第五十五話 間近
京で 侍になる為の旅も、いよいよ大詰めのところの話です。
土方歳三。うん、なかなか いい名前だ。俺が自分で付けた、俺の名前だけどね。侍を目指していて、今は 京への旅の途中だ。京へは、俺の親友の斎藤一さんが、先発しており 斎藤さんは、とっくに京へ着いていることだろう。そして 天才中の天才、沖田総司も、「ウキウキ」と言い はしゃぎながら 俺と一緒に、京へ向かっている。そんな一行に、忘れてはならない 沖田の保護者を自認する、井上源三郎がいる。俺は 省略して、源爺と呼んでるのだけど、源爺が居ると 沖田が安心する。ちゃんと沖田が、侍になることを見届けようと、今回ばかしは それを見届けずに 途中で死なないように、健康に気をつけている。それでも 過去に斎藤さんがかかった、沖田風邪は、防ぎようがない。沖田に味方した者に かかる風邪だから、今の源爺なら、耐えしのげると俺は思う。そして 京へ向かう一行には、刀対刀の実戦だと強みを発揮する『天然理心流』の道場主 近藤勇。その近藤さんの用心棒 野口君も、一緒に京へ向かっている。もう2、3日すれば、京へ着くところまで 来ている。
「街道を歩いているのに、全然 山賊が出てこない。せっかく オンボロ刀を持っているのに、つまらん」と俺。
「ウキッ」と沖田。相変わらず 木の棒を、左右に振りながら 歩いている。きっと沖田なら、簡単に折れてしまう 木の棒でも、戦えるのだろう。戦う気になればの話だけど。
「山賊が出て来なくて つまらんとは、どういうことですか?大体、トシ君が宴会ばかりしなければ、もうとっくに 京へ着いている頃ですよ」と源爺。
「はっ!?【どこでもドア】で?」と俺。
「【どこでもドア】を使って、じゃありません。いつの時代にも、そんなものありません。お金がないから 山賊倒して、お金を手に入れようと言ってる人が、お金を使って 宴会をしていて、どうするのですか」と源爺。
「はっ!?源爺から 俺への、脅迫ですか?沖田を、人質に取っての?」と俺。
「ウキッ!?」と、訳もわからず はしゃぐ沖田。
「トシ君!どうしたら、そう受け取られるのですか。まったく、馬鹿につける薬はないと言いますよ」と源爺。
「俺は、ただの馬鹿じゃねえ。大馬鹿だ。はっ!?大馬鹿だったら、つける薬あるかも」と俺。
「大馬鹿ですか。もう しょうがない人ですね。とは言っても 京への旅も、もう少しで終わりでしょうから、そろそろ ちゃんとしてください」と源爺。
「沖田、京へ着いたら 誰と会うか、知ってるかい?」と俺。
「ウキ?」と沖田。
「舞妓さーん!」と俺。
「トシ君!会うのは、斎藤さん ですよ。もう、まったく」と、源爺。
そんなこんなで、京への旅も 大詰めまで来た。徒歩で テクテク歩いた旅だったけど、沖田が居れば飽きないし、なんだかんだ 源爺が居ると、安心で 宴会をしている余裕すらあった。その分、お金は すっからかんだけど。京へ着いたら、斎藤さんと なるべく早く合流し、京での足元と地盤を固めなければならない。そう簡単にはいかないだろうけど、決して難しい事でもない。侍を目指している身なので、戦える。無礼打ち!なんていい言葉なのだろう。侍ならではのね。
「近藤さんは、確か 京へ行くのは 初めてでしたよね?」と俺。
「はい!不安もありますが、楽しみの方が勝ります。京で 侍になるために、獅子奮迅の活躍をするつもりです」と、気合いの漲る 近藤さん。
「うん。俺も 、侍になることには変わりはないけど、雇い主が誰かにもよるな。ちゃんと相手を見て、選ばないとな」と俺。
「トシ君、雇い主は 会津藩の若殿様ではないのですか?」と源爺。
