第四十五話 感謝
土方歳三から転生し、清水の次郎長になって、2日目の話です。
俺の名は、土方歳三。侍を目指して、毎日 日々是成長の日々だったが、飛ばされてしまった…。飛ばされた理由は、全宇宙の支配者 クソ大和田を脳天唐竹割にして、ぶっ殺してしまったから。まったく、後悔してないけどね。そんで、飛ばされた先が極道達のいる 清水の次郎長一家。今の俺は、そこで 極道の世話役として、清水の次郎長親分をしている。
極道達が殺したかった ゴロツキ50数人と憲兵達を殺しきり、風呂に入ったあと 俺と極道たちは、ついさっきまで宴会をしていた。なので 極道ともあろうものが、館の畳の上で酔い潰れて眠っている始末だ。いいお酒で楽しい宴会だったから、全然問題ないけどね。まだ起きている、澤野と小久保と一番年輩の極道と、これからについて話し合う。
「まさか ここに飛ばされた日に、カチコミとはな。まあ、余裕で勝てたからいいけど。極道って強いんだな」と俺。
すると 一番年輩の極道が「ハハッ笑。出入りにしようと言ったのは、次郎長親分じゃないですか。極道は強い!ありがとうございます」と、俺に言い 頭を下げる。
「ありがとうございます」と澤野。「ありがとうございます」と小久保。
「極道の組織としての意思決定って、どう 決めている?」と俺。
「二大派閥の、澤野一派 小久保一派で、対決しながら競争しながら 最終的には、話し合いで 何とか派閥同士で 潰し合わないように、やってます」と、年輩の極道。
「二大派閥制かー。いい点と悪い点が、あるかな。肝心なのは、本気で潰し合いをしない事と足の引っ張りあいにならない事。派閥同士で競争をする分には、二大派閥制も悪くはないかな」と俺。
「次郎長親分!派閥のトップ同士の澤野と小久保が、話し合って 力を合わせて あらゆる方面にお願いをして、やっと来てくれたのが 清水の次郎長親分です!」と、声を振り絞る 年輩の極道。
「俺としては、人生の途中で ここに飛ばされたんだけど。詳しくは話せないけど、そのうち 元々の人生に戻らなくてはならない。それまでは、この清水の次郎長としての 極道の世話役としての人生をしっかりやってみるよ」と俺。
「はいっ!」と、年輩の極道と澤野と小久保。
こんな朝っぱらから、この館の表玄関が騒がしい。昨日、ゴロツキ達と憲兵達を散々 処分したので、もしや 仕返しかと思い、念のため この4人で戦う準備をする。澤野と小久保が、表玄関に行く。二、三話をし、笑顔で戻って来た。
嬉しそうに、小久保が「ゴロツキと憲兵達が居なくなり、どうしてもお礼が言いたい人たちが、表玄関に集まっているみたいです!」と報告する。
「何だ、感謝か。じゃあ、この館で酔い潰れている極道達を、叩き起こすなり それでも使いものにならなかったら移動させ、徹夜明けの朝から 仕事といきますか」と俺。
「はいっ!」と、澤野と小久保と年輩の極道。
酔い潰れている極道を、叩き起こし「もう、飲めない」と言う者には往復ビンタをし、それでも起きない者は、奥の部屋へ引きずって移動させる。極道が朝から酔い潰れているなんて、あまりいい事ではないだろうからね。何とか 酔い潰れていた極道達を奥の部屋に収納し、清水の次郎長一家の館としての体裁を整える。
「ゴロツキ50数人と憲兵達が居なくなった!」と、極道の縄張り内の領民達が、感謝の言葉を口にする。どうやら、朝から領民達の喜びで 館はお祭騒ぎだ。ゴロツキも憲兵達も、よっぽど憎まれていたのだろう。
「澤野と小久保と一番年輩の極道で、手分けをして 借用書 証文 を、今来ている領民達のものか照合して、破棄するなり燃やすなりして、領民達の不安をなくそう」と俺。
