第六十一話 壬生
とうとうたどり着いた、壬生への引越しにまつわる話です。
狭い、狭過ぎる。もともと3人でも狭っかった この一軒家に、自由を手にした 2人のガキンチョが、入居して来た。その2人のガキンチョ、安藤 ジュンヤとリュウスケは さっきまで、「自由だ!自由だ!」と はしゃぎまわっていて、眠ったかと思ったら 寝相が悪く、俺が どう眠ろうとしても、誰かの身体に当たる。しょうがないので、俺のオンボロ刀を支えに俺は座って眠ることにした。そんな俺の名は、土方歳三。もうこの人生では、侍になると決めた。そして、「ウキウキ」寝言を言いながら眠っている少年、沖田総司も 侍になるであろう。そんな沖田の保護者 井上源三郎こと 源爺も、なんとか 眠るスペースを確保し、スヤスヤと寝息をたてている。そんな中 翌る日、斎藤屋敷に住んでいる者達が会いに来た。
「トシさん!起きていますか?」と、俺の唯一無二の親友 斎藤一の声がした。
「ああ。起きてるよ。結局、うたた寝しか出来なかった」と俺。外に出ると、斎藤さんだけじゃなく、『天然理心流』の師範 近藤勇さんや、近藤さんの用心棒 野口君が居た。
「トシさん、いつまで待っても、誰も斎藤屋敷に来ないじゃないですか」と斎藤さん。
「うん。それは、すまなかった。あと二人ばかし、侍を目指す 新入りのガキンチョが入った。俺たちと一緒で 家族もいないそうだし、まあ 大丈夫だろう。起きたら挨拶させるから、あとで確認しておいてくれ」と俺。
「何で勝手に、新入りが入ってるのですか!何のための親友なんですか俺は!」と、怒った顔の斎藤さん。
「まあ いいからいいから」と俺。井戸へ顔を洗いに行く。顔を洗い終わったら、眠っている者たちに「起きろっ!」と叫ぶ。
沖田も源爺も安藤君もリュウスケも、みんな一様に目を覚まし 辺りを見回している。
「沖田!元気にしてたのか?源さんも、お久しぶりです」と斎藤さん。
「ウキーッ!」と沖田。斎藤さんに抱きつき、邪険に扱われてる。
「斎藤君、それに近藤さんに 野口君も!お久しぶりです」と源爺。
「がはははははっ笑!お久しぶりです」と、豪快な近藤さん。
「そんで 残す2人が、安藤 ジュンヤにリュウスケ。ちなみに、リュウスケの方は 何かしら理由があるのだろうけど、口がきけない。なので、安藤君が挨拶して」と俺。
「はい。安藤 ジュンヤと申します。こっちが、リュウスケと申します。トシさん達と一緒に、侍を目指します。よろしくお願いします」と頭を下げ、挨拶をする安藤君。リュウスケも、頭を下げる。
「安藤に近藤じゃ、藤藤で間際らしいな。なっ斎藤さん、安藤君もリュウスケも 大丈夫そうだろ?」と俺。
「はい。大丈夫そうです。斎藤一と申します。以後お見知り置きを」と斎藤さん。どこかしら、風格すら漂う。
「斎藤さん、この一軒家じゃ狭すぎるから、斎藤さんとも近藤さんや野口君とも一緒に住める、そんな場所 どこかにないかい?」と俺。
「よしっ!トシさん達と暮らせる!トシさん、いい場所があるので手配して来ます」と斎藤さん。さっき来たばかりなのに、疾風のように去って行った。
安藤君とリュウスケは、近藤さんの 口の中に拳が全部入る芸を見て、真似して遊んでいる。野口君は、相変わらず 無口だ。そして、一度会ったことのある 本願寺のお坊さんが、何やら包みを携え こちらへやって来た。
「どうした、本願寺の坊主?」と俺。
「はい、本願寺の坊主です。東本願寺内で 話し合った結果、そちら様には立ち退いていただくように決まりました。そこで、これは幾ばくかの立ち退き料です。どうぞ、お納めください」とお坊さん。
それなりにまとまった額のお金が、手渡される。狙い通りだ。
「豚の糞尿の臭いがする以外で、何か迷惑をかけたか?」と俺。
「いえ。糞尿の臭いが、立ち退いてもらう最大の理由です。差し入れに豚肉を頂けたのは、本当に有り難かったです。本願寺の皆で、美味しく頂きました。坊主は殺生が禁じられているので、なかなか肉を食べれませんので」とお坊さん。
