第七十四話 取引
新選組の屯所で暮らす2人の百姓たちの為に、『取引』という シャレにならない交渉を、井上源三郎が 俺に持ちかけてくる話です。悪くはないけど。
時は幕末、長らく続いた徳川幕府の力も衰え、日本全国の各地で 雄藩が、力を見せ始めていた。そして各地の若者が、京の都で暗躍し 時代の中心は、京の都となっていた。そんな中、滅びゆく幕府に味方し 会津地方とも繋がりがあるのが、俺たち 新選組だ。滅びるにしろ敗けるにしろ、負け方があるからね。新選組 局長に、最近 本名を明かした、笑いと話題の中心にいる男 北野 武。新選組 副長に、未だ少年の俺 土方歳三。一番隊 隊長に、もはや京の顔役 武器を使わせた戦闘なら、右に出る者はいない 、俺の唯一無二の親友 斎藤一。一番隊 隊員、俺と同じく 未だ少年の、天才 沖田総司。そして、そんな沖田の保護者を自認して、隊としては最後の八番隊に入ること内定しているのが、井上源三郎だ。四番隊 隊長に、『天然理心流』の師範で、敵を飲み込む気組を使い手 近藤勇。四番隊 副隊長に、近藤さんの用心棒 いつも無口で、尚且つ 目が座っている 野口君。他に、子供ながらに侍を志した2人、明るく元気な 安藤 ジュンヤに、口の聞けないリュウスケなどが居て、北野 武局長の弟、北野 勝が、学問を子供たちに教えている。そんな中での話。
新選組の道場にて、主だった者を集めて座らせる。そして「北野局長より、本名について発表がある」と、俺が伝える。
「おうっ、おいらの本名は、武士の武と書いて 、北野 武というんだ。土方殿の計らいで、おいらなんかを新選組の局長にしてもらったし、仮名のままじゃ格好がつかない。この北野 武という名が、母ちゃんが付けてくれた、おいらの全部の人生とうしての本名だ。謀ったつもりはないけど、以後改めて よろしくお願いします」と北野 武局長。
「うん、この時代の者は、本名を知らせない人の方が多いぐらいだから、別にいい。簡単に本名を明かすと、消されたりもするからな。みんなが北野 武君を呼ぶ時は、北野局長とか 局長殿と呼べば、名前がバレずに済むので、そうしてくれ」と俺。
「がはははははっ笑!かしこまりました。局長殿と呼びます」と近藤さん。
他の皆にも、異論はないみたいだ。若干、斎藤さんだけが「俺だけ、仮名だ…。」と落ち込んでいる。
新選組の敷地内で 寝起きしている、2人いる百姓の世話をしている源爺が、真顔をして 新選組の玄関にある長椅子で、ゴロゴロしている俺を訪ねて来た。
「トシ君、大事な話があります」と源爺。
「沖田を褒める以外の源爺の話で、大事じゃない話を俺は知らないんだけどね」と俺。
「トシ君、『取引』です。真実じゃないといけません」と源爺。
「ああ、大丈夫だ。源爺が持ってくる話で、俺に害があるとは思わないしな。別に『取引」で、問題ないよ。その代わり 真実を述べることと、説明をちゃんとしろよ」と俺。
「はい。『取引』の条件は、手当てと言って トシ君が手を当てるだけで、相手の怪我や病気を治せるようになります。その代わり、トシ君自身の怪我や病気は、トシ君でも治せません。これが、条件です」と源爺。
「手当てか…。懐かしいな。昔は、天国に居た者たちは、みんな手当てを出来たのにな。俺自身の怪我や病気は治せないけど、俺が治したい相手の怪我や病気は、治せるようになるんだな?」と俺。
「はい。トシ君が、治したいと思う 相手なら」
「じゃあ、『取引』成立でいいよ。もともと 今の俺では、自分の怪我や病気も治せなかったし、治したい相手の怪我や病気が治せるなら、充分な成果だ」と俺。
「『取引』成立で、いいでしょうか?」と源爺。
「ああ」と俺。
源爺が、俺の両手に手を当てると、俺の両手は少し暖かくなり少し光った。
「トシ君!『取引』、成功です。成立しました」と源爺。
「じゃあ、ちょっくら 源爺が世話をしている、2人の百姓の所にでも、行きますか。今の新選組には、病人も怪我人もいないし、源爺が持ちかけた『取引』の理由も、2人いる百姓たち絡みだろう」と俺。
「はい。トシ君、出来る範囲でいいので、治してみてください」と源爺。
「ああ、いいよ。俺自身、どのくらいまでなら治せるか、知りたいしな」と俺。
源爺の案内で、新選組の屯所内の部屋へと通される。其処には 今にも死にそうな、寝たきりであろう2人の百姓が居た。
「源爺、俺の分かっている範囲だと 健康には出来る。ただ、若くすることは出来ないからな」と俺。
