第五十話 本道
清水の次郎長一家 編が、終わるところの話しです。
俺の名は、土方歳三。侍を目指す 道半ばで、違う場所違う時代に飛ばされてしまった。今は 極道達から、清水の次郎長親分と呼ばれている。そして、この清水の次郎長という名も 終わりを迎えようとしている。何故かって?子分が出来ただけじゃなく、親友まで会いに来てくれたからさ!あとは 極道達に別れを告げ、全宇宙の支配者 クソ大和田をぶん殴りながら、侍を目指していた 元々の土方歳三としての人生の続きをするだけさ。
「じゃっ極道達、俺 清水の次郎長を辞め、元々の土方歳三としての人生に 戻るからな!」
「うわーっ、もう 居なくなるのですか!?早過ぎるー」と極道達。
「戻る方法、見つかったのですか?」と澤野。
「うん。今 この館の外に、全宇宙の支配者 クソ大和田をとっ捕まえてある。あとは大和田をぶん殴り続けて、全宇宙の支配者の権限で 時空を越えるだけさ。もう俺が 極道達の世話役として、出来る事は 何もない。例え俺が居なくなっても、俺の唯一無二の子分 文太がいる。澤野一派や 小久保一派に認められれば、俺の代わりに治める 極道の代貸が、文太なら出来る。あとは極道達は、自分達の次の人生のことも しっかり考えといてくれ」と俺。
「次の人生か…」と小久保。
「じゃあ、そういう事なので。元気でな!極道達!」と俺。
「はいっ!」と極道達。
極道の館の外に出ると、斎藤さんと文太が、大和田を見張りながら 待ってくれていた。クソ大和田の身体は、打ち身や打撲 そして骨や関節が、ありえない方向に曲がっている。文太は拷問では、俺より上だし俺より出来るからね。大和田の状態は、その結果なのだろう。まあ そもそもが、クソ大和田の自業自得なんたけどね。
「文太、俺は斎藤さんと一緒に 幕末に戻るから、文太はここで 極道を続け、裏稼業のトップを目指してくれ。もちろん ずっと俺の唯一無二の子分だし、俺が例え死んだって それは変わらない。あとは 次の人生を視野に入れながら、前に紹介した 大根のおばあちゃんを看取ったら それを区切りとして、好きに自由に 動いていい」と俺。
文太はこうべを垂れ「かしこまりました」と言った。昔から 文太は、口数が少ない。必要最低限の事しか言わない。その分、無駄口も叩かないので いいのかもしれないが。
「じゃっ斎藤さん。クソ大和田がいい感じに しばかれているので、あとは仕上げといこう。しかし このクソ大和田は、ゴキブリ以下の存在のくせに ゴキブリ以上にしぶとい。いつになったら クソ大和田を、完全に ぶっ消せる日が来るのだろうか?」と俺。
「殺すことは、簡単なんですけど」と斎藤さん。
「うん。殺すのは、簡単に出来る。ただ 消せない。しかも 厄介なことに、全宇宙の支配者で その権限をフルに使っているので、大和田を殺したら その仕返しが、どんと来る。斎藤さんと文太は、強いから 大和田の仕返しぐらい なんともないかもしれないけど、全宇宙の支配者に成れる 資格を持っている俺には、集中攻撃が待っている。だからこそ俺は、強くならないと 強くあらないといけない。俺 対 大和田と大和田の側の人間たち全部との、消すかけされるかの戦いが、こちらの勝利で終わるまではね」と俺。
「トシさん、消えてなくならないでくださいね。トシさんは、基本 やる気も生きる気力も、あまり ありませんからね。ちゃんと、勝ちきりましょう」と斎藤さん。
「すでに 心なんて、とっくに 折れてるんだけど…」と俺。
「トシさん!ダメですよ!最低でも 存在はしていて下さい。そうじゃないと、何でここまで 歯を食いしばって戦い続け 勝ち続けてきたか意味が、ないじゃないですか!俺、頑張りますから。幕末に戻ったら、沖田も 源さんも、トシさんの帰りを待っていますから」と斎藤さん。
「うん、それもそうだ。将来の心配より、幕末に戻って ちゃんと侍になろう。そうすべきだ、多分…」と俺。
「じゃあ、俺が ちゃんとトシさんを、幕末へ連れて帰りますから 一緒に行きましょう。トシさんが居ないと、沖田は はしゃがないし 源さんだって、張り合いがないんですからね、まったく」と斎藤さん。
気付いたら、極道達が全員 館の外に出て、こちらを注視している。それも、そうか。極道って言ったら、義理と人情の究極の男たちだろう。いい奴らだったな。また、会えるかな?
