第六十九話 新入
壬生浪士組に、期待の大物新人 北野さんが、入ってくる話です。
時は幕末、場所は京の壬生で「壬生浪士組に、芹沢一派が居なくなったー!」と宴会を繰り広げている。俺 土方歳三は、まだ少年だが社会人なので、日本酒を飲んでもいいと自分で決めた。隣では「ウキウキ」言いながら、これまた少年の沖田総司が楽しげにお酒を飲んでいる。そのそばで、中年の井上源三郎が、甲斐甲斐しく世話を焼きながら、此方も笑顔で日本酒を嗜む。いつもだったら、こういう席に斎藤一が、居るものだが きっと今頃は、芹沢一派 4人の死体の後始末中だろう。その代わりに、北野と名乗る男が、壬生浪士組に居る 百姓2人をげらげら笑わせている。そして、『天然理心流』の師範 近藤勇が、もう芹沢一派の事で 頭を悩まさなくていいので、久し振りに近藤さんの「ガハハハッ」と言う豪快な笑い声を、俺は聴いた気がする。そんな近藤さんの用心棒 野口君も、ぐびぐび日本酒を飲みながら、心なしか今日は機嫌が良さそうだ。其れと「せりざわ達が、居なくなったー!」と、喜びはしゃいでいた まだ ガキンチョの安藤 ジュンヤも、同じくガキンチョのリュウスケも、夜も深くなり スヤスヤと寝息をたてている。そして気付いたら、朝日が昇ろうとしていた。
「はい、もう日が昇ったので、宴会はこれにてお開きですよ。休息もそうだし、ちゃんと睡眠もとらないと」と俺。とか言いながら、まだ手元にある残った酒を、俺は飲んでいる。
「おうっ、もう日の出か!こんな美味い飯とこんな美味い酒、おいら 初めて呑んだぞ。オマケに、牛肉まで食べられたしな」と北野さん。
「ああ。この時代、牛肉はそれ程 食べられていないけど、壬生浪士組の肉牛は、神戸ビーフだぞ。それにしても北野さんは、家族に見捨てられ 生きる希望を失った百姓の2人を、よくあんなに笑わせられるなぁ。なかなかの才能だぞ」と俺。
「ああ。おいら、人を笑わせるのは、得意中の得意だからな。こんな美味い飯と美味い酒を飲めて、侍として 京の町娘に憧れられて、ちゃんと芹沢一派も処分して、こりゃあ 壬生浪士組は、良いところだな」と北野さん。
「そう言うなら、北野さんも 壬生浪士組に、入ればいいじゃねえか。百姓にガキンチョをげらげら笑わせて、その上 強いし使える。北野さんが壬生浪士組に入るなら、いい機会だし 壬生浪士組の名称も、変えるしな。入りますか?入りませんか?」と俺。
「おうっ、今のところは壬生浪士組に入りたいけど、家族と相談させてくれ。今日中には、返答するからよ」と北野さん。
「了解。入るなら入るで、名字は北野で 本名だろうから、名前も適当に考えておいてくれ」と俺。
「おうっ、了解した」と言い、北野さんは、家へと帰って行った。
俺は少し睡眠をとり、目覚めて顔を洗いに行くと、壬生浪士組の玄関の前に、少し焦った様子の北野さんが居た。俺は顔を洗い、「で、家族と相談した結果 どうなった?」と聞く。
「イヤッ、弟もそうなんだけど、特に母ちゃんに 壬生浪士組にいる人たちは、本物の漢たち本物の侍たちだから、仲間入り出来るなら とっととしなさい!ときつく言われてよ。土方殿さえ良ければ、おいら 一番下っ端からでいいから、壬生浪士組に入らせてくれ」と北野さん。
「北野さんは、新入りといっても中途採用だから、幹部候補生だよ。名前も、決めたか?」と俺。
「ああ。名字は北野で、名前は誠にするよ。よろしくお願いします」と俺に、頭を下げる北野さん。
「言葉 成りと書いて、誠か…。其れは其れで、良い名前だな。因みに俺は、君の本名をフルネームで、知ってるんだけどね。じゃあ 北野 誠殿、お互いをどう呼ぶか決めよう。俺は君を、北野君と呼ぶ事にする。北野さんと呼んでもいいけど、それじゃあ距離感が遠い。其れに、だいたい俺は 人を君付けで呼ぶ。其れでいいか?北野 誠殿?」と俺。
「ああ、北野君でいいよ。おいらは念の為、土方殿と呼ぶ事にするよ。新入りだしな」と北野君。
「うん、新入りといっても 北野君は、幹部候補生の大物だし、別に引け目も負い目も感じなくていい。まぁ そのうち、お互いを肩書きで呼ぶようになるだろうし。じゃあ 新入りの北野 誠君に、道場と屯所を案内するよ」と俺。
俺と北野君で、『天然理心流』の壬生での道場へ行く。道場では、気迫のこもる 厳しい稽古が行われている。近藤さんが、敷居の一段高い畳の上で、全体の監督をしていたので、俺は 期待の大物新入りを、紹介することにした。
「近藤さん!期待の新人、名は北野 誠だそうだ。俺の推薦をつけるから、死なない為殺されない為の稽古と、幹部候補生として以後、お見知り置きを」と俺。
