第六十三話 屯所
壬生での建設作業を、着々と進めているところです。
俺は自分が思い描いたものが、形になっていくのが好きだ。そして、今 それを実現している。建築分野でだけどね。俺の名は、土方歳三。侍を志し、それも 会津藩の若殿で 京都所司代に成った男に 無事 、挨拶を終え、 形になろうとしている。他に 、もはや侍になった、俺の唯一無二の親友 斎藤一や、まだ 俺と同じく少年のスピードスター沖田総司、優しくて使える男 井上源三郎 通称 源爺などが、壬生で新しい暮らしを始めている。他にも、『天然理心流』の師範 近藤勇や、近藤さんの用心棒 ニヒルな野口君、侍を目指してはいるものの、まだ ガキンチョの安藤 ジュンヤ君、無口どころか 声も聞いた事のない、口の聞けない リュウスケなどが、ここ壬生で 屯所の土台作りから 始めている。
もはや侍の斎藤さんのおかげで、建築資材に事欠かない。なので、各自それぞれ役割分担で、自分の創りたい建物を作っている。俺は、大人数の住める屯所作りの担当だが、まずは壬生にある小さな川の上に、便所を作った。人間が排泄した糞尿が、自動で流れてく仕組みだ。ちゃんと、まだ幼い 安藤君とリュウスケが、トイレの最中に落下しないように案配した。これで、厠は完成した。
屯所作りはというと、斎藤さんが手配したであろう 大工さん達が、わらわらと壬生に来たので、「土台作りの基礎をしっかりして、高床式にして、風呂も最低でも二ヶ所はいる」と俺が指示するだけで、立派な屯所が着々と出来ていく。なので俺は、戦国時代からの習わしで、防御の為とプールがわりの池を作る事にした。
東郷 トシと名乗っていた 薩摩藩に居た頃は、池作りに失敗している。結局 水が濁って、ただの沼になってしまっていた。その反省を生かし、底に砂利を敷き詰め 横には半分に切った竹を設置していき、土が剥き出しの場所をなくした。あとは川から 水を入れ、濁らないかどうか試すだけだ。
そこに「トシさーん!豚たちの見張り 終わりました!」と、安藤君とリュウスケが顔を出す。
「なんだ、沖田と源爺の担当している 豚小屋と牛舎は、もう完成したのか?」と俺。
「はい!トシさん、壬生では 牛も飼うのですね」と安藤君。
「ああ。この時代では、あまり牛は食べないだろうけど、肉牛と言って 食べるなら牛が一番美味い。幸い 、豚も調理出来る 源爺が居るから、肉牛も調理出来るだろう。あとは、お前らみたいに チビで痩せのガキンチョの為に、乳牛も飼育する。そしたら、牛乳が飲めるからね」と俺。
「トシさん、牛乳って何ですか?」と安藤君。
「うん、牛のお乳だ。栄養もあるし、身長を伸ばすには うってつけの飲み物だ」
「うわぁ、すげえ。トシさん、僕やリュウスケの身長も、伸びますか?」と安藤君。
「知らん。栄養状態が良くなっても、遺伝も関係するからな」
「うわー、チビのままだー」と安藤君。
「それはそうと、これからプールがわりの池に、水を入れるところなんだ。見ていくかい?」
「はい!」と安藤君。リュウスケも、頷く。2人とも、興味津々といった様子だ。
「濁らなきゃ良いんだけどな」と俺。小さな川から、水を入れる。池の中に水が溜まっていき、濁りはしたものの このぐらいなら大丈夫という程度の濁り方だ。
「良かったー、これなら泳げる。侍問わず、水泳ぐらいは出来ないとな」と俺。
「うわぁ、凄え。トシさん、ため池の水 満杯になったら、どうするんですか?水が溢れちゃいますよ」と安藤君。
「このため池の水は、川の上流から取って 川の下流に流すように作ったから、そこの塞き止めてる 木の板を、増やしたり減らしたりすれば、池の水の量を調節出来る仕組みだ。水を流さないと、どんどんため池の水が汚れていってしまうからね。よっしゃああ!薩摩藩で失敗した ため池作りが、京の壬生で成功した!」と俺。
「トシさん、これで魚も飼えますか?」と安藤君。
