第八十二話 哀姫
久し振りに、俺としても一番隊としても 人を斬らず人を殺さず、汚れていない穢れていない日に、ずっと探していた、俺の宝物 哀姫に会いに行く話です。
時代は幕末、徳川幕府の支配によってだが、長く続いた平和な時代 武士の世が終わろうとしていた。日本全国各地で雄藩が、若者に世代交代をして 刀ではなく、鉄砲を重用するよう変わっていく。ただし 歴史と伝統を大事にし、武士の魂は刀に宿るを地でいく侍の集団が、京の都に存在した。その者たちは、負けることは分かっていても、負け方があるだろうと、徳川幕府に味方し 繋がりのある会津地方も大事にする。散々、会津地方産の米と日本酒で、食いつないできたからね。そして侍の集団たる、その者たちの名は新選組。治安の悪化していた京の都で、治安を守るため、華々しく活躍している侍たちだ。そんな新選組の局長に、真面目だと狂気を孕んでたりするので、ふざけているぐらいがちょうどいい北野 武。新選組 副長に、良くも悪くも 鬼の副長呼ばわりされている俺 土方歳三。一番強い 一番隊 隊長に、無敵の三段突きの使い手で、一度歩けば 京の町娘から黄色い声援が飛ぶ 斎藤一。一番隊 隊員に、駆け引きもしない 裏表もない性格で、誰からも好かれる天才 沖田総司。同じく一番隊 隊員に、めきめきと強くなり 出世していく侍に憧れ、侍となった少年 安藤 ジュンヤ。もう1人の一番隊 隊員は、いつもジュンヤと一緒に居て 何故か口の聞けない少年 リュウスケ。四番隊 隊長に、ごつくて強くて豪快な漢 近藤勇。四番隊 副隊長に、無口だが 別に口が聞けない訳ではない、近藤さんの用心棒も兼ねている 野口君。新選組 最後の隊、後方支援を目的とする八番隊に 、井上源三郎と紅一点 才色兼備な女性 安藤 ユウコさん。新選組では、武道だけではなく学問も教えていて、その先生をしているのが北野 勝君だ。そして刀の時代が終わろうとしているので、銃火砲部門が創設され「俺は、この拳だけで生きてきた」と豪語していた内田 ジュンという名の男が、銃や大砲を相手に侍がどう戦うべきかを研究している。
俺が門番も兼ねて、新選組の玄関にある座椅子に座っていると、新選組の元気印で 最近乗りに乗っている少年 安藤 ジュンヤと共に、リュウスケもやって来た。
「トシさーん!一番隊の出発の時間ですよ。一番隊の出番ですよ」とジュンヤ。
「出発の時間なんて、どうでもいいんだけどな。じゃあ、斎藤さんと沖田が揃ったら、出発しよう。俺は今日を、吉日にすると決めた」と俺。
「はい。じゃあ 斎藤さんと沖田さんを、呼んで来ます」とジュンヤ。
ジュンヤは、疾風のように呼びに行き、斎藤さんと沖田が勢揃いした。
「沖田は、いつもの事だから大丈夫だけど、今日は 俺も一番隊も 人を斬らない日とするからな。理由は、汚れた手で 宝物に触れる訳にはいかないからだ。斎藤さん、それでいいか?」と俺。
「はい。哀姫様に、お会いする為ですよね。その後は、自由でいいですか?」
「勿論。一番隊が、斬りたいだけ 斬ればいい。それが、侍の務めでもあるしね」と俺。
「分かりました。出発しましょう」と斎藤さん。
新選組が顔見せ行進の時だったり、一番隊や四番隊の隊としての御用改めの時には、陣羽織を着て行動する。過去に斎藤さんがデザインし、作ってくれた羽織だが、俺は俺の着たいように 着崩して着ている。その陣羽織を着ながら、今日は汚れない日穢れない日にしよう。そして、宝物に会うんだと思いながら、歩く。其れでも、御用改めとして 賊や敵のアジトに行けば、斬らなきゃ斬られるという状況になる。
「副長、斬らなきゃいいんですよね?」と斎藤さん。
「ああ。足の裏なら汚れてもいいから、前蹴りと踏みつけだけで 倒してくれ」と俺。
確かに斎藤さんは、武器を使ってでの戦闘では、世界一強い。でも、素手での戦闘でも もともと才能があり、それが経験となり 実力となった。相手が武器を使うなら、こちらも武器を使っても良いというだけだ。だから、俺も斎藤さんも、相手を前蹴りだけで 蹴散らしていく。
「トシさんと斎藤さんは、敵が刀を持っていても、蹴りだけで闘えるのですね」と安藤 ジュンヤが感嘆する中、一番隊としての本日の行程を終えた。
「うしっ、じゃあ俺は 勇気を出して、哀姫に会いに行ってくるよ。君たち一番隊は、屯所へ帰るなり その辺で佇んでるなりしててくれ。こういう時は、1人で行った方がいいからね」と俺。
記憶していた、いつも1人ぼっちでいる 歳の頃6歳の少女の元へと歩みを進める。一番隊の連中も、ぞろぞろとついてくる。すると、やっぱり俺の宝物 哀姫は、民家の前で 1人で居た。
俺が、哀姫の目の前で立ち止まると、「ありー、お侍さん ヤイねー。ウチに何か用ヤイか。お金なら、ないヤイよー」と、懐かしい ヤイ語で 哀姫の方から、話しかけてきた。
「新選組の土方と、申します。今日は、自己紹介に来ました。お金はいりません」と伝える。
「ありー、自己ちょうかいヤイか。お金目当てでは、ないヤイか。カナの名前は、カナ ヤイ!」と可愛らしい自己紹介があった。
