第四十一話 昼寝
『天然理心流』の道場で、のんびり遊んでいるお話しです。幕府の役人からの、お土産も!
俺と沖田は、『天然理心流』の道場にいる。源爺こと、井上源三郎は、自分の庭の畑仕事に勤しんでいる。斎藤一さんは、会津地方に出張中だ。そして 天然理心流の道場主の近藤勇と門下生で用心棒の野口君がいる。
「よしっ、沖田。斎藤さんが大事な出張中で、源爺も畑仕事に行ってるから、ここは道場で 昼寝と洒落込もう」と、俺。
「ウキ?」と、何やら警戒している沖田。
「それでは、おやすみなさい。からの寝返り攻撃」と俺は言い、沖田にパタパタとチョップを繰り出す。沖田も真似して、ゴロゴロしながら 俺にチョップをする。
それを見て 近藤さんが「がはははっ笑」と、豪快に笑っている。いつも無口な野口君も、思わず微笑んでいる。しばらく沖田と遊んでいると、畑仕事から源爺が帰って来た。
「トシ君、沖田君、昼寝ですか?私は、畑仕事をしてきましたよ。こんなに野菜が、取れました」と、収穫したての野菜を見せる 源爺。
「よしっ 沖田。源爺の説教が始まる前に、死んだふりだ」と俺。ピクリとも、動かない。
「ウキッ」と沖田。沖田も真似して、動かなくなる。
「フフッ笑 作戦が、まる聞こえですよ。トシ君も沖田君も、せっかく道場にいるのですから 稽古の一つや二つなされればいいのに」と源爺。いつもの、お節介だ。もちろん、迷惑ではないけど。
「俺と沖田は、稽古をしなくても 十分強い。それに2日働いたら、1日休んでもいい。よって今は、昼寝の時間だ」
「ウキッ」と、調子を合わせる沖田。
「あと、近藤さんは運動をして、野口君はもっと話しをするように。無口だと、何を考えているか、分からない時もある」と、寝そべりながら言う俺。
「それも、そうですね。それでは野菜を調理しに、行ってまいります」と源爺。台所に向かう。
「がはははっ笑。素振りでもします。野口君も、土方君の言う通りに」と近藤さん。「えいやっ」と、木刀で素振りを始める。
「野口君、無理に話さなくていいから、先ずは あだ名を決めよう。野口君を省略して野口君でいいか?」と、ちゃんと正座して聞く俺。
「はい!」と、野口君。
「じゃあ、呼び名は『野口君』と書いて、『ぐちくん』とする。口という字を、強調したいからね。近藤さんの用心棒はいいけど、話さなきゃ伝わらないこともある。よろしく、どうぞ」と俺。
「はい」と、野口君。うん、何の外連味もない、素直な答えだ。
そうこうしているうちに、「料理ができましたよ」と、源爺の声がする。俺と沖田は飛び起き、料理を運ぶのを手伝う。俺と沖田は、いつもお腹が減っているのだよ。源爺の料理は、畑で採れた野菜だけじゃなく 鶏肉もある。量も、たっぷりだ。
「トシ君も沖田君も、食べ盛り育ち盛りの年頃なので、どんどん食べてください」と、笑顔で勧める源爺。
「よしっ沖田!早食い競争だ!」と俺。
「ウキッ!」と沖田。
しかし、俺も沖田も、近藤さんの食べっぷりには敵わない。でっかい口で食べまくり、そうやって この頑丈な身体な身体を作っているんだな 近藤さんはと、俺は感心した。野口君は、それ程は食べていない。
「こういう料理をこの量食べてたら、源爺や近藤さんみたいに、恰幅のよい身体になるのか」と俺。
「はい。トシ君も、もっと頑丈な身体を作らないと。沖田君は、今のままでいいですけど」と源爺。
「うおっ、差別じゃねえか。確かにもっと、俺は縦に大きくならないとな」
「トシ君は、史上最強にして最高の男にならないと。強いお侍さんに、なるのじゃないですか?」と、諭すように源爺が問う。
「うん、なる。誰に認められたらいいのかが、分からないけど。近藤さんかなあ?」と、俺も問う。
「がはははっ 笑!私に認められても、駄目だと思います。ただ私も、いつかは立身出世してお侍さんになります」と、早食いをしながら近藤さんが言う。
「まあ、いずれか。俺はもう お腹いっぱいだから、お酒の時間にしよう。源爺、酒代だ」と、源爺にお金を出す。
「頂けません。トシ君が、建設現場で働いた お給料じゃないですか。こういう時のために、この道場には秘蔵のお酒があるのですよ」と言い、源爺が台所に向かう。
「沖田も、江戸城の幕府の役人に渡された、袋を開けてみ」と、俺。
「ウキッ」と沖田。袋を開けてみると、中から大量の大判小判がある。「ウキキッ」と驚く沖田。袋ごと、俺に渡そうとする。
「それは 沖田に託されたお金だから、沖田の物だよ。源爺とも相談して、必要な時に必要なだけ 使いなさい」と、俺。
源爺が、この道場の秘蔵のお酒を、持って来た。
「そっちが秘蔵のお酒なら、こっちも秘蔵のお金だ。沖田、大判小判を見せつけてやりなさい」と俺。沖田が源爺に、袋の中身を見せる。
「こんな大金、どうしたのですか!?」と、珍しく驚く 源爺。
「俺と斎藤さんと沖田で、ここに来る前に江戸城に立ち寄ったんだよ。その時に沖田が、幕府の役人に渡された物だよ」
「江戸城!」と驚く、近藤さんと源爺。
「そこで、将軍にならないかという話を断って、今 俺はここにいるんだよ」
「将軍になる話を断ったのですか?」と近藤さん。
「うん。そんでもって、俺は侍になる!だから 俺はともかく、沖田は昼寝してても、いいんだよ。じゃっ、宴会にしよう!沖田の奢りで」と俺。
「ウキキッ!」と、お金を見せて胸を張る、沖田。何故か、源爺も 誇らしげだ。そりゃ、そうか。源爺は、沖田の保護者でもあるものな。
こうして 斎藤さんが、会津地方に出張中にもかかわらず、昼寝して宴会をしている。沖田の保護者として、一緒にいる源爺が、いろいろ世話をしているので、安心と安全がある。もちろん、楽しさも!それと、沖田や源爺の俺の側の人間だけでなく、近藤さんや野口君とも、絆が出来つつある。次回の話は、斎藤さんが出張から帰って来ます。以上。
楽しんで、頂けましたでしょうか?よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!