「淡水魚ならな。ただ このため池は、人間が泳ぎの練習をする用なんだ。どうせ 安藤君もリュウスケも、泳げないだろう?」
「はい。この ため池は、人間の泳ぎの練習用か。確かに 僕もリュウスケも、泳げるようになりたいです!」と安藤君。
「うん。泳ぎの練習は、屯所と道場が完成したら やろう」と俺。
屯所も 大工さん達の手によって、俺の図面通り 着々と進んでいる。道場の方も、近藤さんの指示のもと、なかなか立派なものが 出来つつある。そんな中、早くも 牛も豚も飼育出来る、小屋を完成させた 沖田と源爺が、こちらへ来た。
「ウキッ!」と沖田が、発声した。
「沖田も源爺も、もう豚小屋と牛舎を完成させたのか。さすがだな。俺の方は、人間の出す 糞尿が、自動で川へ流れてく 便所と、この時代に プールがわりのため池を、完成させたぞ」と俺。
「トシ君…。時代を先取り しすぎです。せっかくなので、少し見て回ります」と源爺。沖田と一緒に、感嘆の声をあげながら 見て回っている。
「そんじゃ、建築中の屯所の様子でも、見てくる」と俺。ぞろぞろと、安藤君もリュウスケも、そして沖田や源爺も、付いてくる。
俺が図面を引いた 屯所には、風呂が二つもある。そして、今は 薪で風呂を沸かす仕組みだが、近い将来 ガスが普及することを見込んで、それに対応出来るようになっている。他にも 、大人数の暮らせる大部屋と、幹部用の小部屋がいくつかある。建築にあたっている大工さん達からは「御給金も多く、何よりも こんな考え抜かれた 洗練された建物を建てれるなんて、有難い」と好評だ。過去に俺は、建築現場で働いていたので、経験でものが言えるからね。
「うおっ、大工さん達!屯所が ほぼほぼ、出来上がっているじゃねえか。あんがとごぜえました。手が空いたら あとは片して、近藤さん こだわりの、道場の建設に回ってくれ」と俺。
「はい!」と大工さん。
「ちゃんと斎藤さんから、建設費用を貰っているんだよな?」と俺。
「はい!建設費用として、見た事もない大金をたんまりと、頂いております」と大工さん。
「了解。さすが、もはや 既に侍に成った、斎藤さん だけの事はある。俺も、頑張らないとな。じゃあ 大工さん達、大変だろうけど もう一踏ん張り、道場の建設も 頑張ってくれ」と俺。
「かしこまりました。ただ この仕事、全然 大変ではありません。やり甲斐があって、大金を貰える。むしろ、有難いです」と大工さん。
「こちとら、お侍さんだぞ。多分。じゃあ、引き続き 頑張って」と俺。
「はい!」と大工さん。
《はーっ、そういえば こんな事もあったなぁ。この頃の俺と、2016/12/26今現在の俺は、何が違うんだろう?そりゃ、名前も違うし 身体も違う。でも 一番違うところは、圧倒的な孤独で 今の俺は、独りぼっちだ。勿論、それだけじゃなく 宿敵 全宇宙の支配者 クソ大和田に、念能力を禁止され 俺の才能も ことごとく奪われ、もはや 戦えない状態のまま せめてクソ大和田の居ないところへ行こうとし、今 狭くて暗い この部屋にいる。例えば、「このボタン押せば 、死んで消えて無くなれますよ」と言われ、そんな事が出来るなら 俺はとっくにそのボタンを押している。そんな状況だ。哀姫、俺はどんな罪を犯したと言うのか?罰は、いつ終わるのか?あとは、哀姫とずっと一緒に居れる事と、念能力が再び 戻れば、このクソみたいな時代を世界を、簡単に変えられる。だから 俺は、心なんて とっくに折れているけど、ずっと待ってんだ。俺の持ち物が、ちゃんと帰って来る事をね》
こうして、壬生に 豚小屋と牛舎、さらに屯所が完成した。あとは、近藤さんの理想とする道場の、完成を待つばかりだ。強い漢たちばかりを生む、道場のね。次回の話は、北野と名乗る 大物が、出てきます。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!