第七十六話 行進
新選組発足以来初めて、誠一文字の隊旗を掲げ、顔見せとして京の都を行進します。
時代は幕末、場所は京の都にて 新しき者たちが、古き者たちと戦う準備を着々と進めていた。その新しき者たちに、俺たち新選組も入るのだろうけど、新選組は 古き者たち、沈みゆく徳川幕府や 繋がりのある会津地方の味方をする事となる。そんな新選組の局長に、面白き漢 北野 武。新選組 副長に、未だ少年の俺 土方歳三。新選組 一番隊 隊長に、優しさと強さとかっこよさを兼ね備えている 斎藤一。一番隊 隊員に、少年にして 天才 沖田総司。死に番と呼ばれる すぐ死人の出る隊、四番隊 隊長に 豪快な漢 近藤勇。四番隊 副隊長に、無口で 『殺』という感じの野口君。健康になった2人の百姓たちの最期を看取ったら、新選組最後の隊 八番隊に入ることが決まっているのが、沖田の保護者を自認する 井上源三郎だ。他に、 最近刀を手に入れ 浮かれているガキンチョ2人、安藤 ジュンヤに、口の聞けないリュウスケなどが居て、そんな子供らに学問を教える先生として、北野 勝君がいる。そんな新選組が旗揚げ以来初めて、京の都を練り歩くところだ。
たかだか行進だけど 初めてのことなので、誰がどう並ぶかを相談する。差支配は、北野 武局長がしている。
「まずは、土方殿を先頭に、おいらはケツ持ちとして 一番後ろにいるよ」と北野局長。
「うん、じゃあ沖田は 新選組の誠一文字の隊旗を掲げて、そのまま持っといてくれ」と俺。
「ウキッ!」と沖田。新選組の隊旗を持った沖田の表情は、誇らしげだ。
「斎藤さんは、行進の際 何かあった時にすぐに動けるように、気を配って用心しててくれ。新選組としては、初の顔見せ初めての行進だからね」と俺。
「かしこまりました。いつでも斬れるように、準備しておきます」と、引き締まった顔をした斎藤さん。
「近藤さんと野口君は、沖田のすぐ後ろにいてくれ。旗持ちが沖田だし、出来れば沖田には、これ以上 戦って欲しくない。幸い 近藤さんと野口君は、戦える。死に番と呼ばれる新選組 四番隊に、俺が新選組に いらない奴ふさわしくない奴を放り込んで、どんどん死んでいく中 近藤さんと野口君は、斬られる前に斬って 生きて帰って来てくれるからね」と俺。
「かしこまりました」と近藤さん。野口君も、了解したみたいだ。
「あとは、安藤君にリュウスケの、見習いのガキンチョ2人を連れて行く。子供ながらに頑張ってるし、刀を手に入れて尚且つ 『天然理心流』の道場で、あれだけ稽古したら もう充分強いであろう」と俺。
その言葉を聞いて「うわーい!僕もリュウスケも、見習い卒業!見習い卒業!」と、大喜びしている安藤 ジュンヤにリュウスケ。
「其れと、源爺!源爺が、この新選組 お披露目の行進に参加するのは勿論のこと、元気になった2人の百姓たちも、連れてくぞ。刀は、俺の方で用意した」と俺。
「トシ君、私はまだ 新選組 八番隊に入っていないのに、行進に参加していいのですね。しかも、2人のお百姓様たちとも 一緒に」と、驚き 嬉しそうに源爺が言う。
「うん、源爺だって 新選組の一員に、変わりはない。あと3階級特進と言って、これから寿命を迎えるであろう2人の百姓の、格を上げておきたい。せっかくの機会だし、百姓としての人生の最後を侍として、終わらせたい。天国は確かに存在するし、人生の最期をどう迎えるかで扱いも変わるからね」と俺。
「トシ君、さすがです!刀まで用意してくれて…。」と源爺。
「じゃあ、百姓たちが刀を差したら 新選組 お披露目の行進に、出発するぞ」と俺。
百姓たちが遠慮し恐縮する中、源爺の善意で、百姓たちは帯刀し 斎藤さんの用意してくれた、新選組の栄光の隊服を羽織る。
「百姓たちも、ビッとして背筋を伸ばし、遠くを見据える。もう君たち2人の百姓たちは、寿命を迎えようとしている。だからこそ、最後くらい 新選組で、同じ釜の飯を食べた仲間として、侍の一員として最期を迎える。じゃあ、皆の衆!新選組旗揚げ以来、初めての京の都での行進だ。斬られるかもしれない。だったら、斬られる前に斬ればいい。侍の集団として、気合い入れて行くぞ!」と俺。
「おーっ!」と新選組の、頼もしき侍たち。