「うん、なかなか どうなるかどう転がるか 分からない状態や話に、会津藩の若殿が 京で采配を振るうということには、ならないと思う。多分、指図をするのは 会津藩の筆頭家老になると思う。会津藩筆頭家老は、源爺でも、顔と名前ぐらいは知ってると思うよ」と俺。
「私の知ってる人…。分かりません。誰ですか?」
「高倉」と俺。
「健さん ですか!?」と、驚く 源爺。
「ああ。分かっている範囲だとな」と俺。
「たかくら けん…。私は、知りません」と近藤さん。
「うん、近藤さんは、知らなくて当然だよ。近藤さんが生まれる以前に、高倉健は活躍してた人だからね。高床式の倉を建てた男だから、当時 皇族だった俺が、高倉健と名付けた」と俺。
「トシ君が、健さんの名付け親だったのですか!?」と源爺。
「ああ。その時の俺が、中大兄皇子か 聖徳太子のどちらだったかまでは、覚えてないけどな」と俺。
「トシ君…。中大兄皇子か、聖徳太子かって…」と、俺の過去の名に 困惑する源爺。
「だから 天皇ったって、関係はあるけど 俺の後輩だから、なんてことはない。天皇だったら 護衛が付いて回るけど、守られなくても戦えるぐらい、俺は強くなりたい。だから 今この時代は、侍を目指している。それに俺だけじゃなく、沖田も斎藤さんも、もちろん源爺も きっと強くて優しい 侍に、成れると思うんだ。近藤さんや 野口君に至っては、既に武士を通過して もしかしたら侍の資格を有しているかもしれない。近藤さんと野口君に足りないものは、あとは格好良さかな」と俺。
「がははははっ笑!もう 武士は、超えましたか」と、豪快に笑う 近藤さん。
「うん。生まれた時から、『天然理心流』を学び、習得して 道場主になる。正直、ずるいよ。そんなもん、近藤さんも 野口君も、ちゃんとした侍に成れるさ。じゃあ 明日には、京へ着くだろうから 戦える強くなる志しを持って、宴会をしよう」と俺。
「がははははっ笑!そうしましょう」と笑う、近藤さん。
「意外とお金が、持ったな。山賊と戦わずに済んだ」と俺。
「トシ君、頑張れば 今日中に、京へたどり着けますよ。それなのに、また 宴会ですか?」と、また 小言を言う 源爺。
「今日中に着くと言っても、真夜中じゃねえか。知らない街に 真夜中に着いて、安全を確保出来ると思っているのかい?明日の朝に、京へ到着し 斎藤さんを、探しまくろう!」と俺。
「トシ君なりに、考えがあってのことなのですね。かしこまりました」と源爺。
「ウキッ」と敬礼する、沖田。
《この頃の俺は、強くなろうとしたし 強かったのだろう。2016/09/19今現在の俺は、憎っくき宿敵 全宇宙の支配者 大和田に、才能は ことごとく奪われ、念能力は禁止され、ましてや 本当の自分 ドン・リュシフェルでもない。こんなに弱くて 小さくて 脆い自分を、俺はまざまざと思い知らされている。この最低最悪の、その分 最後の人生を 俺は苦しみながら送っている。知ってはいたけど、この状態で1人ぼっちだと何も出来ない。でも、 沖田だって源爺だって、きっと俺を待ってくれてると思うんだ。確かなのは、次 俺が念能力者になったら、もう念能力を奪われずにすむ。そう遠くない未来、笑顔で万全の身で、 沖田や源爺に、俺は会うんだ!》
こうして 京の都へ、間近まで来た。幸い?道中 襲われることもなく、無事に来れた。今までの旅では、襲撃される事もあったので、見れば 明らかに強いと分かる 近藤さんや、殺気を放ち続けている 野口君のおかげかな。まあ、無事で何より。次回の話しからは、京都編で 京での俺たちの話しです。久し振りに、斎藤さんも 出てきます。さて、どうなることやら。以上。
呼んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!