第五十三話 出発
京で 侍に成れるように、決意を新たに 出発する話しです。
俺の名は、土方歳三。この人生では、侍を目指している。同じく 侍を目指していた、俺の親友 斎藤一さんは、もう京へ向かっている。そして、俺と斎藤さんが揃うと、だいたい 漏れなく付いてくるのが、沖田総司だ。沖田は 天才中の天才で、俺と斎藤さんの目指しているものに 引っ張られる形で、侍を目指している。そして 沖田の保護者で、安心と信頼の 井上源三郎。念入りに 源爺は、京へ向けての旅の準備をしている。そして バタバタと忙しそうだった『天然理心流』の道場主 近藤勇さんも、ようやくひと段落したみたいだ。黙々と準備をしていた、近藤さんの用心棒 野口君も、すっかり旅支度を終え、相変わらず 黙秘しながら、道場の縁側に座っている。
「沖田は、旅の準備 もう終えたのか?」と俺。
「ウーキッ」と沖田。確かに見たところ、旅支度は整っている。
「トシ君は、それで京までの旅支度は 終わりですか?」と源爺。
「ああ。俺の場合、かつて京へ行った事があり、天皇にも会った事がある。オンボロだけど 刀もあるし、着替えもある。いらないもの削ぎ落としていくと、こうなる」と俺。
「いらないもの削ぎ落として…、って、トシ君 天皇にお会いになられたのですか?」と源爺。
「ああ。悪くない 天皇だったよ。源爺も、槍なんか持って行くと 京都御所の衛兵に、取り囲まれるぞ。そうなったら、俺は戦うけどな」と俺。
「トシ君が、路銀は 山賊を倒して手に入れると言うから、荷物になるのに槍を持って行くことになったのじゃないですか!その上、京都御所の衛兵と戦うなんて!」と源爺。
「俺は まだトシと名乗っていた幼少期、素手で 武器を持った山賊と、戦った事があるからな。素手ごろでも、武器を奪えば 十分戦える」と、少し過去を思い出しながらの俺。
「まったく、トシ君は…」と、呆れた顔の源爺。
「ウーキッ」と、笑顔の沖田。多分、話しを聞いていない。
どうやら 近藤さんも、旅支度が整ったみたいだ。刀を大小差し 精悍な顔つきで、頑強な身体。相変わらず、明らかに 強そうだ。もう俺は 一度、近藤さんと闘っているので、もう闘う気はないけどね。
「じゃあ もう炊いてある米で、おにぎりを作って 食べられるだけ食べよう。長旅の場合は、食べれるうちに食べといた方がいいからね」と俺。
「ウキッ」と沖田。顔の半分はあるかという 握り飯を、勢いよくほうばっていく。
それを見て 源爺が「沖田君、余ったら 今夜食べればいいのですよ」と世話を焼く。
「がははははっ笑。食べれるうちに、食べる。良い言葉ですね。私も、そうしましょう」と近藤さんは、凄い速さで 炊いてあった米を、完食した。今晩の晩飯用の米も含まれていたのに…。
みんな すっかり旅支度を整えているのに、俺だけ 着替えを持っているだけで、普段着だ。もしかしたら、旅の準備をせずに 酒盛りしてたのは、やっぱり駄目だったのかという疑念がした。
「じゃあ 近藤さんの合図で、京へ 侍になる為に、出発しよう!」と俺。
「かしこまりました。それでは 京へ向け、出発しましょう」と近藤さん。
「ウキッ!」と沖田。短文なら、話しを聞いているのかもしれない。
「トシ君が、旅の路銀は 山賊でも倒して手に入れようとしてるので、そうならないように 安全に気をつけて、京へ向かいましょう」と源爺。源爺は、相変わらず 手堅い。それじゃ つまらないかもしれないけど、そこが源爺の良いところでもある。
俺 沖田 源爺、そして近藤さんと野口君と街道をてくてく歩いて行く。昔からそうなのだけど、沖田は 木の棒を拾って、棒を左右に振りながら歩いている。相変わらず、明るく無邪気な少年だ。
