第七十七話 看取
新選組の屯所で暮らしていた百姓たちの、最期を看取る話です。今も天国に居るであろう、羊の執事が登場します。
時代は幕末、場所は京の都にて、俺たち新選組が顔見せを兼ね行進をした。壬生狼とか揶揄されたりもするが、其れを俺は「狼が付くなんて、カッコいいじゃねえか。壬生に居るのは、本当だしな」と笑い飛ばす。それに新選組の存在は、京の都の人達に好意的に受けとめられているしね。そんな新選組の局長に、いつもふざけては人を笑わせる中年の漢 北野 武。新選組 副長に、未だ少年で 鬼の副長呼ばわりをされてきた俺 土方歳三。新選組 一番隊 隊長に、武器を使った戦闘なら正に一番の斎藤一。一番隊 隊員に、俺と同い年で同じく少年の天才 沖田総司。これが俺が鬼の副長と呼ばれる原因の一つの、死に番と言って 新選組に要らない者ふさわしくない者を、四番隊に入れる。新選組は敵が居ても、名乗ってから踏み込むので、四番隊は死者がよく出る。其れでも生きて帰ってくる四番隊 隊長に、豪快な漢 近藤勇。四番隊 副隊長に、こちらもちゃんと生きて帰ってきてくれる、無口ないつも剣呑な目つきをしている野口君。新選組 最後の隊、末広がりの八番隊に入ることが決まっているのが、新選組の敷地内で暮らす2人の百姓たちの世話をしている、沖田の保護者でもある井上源三郎。他に、帯刀し行進にも参加して 調子に乗っているガキンチョ、安藤 ジュンヤに、同じくガキンチョで 口の聞けないリュウスケなどが居て、子供たちに学問を教える先生として、北野 勝君がいる。そして、2人の百姓たちが、人生の最期を迎えようとしていた。
新選組 発足以来、初めての威風堂々たる行進で、斎藤さんには 京の町娘たちから黄色い声援が飛び、侍の集団たる新選組の人気は、うなぎ登りとなった。その行進に、3階級特進で参加した2人の百姓たちの家族や、その他の者に「うちの年寄りも、新選組様に入れて欲しい」と頼まれるが、俺はきっぱり断った。そうそう一度捨てた者を、拾えるわけではないからね。ただし子供なら、学問を教えている 北野 勝君の許可があれば、おおよそ日本一と思われる学問を学ぶことは出来る。そして強くなりたい子供には、近藤さんと野口君が、実戦でこそ効果があることが証明された『天然理心流』を、学ばせさせている。子供らの食事も、会津地方産の日本一の米で、満腹までたらふく食べさせ、朝食には牛乳が用意されている。この様に、新選組には、孤児院としての機能も備わっている。俺には家族が全くいないから、育つなら こういう環境で育ちたかったを、実践している。
俺が、新選組の玄関に置いてある座椅子でごろごろしていると、喜怒哀楽の感じられない真顔で、源爺がやって来た。
「源爺、ひもじい?」と俺。
「ふふっ笑。トシ君、2人のお百姓様たちについて、大事な話があります。トシ君のおかげで、2人とも元気になり健康になりました。しかし、この時代だと もう寿命だと思います。なんとか私の方で、天国にいる羊の執事を呼べる手配までは、出来ました。あとは、トシ君の判断をお願いします」と源爺。
「羊の執事の手配が、出来るのか…。さすがだな、源爺。動いてない様に見えて、先へ先へと進ませてくれる。天国の羊の執事の手配が出来るなら、大丈夫だ。じゃあ、2人の百姓たちの意見を聞いたあと、判断しよう」と俺。
源爺の案内で、新選組 屯所内の2人の百姓たちの暮らす場所へと行く。百姓たちは、俺の顔を見るなり畏まってしまった。
「先ずは、百姓の2人 顔を上げー。そんでもって、死んどくか?」と俺。
「土方様の命令なら、死ぬことも構いません。ただ新選組の屯所を、私たちの血で汚したくはありません」と百姓。
「ふふっ笑。血は出ねえよ。寿命をちゃんと、迎えるだけだ。じゃあ源爺、呼べるものなら、羊の執事を、呼んでみてくれ」と俺。
「かしこまりました」と源爺。源爺は、手で印を結び、2人の羊の執事が、正座して現れた。
【羊の執事とは、ずっと以前に 俺が、渋川剛気 通称 剛ちゃんとジャイアント馬場 通称 馬場ちゃんと一緒に居た頃、剛ちゃんにとっても馬場ちゃんにとっても、助けたくても助けられなかった命があった。其れも、たくさんのね。じゃあ、消えてしまった命の分、俺が新しく生み出した命 創り出した存在が、羊の執事だ。人様の役に立つように創り、シンメトリーと言って 経験を共有することができる。なので、例えば医師免許だったり 司法試験を合格したり、羊の執事は資格という資格を全部持っていて、合気道も全員 初段だったりする。普段は天国で暮らしており、天使の居なくなった天国で、天使の代わりに働いている。そんな羊の執事を、源爺は呼び出すことが出来た】