「そういう事なら、了解した。今日中にこの一軒家引き払って、出てくよ。引越し資金も、貰えたしな。勿論、豚たちも連れてくよ。それじゃあな」と俺。
「はい。貴方様には、これから過酷な人生が待っているかもしれません。その分、希望の人です。心が折れても、諦めたくなっても、どうか存在だけはしててください。私に言えることは、これだけです」と言い残し、本願寺のお坊さんは 余っていた豚肉を手に、丁寧に頭を下げ 帰って行った。
「よっしゃああ!引越しの準備だー!荷物は必要最低限に、着替えと いるものだけ持ってくぞ」と俺。
沖田と源爺は、いるもの要らないものの選別を始める。俺は、持って行く物がオンボロ刀と着替えだけなので、これ以上 本願寺に迷惑をかけない為に、積んであった豚たちの糞尿をしっかり土の中に埋めておく。安藤君とリュウスケは、着替えしかないので 楽ちんだ。ある程度 引越しの準備が出来た時に、斎藤さんと笑顔の久米さんが、やって来た。
「うおっ、斎藤さんはともかく 生臭坊主まで、迎えに来た。先程、本願寺のお坊さんなら、金置いて 帰って行ったけどね」と俺。
「トシ君!水くさいじゃないですか!引っ越す時は、連絡してくださいと伝えたじゃないですか!」と久米さん。
「はっ!?そういえば!うん、覚えてるけど 何でお坊さんに成る訳でもないのに、生臭坊主に連絡がいるんだよ。斎藤さん、この一軒家を今日中に出てくことになったんだけど、どこかいい所 見つかったかい?」と俺。
「はい。久米さんとも相談して、壬生と呼ばれる場所に したいと思います。トシさん、それでいいですか?」と斎藤さん。
「斎藤さんと生臭坊主が、わざわざ相談して決めた事なら、俺に異存はないよ。ある程度、大人数で住めるんだよな?」と俺。
「はい!屯所と道場も、創れます」と斎藤さん。
「トシ君、壬生浪士組の壬生です。壬生狼と、呼ばれるようになりますよ」と久米さん。
「狼か!壬生は、いい所そうだな。どんどん侍へと、なって行くんだなぁ」と俺。
「あと、トシさん。京都所司代にも、会ってみて下さい。会津藩の若殿が、京都所司代に成りましたので」と斎藤さん。
「ああ。全然、いいよ」と俺。
「これで トシ君達も、侍への道を駆け上がって行くのですね」と久米さん。
「ああ、成るさ 必ずね」と俺。
《じゃあ 2016/12/02 今現在の俺はというと、最低最悪の人生で 生き地獄を、のたうちまわっている。もう正直、どこで俺が しくじったのか、分からないまま 追い詰められていき、全宇宙の支配者 クソ大和田の作戦が全て成功した中、この本当に 最後の最後の人生を送っている。ただ、敵味方関係なく 送られてくる思念で、不幸の使者 高倉健が、死者になり転んで 大和田の側の人間に成ったことを知った。俺と俺の側の人間達に 甚大な被害を与え、大和田と大和田の側の人間達に 多大な利益をもたらす男 高倉健。俺の側の人間達も 順に、高倉健に騙され、それが一周回った。そんな不幸の使者 高倉健が、やっと死に やっと大和田の側の人間になった。有り難いこってすたい。思えば 高倉健は、フジテレビのドラマ『白い巨塔』を撮影していた時にも、俺の念能力をクソ大和田に売り、そればかりか 俺の友人まで 大和田に売った。そのせいで今でも、俺と俺の友人との記憶の覚え違いが発生している。ただ この生き地獄も、長くても あと15年。ちなみに 今の俺は、毎日 『何やってんだ 俺は、ただのアホじゃねえか』と思いながら 生きています》
こうして 新入りや豚たちと一緒に、壬生へ行く事になった。ただ 着実に、前へ上へ進んでいる実感がある。それに 斎藤さんや 近藤さん、野口君と暮らせるのは、楽しみだったりする。次回の話は、京都所司代の会津藩の若殿への挨拶と、良くも悪くも 俺の周りに居る人間が、増えていきます。さて、どうなることやら。以上。
読んでいただき、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!