「じゃあ、文さん。トシさんは、連れて帰りますので」と斎藤さん。
「へい。あっしは ここで、頑張ります。親分を、よろしくお願いします!」と文太。
「まったく、天上人 3人揃って また1人と2人になるって、どういうことだ。せめて、哀姫に会わせろ」と俺。
「文さん、一番喧嘩が強くて 一番大馬鹿のトシさんに、これ以上 ごちゃごちゃ言われないうちに、連れ帰ります」と斎藤さん。
「どうかどうか、親分をよろしくお願い致します」と、深々と頭を下げる 文太。
「大和田っ!さっきから、聞き耳立ててんじゃねえっ!」と俺。
大和田が、ビクッとたじろぐ。
「いやあよお、俺だって 過去には、天上人になれる資格を持っていたからよお。お前ら3人が どうしてもと言うのなら、天上人になってやってもいいからよお」と大和田。
「ああっ!怒」と俺。
「待てっ、暴力は反対だ!」と、狼狽える大和田。
「蹴る」と俺。「殴る」と斎藤さん。「刺す」と文太。
「待てっ、わかった。これを見ろ。印を結ぶ。これで時空と時代を、行き来できる」と大和田。
確かに、異世界へとつながる トンネルのようなものが、黒紫に光っている。
「斎藤さん。これで 幕末へ戻れるか?」と俺。
「俺が ここに来る時も、このトンネルを通って来たので、あとはクソ大和田に気をつけて 行けば、大丈夫だと思います」と斎藤さん。
「了解。文太、ここで しっかり生きて、裏稼業のトップになるんだぞ。元気でな、文太!」と俺。
「へい!親分も、お元気で!」と文太。
極道の館や 極道の館から見る景色も、これで見納めかと思うと 感慨深く 寂しい思いすらする。それでも 土方歳三として、ちゃんと生き ちゃんと死ななければ。
「じゃあ 極道たち!元気で 達者でな!」と、俺は 声を振り絞る。
「清水の次郎長親分も、お元気で!」と極道たち。
まだ 極道たちが、それぞれの別れの挨拶をしている中、それを聞いていても ただ 涙ぐみそうになるだけなので、俺は「斎藤さん。沖田と源爺の待つ、幕末へ 参るぞ!」と伝える。
「はい!」と斎藤さん。
俺が、大和田を後ろ手に掴み、斎藤さんが、大和田の首根っこを掴み、そのまま 黒紫に光るトンネルの中に一緒にジャンプした。
そして、清水の次郎長としての、俺の役目も 使命も 終わった。
《皆さんの人生は 知りませんが、俺の人生では 何も起こらない人生はない。確かに 土方歳三としての人生に、清水の次郎長をしていた時間があった。どうしても 俺の人生には、全宇宙の支配者 大和田が 両手に不幸をいっぱいに持って 現れる。それでも 俺の側の人間たちに、助けられ 信じられ 今のくすぶっているけど、大和田の居ない 今の俺の状態があるのだと思う。そして きっと、この苦しみも もうすぐ終わることだろう。【哀姫】か【念能力】を、手に入れた時にね》
こうして 清水の次郎長としての人生から、もともと途中のままだった 土方歳三としての、侍を目指していた道 本道へ戻れる事になった。清水の次郎長としての人生も 悪くなかったし、極道達には 文太が居れば 大丈夫だ。次回の話は、幕末の動乱期 江戸の西 多摩地方での、土方歳三としての人生の再開です。さて、どうなることやら。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!