第六十話 自由
坊主見習いの子供たちが、自由を手に入れる話です。
京の都にある、東本願寺。その程近くに 居を構えた、俺 土方歳三。侍を目指し、侍になる為に 京まで来た。そして 俺と一緒に住み、俺に引っ張られる形で 侍を志す少年が、沖田総司だ。そんな沖田の保護者を自認するのが、井上源三郎。俺は 省略して、源爺と呼んでいる。他の仲間には、斎藤屋敷で暮らしている、俺の唯一無二の親友 斎藤一。同じく斎藤屋敷で 京の都の情勢を、勉強している 『天然理心流』の師範 近藤勇。その近藤さんの用心棒 野口君などが、もう既に、京の都にいる。
新築したばかりの豚小屋の、飼育していた豚の豚肉をたらふく食べ、再会したばかりの久米さん 通称 生臭坊主と朝まで酒を飲み、二日酔いで井戸へ顔を洗いに行くと「トシさーん!」とガキの声がした。どうせ本願寺の坊主見習いのガキだろうから、ほっといて顔を洗う。
「トシさーん!」と、また呼ばれたので 声のした方を見ると、案の定 本願寺の坊主見習いの安藤 ジュンヤ君とリュウスケ君だった。
「うるせえ、こっちは二日酔いで、頭ががんがんしてるんだ」と俺。
「酒を飲み過ぎると、頭が がんがんする。僕も将来 お酒を飲みたいから、覚えておきます」と安藤君。
「頭が、がんがんするのは、こんな感じだよ」と俺。安藤君の両のこめかみを、両手でぐりぐりしてみる。
「うわー、あれ?全然、痛くなかった」と安藤君。
「痛くしてねえからな。で?今日も朝っぱらから、何の用だ?」と俺。
すると、珍しく 安藤君が「今日も豚肉が食べたいのと…。どうしたら、トシさん達みたく 成れますか?」と、おずおずと聞いてきた。
「まず、豚肉は まだ余ってるから、食べれる。どうしたら 俺たちみたいに成れるかは、沖田や源爺が、起きてからにしよう」と俺。
「はい!」と安藤君。
俺は、豚小屋の豚たちに餌を与え、糞尿を処分する。「臭え、臭え」と言いながら、安藤君もリュウスケも、手伝ってくれた。もしかしたら 安藤君もリュウスケも、本願寺の坊主見習いをしていたので、働かざる者食うべからずを知り、身につけているのかもしれない。まだ 年端のいかない、子供なのにね。
沖田と源爺が起き出し、安藤君もリュウスケも一緒に、遅めの朝食を食べた。会津地方産の米が美味しいのは もちろん、源爺の料理の腕も なかなかのものだ。
「源爺、安藤君もリュウスケも 俺たちみたいに成りたいとさ。俺たちは、まだ 何者にも 成れてないけどな」と俺。
「はい。トシ君は、どう思われますか?」
「うーん、家族次第かな」と俺。その言葉を聞いて、安藤君もリュウスケも、落胆しうな垂れる。
源爺がやんわりと「安藤君とリュウスケ君には、家族はおりますか?」と聞く。
「すいません。僕にも リュウスケにも、家族はいません。やっぱり、家族が居ないとダメですよね」と、悲しい目をした 安藤君。
「あーんどーう君に、リュウスケ君、俺にも沖田にも源爺にも、家族はまったくいないんだよ。だいたい、なんだ その悲しげな瞳は!そんなガキンチョは、沖田が始末する。よしっ、沖田、安藤君とリュウスケをこちょこちょ攻撃だ」と俺。
「ウキッ」と沖田。沖田のくすぐり攻撃に、逃げ回る 安藤君とリュウスケ。親のいない子供が落ち込んでる時は、沖田に限る。沖田の純粋さは、人に警戒心を抱かさないし、その証拠に 安藤君もリュウスケも、笑顔になっている。
「じゃあ 家族のいない安藤君と、家族もいないし 口も聞けないリュウスケ君、そこに座って」と俺。
「はい」と安藤君。安藤君もリュウスケも、座る。
「家族がいない、特に親がいないと、幼少期にどう育てばいいのかとか、どうやって飯を食べていくか、どうやってお金を手に入れるか、そもそも住む場所はとか、大変なのはよく知ってる。ただ 家族がいない分、身軽だったりする。自分のことは自分で決めていいし、家族が人質に取られるなんてことも起きない。俺と沖田と源爺は、この人生では 侍を目指している。具体的なことは、まだ決まってないけど、きっと侍は 、どう生きてどう死ぬかだろう。俺は過去に、人を脳天唐竹割りにして 叩き斬ったこともあるし、無論 その反動で、俺の命だって狙われるだろう。そんな命の保証も出来ない、侍を目指している 俺たちみたいに成りたいとは、決して楽な道ではない。憧れだけなら、やめといた方がいい。それでも、俺たちみたいに成りたいか?」と俺。
