第六十四話 北野
壬生にて、皆さんもご存知であろう北野と名乗る男が、姿を現わせます。まだ、顔見せ程度ですが。
俺の名は?土方歳三!壬生という地名の場所で、着々と建設作業をしている。大人数の住める屯所は、もう出来た。豚と牛を飼育する小屋も、沖田総司と井上源三郎の手によって、完成した。そして 強き漢達を創る、『天然理心流』の新しい道場も、近藤勇や野口君等の手によって 完成間近だ。何もかも、建築資材や大工たち、他にも お金 米 酒などを用意してくれた、斎藤一のおかげだ。これから侍を目指す、まだ ガキンチョの安藤 ジュンヤとリュウスケも、好奇心と崇高な者を目指すことに、目をキラキラ輝かせている。そんな中での話。
俺は、二階建て以上の屯所を完成させ、厠も池も作ったので、竹林を工夫して 忍者対策の罠を作ることにした。沖田や源爺、それに安藤君とリュウスケも、俺と一緒に竹林にいる。
「トシさーん!次は、何をすればいいですか?」と安藤君。
「うん。ここが攻め込まれても大丈夫なように、プールがわりため池も作ったから、あとは念には念を入れて 竹林に罠を作る。手伝うか?」と俺。
「はい!」と安藤君。リュウスケも頷く。
「それじゃ まずは、細い竹はしならせ固定しておく。尚且つ、固定を解除すると ボヒヒーンと、入って来る敵にダメージを与えられるようにね」と俺。試しに俺が、見本を見せて 先を縛った竹の固定を刀で斬ると、竹はボヒヒーンと元の位置に すごい勢いで戻る。
「すげえ!僕も、やってみたいです」と安藤君。リュウスケと一緒に、竹の罠作りを始めた。
「じゃあ 沖田と源爺は、しなりようのない太い竹を、膝より低い位置で斜めに叩き斬ろう。踏んだら大怪我をするようにね。ため池もあるし ここまでしなくてもいいかもしれないけど、夜中に忍者の組み合わせだと、厄介だったりもするからね。源爺はともかく、沖田に太い竹、斬れるかな?」と俺。
「ウキーキキッ!」と沖田。どうやら、やる気になったみたいだ。
「沖田君、トシ君のオンボロ刀だと こんな太い竹を斬ったら、刀が折れてしまうかもしれないので、斎藤さんの用意してくれた刀で斬りましょう」と源爺。
やる気になった沖田は、太い竹細い竹 関係なく 御構い無しに叩き斬っていく。
〈沖田、それじゃ見晴らしが良くなり過ぎてしまう…。無駄にやる気にさせた、俺がいけないのか…。〉
「安藤君もリュウスケも、足元にも 竹製の、罠を作ったので 踏まないように注意するように」と俺。
「うわー、罠が 知らない間に、こんなにたくさんある。危なく、踏むとこだった」と安藤君。
「まぁ 安藤君もリュウスケも、まだ 背が小さいので 転ばなきゃ大丈夫だよ。斜めに斬ってある竹は、大人が踏む用に作ってあるからね」と俺。
「うわー、僕たちは まだガキンチョだったー。早く、大きくなりたい」と安藤君。
そうこうしてると、来客があるとのこと。責任者は誰だ?となり、俺が対応することにした。
その来客は、中年の大人の男で イメージとしては、ガキ大将がそのまま大人になると、こういう大人になるといった印象だ。髷も結ってなく、かといって 一般人でもない。強さと面白さを、兼ね備えている。そんな男が、目の前に居る。
「俺の名は、土方歳三だ。名を名乗れ!」と俺。
「ひじかた としぞう!ひえー、おっかねえ。おいらの名は、この時代じゃ 誰も知らないだろうけど、名字は 北野だ。名前の方は、ちょっと教えられないな」と、北野と名乗る男。
「この時代でも、俺はピンと来てるけどな。東西南北の北に、野球の野で、名字は北野だろう?」と俺。
「おうっ、おいらのことを、知っているかもしれないんだな。おっかねえ。今日は、御礼を言いに来たんだ。おいらのところで扱っている建築資材や大工たちが、凄いお金を頂いている。この時代 そうそう、こんなに有難い仕事ないからな」と北野。
「どういたまして。ただ それだったら、俺じゃなく 斎藤さんの手柄だな。お金も物も者も、用意したのは、斎藤さんだからね」と俺。
「じゃあ、その斎藤という男に、御礼を言えばいいんだな」と北野。
「ああ。ここで待ってたら、そのうち来ると思うよ。京の都で生きるなら、この時代は斎藤一の名を覚えていて、損はないと思う」と俺。
持っている男なのか、タイミングよく 斎藤さんと、何故か 仏教の高僧 久米さんも、やって来た。
