第三十九話 気組
俺が、近藤さんと対決する話です。
多摩地区に、俺と斎藤さんと沖田のいつもの三馬鹿トリオに、源爺も 一緒にいる。これから『天然理心流』の道場に、向かうところだ。俺は、遅かれ早かれ闘うことになるであろう近藤勇さんを倒す準備をしている。斎藤さんは相変わらず お洒落で、沖田は源爺にまとわりついて「ウキウキ」言いながら はしゃいでいる。そんな沖田を見ながら、源爺もご機嫌な様子だ。そして『天然理心流』の、道場に着いた。
「頼もう頼もう!道場破りに来た」と、俺。それを聞き、「トシさん!」と、斎藤さんが驚き、「トシ君!」と、源爺に諌められ、「ウキッ!」と、沖田に止められる。
近藤さんは、一つ息を飲み「がははは、かしこまりました」と言った。隣にいる野口君は、剣呑な様子で、臨戦態勢に既に入っている。
「殺し合いがしたい訳ではない。俺と近藤さん、どちらが強いか決めたいだけだ。こちらから一人 そちらから一人、審判を立て 木刀で闘おう」と、俺。
「かしこまりました」そう言うと 近藤さんは、きりりと表情を変え、道場のど真ん中に 、木刀を脇に置き座った。これぞ、武士。
「こちらの審判は、斎藤さんで。そちらは、野口君でいいか?」と、俺。
「はい。如何様にも」と、近藤さん。用心棒の野口君は、武具を持ち、何時でも闘えるようにしている。
「トシさん、近藤さんと闘うのは、これで最後にしてくださいね」と苦渋に満ちた表情の斎藤さん。
「じゃあ、最後まで立っていた奴が勝ちで!」と俺。「いざ!」と近藤さん。
とりあえず、強い。上段中段下段と、どこを攻撃しても跳ね返される。力だけで言えば、間違えなく俺以上だろう。しかも、近藤さんの攻撃は どれも力強い。一太刀でももらったら、もう俺は闘えないなくなるだろう。なので 斎藤さんと闘った時に編み出した、顔 喉 心臓 股間を狙う 四段突きを使う。なんとか顔面だけは突け、近藤さんをぐらつかせることが出来た。
「ふんぬっ!」と近藤さんが発声した。近藤さんの迫力とまとっている空気が、まるで違う。飲み込まれそうな迫力と、負けたら殺されると恐怖が沸き起こる。これが、武士か!近藤さんの一太刀一太刀の、重みが強くて、俺は防御だけに専念せざるえない。そして俺の木刀が、真っ二つに折れた。
「よしっ、久し振りの二刀流だ」と俺は言い、折れた木刀を両手に持ち替え、闘う。近藤さんも俺も、あちこちを痛め、血も流れる。強めの打撲どころじゃ済まなくなったところで、「そこまで!」と野口君が言う。それを聞いて、「それまで!」と、斎藤さんも言う。
「久し振りの二刀流と流血で、闘う気 満々なんだけどな」と俺が言うと、「ウキッ!」と沖田に俺の後頭部をポコっと殴られる。はっ、沖田が、近藤さんと仲良しなっていた事を忘れていた。「二人とも、そこまでにして下さい」と源爺が言い、俺の真っ二つに折れた木刀と近藤さんの木刀を回収する。
「だー、怖かった!近藤さん、強えじゃねえか」と言い、思わず 道場の床に大の字になる俺。
「がははは 笑!そちらも、私が今まで闘ってきた中で、一番強かった!」と床に座り込む、近藤さん。
「近藤さん、何か途中で、迫力と怖さが凄え事になったんだけど、技か何かか?」
「気組と言います。天然理心流の道場主として やっていくなかで、編み出した技です」
「気組か。思わず、飲み込まれそうになった。斎藤さんや松風と闘う時とは違う、恐怖だった。それと、沖田。もう、闘わないよ」
「ウキッ ウキッ」と言いながら、沖田は、俺と近藤さんの間に居て、再び闘わないか 警戒している。
「近藤さん!沖田君は、争い事やトシ君の戦いを、止める事が出来るのです」と、源爺。
「がははは 笑。有難かったです。折れた木刀で、二刀流!止められなければ、おそらく やられていたでしょう」と豪快に笑い飛ばす、近藤さん。
「気組か。さすが源爺が通うだけの、道場だけのことはある。じゃあ俺もそうだし、斎藤さんも沖田も、正式に この『天然理心流』の道場に入門しよう」と、俺。
「はい!」と、斎藤さん。
「ウキッ!」と、沖田。まだ、警戒している。
「気組が使えるようになったらいいけど、一朝一夕でできるものではないな」と感心する俺。
「そうですね。私では、使えません。ただ、槍なら トシ君にも、負けませんよ」と、源爺。
「どうだか。いずれな」と、俺。
こうして 天然理心流の深さ、気組の凄さを知り、俺と斎藤さんと沖田の三人で、正式に入門することになった。ずっと旅の連続だったので、一ヶ所に留まるのは久し振りだ。今なら、俺 斎藤さん 沖田の三馬鹿トリオの他に、源爺がいる。そして この後、ある程度 一緒にやっていく、近藤さんと野口君がいる。悪くない、状態だ!次回の話は、とうとう俺の名字が決まります。以上。
俺と近藤さん、どちらが強いか どちらが勝ったかは、読んでくれた人が決めてください。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!