第四十話 土方
名字の由来と、決まった経緯についての話です。
俺と斎藤さんに沖田とで、多摩地区の『天然理心流』の道場にいる。沖田の保護者 源爺こと、井上源三郎も一緒だ。そして、天然理心流の道場主の、近藤勇さんと いつも無口な用心棒の野口君と、今後について話し合いをしている。
「とりあえず、俺も斎藤さんも沖田も、侍を目指している。三人三様、強さもある。才能もある。だが、お金がない。でも、道場に通うからには 謝礼を払いたい」と、俺。
「侍ですか!それはいい!私も、沖田君の保護者として、侍になりたいです!」と、源爺。
「侍ですか、私も そうありたい。。謝礼はいらないので、いっそ道場に住み込みませんか?」と、近藤さん。
「住み込みかー、それもいいなー。斎藤さんと沖田がよければ、道場に住み込みで」と俺。
「はい」と、斎藤さん。「ウキッ」と、沖田。
「じゃあ、住み込みで。あと、仕事を紹介してくれ。建設関係がいい。自分が作った物が、形になるのは気分がいい」と、俺。
「がはははっ 笑。いくらでも、紹介出来ます」と、近藤さん。という事で、明日から俺は 建設現場で働くことにした。
翌日、俺の他に、斎藤さんと沖田と源爺も、もれなく建設現場にやって来た。「小僧っ、歳いくつだ?」と建設現場の親方に聞かれ「九つか十」と、俺は答える。名前も聞かれたけど、この時代 こんなとこで本名明かしてもなという事で、『土方』と答える。ちょうど、土方工事をしていたからね。ひたすら1日、土方工事をして 給料を貰う。沖田が、「ウキウキッ」言いながら はしゃいでる。「共に汗を流して、働くのもいいですね」と、源爺も喜んでいる。
「斎藤さん、頼みがある」と俺。
「何ですか?」
「俺の給料の半分を渡すから、これから 会津地方に行ってもらえないか」
「会津か。勝手知ったるとこですね」
「うん。多分 これっぽっちの金じゃ足りないだろうけど、越後 将来の新潟で、米と出来たら 日本酒も、仕入れてきて欲しい。越後国なら、米が捨てるほどある。越後は、直江兼続 上杉謙信をしてた頃からの、馴染みのある場所だからね」
「かしこまりました。米だけじゃなく、ちゃんと日本酒も仕入れます。越後か。懐かしいですね」
「会津地方、越後から会津藩までの豪雪地帯が、会津地方。会えるなら 斎藤さんも、会津藩筆頭家老に挨拶だけでも、しておいて」
「俺の知ってる人ですか?」
「高倉健のはず」
「分かりました。念の為、挨拶だけはしておきます」
沖田が給料を、全部 斎藤さんに渡そうとしたら、「何かの為に、取っとけ」と言われ、源爺に挨拶してから、斎藤さんは 会津地方へ向け旅立った。沖田は、やっぱり寂しそうだ。
翌日、いつものように 建設現場で働き、給料を貰う時に『土方』という名前が呼ばれない。「ひじかた、ひじかたはいないか?」と、建設現場の親方が言っている。もしかしたら 俺の名前かと、親方に確かめると、『土方』と書いて 『どかた』以外に『ひじかた』とも、読めるみたいだ。とりあえず、何とか本日分の給料を貰い、ホッとした。そして親方に、土方家のある場所を聞く。住所を聞いたら、源爺が案内出来るとのこと。親方に丁寧にお礼を言い、建設現場をあとにした。
「『土方』と書いて『ひじかた』か。土方家の許可がもらえたら、俺の名字は『土方』にしよう。土方 歳三。漢字 二つずつで、いい名前だ」と俺。
「トシ君、土方家の住所は、この辺りですよ」と、源爺。
「ウキキッ」と、遊び半分の沖田。
「トシ君、あの家がそうです」と源爺が、古ぼけた小さな家を指差す。
「じゃあ こういうのは、一人で行った方がいい。沖田と源爺は、ここで 俺に名字が出来る事を期待して、待っててくれ」
「ウキッ」と沖田。「期待して、待ってます」と源爺。
古ぼけた小さな家、確かに『土方』と表札がある。
「すいません!誰か、いませんか?」と俺。
家の中から、女性が顔を出す。「あら、かわいい坊やね。うちに何のよう?」
「名前は、歳三と言います。名字は、まだ ありません。そこで、俺が『土方』と名乗る、許可を頂きたい」
「あら、良いわよ」
「土方家当主の、旦那さんの許可も、頂きたい」
「ちょっと待っててね」とその女性は言い、家の中に入った。そして家の中から、旦那と思しき男性が出てきた。「土方なんて名字を名乗りたいなんて、珍しい少年だね」
「俺は、侍を目指しています!家族は、いません。名字も、ありません。土方家に、迷惑をかけるつもりもありません。土方と名乗る、許可をください!」と俺。
「お侍さんを、目指しているのか。私の許可で良ければ、どうぞ ご自由に『土方』と、名乗っていいですよ」と旦那さん。
「ありがとうございます!これ、今日の給料の半分です。お納めください」
「ハハッ笑」と旦那さん。「有難く、頂いておくわ」と、女性。
うおっ、また給料が半分無くなった。俺は丁寧にお礼を言い、土方家をあとにした。
「沖田 源爺、許可がもらえた!俺の名字は、土方になった!」
「ウキッ」とうなずく沖田。多分、分かってない。
「おめでとうございます。土方 歳三、いい名前ですね」と、源爺。きっと 源爺は、優しさで出来ている。
「じゃあ 道場に戻って、斎藤さんの出張の件と、俺の名字が決まった件を報告して、ちょびっとだけ 宴会にしよう」
「ウキッ」と、喜ぶ 沖田。「はい。かしこまりました」と、源爺。斎藤さんが出張中でも、相変わらずの俺と沖田だ。
こうして、俺に『土方』という 名字が出来た。この時代通しての、本名だ。名前的に、やっと 斎藤さんや沖田、そして源爺に追いついた。俺としては、もっと早く決めたかったけど、両親が居ないと こうなる事もある。まあ、いつものことなんだけど。次回の話は、のんびりしている、 俺と沖田の話です。以上。
とうとう、名字が決まりました!実は、こうでした。よろしければ、続編もお楽しみに。それでは!