「それで、大丈夫です。お亡くなりになる前に、せめて いい思いをしてもらいたい。私 特製の、牛肉料理をたらふく食べて欲しい」と源爺。
「じゃあ、ちゃちゃっと治しますか」と俺。
俺が手を当てると、眩い光が出て 百姓たちの具合が良くなっていく。
「百姓たち!まず、身体を起こせるか 試してみてくれ」と俺。
百姓たちは、身体を起こせるどころか、立ち上がって歩けている。
「トシ君!ありがとうございます!」と源爺。
「まだだよ、源爺。歯も、治さないと。美味しい牛肉料理を、食べさせるんだろ?」と俺。
「はい!歯も、治せるのですか?」と源爺。
「俺を誰だと、思っているんだ。この星の、最高責任者だぞ。じゃあ、取り敢えずは歩けるようになった百姓たち、座って。歯も、治しとくから」と俺。
同じように、俺の手から光が出て、百姓のもともとあった歯は正常に、失って無くなってしまった歯も、元どうりに完治していく。
「ホイ、完璧」と俺。
「トシ君、本当にありがとうございます」と源爺。
元気になった百姓たちも、「ありがとうごぜえますだ。ありがとうごぜえますだ」と、俺を拝み始める。
「源爺、どっちにしろ この家族に見捨てられた、年老いた百姓たちは天国行きだ。今の俺じゃ、健康には出来ても 若くすることは出来ないからな。まあ、源爺特製の牛肉料理をたらふく食べて、最後にビッとして終わりにしよう。天国に行けるなら、年老いたままじゃなくて済むからな。天国なら子供以外は、適正年齢を自分で選べるしな」と俺。
「トシ君、本当にありがとうございます。私特製の牛肉料理をご馳走して、お百姓様たちには、最期を迎える 天国へと向かう準備をします」と源爺。
「了解。俺の方でも、百姓たちが 人生の最期に、ビッとする舞台を考えとくよ」と俺。
「ありがとうごぜえますだ。ありがとうごぜえますだ」という、百姓たちのお礼の言葉を聞きながら、俺は自分の定位置である、新選組の玄関に置いてある長椅子へと戻った。
《だーっ、2017/04/15今現在の俺、2回目の東 清二としての人生を送っている俺は、未だに この最低最悪の人生で、生き地獄をのたうち回っている。本来なら 念能力者にもなり、プロ野球選手になる筈だった。最後の最後の人生くらい、俺にとっては 憧れの職業 プロ野球選手に成りたいと、話し合い 敵である 全宇宙の支配者 クソ大和田も、合意していた。ただし 汚い手口の作戦しか立てない 糞軍師で、大和田の側の人間たちのNO.2 クソ木村 公一が、俺に向かって「あいつが落ちぶれたら、大和田も 大和田の側の人間たちも、這い上がれる」と公言した。シーソーの理論、俺が落ちぶれたら 反対に、大和田や大和田の側の人間たちが、這い上がれるとね。クソ大和田も 大和田の側の糞野郎や糞女は、アホでカスでクソだから、糞軍師 木村 公一の言葉を信じた。そして、俺が落ちこぼれても 落ちぶれても、決して 大和田の側の人間たちが這い上がれないことが、証明された。今頃は、大和田の側の人間同士、仲間割れと内輪揉めを、さんざ繰り広げていることだろう。糞詐欺師 クソ高倉健も、やっと死んで やっと大和田の側の人間になった。この糞詐欺師 クソ高倉健に、俺の側の人間たちは、一周回るぐらい 騙され続けてきたからね。あとは、俺は念能力者になること。俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫に、逢うことと、もう ずっと一緒にいようと、約束すること。そして 寿命を迎え、本当の自分 ドン・リュシフェルになることだけだ。この狂った世界、糞みたいな時代を終わらせなければ。歴代 俺の人生史上 一番長生きをしている、無駄な日々にも ピリオドを打たなければ。そのためにも、念能力を!」
こうして 『取引』という、シャレにならない交渉で、その後 土方歳三としての人生では、自分の怪我や病気は治せないけど、他人の怪我や病気は治せるようになった。この『取引』に関しては、さすが源爺が持ちかけてきただけあって、大してリスクのない いい『取引』だ。元々は、俺は他人の怪我や病気も、治せなかったんだし。あとは、俺が治したいと思うかどうか選べるしね。次回の話は、新選組として 旗を掲げ、威風堂々と 京の都を行進します。あと、健康になった 百姓たちの最期の話もあります。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!