第四十二話 帰還
斎藤さんが、会津地方への出張から帰って来たところの話です。
俺と沖田は、多摩地区にある『天然理心流』の道場に、ほぼほぼ住んでいる。沖田の保護者で、源爺こと井上源三郎も一緒だ。斎藤さんは、会津地方に出張中だ。そして『天然理心流』の道場主の近藤勇さんと、近藤さんの用心棒の野口君が もともと住んでいる。
俺と沖田が、2日働いて1日休む暮らしをしていると ある日「斎藤一です!只今、戻りましたっ!」と、道場の表から大声が聞こえる。
「やっと、帰って来たか。沖田、斎藤さんが出張から、帰って来たぞ」と俺は言い、沖田と一緒に大声のした道場の表へ急ぐ。近藤さんも、野口君も一緒に見に行く。
そこには また一回り大きくなった斎藤さんが居て、斎藤さんの後ろには、これでもかっというくらい、米俵と酒樽が並んでいた。大して お金もないのに、良くこれだけの物を用意出来るなんて、さすが 斎藤さんだ。俺はちょびっとしか、お金を渡せてないのに。
「お帰り、斎藤さん!そして、お疲れさん。良く、戻って来てくれた」と俺。
「ウキッ!」と言い、沖田がいつものごとく 斎藤さんに抱きつき、邪険に扱われている。
「トシさん!米と酒は、これだけしか持って来れませんでした。ただ、証文も持って来たので、追加はできます」と、斎藤さん。
「ここにあるだけの米と酒で、十分な量だよ。会津地方への出張は、どうだった?」
「トシさんの言う通り、越後には米と酒が余っていました。なので 少し働いて、交渉して、捨値で手に入りました。ただ、越後が会津地方と あまり知られてなかったり、会津藩筆頭家老には、会えませんでした」
「会えなかったら、それはそれでいい。出張、ご苦労さん。上出来だ。斎藤さんが風呂に入ったら、持って来た米と酒で宴会にしよう!」
「ウキッ!」と沖田。斎藤さんに いい子いい子しようとし、邪魔者扱いされてる。
斎藤さんは、ここまで米と酒を運んでくれた人足達に、丁寧にお礼を言い 人足達が驚いて喜ぶぐらいの給金を渡し、風呂へ向かった。
俺と沖田と源爺と、近藤さん 野口君で、斎藤さんが主役の大宴会の準備をしている。ただ沖田は、久しぶりに斎藤さんに会えたのが嬉しいのか、とにかくはしゃぎ過ぎて 使いものにならない。まあ、いいけど。存在していることが奇跡の沖田を、のんびり眺めているのも悪くない。そうこうしていると、斎藤さんが風呂から戻って来た。さあ 大宴会の、始まり始まり!
沖田が酒を片手に、お酒が溢れるのも構わず はしゃぎ踊っている。源爺も、酒を飲みながら、はしゃぐ沖田を見て ご機嫌な様子だ。そして どうやら俺は、大食いだけじゃなく大酒飲みでも、近藤さんには敵わないみたいだ。酒が大量にあるということで、凄い勢いで どんぶりにたっぷり注がれた酒を飲み干していく。「がははは 笑」という、豪快な笑い声とともにね。野口君は、自分のペースで飲んでいる。
ここは 久し振りに会った親友同士、サシで飲むことにした。
「斎藤さん。俺の名字、『土方』と書いて『土方』に決めたから。沖田や斎藤さんから、遅れること数年。やっと、名前も名字も決まった。知っておいてくれ」と、酒を飲みつつ斎藤さんに、報告しておく。
「土方歳三!いい名前だと思いますし、やっとピンときました。呼び方は相変わらず、トシさんでいいですか?」
「ああ」
「じゃあ、改めましてトシさん。越後を含む 会津地方とも、これからも 縁も繋がりも持ちたいです。特に越後は、当時のトシさんが 直江兼続その後 上杉謙信をしていた土地柄で、一緒に戦っていた 俺の顔も、まだ効きました。なので、これからも付き合いを持っておきたいです」
「斎藤さんの顔が、まだ効いたか。それは、いい。それで大量の、米と酒か。ある程度、自由は担保しておきたいし、斎藤さんがそうしたいなら、そうすればいい。この時代だと、移動が大変だから 距離があるのも、考慮してくれ。例えば、会津地方の出先機関、京都や大阪にあるだろうから、そこと繋がりを持っておいてくれ。なるべく、斎藤さんがいないというのは、避けたいからね。それでは、出張 ご苦労様でした」
「はい!そうか、出先機関か。それなら わざわざ、会津地方まで 行かなくてもいいのか。かしこまりました」
「出先機関だったら、江戸にも…」と、俺が言ってると途中に、久し振りに斎藤さんに会えて、美味しいお酒まであるという事態に、沖田がおとなしくしている訳なかった。
「ウキキーッ!」と、言いながら沖田が、俺に体当たりをしてきた。そして、「ウキウキッ」言いながら、俺と斎藤さんと一緒に飲む 準備を始めだした。せっかく手柄を立てて 戻って来た親友と、サシで飲んでいたのに。ということで、今夜の大宴会は これでお開きとなった。まだ 飲み足りなそうな 沖田は抵抗しているが、源爺に引き取ってもらった。
こうして 斎藤さんが、会津地方からの出張から帰って来た。大量の米俵と、飲みきれないほどのお酒を手に入れてね。ここから斎藤さんは、会津地方や会津藩とつながりを持っていく事となる。この事が、後々 良くも悪くも影響していくことになる。次回の話は、時間と時空を超え、転生します。良くも悪くも。信じてもらえるように、丁寧に書けたらなと思います。それでは!
読んでくれて、ありがとうございました。今後とも、よろしくお願いします。それでは!