第六十五話 浪士
壬生浪士組と呼ばれるようになった事と、ガキンチョたちの喧嘩の強さについての話です。
壬生浪士組と、いつしかそう呼ばれるようになった。仏教の高僧 久米さんの、言っていたとうりにね。壬生浪士組といっても、俺 土方歳三に斎藤一、それに沖田総司と井上源三郎、近藤勇に野口君、そして まだガキンチョの安藤ジュンヤにリュウスケと、相変わらずの面々だ。そこに、どういうわけか、会津藩の推薦する人物や、強くなりたい者、果ては年老いて、もはや使いものにならなくなった百姓まで、わらわらと集まって来ている。俺は来る者拒むけど、会津藩の推薦があろうがなかろうが、豪快な近藤さんが受け入れていく。そんな中での話。
「壬生浪士組か。なんだか近藤さんは、いる人材も要らない人材も 、関係なく受け入れていくなぁ。まあ 住処として、大きな屯所も作ったし真新しい『天然理心流』の道場もあるし、大丈夫は大丈夫なんだけどな。とりあえず源爺は、年老いた百姓たちの世話と差支配をしてくれ。捨てられた百姓とはいえ、人生の最後ぐらい心安らかに過ごしたいだろうからね」と俺。
「かしこまりました。せっかくなので、豚や牛の飼い方作物を育て方などの、助言を頂いてもらうことにします。私も、いずれは使いものにならなくて、捨てられる身なので覚悟もしてもおきます」と、悲愴な覚悟で語る 源爺。
「ウキーキッ!怒」と、沖田が怒り出す。
「大丈夫だよ、沖田。死に場所を選べるのは、侍の特権だけど、別に源爺が年老いて使いものにならなくなっても、俺や斎藤さんは、源爺を捨てたりはしないよ。ただ 唯一気がかりなのが、沖田風邪だよ。斎藤さんが瀕死の重病人になるくらいだから、源爺も病人にはなるだろう。ちなみに俺は、沖田風邪なんか 半日で治してみせるけどね。馬鹿は風邪をひかないというけど、俺はただの馬鹿じゃなくて、大馬鹿だからね。ナハハハハッ笑」と俺。
「ウキ」と、ようやく沖田が笑顔になった。
「まったく、トシ君は…。それでは私は、お百姓さん達の世話に行って参ります」と源爺。沖田も、トコトコと源爺について行った。
「トシさーん!僕たち 壬生浪士組の人たちが、どんどん増えていきますね」と安藤 ジュンヤが、嬉しそうに言う。其れと いつものように、安藤君の傍らには、リュウスケがいる。
「うん、壬生浪士組に関しては、大して募集もしてないのに、どんどん入って来ている。近藤さんは、体格だけじゃなく器も大きいので、近藤さんとしては、来るもの拒まずといったところなんだろう。ただし壬生浪士組は、侍や侍を目指す者達なので、将来的には数を絞るつもりだけどな。其れと、壬生浪士組といっても 安藤君とリュウスケは、まだガキンチョなので、正確に言うと 壬生浪士組見習いだよ。最低でも自分の身を守れるぐらい、出来たら自分の大切なものも守れるぐらい強くならないと。せっかく『天然理心流』の真新しい道場が出来たので、近藤さんや野口君に、まずは素手ゴロの喧嘩の仕方を教わって、その次が棒術と木刀での戦い方を教わっときなさい。侍は人斬りの集団でもあるし、その分 斬られることもあるからね」と俺。
「はい!わかりました。ケンカの仕方かぁ。それと、僕もリュウスケも まだ壬生浪士組の一員じゃなかったー。うわー、見習い止まりだったー」と嘆く、元気印の安藤君。
「じゃあ、俺は 近藤さんと、浪士の選別の話し合いをしてくるから、安藤君はリュウスケと話し合っててくれ」と俺。
「トシさん…。リュウスケ、口聞けないの知ってるでしょ…。」と安藤君。
近藤さんの居るであろう 道場へ出向くと、近藤さんと壬生浪士たちが、稽古をしながら酒盛りもしていた。近藤さんの用心棒 野口君も、相変わらず無口で 淡々と日本酒を飲んでいる。
「近藤さん、昼間から酒を飲むのはいいけど、壬生浪士組に新しく入る者は、俺の了解もちゃんと取ってくれ。俺たちは、侍に成るんだ。弱い者は勿論のこと、中途半端な強さじゃ 遅かれ早かれ殺される。だから『天然理心流』の理念にのっとった、厳しい稽古をしないと生き残れない。当面、1人での外出を控えること。あとは、近藤さんには野口君が居るように、二人一組で相棒を作るようにしよう。人生すら、共に過ごす相棒をね」と俺。
「かしこまりました。そうするように致します」と近藤さん。野口君も、無言で頷く。
「じゃあ 俺も、酒盛りして宴会ー!」と俺。
「ガハハハッ!笑。そうしましょう」と豪快に笑い、笑顔になる近藤さん。
そのまま、浪士達も交えて酒盛りをしていると、ガキンチョ二人組がやって来た。
