第四十七話 菅原
清水の次郎長として、のちに子分となる男との 喧嘩の話です。
俺が自分で、自分に付けた名前が 土方歳三。幼少期から 侍を目指して頑張ってきたが、違う時代違う場所に送られてしまった。理由は、全宇宙の支配者 大和田を、脳天唐竹割にして叩き斬ったから。何が問題なのかが、未だに分からない…。そして 新しい場所で、今は極道の世話役として、清水の次郎長親分をしている。そんな中での、子分になる男との出会いの話。
「今日は、1人で出掛ける。清水の次郎長が、警護なしでは 外に行けないなんて、格好つかないだろ。ちゃんと、今日中には帰るよ」と俺は言い残し、心配顔の澤野と小久保に見送られ、極道の館を出る。
記憶を頼りに歩いて、確かこの辺だっただろうという地点に到着した。そして 背筋がぞくっとして、正直ビビった。明らかに 強いであろうという男が、凄まじい敵意と凄まじい凄みで こちらを睨みつけていた。その男は身長も体重も、まだ 若い俺と同じぐらいで、俺を睨みつけながら 俺が1人かどうか、周りを見渡している。
「心配しなくても、今日は1人で来たよ」と俺。
するとその男は「清水の次郎長親分ですよね?警護も付けず、よくこんな所へ1人でのこのこ来ましたね」と言う。
「君の名は?」
「菅原とでも、しときましょうかね」
「菅原か。覚えおこう」
「清水の次郎長親分。あっしと、サシで勝負してもらえませんか?こっちは1人で、道具も仲間もなく、あと腐れないけえのおっ!」と、突然 語気を強め、言い放つ。
「ああ、いいよ。こっちも 道具はなく、今日は1人だ。君に会うのは、1人の方がいい事を知っていたからね。じゃあ ルールは、最後まで立っていた方の勝ちで」と俺。
そうして、ケンカが始まった。相手も そう思っているかもしれないが、負けたら 殺されるかもしれないという状況なので、本気の殴り合いになる。というよりも、本気にならないと、確実に負ける。お互い、もう殴ってない箇所蹴ってない箇所もなくなり、こちらは身体が打撲で熱を持ち、まぶたの腫れで 視界が半分ぐらいなり、立っているのがやっとの状態。このまま 負けを認めたら、どんなに楽だろうと思いながら、まだ 相手が倒れないということで、殴り続け蹴り続ける。もう無理も 限界も越え、いっぱいいっぱいになり ギブアップと言おうとしたところで、相手が膝から崩れ落ちた。やっと、終わった。
俺が無言のまま、立ち続けていると「あっしの負けです。煮るなり焼くなり、好きにしてください」と、菅原が言う。
「別に、煮たり焼いたりしねえよ。菅原とやらが、凄まじく喧嘩が強いのも 分かった」と俺。
「強い?あっしが、負けたんですよ」
「ああ。ただ 俺だって、限界を越えギブアップと言おうとするぐらい、追い込まれていたんだよ。菅原さん、君?呼び捨てで、いいか。菅原に、二つ選択肢を与えよう。このまま 一人ぼっちで、孤独と飢えに怯えるか?それとも、俺の子分にならないか?」と俺。
「あっしを、清水の次郎長親分の子分にしてくれるのですか?あっしには、資格も実績もないし、仲間すら出来ないですよ」
「俺の知ってる限りだと、菅原には 資格も実績もあるよ。覚えていないだけだ。子分になるか?」
「へいっ、あっしでよければ」
「末長く、よろしくな。菅原」
「へいっ!」
やっと俺は、地面にへたり込んだ。そして 大の字になり、休息を取る。菅原も、横になり 休息を取っている。それだけ 凄まじい壮絶な、タイマンだった。菅原は強さだけでは、史上最強スリートップ 俺 オダギリ ジョー 松風に、肩を並べられるだろう。小一時間もして、身体中あちこち痛くて 動きたくないが、腹が減ったので、極道の館へ帰ることにした。
清水の次郎長一家の館に着くなり、極道達から「次郎長親分!その怪我、どうしたんですか?」とか「一緒に連れて来た、その男 誰ですか?」と、質問が矢継ぎ早にとぶ。いちいち答えるのも面倒なので、俺は 畳みが一段高くなっている いつもの上座に座り、菅原は近くの下座に座らせる。
まだ 館の極道達が、どよめいている中「本日付けで、この菅原という男を、俺の子分にする」と、俺は伝える。
すると「子分は取らないんじゃなかったんですかっ!?」と、早速 澤野から 質問が飛ぶ。
「うん、確かに子分は取らないと 言った。ただ それは、お前達 極道から子分は取らないのであって、新しく 唯一無二の子分として、この菅原を子分とする。菅原は、本物だからね。もちろん 最初は、極道の一番下っ端からだ。あとは、実力でのし上がれ」と俺。
菅原は、俺から遠い下座へ移動し「菅原と言います。よろしくお願いします」と言い、頭を下げる。まだ菅原が、俺の子分になる事も極道になる事も 割り切れてない極道達であったが、ここから菅原の快進撃が始まった。
一番下っ端からのスタートだった 菅原だが、喧嘩も強い 使える 押し出しが効く 役人にもモノが言える、そして裏稼業に属する者としては 一番仕事が出来る。俺が与えた 、蜘蛛の糸ぐらいしかないチャンスを確実にものにし、菅原は日を追うごとに 金を手に入れ、極道として出世していく。もはや 一番下っ端ではなく、中堅ぐらいになり 自信に満ち溢れた 菅原を見て、俺としても 一安心といったところだ。菅原は、名字はあっても名前がないので、俺が考えておく とだけ伝えてある。
《多分、清水の次郎長一家の極道達は、知らないだろうけど 菅原の存在を、俺は昔から知っていた。幕末から 、違う場所違う未来に飛ばされた俺のようなことがないように、菅原がかつてタイムキーパーとして取り締まっていた。ただ タイムキーパーが菅原1人になり、あちこちで反則を繰り返す 大和田と大和田の側の人間達を、もはや取り締まりきれなくなったのだろう。そして、清水の次郎長をしている俺と、遭遇した。喧嘩にはなったけど、ずっと昔から 菅原を俺の側の人間に出来たらいいと思っていた俺には、ちょうどいい機会だった。こうして 俺に、唯一無二の子分が出来たんだ!》
こうして 俺に、未来永劫変わらない 子分が出来た。唯一無二の、すごい使える子分がね。もしかしたら 菅原にとっても 極道にとっても、この時代この瞬間が縁になり、生まれ変わった後も 福岡県で出会うことになったのかもしれない。俺が福岡県にいる時に、澤野親分も小久保親分も 菅原の子分になったからね。きっと 菅原は、対クソ大和田の戦い中だろうし、澤野親分も小久保親分も 福岡県で『タテオカ』という組織で、相変わらず 極道をしている。だから、何も出来ていない俺は、早く念能力者にならないといけない。俺、ちゃんと成れ!次回の話は、菅原に名字だけじゃなく 名前が出来、皆さんも知っている存在になると思います。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!