第五十一話 着地
違う時代違う場所から 戻って来て、無事 ちゃんと適応出来るか という話です。
俺の名は、土方歳三。つい最近までは、清水の次郎長という名で、極道達の世話役をしていた。そこに時空を超え、俺の親友 斎藤一が会いに来てくれた。そして 今は、全宇宙の支配者 大和田をとっ捕まえ、俺と斎藤さんで殴り続けている。こうでもしないと、大和田は言うことを聞かないからね。黒紫に光る 異次元へのトンネルの出口で、大和田は背中を見せて 逃げだした。大和田がどこへ向かったかは、分からない。興味もない。そして 俺と斎藤さんは、黒紫に光るトンネルの出口を出て、地面に着地した。
忘れもしない。ここは江戸の西 多摩地区にある、『天然理心流』の道場の表玄関だ。帰って来れた。帰って来たぞっ!という思いがし、鳥肌が立つ。ただ『天然理心流』の道場は、雑草が生えてたり あちこち傷んだ、古ぼけた感がある。
「頼もう、頼もう!」と、とりあえず俺は、声をかけてみる。
「ウキッ?」と、小さな声がした。そして その声の主は、「ウキキッ、ウキキキッ!」と声をあげ、俺を確認し 抱きついて来た。そう この少年は、沖田総司。沖田総司は、俺が名付けた名で、正真正銘 天才中の天才でもある。きっと 黒紫のトンネルから 大和田が逃げだしたのも、沖田がいるかもしれないと、感づいたのだろう。沖田は、大和田の天敵で、史上最も 大和田をぶん殴った回数が多いのが、沖田だからね。
俺は、じゃれつく沖田のほっぺたを引っ張り「沖田、源爺はいるか?」と聞く。「ウキッ!」と沖田は敬礼し、「ウキウキ」言いながら、源爺の居るであろう場所に向かった。
「斎藤さん。『天然理心流』の道場って、こんなに汚れてたっけ?」と俺。
「はい。トシさんが居なくなってから、みんなやる気を失い 稽古にも身が入らず、何時しか 庭は雑草が生え 道場は埃まみれになってしまいました。だから この有り様をみて、笑いに来た大和田をとっ捕まえて ぶっ飛ばし、何としてでも俺は、トシさんを呼び戻しに行ったのです」と斎藤さん。
「そうか、それはすまなかった。俺が居なくても、源爺が居れば 大丈夫と思ってた。まあ 雑草を刈って、道場を雑巾がけして、また ここから始めればいい」と俺。
「はい!」と斎藤さん。
沖田に連れられて「トシ君!トシ君じゃないですか!ちゃんと、戻って来てくれたのですね」と源爺が、嬉しそうに言う。
「侍になれてないのに 死んでもいないのに、途中で終わりなんて 嫌だからね。もちろん、斎藤さんが 迎えに来てくれた お陰でもあるけど。沖田もそうだし源爺もそうだけど、『天然理心流』の道場の庭が、雑草だらけじゃねえか。男所帯で 掃除はやる気にならないかもしれないけど、出来る範囲でやっていこう」と俺。
「ウキッ」と沖田。「かしこまりました」と源爺。
すると 道場の奥から、懐かしい「ガハハハハッ笑」という 豪快な笑い声がした。そして、のっしのっしと 骨太の骨格が明らかに強い、そんな男が顔を出した。
「近藤さん、俺は 一回り大きくなって、ちゃんと帰って来ましたよ」と俺。
「うんうん。もう一生 帰って来ないかと、心配してました。また一緒に、侍目指して やっていきましょう!」と、『天然理心流』の道場主の近藤勇さん。
「とりあえず 庭の草むしりと、道場の拭き掃除をして、お待ちかねの大宴会にしよう!」と俺。
「ガハハハッ笑、かしこまりました。私は、道場の拭き掃除をします」と近藤さん。
「ウキッ」と言って、沖田も 草むしりを始めた。
「沖田は、源さんが監督しててください。俺は、うまい酒とうまい飯を調達して来ます」と斎藤さん。
「じゃあ、俺は風呂!」と俺。
「トシ君!トシ君は、草むしりや 道場の拭き掃除を、しないのですか?」と、源爺に窘められる。
