第七話 将軍
ただの孤児がとうとう将軍に謁見ってところです。
第七話 将軍
リュシフェル
とうとう将軍と謁見する日の朝がやって来た。ひとりぼっちのところを唐沢師範に見出され、拾ってもらい江戸城までやって来た。そしてご家老の奮闘があり今日という日を迎えた。それは、とてもとても有り難いことではあるのだけれど正直、面倒くさいよね?だって将軍になりたいなんてひとことも言ってないんだもん。あーあ、面倒くせえ。切腹か?打ち首になるか?あーあ。
ご家老と唐沢師範に伴われて、玉座に座る。隣に殿中でありながら帯刀する唐沢師範。評議の場に移るご家老。そして当たり前のように上座に座って将軍を待つ俺。そこに侍の格好をした太ったおっさんがやって来た。
「上様のおなーり」こいつが将軍か?とても、そんな風には見えない。格好だけが立派で、威厳もないし強そうにも見えない。なんだか俺が江戸城に来なきゃいけない理由が分かった気がする。これじゃあ、幕府は持たない。でもなー、いまさら立て直すのもなー。
「余の偽者が出たとの事だが、余は寛大じゃ。よきに計らえ」との将軍の言葉を得て家臣達が胸を撫で下ろし、俺のことをどうするか話し始める。将軍は寛大だと言いながら、切腹だの打ち首などの言葉が飛び交う。
「ブタさん、俺を見ても何とも思わないのか?」俺が誰のことを話しているのか分からず、一同静まり返る。
「ブタ将軍さん、てめえだよ。何でお前が将軍なのか分かるか?」
あまりの発言に家臣達も、顔が青ざめる。
「ブタとは余のことか?余が誰だと思っているっ。せっかく切腹ですましてやろうと思ったが、もうよい打ち首じゃ」
この将軍の発言を受け家臣達が俺を捕まえようとするが、すぐさま抜刀した唐沢師範の殺気でなかなか動けない。
「ブタ将軍さん、顔がてかてか光ってるブタ将軍さん。俺に喧嘩で勝てたら打ち首でいいよ」今度はご家老の顔が青ざめる。
「トシさんっいくらなんでもその条件はっ」やさしいやさしいご家老さん。
「ご家老、その条件で大丈夫ですよ」ふふっと笑う唐沢師範。そうですね、山賊と戦っていたときよりはましですね。
「余の刀を。余に勝てると思っているのか?」
「俺は素手でいいですよ、ブタさん。すぐ始めますか?」
「斬る前に聞きたい、歳はいくつじゃ?」
「三歳。漢字を入れ替えて、あだ名は歳三。いや、歳三にしようかな」
将軍が右袈裟切りで切りかかってきた。これを避けると右脇腹ががら空きになる。そこに体重と渾身の力を込めた左ボディフック。たまらずうずくまるブタ将軍さん。一同、目を見開く。
「トシ、さすがだな」と唐沢師範。そして何度も、うなずくご家老。
やっと我に返った将軍の家臣たちが、上様と言いながら将軍のもとに集まる。あとはこいつらだけかー。
「トシさんっあとは私と唐沢君とでやります。任せてください」と涙目になるご家老。うれし涙だったら素敵だなー。
評議の結果、とりあえず俺は次期将軍の資格を得ることとなった。ブタ将軍さんと家臣達は、ご家老の三歳の子供にしかも素手対刀で負けるやつに、将軍どころか侍の資格はあるのかと押し切られたらしい。すぐにでも将軍にとの声もあったらしいが、俺の歳が三歳ということでそれは見送られたらしい。やったー、これで気兼ね無く江戸城にいられるぞ。ちなみに唐沢師範は、トシすぐにでも「大奥」に行こうと張り切っている。たくっ。さて、どうなることやら。以上。
続編も楽しみにしていただけたら、幸いです。