第七十五話 誠印
新選組の隊服と誠一文字の隊旗を作り、刀を揃え 威風堂々たる行進の、下準備をする話です。
時代は幕末、京の都にて、 志士と呼ばれる若者たちが、良くも悪くも 暗躍していた。そんな京の都の治安維持に駆り出されたのが、会津藩だ。綾野という名の男が、京都守護職として京へおり、悪い志士たちを取り締まる 侍の集団として、新選組が組織された。新選組 局長に、いつもふざけては 人を笑わせる中年の漢 北野 武。新選組 副長に、まだ少年の俺 土方歳三。一番隊 隊長に、京都守護職 綾野という男より 偉い、京の顔役にして 武器を使った戦闘なら 天下一品の斎藤一。一番隊 隊員に、未だ少年の天才 沖田総司。四番隊 隊長に、『天然理心流』の師範にして 気組を使える、豪快な男 近藤勇。四番隊 副隊長に、無口で いつも殺気の漲る 野口君。新選組の最後の隊、八番隊に入ることが決まっていて、優しさ漲る 中年の男が、井上源三郎。他に、まだ子供で それでも侍を志す2人、安藤 ジュンヤに、理由があるのだろうけど 口の聞けない リュウスケ。そして、学問を子供たちに教える先生として、北野 勝君がいる。
「土方殿!お百姓のジジイ2人が、元気になってピンピンしてたぞ。どういう訳だか、知ってるかい?」と北野 武局長。
「うん、知ってるよ。俺が、治して健康にした。北野局長には、話しておいた方がいいと思うけど、『取引』といって、俺と源爺で、一度決めたら変えられない 真実のみを述べなければならない、シャレにならない交渉をした。その結果 俺は手当てといって、俺自身の怪我や病気は治せないけど、俺が治したいと思った者の怪我や病気は、治せるようになった。人斬り集団 新選組は、人に斬られることもあるだろうから、手当てが出来るようになったのは、有り難い。さすが、源爺の持ちかけてくる話だけのことはある。手当てが出来るようになったのは、表向き内緒だけど、北野局長は知っておいてくれ」と俺。
「おうっ、了解した。手当てか…。さすが、土方殿だな。じゃあ、ちょっくら おいら、せっかく元気になったお百姓たちを、笑わせてくるよ」と北野局長。局長殿は、機嫌良さげに 俺の前から去った。
俺は、斎藤さんに「斎藤さん、新選組の隊服を作ってくれ。お揃いのね。デザインは、斎藤さんに任せる」と伝える。
「わかりました。早速、取り掛かります」
「うん、あと隊旗もね。誠 一文字で。北野局長の捨てた名前だけど、侍が 言葉成りと書いて、誠印の隊旗を掲げるのは、其れはそれでかっこいい。よろしく、どうぞ」と俺。
「誠一文字か。確かに、いいですね。揃いの法被に、隊旗ですね。では!」と斎藤さん。早速、取り掛かってくれた。
俺は、新選組の敷地内にある 道場へ行き、真面目に勉強をしている、安藤 ジュンヤとリュウスケを見つける。先生が北野 勝君で、安藤君やリュウスケと同じ年頃の子供たちが、学問を学んでいる。
「北野 勝君?先生?安藤君とリュウスケを、刀を買いに連れてってもいいかい?」と俺。
「はい!大丈夫ですよ」と北野 勝君。
「うわーい!今日の勉強、これで終わりだー!」と嬉しげな、安藤君。リュウスケも、それを見て笑顔だ。
「安藤君にリュウスケ、勉強も大事だぞ…。それじゃあ、捨て刀を買いに行こう」と俺。
「トシさん、捨て刀って何ですか?」と安藤君。
「文字通り、捨て値で買う 捨ててもいい刀のことだよ。これから新選組として、発足以来初めて、隊列を組み行進する予定だから、安藤君もリュウスケも、刀ぐらい差しとかないとね。もうすぐ、見習いも卒業だし。うしっ、じゃあ 買いに行くぞ」と俺。
「はい!」と安藤君。リュウスケも、頷く。
新選組の敷地内を出て、前に俺が俺の刀 和泉守兼定を買った、刀市へ行く。刀市の店主は、同じ人で「新選組 副長、土方殿!今日は、何用でございますか?」と、声をかけられる。
「うん、この子供ら2人分と、もう2人分 刀が要る。俺は大して金を持っていないし、捨て値で買える 捨て刀をね。予算は、四両だ」と俺。
「かしこまりました。よしっ、未来のお侍たち!どれでも、好きな刀を持っていきなさい」と、刀市の店主。
「うわーい、未来のお侍と呼ばれた!リュウスケ、ちゃんと 刀の目利きをしないとダメだぞ」と安藤君。リュウスケと一緒に、真剣に刀を選んでいる。
「安藤君にリュウスケに、其れと店主。捨て刀を4人分買いに来て、予算は四両だぞ…。君たちの選んでいる刀は、和泉守兼定はともかく、北野局長の刀 虎鉄並みか、それ以上の刀だぞ」と俺。