「斎藤さん!壬生の開発の事で、この名前は教えられない 名字は北野という男が、御礼を言いたいらしい。斎藤さんも生臭坊主も、この名無しにピンとくるだろう?」と俺。
「はい。斎藤一と申します。以後、お見知り置きを」と斎藤さん。
「久米と申します。多分 私のことも、顔と名前が一致するのではないですか?」と久米さん。
「さいとう はじめに、久米!両方とも、おいらでも知っている 有名人じゃねえか。オマケに、最初に顔を出したのが、ひじかた としぞう!ここ壬生は、どうなっているんだ?」と北野。
「とりあえず名前を教えられない、名字が北野の男。斎藤さんに御礼を言ったら、帰っていい。か、俺たちに、北野と名乗る男が、合流してもいい。考えといてくれ」と俺。
「おうっ、それもいいな。じゃ 、さいとう!建築資材と大工たちの給金の件、ありがとな。おいらも、ちゃんとしなきゃな。それじゃあ」と言い、北野と名乗る男は 帰って行った。
「トシさん、北野さんって なかなかの大物ですよね?」と斎藤さん。
「ああ。斎藤さんにも、生臭坊主にも、負けないぐらいな。北野って名字は 本名だし、俺たちと一緒に 侍をやってってくれたら、すげえ 有難いんだけどな。久米さんも、北野と名乗る男の顔と名前ぐらい知ってるだろう?」と俺。
「はい。確かに大物です。勿論、顔と名前も全部、知っています。さすがにトシ君たちと一緒に居ると、こんな時代にこんな出会いがあるのですね」と、しみじみと久米さんが言う。
「まぁ 喧嘩売られた訳じゃないし、一緒にやっていけなくてもいいだろう。御礼を言われてるくらいだし。因みに、あの北野と名乗る男とは、源氏と平氏の合戦場で、当時の俺は知り合った。源氏とか平氏の時代の合戦は、弓と刀しかないので そうそう人は死なないし、つまらなかったので 赤と白の組分けを北野とかいう男に俺は合わせてた。義経は、混乱してたけどね。それでも通るぐらい、あの北野という男は、大物だったりする。この感じだと、源義経の生まれ変わりも、京都守護職として そのうち出てくるよ。うおっ、とうとう『天然理心流』の新しい道場が、完成したみたいだ」と俺。
そこには、真新しいピカピカの道場があり、笑顔の近藤さんと、その隣に嬉しそうな野口君が居た。無論、記念に 会津地方の米と日本酒で宴会となり、ここまで頑張ってくれた大工さんたちと、飲めや歌えの大宴会になった。これをもって、侍として壬生で生きていく準備が、整えることが出来た。
《2017/01/08今現在 思い返してみても、俺が土方歳三として生きていた時は、人脈に恵まれていた。まるでリレーのように、人と繋がることが出来ていた。それなのに、嫌だからこそなのか、今の俺は孤独に苛まれている。そして日に日に、憎しみと怒りに打ち震えている。ただ 俺の側の人間でも、今 俺の居る場所にたどり着けないぐらいじゃないと、全宇宙の支配者 クソ大和田や大和田の側の人間たちが、俺に会いに来てしまう。なので、孤独とはいえ 耐え凌ぐしかない。頼むから、俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫、会いに来てくれ。君が居るだけで、俺のこのクソみたいなゴミみたいな人生が、喜びに変わる。会いに来ることが、簡単じゃないことは分かっている。それでも、会いに来てくれ。あとは、いい加減に念能力 復活しろ!こっちは、ぶち切れてるからな》
こうして、皆さんもご存知であろう 北野という男が、会いに来た。もう少し経てば、再び 登場してくる。そして、俺の東 清二としての、最後の最後の人生にも、慶應義塾大学付属小学校の受験の時に、北野は娘と口喧嘩しながら、俺に遭遇した。小和田 ブタ子と一緒に居た俺は、北野の娘に泥をひっかけられた。慶應義塾大学付属小学校なんかに 興味のなかった俺は、合格すれば北野と繋がりが持てるのは、魅力だった。なので面接で、バク宙を披露しておいた。ただ 慶應義塾大学付属小学校の人間に、俺か北野の娘、どちらかしか合格させないと言われ ダメになったけどね。次回の話からは、浪士たちが わらわらとやって来ます。ただ、詳しい名前までは覚えていないし、思い出してもいませんが。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!