第四十三話 転生
突然 宿敵が現れ、飛ばされる話です。
俺、土方歳三と沖田総司と斎藤一がいる。それと沖田の保護者、源爺こと井上源三郎も一緒にいる。そして近藤勇、用心棒の野口君がいる。今はまだ若く青いが、後にそれぞれ顔役になる そうそうたる、面々だ。ちなみにここは、江戸の西にある多摩地区だ。
斎藤さんが、会津地方からの出張から帰って来て、米と酒は十分にある。また この先も、越後から 米と酒を出すという証文を、斎藤さんがもらって来たので、今後も 米や酒の心配はいらなくなった。それでも相変わらず、建設現場で2日働いて1日休む生活をしていると、朝 道場から出掛けようとすると、沖田が首を横に振って 俺を止める。こういう時は、少なくても いい兆しではなく、ろくでもない事が起きる。沖田が俺を止めるって、よっぽどの事だからね。
見かねた源爺が「トシ君っ、今日出掛けるのやめときますか?建設現場の親方には、今日は休むと私から伝えられますから」と、助け船を出す。沖田はそれを聞いて、大きく首を縦に動かす。
「うーん、確かにこういう時は、どうしょうもないことが起きる。ただ ここに居たところで、大丈夫とも言えない。道場とか近藤さんに、迷惑がかかる。とりあえず今日は、源爺は 沖田を見てて。俺と斎藤さんで、念の為 刀を差して出掛けよう」と俺。
「かしこまりました」と、源爺。「はいっ」と、斎藤さん。
俺と斎藤さんで、刀を差し 建設現場に行くと、親方と男の2人組が揉めている。そして、その男達は 俺の昔からの宿敵たちだ。そういうことか。沖田が、止める訳だ。親方と揉めている男達の名前は、大和田と木村公一と言う。クソ野郎中のクソ野郎の、2人組だ。
「斎藤さん、戦う準備を!」と俺。刀を確かめる。
「はいっ。また、あいつらか」と斎藤さん。
俺と斎藤さんで 親方の前まで出向く。「親方、今日で建設現場の仕事を辞めます!お世話になりました」と俺。「トシさんに、同じく」と斎藤さん。
「辞めるのか!ちょっとだけ、待っててくれ。そこの2人組が、難癖付けてきてるんだ」と、親方。
「その2人組のせいで、辞めるんですよ。大和田っ 村公っ、何しに来たっ!」と俺。
「いやあよお。やっと、お前に会えた。どこの時代に飛ばしたかわからないから、探しだすのに苦労した。いやあよお、極道達がよお、俺の言うことを聞かないからよお、お前の力が必要だからよお」と大和田が、俺に言う。
「ああっ怒!ふざけんなっ、クソ野郎中のクソ野郎。大和田の言うことを聞かないなんて、さすが極道じゃねえか」と俺。
すると大和田が、書物らしきものを取り出す。「待てっ、これを見ろ!この時代よりも後の、未来から持ってきた 歴史の教科書だ。これを読めば、この先どうなるのか手に取るように分かる。どうだ、これで参ったろう?」と、嫌味ったらしく言う。
「興味ねえ!」と言い、抜刀する俺。「未来から教科書持ち込むなんて、確実に反則ですね」と言い、斎藤さんも刀を抜く。
大和田は、慌てふためきながら「待てっ!俺はこの時代に、土方歳三という男を探しに来ただけだからよお。使えるならよお、俺の側の人間にしてやらうと思ってよお」と言う。
「ああ、土方歳三は俺だ。斬る!」と俺。
「待てっ!お前が、土方歳三なのか!?お前は、ただの偽者じゃないのか?まあよお、この時代に来るにあたってよお、俺を殺した奴にはいなくなってもらうからよお。それでもいいんだったら、斬ってみろよ」と大和田が、のたうつ。
俺が大和田を、頭から脳天唐竹割にして叩き斬る。斎藤さんは、木村公一の心臓を、一突きで串刺しにした。