澤野も小久保も 年輩の極道も、徹夜明けで二日酔いにもかかわらず、テキパキ仕事をする。澤野も小久保も、「澤野親分」「小久保親分」と呼ばれ、一番年輩の極道は もはや拝まれる始末だ。地に足がつき お天道様の真下を堂々と歩ける 極道は、凄えんだなと、感心し いずれは 土方歳三としての人生に戻らなくてはならないけど、清水の次郎長としての人生も、これはこれで得難いと思った。
ふと 館の表玄関を見ると、両手に大根を持った おばあちゃんがいる。俺が「どうした?おばあちゃん。迷子か?」と聞くと、「私は、お礼をするお金もないので、せめてうちの畑で採れた大根を持ってきただ」と答えた。
「大根を丸ごと二つか。十分だよ、おばあちゃん」と俺。
「大根は、二つだけじゃない。大八車に、乗るだけ持ってきただ」と、おばあちゃん。外を見ると、確かに大八車に大根が、これでもか というぐらい積まれている。俺は 思わず笑顔になって、「おばあちゃん、多すぎだよ」と言う。すると、おばあちゃんが「畑を荒らしに来る ゴロツキ達と、税金を余計にむしり取っていく憲兵達を退治してくれただ。ほんにもう、こんだ大根ぐらいじゃ足りないけど、せめてものお礼だ」と、日焼けした シワの刻まれた顔で、にっこり笑う。
「次郎長親分!次郎長親分のお金の取り分は、どのくらいにしておきますか?」と、澤野に聞かれる。
「俺と極道達で、全員 一律均等で」と、俺は答える。
「ほんにまあ、あなた 次郎長親分かえ!とうとう 清水の次郎長親分が、現れたのだあ。こっただ 大根じゃ、足りないべ。もう一回、往復して持って来るだ」と、俺を拝みながら おばあちゃんが言う。
「おばあちゃん、大根も十分 気持ちも、十分だよ。最後に 大八車から、大根を全部下ろそう。ちゃんと俺も、手伝うから」
「それでいいのかえ?そっだら、大根置いて帰るだ。大根でいいなら、いつでもうちの畑さ来るだ」と、おばあちゃん。一緒に 大八車から大根を、館の表玄関に下ろすと、おばあちゃんは丁寧にお礼を言い 深く頭を下げ、帰って行った。俺も 手を振って、見送った。
表玄関に積まれた大根を見て「こんなに 食べ切れないです」と、小久保が言う。俺だって、そう思うけど「お前らは、飢えを知らないのか。極道 全員で食べたら、食べ切れるかもしれないだろ。二日酔いに、効かないかなぁ」と言う俺。兎にも角にも 散々お礼を言われ、いい仕事を全うしたのだと思った。
《俺の称号が、『幸福の王子』。人を幸せにするだけじゃなく、不幸の芽も摘んでおく。それでも、『不幸の王様』大和田が、あちこちで 人々を不幸にする。人を幸せにするよりも、幸せな理由を全部奪い取り 不幸にする方が簡単だ。なので 俺は『幸福の王子』としての仕事を、活動休止にした。一度 幸福になった人が、また 不幸になると 絶望して、死んで消えて無くなることを選んだりする。それを目の当たりにし、俺だって絶望し 『幸福の王子』を辞めざるを得なかった。だから 極道達のように、不幸の芽を摘み取れる存在は、有難かったりする。そして、いつか俺も『幸福の王子』に、ならなくては!全宇宙の支配者 クソ大和田を、俺の手で 完全にぶっ消して!》
こうして この日は、一日中 感謝とお礼を言われる日だった。今 現在も、福岡で『タテオカ』の一員として、極道をやっているであろう 澤野親分も小久保親分も、俺が念能力を手に入れるまでは、待ってもらっている。連絡すら、取れていないけどね。俺、ちゃんと這い上がれ!次回の話は、子分についての話です。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!