「トシさん!怒、トシさんが、僕とリュウスケは まだ子供だから、近藤さんや野口君にケンカの仕方を教わるようにと言ったのに、何でこんな時間から 宴会をしてるのですか!」と安藤君が、怒っている。
「どうどう安藤君、落ち着いて。俺はまだ少年だけど、社会人だから昼間から酒を飲んでてもいいのだよ。近藤さんと野口君が、酒盛りをしている時点で、壬生浪士組は宴会をしていいのだよ。別に酔っ払ってても、喧嘩の指南や自分の身の守り方ぐらいは、教えられるしな。まずは、安藤君とリュウスケが、マジ喧嘩にならないように気を付けて、闘ってみてくれ。そのうえで、俺と近藤さんで、どうやったら もっと強くなれるか助言するよ。野口君は強いけど、無口だしね。じゃあ 目潰しと金的は無しで、ファイト!」と俺。
「わかりました!じゃあ リュウスケ、目潰しと金的無しで勝負だ」と安藤君。リュウスケも、了解したみたいだ。
安藤君とリュウスケが、闘い始めた。子供と子供の喧嘩だけど、なかなかレベルが高い。持って生まれた才能もそうだけど、それ以上に親がいない家族がいないと、誰も守ってくれる人がいない。そうすると必然的に、子供ながらに喧嘩のレベルは高くなる。そのまま非行に走る、グレていくことはよくあるが、幸い 安藤君やリュウスケは、侍を志した。俺だけじゃなく、ちゃんと大人の近藤さんや源爺、それに手本となる もはや侍の斎藤さんまでいる。だから きっと、安藤君とリュウスケは大丈夫だろう。
安藤君とリュウスケの喧嘩のレベルの高さに、道場に居た 壬生浪士組の者たちが圧倒される中、俺は「そこまでっ!」と言う。ただ 二人とも、闘志に火がついたのか喧嘩をやめないので、野口君が2人を引き剥がし、やっと喧嘩が終わった。
「2人とも、子供にしては充分に強い。あとは、身体が大きくなるにつれ もっと強くなれるだろう。次は 木刀を使っての稽古だけど、それだと下手をしなくても 大怪我をする。竹刀と言って、安全な稽古の出来る 刀がわりの物を作るよ。ちょうど、壬生に竹林があるし。まだ ガキンチョだけど、近藤さんは、この二人の強さをどう見る?」と俺。
「ガハハハッ笑!子供ながらに、充分に戦える。あとは私の方で、『天然理心流』をしっかり教えます」と、近藤さん。
「了解。安藤君とリュウスケは、ご苦労だった。俺が思ってた以上に、闘えてた。竹で出来ている竹刀が出来たら、剣術の稽古にしよう。二人とも、子供にしては 充分に強い!」と俺。
「はい!」と、嬉しそうな安藤君。リュウスケも、笑顔だ。先程までは、二人とも 人を殺しかねない目付きをしてたのにね。
源爺と沖田が、握り飯とお酒を道場へ大量に運び込み、この日は そのまま宴会をして夜が更けていった。
《2017/01/19 今現在の、東 清二としての俺は、挫折と敗北の人生を送っている。長ければ あと15年、耐え難きを耐え 忍び難きを忍ばなくてはならない。其れとそういえば、「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」って、当時の俺が創った言葉だ。その文言がないと、玉音放送は何の話を言っているのか、分からなかったからね。さて、永きに渡り 死んだり生まれ変わったりしながら続いてきた俺の人生も、最後の最後まできた。けれどその分、最低最悪の人生になってしまった。寿命なんて、明日まででいい。長生きなんて、望んじゃいない。ちゃんと寿命で死んだら、本当の自分 大天使長 ドン・リュシフェルになれる。だから、全宇宙の支配者 クソ大和田!俺の念能力を返してくれ!俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫に、会わせてくれ!こっちはその日が来ることを、ずっと待ってんだ!》
こうして 壬生浪士組の浪士たちも、安藤 ジュンヤやリュウスケの、強さと存在を認めた。俺が何度も生まれ変わり、この2回目の東 清二としての最後の最後の人生にも、安藤 ジュンヤもリュウスケも、児童養護施設 東京サレジオ学園の後輩として、出てきた。今頃は、何をしているのだろうか?元気にしているといいのだけど。さて、壬生浪士組に 食い詰めた者や志しのある者、果ては家族に捨てられた百姓も、入って来た。その者たちや 浪士たちを、ふるいにかけ適材適所に配置していくことになる。次回の話は、水戸脱藩浪士 芹沢鴨が、出て来ます。勿論、いずれ鴨ネギにしてやります。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!