表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「副長、土方」  作者: 東 清二
63/192

第六十三話 屯所

壬生での建設作業を、着々と進めているところです。

俺は自分が思い描いたものが、形になっていくのが好きだ。そして、今 それを実現している。建築分野でだけどね。俺の名は、土方歳三ひじかたとしぞうさむらいを志し、それも 会津藩あいづはんの若殿で 京都所司代に成った男に 無事 、挨拶を終え、 形になろうとしている。他に 、もはやさむらいになった、俺の唯一無二の親友 斎藤一さいとうはじめや、まだ 俺と同じく少年のスピードスター沖田総司おきたそうじ、優しくて使える男 井上源三郎いのうえげんざぶろう 通称 源爺げんじいなどが、壬生みぶで新しい暮らしを始めている。他にも、『天然理心流てんねんりしんりゅう』の師範 近藤勇こんどういさみや、近藤こんどうさんの用心棒 ニヒルな野口君ぐちくんさむらいを目指してはいるものの、まだ ガキンチョの安藤あんどう ジュンヤ君、無口どころか 声も聞いた事のない、口の聞けない リュウスケなどが、ここ壬生みぶで 屯所の土台作りから 始めている。


もはやさむらい斎藤さいとうさんのおかげで、建築資材に事欠かない。なので、各自それぞれ役割分担で、自分の創りたい建物を作っている。俺は、大人数の住める屯所作りの担当だが、まずは壬生みぶにある小さな川の上に、便所を作った。人間が排泄した糞尿が、自動で流れてく仕組みだ。ちゃんと、まだ幼い 安藤あんどう君とリュウスケが、トイレの最中に落下しないように案配した。これで、厠は完成した。


屯所作りはというと、斎藤さいとうさんが手配したであろう 大工さん達が、わらわらと壬生みぶに来たので、「土台作りの基礎をしっかりして、高床式にして、風呂も最低でも二ヶ所はいる」と俺が指示するだけで、立派な屯所が着々と出来ていく。なので俺は、戦国時代からの習わしで、防御の為とプールがわりの池を作る事にした。


東郷とうごう トシと名乗っていた 薩摩藩さつまはんに居た頃は、池作りに失敗している。結局 水が濁って、ただの沼になってしまっていた。その反省を生かし、底に砂利を敷き詰め 横には半分に切った竹を設置していき、土が剥き出しの場所をなくした。あとは川から 水を入れ、濁らないかどうか試すだけだ。


そこに「トシさーん!豚たちの見張り 終わりました!」と、安藤あんどう君とリュウスケが顔を出す。

「なんだ、沖田おきた源爺げんじいの担当している 豚小屋と牛舎は、もう完成したのか?」と俺。

「はい!トシさん、壬生みぶでは 牛も飼うのですね」と安藤あんどう君。

「ああ。この時代では、あまり牛は食べないだろうけど、肉牛と言って 食べるなら牛が一番美味い。幸い 、豚も調理出来る 源爺げんじいが居るから、肉牛も調理出来るだろう。あとは、お前らみたいに チビで痩せのガキンチョの為に、乳牛も飼育する。そしたら、牛乳が飲めるからね」と俺。

「トシさん、牛乳って何ですか?」と安藤あんどう君。

「うん、牛のお乳だ。栄養もあるし、身長を伸ばすには うってつけの飲み物だ」

「うわぁ、すげえ。トシさん、僕やリュウスケの身長も、伸びますか?」と安藤あんどう君。

「知らん。栄養状態が良くなっても、遺伝も関係するからな」

「うわー、チビのままだー」と安藤あんどう君。

「それはそうと、これからプールがわりの池に、水を入れるところなんだ。見ていくかい?」

「はい!」と安藤あんどう君。リュウスケも、頷く。2人とも、興味津々といった様子だ。


「濁らなきゃ良いんだけどな」と俺。小さな川から、水を入れる。池の中に水が溜まっていき、濁りはしたものの このぐらいなら大丈夫という程度の濁り方だ。

「良かったー、これなら泳げる。さむらい問わず、水泳ぐらいは出来ないとな」と俺。

「うわぁ、凄え。トシさん、ため池の水 満杯になったら、どうするんですか?水が溢れちゃいますよ」と安藤あんどう君。

「このため池の水は、川の上流から取って 川の下流に流すように作ったから、そこの塞き止めてる 木の板を、増やしたり減らしたりすれば、池の水の量を調節出来る仕組みだ。水を流さないと、どんどんため池の水が汚れていってしまうからね。よっしゃああ!薩摩藩さつまはんで失敗した ため池作りが、京の壬生みぶで成功した!」と俺。