「北野 誠と申します。どうか、よろしくお願いします」と、何故か ふざけた感じになってしまう北野君。
「近藤勇と申します。新入りとはいえ、土方殿の推薦があるなら、大歓迎です。こちらこそ、よろしくお願いします」と近藤さん。
「で、今 若い者たちに稽古をつけているのが、野口君。名が省略されていて、北野君と同じく 君で呼んでいる。野口君は、近藤さんの用心棒なんだけど、無口でニヒルだから、北野君が笑わすことが出来たら、大したものだ。今度、宴会の時にでも、挑戦してみてくれ」と俺。
「おうっ、野口君か。了解した。おいらで笑わせられるか?今度、試してみるよ」と北野君。
「そんで、木刀ではなく 竹刀で稽古してるのが、まだガキンチョだけど 侍を志した、安藤 ジュンヤ君にリュウスケ君。リュウスケの方は、名字もなく尚且つ 口も聞けない。そんな感じだ。笑わせられるものなら、笑わせてみてくれ」と俺。
「おうっ、安藤君にリュウスケ君だな。了解した」と北野君。
すると、俺に気付いた 安藤君が、近付いて来た。
「トシさーん!なんで僕たちだけ、木刀じゃなくて 竹刀で稽古なんですか?」と安藤君。
「君たちガキンチョ2人は、木刀だとマジ喧嘩になって、大怪我をする。せっかく竹刀を作ったんだから、近藤さんと野口君が、納得するまでは竹刀で頑張りなさい。一番良い 喧嘩の勝ち方は、相手にどうやっても勝てないと思い知らすこと。それが、大人相手に出来るようにならないとな」と俺。
「そうか…。力の差を、思い知らせるのか…。」と安藤君。
「あと安藤君もリュウスケも、期待の大物新人 北野 誠君だ。ビシバシ、竹刀で稽古をつけてやってくれ」と俺。
「はい!北野さん、僕とリュウスケの方が先輩ですからね。ちゃんと見習わないと、いけませんからね」と安藤君。
「げらげらげら笑!了解した。安藤 ジュンヤ先輩に、リュウスケ先輩!」と北野君は、笑いながら言う。
其処に、握り飯を大量に持った、沖田と源爺が、道場へやって来た。
「よしっ、俺 宴会!沖田も源爺も、新しく仲間に加わった 北野 誠殿だ。知っておいてくれ」と俺。そして俺は、日本酒を飲み始める。
「北野 誠と、申します。よろしくお願いします」と北野君。
「ウキッ!」と沖田。
「トシ君!久し振りの大物新人ですね。私は、井上源三郎と申します。此方も、よろしくお願いします」と源爺。
「北野君、沖田総司の方は、俺が認める 天才中の天才だ。沖田の過去が、豊臣秀吉。俺の過去が、織田二郎三郎信長だ。そんで、沖田総司が沖田の本名だ。偶に話したと思ったら、洒落にならなかったりするから、普段は「ウキウキ」言いながら、宴会するなり遊ばせといてる。井上源三郎の方は、沖田の保護者だ。源爺の方は、普段から使っている」と俺。
「とよとみひでよしに、織田信長…。ひえー、おっかねえ!凄え面子が、揃ってる」と北野君。
「あとは、今日は顔を見せてないけど、もはや侍の斎藤一が仲間だ。じゃあ、北野君も 握り飯、食べなっせ」と俺。
「土方殿!何で此処の米と酒は、こんなに美味いのか?」と北野君。
「さっき話した 斎藤一が、会津地方から、日本一の米と酒を調達してきてくれるんだよ。もはや侍は、本物なんだよ」と俺。
「おうっ、おいらも 頑張らなきゃな」と北野君。
いつものように、この日も稽古の後、宴会と相成った。
《2017/03/02今現在の俺は、暗くて狭い部屋で、孤独と戦いながら、挫折と敗北の人生を送っている。たかだか 天使の基本装備、真実の目を失い、尚且つ 念能力も失った。序でに、才能まで奪われた。そうなると、例え 元 土方歳三とて、こうなってしまうのか…。日本中どころか、世界中が不幸になって、めちゃくちゃになった元凶は、全宇宙の支配者 クソ大和田のせいだ。其処に、俺の念能力と友人をクソ大和田に売った、詐欺師 クソ高倉健が絡み、結果 日本も世界も、幸せな場所 幸せな人間を見つけることが、困難な時代になった。俺の寿命までは、長くても あと15年。念能力が復活するまでは、耐え続けるしかない。その分、念能力さえ手に入れば、本当の自分、ドン・リュシフェルになって、クソ大和田もクソ高倉健もぶっ消して、少しはマシな時代を始められると思うんだ。俺の側の人間達も、待っているんだ。もう頑張れないけど、念能力を待つしかない》
こうして壬生浪士組に、北野 誠さんが、入って来た。この事によって、名称も含め 壬生浪士組は、大きく変わる事になる。次回の話は、壬生浪士組の名称を変更する話と、侍の集団としての組織づくりです。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!