《皆さんは、野球とベースボールの原点をご存じだろうか?発端は、俺と沖田 それと内田君が、アメリカに居て 送られてくる筈のお金が送金されず、お腹が空いて パンを盗んだところから始まる。当然 警察に捕まり、全宇宙の支配者 大和田が「こいつらは、また盗む。一生、刑務所行きだ」と騒ぎ、きっと 世界初めてであろう少年院に入れられた。その少年院では、週に一回 外に出れる機会があり、その時に 沖田は、細い木の棒を拾って 少年院内に持ち込んだ。そして 俺が、ゴミ箱にゴミを投げ入れてる時に、沖田が木の棒で ゴミを打ち始めた。このことが、一番最初のベースボールや野球の起点となった。
送った筈の金が、送金されていない事に気付いた 俺の唯一の子分 菅原文太が動き、俺 沖田 内田君は 無罪放免となり、少年院から釈放された。文太が送金した金は、大和田の側の人間達が着服していた。お金があれば、俺も沖田も内田君も、パンを盗んだりはしないからね。そして 大和田を吊るし上げ 交渉し、俺は[黄金比の眼]を手に入れた。[黄金比の眼]があると、どの位が黄金比の数字かが分かる。そこで俺は、野球の数字を全部 決めた。野球のルールも整備し、ベースボールがアメリカの国技になったら、大和田が[黄金比の眼]をくれと言い始めた。なので俺は、[黄金比の眼]を売れない画家だった ピカソにあげる事にした。結果、ピカソは作風が大きく変わり、黄金比で出来た絵画を描き、成功した。なので もともとは、沖田が木の棒で 物を打ち始めなかったら、野球もベースボールも出来ていなかったであろう。天才中の天才、沖田 恐るべし》
そんな沖田が、木の棒を左右に振りながら、京へ向け 歩いている。俺は いつもの事だと、沖田の少し後ろで、迷子にならないように 気をつけながら歩く。俺は昔から、方向音痴だからね。
ただ歩いてるのも 飽きたので、俺は沖田をくすぐってみる。すると沖田は 「ウキーッ」と言い 身をよじり、持っていた木の棒で ペシペシやり返してきた。
「ひるまない男、馬鹿トチーヤイ」と俺。相変わらず 沖田にチョッカイを出していると、源爺や近藤さん、そして野口君までが 笑顔になった。
ちなみに 「馬鹿トチーヤイ 」とは、俺の宝物 満6歳の女の子 ピノコ・ナディア・哀姫が、俺のことをそう呼ぶ。馬鹿は俺の場合 生まれつきで、哀姫は さしすせそ が、たちつてと になるので、トシがトチになる。ヤイは、イヤの反対 イエスの意味なので、哀姫は いつも「ヤイヤイ」言っていて、結果 俺は「馬鹿トチーヤイ」と呼ばれている。沖田と源爺は、既に 哀姫のことを知っている。近藤さんと野口君は、この時には 哀姫の存在をまだ 知らない。もちろん 近藤さんも野口君くんも、6歳に年齢を固定させた 明るく無邪気な女の子 哀姫に、出会うこととなる。
こうして 京へ向け、出発した。はーっ、今回の話も 予定を変更して、野球の話しが入ってしまった。ただ 野球の話しに出てきた 内田君も、いずれ登場します。俺の全人生通しての宝物 哀姫は、そのうち登場します。哀姫も 、沖田と同じく、天才中の天才で 誰よりも俺を大好きでいてくれる女の子です。残念ながら、2016/08/24今現在は、一緒にいられてはいません。ずっと、待ってるんだけど。次回の話しは、京へ向かう途中の話しです。さて、どうなることやら。以上。
読んでいただき、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!




