな有り様で申し訳ありません。病が移るといけないので、早くお引き取りを!」と御家老が言う。
「侍の最期だ。何か言い残したい事はあるか?大体、御家老の方が息を引き取りそうじやないか」と俺。
「歳三、今そんな冗談を言ってる場合か!」と悲愴感漂う唐沢師範。この頃から、俺はトシではなく歳三と呼ばれるようになっていた。三歳を入れ替えて、当て字で歳三とよばせる事にしただけなのだけど。名前ぐらい、ちゃんと自分で決めなくちゃね。
「唐沢師範、酷な様だけど侍にとって死は日常だ。せめて畳の上で死ねるだけで十分だろう。最後に遺言だけ聞いて立ち去ろう」と俺。
「歳三、それしかできないのか?」いつもは明るい唐沢師範も、鎮痛な面持ちだ。
「まず、俺もそうだし唐沢師範も、神でも仏でもない。神は死んだ。ゴット ファーザーと俺の判断で。仏は、人は死んだら仏になると言うけれども、その人その人の概念にもよるかな。ただ、御家老もそうだし唐沢師範もそうだけど、俺達は侍だ。どんな時だって、歯食い縛って、前へ上へ進まなければならない。殺されるのも当然、覚悟の上だ。ちゃんと最後の言葉だけ聞いて立ち去ろう」と俺。いつになっても、人の死には慣れない。
「分かった。歳三の言う通りだ。御家老、最期の言葉を」すると御家老は何とか身を起こし、最期の言葉を言った。
「強くなって下さい!誰よりも強く!私はこんなところで終わりですが、二人に会えたのが私の誇りです。特に、歳三っ、あなた様が色々なものを背負い、憎むべき敵と闘っていることを私は知っているつもりです。だから、誰よりも強く!優しくあって下さい」そう言い残すと、御家老は床にへたりこんだ。
「強く、優しくか。侍の基本だね。早く俺も、いっぱしの侍になりたいものだ」
「歳三、帰るぞ」唐沢師範に促がされ家路に着く。
それから、幾日もたたない内に、家族に見守られながら御家老は息を引き取った。俺は葬式が嫌いだから、葬式には出席しなかった。だって、自分の未熟さ不甲斐なさに腹がたたないか?何でこんな事になるのかと。唐沢師範はなけなしの貯金をはたいて、葬式には出席したらしい。知ってるかい?人間は死んでも、消えて無くなったりしない事を。ちゃんと生きれば、『天国』だってある事を。まっ、その分『地獄』も、あるんだけどね〜。
「歳三、旅に出るぞ。もう、江戸には用はない」と唐沢師範。もう、しっかり立ち直ったみたいだ。
「はい?」
「これから寒くなるから、薩摩に向かうぞ!次は薩摩のイモ侍と対決だ」
「はい?イモ侍なんかと闘ってどうするんだ。俺は恋がしたい」と俺。
「おっそれも良いな。だが、歳三には、まだはやい。歳三はまだ、三歳から四歳ぐらいだろ。恋はまだはやい」
「えーっ」
「まずは、私の恋。次が歳三の恋だな」
「あーあ」と俺。以上。
続編も、こうご期待。それでは、また。てへっ。