第四十八話 文太
菅原への名付けと、文太の二文字に尽きる話です。
今では すっかり、過去の名になっているけど、俺の名前は 土方歳三。ただ 訳あって、違う時代 違う場所にいる。そして 今は、清水の次郎長として、極道達の世話役をしている。そんな折、俺に 唯一無二の子分が出来たんだ!その子分の名は、菅原と言い、今回の話は 菅原と菅原の名前にまつわる話。
俺は「菅原、出掛けるぞ」と言い、菅原と一緒に 極道の館を出る。そして しばらく2人で、てくてく歩き 「菅原!菅原の名前を決めたぞ」と告げる。
「あっしの名前ですか?次郎長親分が決めてくださるなら、どんな名前でもいいですよ」と菅原。
「これからの菅原の名前は、文太だ。文は ふみ とも読めて、俺の唯一無二の子分として、便りをよこしなさいという意味だ。太は、俺の子分としては 長男だぞ という意味だ。合わせて、菅原文太だ。名字 名前共に、漢字2文字づつで 数字を表すこともない。なかなか、格好いいだろ」と俺。
「親分!あっしが、菅原文太ですか?」
「ああ。君は、鏡を見たことがないのか?君が、正真正銘 菅原文太だよ。これからは菅原のことを俺は、文太と呼ぶことにする」
「あっしが、文太。かしこまりました。あっしは、次郎長親分と呼べば いいですか?」
「省略して、親分で。俺の場合 人生ごとに、顔も名前も変わるから 俺だと分かったら、親分と呼んでくれ」
「じゃあ 親分!かしこまりました。改めて、よろしくお願いします!」と文太。
俺と文太は、場所を移動し 俺が大根のおばあちゃんと呼んでいる、おばあちゃんの畑に着いた。大根のおばあちゃんは、今日も 1人で畑仕事をしている。
「大根のおばあちゃん!調子は どうだい?」と俺。大根のおばあちゃんは、汗を拭きながら 笑顔で こちらに来た。
「あんれまあ、清水の次郎長親分で ねえか。みかじめ料の徴収かえ?金は あんまりないんだけんど」と おばあちゃん。
「だから、本当にお金のない人からは、みかじめ料は徴収しないと 言ってるじゃないですか。今日は 俺に子分が出来たので、挨拶がてら 大根をかじりに来たんだよ。文太、俺が外出する際 立ち寄る大根畑の、大根のおばあちゃんだ。挨拶して」と俺。
「手前、菅原文太と申します。よろしくお願いします!」
「あんれー、清水の次郎長親分に、子分が出来ただか。そんれーは、めでてえ。今、たくあんと漬け物さ 用意するだあ」と言い、大根のおばあちゃんは 畑を少しだけ離れた。
「文太、清水の次郎長と言ったって、俺は大して金を持ってはいない。この時代に来て ゴロツキと憲兵達をぶっ殺して、その時に手に入れた金だけで、節約しながら ここまでやってきた。やせ我慢でね。きっと極道達は、大根や漬け物が 俺の好物だと思ってるだろう。勘違いしてね。だから 文太には、大根のおばあちゃんのことを知ってて欲しかった。俺が このまま、清水の次郎長をずっと続けるわけもなく、いずれ幕末の土方歳三としての人生に戻らなくてはならないからね。なので まだ若い文太には、大根のおばあちゃんが寿命を迎える日まで、しっかり見守っててほしい。もちろん、そのあとは自由だ」と俺。
「そういえば、確かに親分は 大根と漬け物ばっかり 食べていましたね。かしこまりました。大根のおばあさんを、しっかり見届けます」と文太。
大根のおばあちゃんが 戻って来て、相変わらず たくさんのたくあんと漬け物を持たされた。俺と文太は 丁寧にお礼を言い、大根のおばあちゃんの畑を後にした。
俺も文太も、極道の館に帰り 俺は相変わらず、漬け物ばっかり食べている。文太は文太で、「あっしの有り金全部です。上納金として、受け取ってください」と頭を下げる。
俺が「どうしてもか?」と聞くと「どうしてもです!」と答えた。心境と内情を吐露した手前、無下に断れないので、有り金の半分だけ 貰っておいた。それを目の当たりにした極道達が、上納金を納めていいのかと有り金持った 極道達で、俺の前に行列が出来る。俺が「全財産の半分以下だぞ」と言っているのに、いつも俺が座っている 上座に、うず高く 大金が積まれていく。今まで 俺に対する上納金は、断っていたので その反動が出たみたいだ。どうやら 極道と言っても、余裕が出てくると 俺と同じ、喧嘩の強い 馬鹿の集団だ、まったく。まあ 別に、いいけど。
「それと菅原に、文太という名前が出来たから 知っておくように」と俺。
「菅原文太!」と、極道達にも この名前に ピンとくる人がいるみたいだ。
「あっしの名は、ついさっき 菅原文太と決まりました。なお一層 努力して、親分への忠勤に励みます」
「うん、文太も 俺の代わりに清水の次郎長一家を治める、代貸になれるようにね。代貸と言っても、金を貸すのではなく 代を貸す。裏稼業のトップを、俺の代わりにやってくれ」と俺。
「あっしに それが出来るか分かりませんが、今 出来ることは 親分の為になるなら、何でもやらせていただきます」と、決意した顔の文太。
「あとは文太は、極道の二大派閥 澤野一派 小久保一派に 認めてもらえたら、大丈夫 そして十分だろう。もうちょっとだ、頑張ってみてくれ」と俺。
「へいっ!」と文太。
《今 現在の、菅原文太のいない世 いない世界なんて、いらない。寿命が来て しょうがないのかもしれないが、文太がいないと 安心もできないし張り合いもない。ただ ちゃんと生きれば、人は死んでも消えてなくならないし、文太のことだから 全宇宙の支配者 大和田をぶっ消す 戦い中なのだろう。本当なら、俺が戦わなければならない!ただ 念能力を禁止され 才能も奪われ、今の俺には 戦う術がない!ずっとずっと、念能力も哀姫も 俺は待ち続けている。せめて、応援だけはしよう。頑張れ、文太!そして それよりも、俺 ちゃんと成れ》
こうして 文太に名前ができ、もうちょっとで 極道のトップになるところまでになった。ただ 文太は、せっかく名前に 文の字を入れたのに、基本的には俺に連絡をしない。俺の方からも、基本的には連絡しない。ずっと そんな感じで、やってきた。なので 俺は、文太に会った日は 何か美味しいものを食べる日としている。次回の話は、もはや 忘れられていた 斎藤一と、全宇宙の支配者 クソ大和田が登場します。さて、どうなることやら。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!