「さすがだな、源爺。俺が羊の執事を創り出したくせに、今の俺じゃ ここへは呼べないからな。じゃあ、百姓1人につき 羊の執事1人で担当し、しっかり天国へ連れて行ってくれ」と俺。
「土方様、この方たちはいったい?」と百姓。
「うん、過去に俺が創り出した 羊の執事だよ。地獄がある分、天国も確かに存在し、この2人の羊の執事は、源爺が呼び出した、天国からの使者だ。使えるし信用も置けるし、百姓1人につき 羊の執事1人でペアで、地獄のお沙汰なしで 天国へ行っておけ」と俺。
「ひゃー、そっただことができるのですか?」と百姓。
「うん、源爺のおかげでね。もうお前ら2人の百姓たちは寿命で、これで一番いい形で寿命を終えることができる。最後に 源爺に御礼を言って、あとは、どういう条件どういう状態で天国で暮らすかは、それぞれ羊の執事と話し合って決めてくれ。天国では年はとらないし、年齢も自由に選べるしな」と俺。
「トシ君、何から何まで、ありがとうございます。其れでは、羊の執事様、お百姓様たちの天国行きを、よろしくお願いします」と、頭を下げ 源爺がお願いする。
百姓たちは、俺と源爺に丁寧にお礼を言い、羊の執事が具現化したドアへ入り、2人の百姓たちの天国行きが完了した。
《羊の執事か…。そういえば俺が創り出し、今も天国や リュシフェルズ・カンパニーに存在しているはず。2017/05/10今現在、東 清二として、文字通り 最低最悪の人生を送る俺のところへ、迎えに来てくれないかなぁ。もう やっと最後の最後の人生を送っているけど、俺は生き地獄をのたうち回っていて、長ければ あと15年生き地獄が続く。そうなれば、そんな俺の状態に呼応するように、災害大国になった日本 、俺の恋人の言っていた吐き気を催す時代、めちゃくちゃになった世界が終わらない。今の全宇宙の支配者は、よりによって不死身のクソ大和田で、今も長らく続いている 大和田の世だ。其れを俺の手で、終わりにしなければいけないのは分かっているけど、クソ大和田に禁止された、不死身のクソ大和田も 完全に消せるぐらい強力な、俺の念能力が復活しない…。念能力が復活しないと、このゴミみたいな人生も、なんて俺はアホで弱いのだろうという思いも消せない。今更、過去を悔やんでも後悔しても どうしょうもないので、俺に残されたモノも 俺が選んだモノも『未来』だ。土方歳三を辿って、東 清二になった 正確に言えば、成ってしまったと言った方が的を得ているが、この敗北の人生を終わらせて、俺にとっては本当の自分 ドン・リュシフェルに成らなければ。其れには、念能力をくれ!》
こうして 家族に捨てられ見放されて、新選組の敷地内で暮らしていた2人の百姓に、ちゃんと天国からの使者 羊の執事が、源爺のおかげで やって来て、良い形で 百姓たちは寿命を迎えることが出来た。天国では年はとらないし、尚且つ 自分の年齢は自分で選べる。働く必要もないし、食事は羊の執事たちが用意してくれる。明治天皇が、24時間365日 レベルに応じて野球が出来る環境を創ったり、それのサッカー版を松村 ヨウスケが創り、その上給料も 天国に存在しているだけで、ドーンと出る。ただ そんな天国にも、欠点もある。歳をとらない分、子供も歳をとらない。ずっと子供のままだ。それでも 今の日本や、地球の状態 状況を考えたら、天国にとどまる方がいい。だって天国は、俺の命令で、全宇宙の支配者 クソ大和田も 大和田の側の人間たちも、立ち入り禁止にしたからね。そして、土方歳三だけじゃなく、俺の過去たちも 多数存在する。そんな天国の人々や、俺の過去たちが地球へと来れる日も、いずれは来る。今は 耐え難きを耐え偲び難きを忍び、そして未来を掴むんだ。次回の話は、源爺がしっかり、百姓たちを看取ったので、新選組 最後の隊、八番隊が創設され 安藤 ユウコという女性も、登場して来ます。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!