「はい!」と安藤君。リュウスケも、コクリと頷く。
「じゃあ 、成れるかは分からないけど、一緒に侍目指して やっていくとするか」と俺。
「はい!」と、嬉しそうな安藤君。リュウスケと、ハイタッチをしている。
「とりあえず 安藤君もリュウスケも、源爺に 生きていく術を教わること。源爺は、伊達に長生きしてないからね。源爺も、沖田の他に安藤君とリュウスケの保護者をしてみてくれ。安藤君やリュウスケが、侍に成れなかったら、久米さんに預けても いいしね」と俺。
「かしこまりました。それでは私が、保護者として 本願寺のお坊さんに、話をつけに行ってまいります」と源爺。
「うん。じゃあ 差し入れに、豚肉でも持って行っといて。あと責任持って育てるから、親権も、もらっといて」と俺。
俺と沖田に見送られて、源爺と安藤君 リュウスケが、本願寺へ赴く。
沖田が、豚小屋の豚たちと遊んでるのを、眺めていたら「トシさーん!」と、安藤君と思われる、元気一杯の声が聞こえた。俺は豚小屋から 顔を出し「ん?」と聞く。
「トシさん。源さんが、本願寺のお坊さんに話をつけてくれて、僕もリュウスケも 本願寺の坊主見習いを、無事 辞めることが出来ました。これで、自由だーっ!」と、ガッツポーズをして言う 安藤君。
「源爺、良くやってくれて ありがとな。安藤君もリュウスケも、自由って言葉の響きはいいかもしれないけど、その分 責任も付いて回る。少なくても、自分の身は自分で守れるように、出来たら 自分の大切な人、大事なものも 守れるぐらい、強くならなきゃな。当面は、源爺の言うことをよく聞いて、頑張り過ぎない程度に頑張ってくれ」と俺。
「はい!僕、強くなります。少なくても、自分の身とリュウスケを守れるぐらい」と安藤君。
「うん。じゃあ、俺は 大事な仕事があるからよ」と俺。
「トシさんの大事な仕事…、何のお仕事ですか?」と安藤君。
「豚小屋の豚たちが出した糞尿を、風向きを計算しながら 山のように積み上げ、本願寺へその香りを送るのだよ。立ち退いてくださいと、言われるためにね。な、大事な仕事だろ?」と俺。
「ははははっ笑」と、安藤君だけじゃなく、そこに居た みんなが笑う。
「じゃあ 引っ越してきたばっかりだけど、この一軒家に俺たち5人で住むには、狭過ぎるから また引っ越さないと。何処かいい土地が、あればなぁ。まあ、また斎藤さんに相談することにしよう」と俺。
「かしこまりました。本願寺のお坊さんには、手土産の豚肉は好評だったのに、豚の排泄物の香りも送るのですね。相変わらず、トシ君は…。安藤君とリュウスケ君は、私が責任を持って育てるので、機を見て 斎藤さんに報告をしましょう」と源爺。
「了解。じゃあ、俺と沖田と源爺の社会人チームは、宴会。安藤君とリュウスケは、豚肉の大食い対決でも、しててくれ」と俺。
「はい」と安藤君。リュウスケも、了解したみたいだ。
そして、夜が更けていった。なんか、何かあるたびに 宴会をしている。悪くはないけどね。
《2016/11/21今現在の俺は、東 清二という名で、最後の最後の人生 その分、最低最悪の人生で、生き地獄を のたうちまわっている。それに呼応して、日本中のみならず 世界中がめちゃくちゃになった。勿論 大元の元凶は、全宇宙の支配者 クソ大和田が、好き放題に動いたせいだけど。大和田は念能力者で、俺は念能力を奪われ なおかつ禁止されてる。一縷の望みすら ないのかもしれないけど、今はただただ 念能力が再び俺の元に戻ってくることを、待っている。そして 俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫と、ずっとずっと一緒に居られる日々が来ることを、願っている。カナ吉、長くても あと15年、待てばいいだけだよ》
こうして この人生では、安藤君とリュウスケと、共に一緒にやっていくことになった。子供と遊ばせたら 天下一品の沖田が居て、子育ての出来る 源爺が、居てくれたからね。しかし 生まれ変わっても、安藤 ジュンヤもリュウスケも 前世と同じ名前で、俺の人生に出てくる。なのに俺は、大人になった2人を見たことがなかったりする。次回の話は、壬生が出てくる予定です。さて、どうなることやら。以上。
読んでいただき、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!