「土方という漢字は、こう書くんだ」と俺。道路の砂の上に、漢字で土方と書く。
「君の名は、漢字で書けるかな?」と俺。
「カナは、カナ ヤイ!漢字は、分かりもうせんヤイ」
「君の名を漢字で書くと、こう書くんだよ」と俺。砂の上に、振り仮名付きで 哀姫と書く。
「これが、カナ チャリングの名前の漢字ヤイか。これで、カナと読むヤイか?」
「うん、正確に言うと これで哀姫と読む。哀しいと書くのは、君がいつも哀しんでるから。姫が付くのは、お姫様だからだよ」
「ありー、たちかにカナちゃん いつも哀しんでるヤイね。ありー、カナちゃんお姫様ヤイかー」
「うん、そして俺の宝物だよ。今日のところは、自己紹介もしたしこれで帰るけど、あと2人だけ侍を紹介するよ。放っておくと、哀姫は いつも1人になってしまうからね」と俺。
遠くで見ていた一番隊の面々に、「ヤイ語も話せるし、確かに俺の宝物だ。斎藤さんと沖田だけ、念のため 挨拶と自己紹介をしておいて」と俺。
すると斎藤さんと沖田だけじゃなく、安藤 ジュンヤにリュウスケも、こちらに来た。
「この人生だけじゃなく、俺の全部の人生とうしての宝物 哀姫だ。今 カナを漢字で書くと、哀姫になると教えた。斎藤さんは、自己紹介ぐらい出来るよな」と俺。
「勿論。俺の名は、この人生では 斎藤一と申します。土方殿の宝物に会えるとは、光栄です。覚えられるなら、覚えてみてください」と斎藤さん。砂の上に、斎藤一と書く。
「バカ土方に、バカ斎藤さんは、ちゃんと覚え申したヤイ。カナ チャリングヤイ!よろしくお願いしもうすヤイ」と哀姫。
「哀姫、斎藤さんは、俺の唯一無二の親友だから 覚えておいて損はない。そんで そこの天才が、沖田総司だ。沖田も、ちゃんと挨拶しといて」と俺。沖田と、漢字で砂の上に書く。
「ウキッ!」と沖田が、敬礼する。
「ウキ、ヤイか!バカ沖田ヤイね。ちゃんと覚え申したヤイ」と哀姫。
「うしっ、哀姫。今日のところはこれで帰るけど、君が俺の宝物であることを、しっかり覚えておいてくれ。また俺1人でだったり、斎藤さんや沖田と一緒だったりで、会いに行くから」と俺。
「了解しもした。了解しもした。カナりんは、おバカだから 誰も遊んでくれないヤイ。バカ土方にバカ斎藤さんにバカ沖田が会いに来てくれるのを、ずっと待ってるヤイ!」と哀姫。
俺と一番隊は その場を後にし、紹介してもらえなかった安藤 ジュンヤが、ブーブー言う。が、現金なもので「もう今日は汚れても大丈夫だから、斬りたかった奴が居たら斬っていいぞ」と俺が伝えると、斎藤さんと共に 斬りたかった奴を斬りに、出発して行った。俺1人だけが、やっと宝物を見つけたとご機嫌で、新選組の屯所へと帰還した。
《俺の全ての人生とうしての宝物 ピノコ・ナディア・哀姫。哀姫は、生まれつき年齢が6歳に固定されていて、俺以外の男に触れられると、二度と味わいたくないぐらいの悪寒がする。その分、俺に頭を撫でられたり 抱きしめられたりするだけで、大喜びする。ずっと年齢が6歳のままでと、仮に友達が出来ても その友達は、いつか大人になり 哀姫から、離れていく。だから哀姫は、動物と話せるようになるという、特技も持つ。この土方歳三としての人生では、哀姫と京で 出会うことが出来た。ただし、2017/06/17今現在の俺の東 清二としての、最後の最後の人生 そして最低最悪の人生では、俺の宝物 哀姫と出会っても、クソ澤野 ジャイアン ジャイ子夫妻に、俺も哀姫も売られ 敵の手に堕ちた。次に哀姫に会った時には、俺は記憶を消されていて 夢で「ああ、俺 馬鹿とちーヤイだった」と思い出したところで、八木の娘として 生き地獄をのたうち回っているカナ1人、助けることも養うことも出来なかった。やっと俺は、全宇宙の支配者 クソ大和田も その側の人間たちも居ないところへたどり着いたが、もう遅かったみたいだ。奇跡なんて、起きないことは分かった。でも せめて、俺の宝物と俺の念能力、そして 最低限、貸した金を返せ!クソ大和田!其れと、俺は俺が選んだ未来を、ちゃんと掴みとるんだ》
こうして、土方歳三としての人生では、哀姫に出会うことが出来た。この本名 ピノコ・ナディア・哀姫という女子は、よくは分からないが 俺のことが大好きで、誰よりも 俺を愛し抜くことが出来る子だ。ブラックジャックという漫画を読んだことがある人は、ブラックジャックとピノコの関係と理解してほしい。ナディアは、スペインでお姫様をしていた時の名で、哀姫は いつも1人ぼっちで哀しんでるから、人生が始まる度に記憶を消される俺が、インスピレーションでこの子が哀姫だと、思い出せるように名付けた。いつか、ずっとずっと一緒に居られる日が来ることを、信じている。次回の話は、哀姫が、俺が何者だと気付く話と、何も俺だけが哀姫を大事に大切にしている訳じゃなく、北野 武局長も絡んできて、色々と距離感が変わっていきます。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!