「源爺、おれは基本 家事はしないのだよ。これも侍の嗜みなのだよ。ナハハハハッ笑」と俺。
「全く、侍だって 家事をすることは、ありますよ。まあ 今日は、トシ君が帰って来てくれたので、いいですけど。ゆっくりお風呂に、入っててください」と源爺。
「ホイホイッ」と俺。お風呂に向かう。
のんびりお風呂に浸かり、風呂から上がると 道場に、お酒と美味そうな飯が、わんさかある。斎藤さんが調達して来たようだが、たくさんのご馳走に 会津地方に つながりがある、斎藤さんの調達能力の凄さを感じた。沖田は、たくさんのご馳走を前に「ウキウキ」言いながら はしゃいでいる。沖田がはしゃいでいると、源爺も笑顔だ。そして、宴会が始まった。
ご馳走を食べながら、酒を飲んでいると 源爺に「俺がこの時代から 居なくなってから 今日まで、何をしていたのか」と聞かれる。
俺は「少し先の未来で、極道達の世話役として 清水の次郎長をしていた」と答える。
「清水の次郎長!」と源爺は 驚いた様子で、食べてたものをむせ返している。
「ウキッ」と、沖田は 相変わらず、人の話を聞いていない。
「あと 源爺。文太にも、会ったぞ。俺は、文太の始まりを知った」と俺。
「文さん!菅原の大親分に、会えたのですか?」と、また驚きながらの源爺。
「ああ。俺が 文太と名付け、俺の唯一無二の子分にした。今は 文太は、裏稼業のトップ目指して、極道をしているよ」と俺。
「ひゃー、さすが トシ君。これも運命と、呼べることなのかもしれませんね」と源爺。
「その上 斎藤さんが、迎えに来てくれたので、俺 斎藤さん 文太の天上人3人の揃い踏みだよ。その分、全宇宙の支配者 クソ大和田も 居たけどな。クソ大和田は、いずれ 俺の手でぶっ消す!」と俺。
「俺も、トシさんが 大和田を消せなかったら、いつか必ず 俺の手で、消してみせます」と、覚悟を持った 斎藤さん。
「ウキッ」と沖田。沖田にしては 珍しく、話を聞いていたかもしれない。
沖田の前で、迂闊に 大和田の名前を口にしてはいけないことを、忘れていた。沖田は、大和田に会うと、すぐにマウントポジション 馬乗りになり、凄まじいパンチの回転の速さで、しかも 三日三晩 徹夜で、殴り続ける。俺でも斎藤さんでも、その沖田を止めようとすると、こっちまで殴られる。そもそも沖田が、大和田をぶん殴りたいなら、そうすればいいし、俺も斎藤さんも 止める気もない。そんな頑張り屋さんの、天才中の天才の沖田だからこそ、なるべく普段は、好奇心旺盛に 色んなものを見て「ウキウキッ」言って、遊んでてほしい。全宇宙の支配者 クソ大和田を消すのは、俺の最低限の役目だからね。
《いつになったら、俺対 大和田の消すか消されるかの 戦いに、決着がつくのだろう?もう かれこれ、数百年はたとうとしている。俺が、大和田の言うことを聞かないから、大和田が勝手に決めて 勝手に始めた、この戦い。俺だって 心はとっくに折れてるし、俺が死ぬことはあっても、消えてなくならないから、俺は生きている。大和田の全宇宙の支配者の権限で 禁止されている、俺の念能力が復活すれば、大和田を確実に消せる。それか、俺の宝物の【哀姫】、会いに来てくれ。俺は今 1人で生きているから。念能力 哀姫、ずっと待ってる》
こうして 俺は、幕末の動乱期に戻り、天然理心流の道場に、無事 着地出来た。そして、相変わらず 宴会をしている。帰って来れたことで、侍になるハードルを越え、壁も ぶち壊した。ならば、侍へと 続け道よ。次回の話は、再び動き出した 俺たちの時間の話です。さて、どうなることやら。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!