「トシさん、これで魚も飼えますか?」と安藤あんどう君。

「淡水魚ならな。ただ このため池は、人間が泳ぎの練習をする用なんだ。どうせ 安藤あんどう君もリュウスケも、泳げないだろう?」

「はい。この ため池は、人間の泳ぎの練習用か。確かに 僕もリュウスケも、泳げるようになりたいです!」と安藤あんどう君。

「うん。泳ぎの練習は、屯所と道場が完成したら やろう」と俺。


屯所も 大工さん達の手によって、俺の図面通り 着々と進んでいる。道場の方も、近藤こんどうさんの指示のもと、なかなか立派なものが 出来つつある。そんな中、早くも 牛も豚も飼育出来る、小屋を完成させた 沖田おきた源爺げんじいが、こちらへ来た。


「ウキッ!」と沖田おきたが、発声した。

沖田おきた源爺げんじいも、もう豚小屋と牛舎を完成させたのか。さすがだな。俺の方は、人間の出す 糞尿が、自動で川へ流れてく 便所と、この時代に プールがわりのため池を、完成させたぞ」と俺。

「トシ君…。時代を先取り しすぎです。せっかくなので、少し見て回ります」と源爺げんじい沖田おきたと一緒に、感嘆の声をあげながら 見て回っている。

「そんじゃ、建築中の屯所の様子でも、見てくる」と俺。ぞろぞろと、安藤あんどう君もリュウスケも、そして沖田おきた源爺げんじいも、付いてくる。

俺が図面を引いた 屯所には、風呂が二つもある。そして、今は 薪で風呂を沸かす仕組みだが、近い将来 ガスが普及することを見込んで、それに対応出来るようになっている。他にも 、大人数の暮らせる大部屋と、幹部用の小部屋がいくつかある。建築にあたっている大工さん達からは「御給金も多く、何よりも こんな考え抜かれた 洗練された建物を建てれるなんて、有難い」と好評だ。過去に俺は、建築現場で働いていたので、経験でものが言えるからね。


「うおっ、大工さん達!屯所が ほぼほぼ、出来上がっているじゃねえか。あんがとごぜえました。手が空いたら あとは片して、近藤こんどうさん こだわりの、道場の建設に回ってくれ」と俺。

「はい!」と大工さん。

「ちゃんと斎藤さいとうさんから、建設費用を貰っているんだよな?」と俺。

「はい!建設費用として、見た事もない大金をたんまりと、頂いております」と大工さん。

「了解。さすが、もはや 既にさむらいに成った、斎藤さいとうさん だけの事はある。俺も、頑張らないとな。じゃあ 大工さん達、大変だろうけど もう一踏ん張り、道場の建設も 頑張ってくれ」と俺。

「かしこまりました。ただ この仕事、全然 大変ではありません。やり甲斐があって、大金を貰える。むしろ、有難いです」と大工さん。

「こちとら、お侍さんだぞ。多分。じゃあ、引き続き 頑張って」と俺。

「はい!」と大工さん。


《はーっ、そういえば こんな事もあったなぁ。この頃の俺と、2016/12/26今現在の俺は、何が違うんだろう?そりゃ、名前も違うし 身体も違う。でも 一番違うところは、圧倒的な孤独で 今の俺は、独りぼっちだ。勿論、それだけじゃなく 宿敵 全宇宙の支配者 クソ大和田おおわだに、念能力を禁止され 俺の才能も ことごとく奪われ、もはや 戦えない状態のまま せめてクソ大和田おおわだの居ないところへ行こうとし、今 狭くて暗い この部屋にいる。例えば、「このボタン押せば 、死んで消えて無くなれますよ」と言われ、そんな事が出来るなら 俺はとっくにそのボタンを押している。そんな状況だ。哀姫かなひめ、俺はどんな罪を犯したと言うのか?罰は、いつ終わるのか?あとは、哀姫かなひめとずっと一緒に居れる事と、念能力が再び 戻れば、このクソみたいな時代を世界を、簡単に変えられる。だから 俺は、心なんて とっくに折れているけど、ずっと待ってんだ。俺の持ち物が、ちゃんと帰って来る事をね》


こうして、壬生みぶに 豚小屋と牛舎、さらに屯所が完成した。あとは、近藤こんどうさんの理想とする道場の、完成を待つばかりだ。強い漢たちばかりを生む、道場のね。次回の話は、北野きたのと名乗る 大物が、出てきます。さて、どうなることやら。以上。

読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