「土方殿、新選組の副長ともなられるお方が、ケチくさいこと言わないでください。新選組のお方達のおかげで、京の治安は良くなり それどころか、景気まで良くなりましたからね。ウチとしても、今日は商売抜きで どれでも好きな刀を売るつもりです。さあ 値札を見て、最低でも 四両以上の刀を、持って行ってください」と店主。
品定めをした安藤君とリュウスケは、本刀ではなく 子供の自分たちでも使える、脇差しを選んだ。店主の善意だが、恐ろしい値段がしそうなので、俺は値札を見ない。
「じゃあ、未来のお侍さん達2人は、脇差しを選んだので、あとは この刀とこの刀を持って帰ってください。お代は、結構ですよ」と刀市の店主。
「じゃあ 申し訳ないので、せめて四両だけ払わせて」と俺。
「お代は、いいのに。じゃあ、四両も頂いてもらいます。死ぬことだけが、武士道じゃないですからね」と、最後に店主は 付け加える。
「じゃあ、安藤君もリュウスケも、だいぶ値引きして貰ったので、だいぶ御礼を申し上げといて」と俺。
「ありがとうございました!」と、深々とお礼を言い 頭を下げる安藤君。リュウスケも、頭を下げる。
「今日は、捨て刀を買いに来たのにな。またもや、ありがとな」と俺。店主に一礼し、二本の本刀を持って、安藤君とリュウスケと一緒に、刀市をあとにする。
「刀だー、刀だ!これで僕も、お侍っ!」とはしゃぐ安藤君と、刀をちょっと抜いて また戻すを繰り返しているリュウスケと、新選組の屯所へ帰ると、青色に白色の模様がデザインされた法被を着た、新選組の者達がいた。そして、そこには誠と一文字の誠印の隊旗も、掲げられていた。
「トシさん!新選組の羽織を、こんな感じにデザインしたのですが、どうですか?」と斎藤さん。
「うん、いい。誠一文字の隊旗も、いい。さすが、新選組のお洒落番長 斎藤さんだけのことはある。北野 武局長、局長の捨てた 誠一文字が、こうして新選組の隊旗になるんだよ」と俺。
「おうっ、おっかねえ!おいらが捨てた名前なのに、斎藤さんも 土方殿も、ありがとうな」と、少し涙ぐむ 北野局長。
「あと、そろそろ見習いも卒業する、安藤君とリュウスケが、高級脇差しを手に入れたぞ」と俺。
「僕より後輩の、北野局長の刀より いい刀を、選んできましたからね」と安藤君。
「安藤先輩!安藤先輩の刀は、刀は刀でも 脇差しだぞ」と、北野局長。
「トシさん、脇差しじゃダメですか?」と安藤君。
「別に、脇差しで大丈夫だ。市街地での戦闘は、脇差しの方が丁度いい時もあるし、あとはしっかり、自分の手に馴染ませることだ。じゃあ 新選組発足以来初の行進は、明日にしよう」と俺。
しっかり仕上がってきた、新選組の行進は、明日へ持ち越しとなった。
《2017/04/24今現在の、2回目の東 清二として やっと最後の最後の人生、その分 最低最悪の人生を送っている俺は、このゴミみたいな糞みたいな毎日の中、俺はこんなところで いったい何をやってるんだ?と、自問自答しながら 何も出来ず、念能力の復活を一縷の望みも持てずに、ひたすら時間だけが、容赦なく過ぎていく。例えば、俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫が会いに来てくれたら、この狭くて暗い部屋で 孤独と戦っている俺にとっては、よっぽど幸せだろう。昔は 俺と哀姫が一緒に居られることは、当たり前だったのに 俺は福岡で、全てを失った。命綱で生命線だった、真実の目 才能 皇位 心、の全てをね。その後は、日本が災害大国になろうが、日本中どころか世界中が、不幸になりめちゃくちゃになり糞まみれになったが、俺の知ったこっちゃない。せめて 今の俺に出来ることは、この生き地獄が、あと長ければ15年続くことを覚悟しておくことと、念能力の復活と、哀姫が この高くて分厚い壁を越えて、会いに来てくれることを待ち続けるしかない》
こうして、新選組 局長 北野 武君の、捨てた名前 仮名【誠】が、新選組の隊旗となった。また、新選組の栄光の隊服も、お洒落番長 斎藤一の手によって作られた。後に、この隊旗と、栄光の隊服を纏った新選組の侍達が、海を渡り アイヌの支配する蝦夷地で、戦い抜くことは まだ誰も知る由もない。はーっ、しかし俺の朧げな 、過去を思い出しながらの執筆は、思い通りにも 予定通りにもいかないな。今の俺には、才能がなさ過ぎる…。次回の話は、新選組の隊旗と隊服を纏って、威風堂々と行進します。描ければ、2人の百姓たちの最期についても、書こうと思います。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!