俺が先頭を歩き、沖田は 誠一文字の新選組の隊旗を掲げ、俺に続いて歩く。威風堂々たる行進している中、京の町衆や町娘から「新選組の行進だ」と言われたり「新選組様だ。有難や、有難や」と拝まれる。
行進の途中、薩摩藩の藩邸の門を、俺は蹴り壊し 長州藩のアジトとなっているところで、「御用改めだ」と言い、アジトの中を確認する。脱藩浪士が散り散りになって逃げ出すが、俺は「次はないからな」と伝え、蹴りだけ見舞い見逃す。
行進の用を足したので、新選組の屯所へと帰る道すがら、歳の頃 6歳ぐらいのと思われる、一人ぼっちの少女を見掛けた。もしかしたら、俺の宝物 哀姫ではないかと思いがよぎるが、今は行進の最中で ガキンチョも老人も行進している中、全員を新選組の屯所へ行きて返さないといけないので、その少女の居た場所だけ記憶して、俺は帰路に着く。
新選組の敷地内へ戻ると、皆 ホッとした様子だ。侍にとって、生きて帰るは簡単な事ではなく、しかも死人も怪我人も出ず、侍として帰って来ることが出来た。
「各自、月に一回は 新選組として、今日みたく隊列を組んで 行進があるからな」と俺。
「うわーいっ、やったー!」と安藤 ジュンヤが、それを聞き喜んでいる。
「おうっ、安藤先輩は恐くなかったんだな。土方殿が、薩摩藩の門を破壊し門番を蹴散らしたり、長州藩のアジトに、御用改めであると名乗ってから入ったり、さすがのおいらも 肝を冷やし、土方殿が斬られるんじゃないかと、怖かったけどな」と北野 武局長。
「斎藤さん、薩摩藩の芋侍なんて、どうでもいいよな?」と俺。
「はい。どうでもいいです。薩摩藩の者なんかに、トシさんが斬られる訳ないですからね」
「近藤さんは、四番隊として 敵に会う時は、先に御用改めであると名乗ってから、入るように。侍として、正々堂々としてね」と俺。
「がははははっ笑!かしこまりました」と近藤さん。
「百姓たちも、お疲れさん。君たちを捨てた家族も、今日の行進を見ていたよ。きっと、今頃は捨てなきゃよかったと後悔しているぞ」と俺。
「ひえーっ、これじゃお侍様は、幾つ命があっても足りないだぁ」と百姓。
「じゃっ、宴会といこう!」と俺。
新選組 旗揚げ以来、初めての行進を終え、この日は派手に大宴会となった。
《2017/05/04今現在の俺は、最後の最後の東 清二としての人生で、このゴミみたいな糞みたいな人生を呪いながら、捨て人生だとしても割り切れないでいる。ずっと繋いできた、念能力絡みのモノを福岡で、全宇宙の支配者 クソ大和田と、その大和田の軍門に下って、もはや大和田の御用聞きになった極道の澤野と そのカミさん。よりによって、ジャイアンとジャイ子が夫婦になった この2人によって、俺の人生も 俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫の人生も、クソ大和田に売られ、尚且つ 東京の未来も日本の未来も、売られた。時代は、昭和の末期だった。そりゃあバブルも崩壊するだろうし、結果 失われた30年と言われているけど、まだ失われたままで、取り戻せてもいない。今の俺に出来ることは、哀姫が会いに来ることを待つこと。幸いという程でもないが、俺は クソ大和田もその側の人間たちもいないところへ、なんとかたどり着けた。失われた記憶、操作され改変された記憶も、ほぼほぼ思い出した。もう一つ待っているのが、念能力が復活することだ。念能力が返って来ないと、不死身のクソ大和田を完全に消すことが出来ない。そうしないと失われた30年と言われた 大和田の世、誰かが言ってた吐き気を催す時代が、終わらない。念能力よ!こっちは待ちくたびれて、ぶち切れてるからな!》
こうして新選組発足以来、初めての行進を無事終えた。この日から新選組の侍たちは、何処かへ立ち入る際「新選組だ。御用改めである」が、定形文となった。先に名乗る分、斬られるリスクも 当然高くなる。其れでも、侍と呼ばれるからには、新選組の者であるからには、なんとか切り抜けなければならない。次回の話は、行進にも参加した2人の百姓たちの最期の話、正しい人生の終わらせ方の話です。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!