「ハハハッ笑。さすが、侍を目指している少年達だ。お見事!」と、お世話になった建設現場の親方が言う。大和田と木村公一の死体を見ていたら、あっという間に消えて無くなった。この時代に来るにあたって、そう設定していたのだろう。いつの間にか それが、当たり前になってきているだけか。
《この頃 全宇宙の支配者 大和田は、俺の存在がただの偽者だと勘違いし思い込んでいた。俺の言うことは、何ひとつ聞かないくせに、大和田の側の人間達の言うことを鵜呑みし、『皇位継承者』の俺も、『きよじ』と呼ばれる俺も、偽者だと断定した。そして4人いる村公の1人、木村公一の助言で、シーソーの原理で 俺が不幸になると、大和田と大和田の側の人間達が幸せになると思い込んだ。なので、いつの時代に会っても、大和田は、俺を落ちぶれさせようと難癖付ける。後に大和田が、大和田の側の人間が嘘をついていたと気付いた時には、俺対 大和田の消すか消されるかの戦いが、始まっていた。こちらとしても、大和田を殺せる時には殺しておかないと。もう なんか俺は、言い分があっても言い訳が出来ても、否定せずに ただただやり過ごしている。後は、念能力が復活するのを待っているだけだ》
全宇宙の支配者 大和田を殺した分、俺には 僅かしか、この時代にいられる時間がない。建設現場の親方に別れの挨拶をし、『天然理心流』の道場へ急ぐ。
「トシさん!身体が…」と、斎藤さんが驚く。俺の身体は、全体的に透け始めどんどん消失し始めている。
「うん、大和田の呪いだろう。きっと この時代に来るにあたって、大和田を殺した者には、消えてもらうように設定してあったのだろう。全宇宙の支配者の権限でね。理不尽で、意味不明だけど。いなくなるならいなくなるで、最後に沖田を元気付けたいから、道場へと急ごう」と、声すら弱々しくなってきた俺。
「かしこまりました。トシさんがいなくなっても、沖田の面倒は、俺がちゃんと見ます」と斎藤さん。こんな時にあれだけど、頼りになるのは やっぱり親友だね。
道場に着いた。源爺が迎えに来て、俺の身体を見て驚く。無理もない。もう両腕が、ほとんど消えて無くなってしまっている。
それでも、俺は「沖田っ!大和田なんて、叩き斬ってやったぞ!」と大声で叫ぶ。その声を聞いて、沖田が顔を出す。ただ 俺の身体を見て「ウキ…」と つぶやき、泣き始める。気付いたら、俺の両足も透けてなくなっていた。
「おいらが、ちゃんとしなければ…。おいらが、ちゃんとしないから!」と言いながら、沖田は、道場の庭の地面を、泣きじゃくりながら 拳で殴り続ける。
沖田は、沖田なりに責任感が強くて、たまに人間の言葉を話したかと思ったら こうなる。だから 普段から沖田は、「ウキ ウキ」言いながら、遊ばせとくんだけど。
「やっぱり、侍になる!という目標を立てたら、こういう事も乗り越えなくちゃいけないんだと思う。斎藤さんと源爺は、沖田の世話をよろしく」と俺。声まで、かすれてきた。
「はいっ」と斎藤さん。「かしこまりました」と源爺。
「ちなみに、このまま身体が透け続け 透明人間になったら、女風呂 覗き放題だけどな。ナハハハハっ笑」と、笑っとく俺。
「ウキ!」と沖田が、少し笑顔になる。
「それじゃ…」と言葉を続けようとしたが、出来なかった。
[そして 俺はいなくなった〕
こうして俺は、幕末の動乱期と呼ばれるこの時代から、姿を消した。全宇宙の支配者 大和田は相変わらずクソ野郎だが、きっと侍になると決めた以上 こういう事も乗り越えていかなくちゃいけないのだろう。はーっ、転生ということで、分かりやすく丁寧に書くつもりが、長々といつものようになってしまった。才能ないな、俺。次回の話は、大和田の言う事を聞かない ちゃんとした極道達の出てくる、転生した後の話です。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!