第三十六話 多摩
江戸城から 多摩へ、向かっているところです。
せっかく江戸城へ到着した、俺と斎藤さんと沖田だが、今は江戸城を出て 江戸の城下町を、西へ向かって進んでいる。斎藤さんは、江戸城で新しい服を手に入れたので、上機嫌だ。沖田は、相変わらず 木の枝の棒を拾い、それを振り回しながら 遊んでいる。俺は 万が一でも、江戸の城下町に、俺の宝物『哀姫』がいないか、目を凝らしている。
「うーん、やっぱり江戸にはいないか。しょうがねえな」と、俺。
「哀姫様は、見つからないですか?」と、斎藤さん。
「念のため 多摩の方まで、足を伸ばしてみるけど そこにも居なかったら、京都でじっくり探すしかないな」と、俺。
「ウキッ」と、沖田。多分 沖田は、話を聞いてないな。まっ、いつものことだけど。
多摩地区に、到着した。緑の多い、自然豊かなところだ。
「あとは、俺の側の人間が多摩にいないかと、最後の最後の人生で 一時期、ここ多摩に住むことになるかもしれない。それも 多摩に来た、理由の一つだね」と、俺。
「トシさん、こんな所に住むのですか?」と、悲しい顔をする斎藤さん。
「うん。確かに 都落ちだけど、しょうがない。俺を自決させる為に自殺させる為に、作られた孤児院に入ることになると思う」
「そんな…、何とか そうならない方法はないのですか?他に道は?」と、さらに悲しい顔をする斎藤さん。
「これまで 回避出来るように、自殺も含めて 頑張ってみたけど、無理で無駄だった。今の俺としては、斎藤さんと沖田が、安心安全で無事なら、それでいい」
「ウキッ」と、沖田に言われ、頭を撫でられる。沖田なりに 励まそうとしているのだろうけど、「ふんがーっ」と、沖田の手を払いのけといた。
《今思えば、この頃は充分幸せだったのかもしれない。そりゃあ 家族はいないけど、唐沢師範や久米さん、と繋いで 斎藤さんと沖田がいる。独りぼっちでもなく、侍になるという志も 持っている。今現在の俺は、独りぼっちだが、今は 念能力者になるのを、じっと待っているところだ。我慢 苦労 辛抱の果てに、欲しいもの全部 手に入れてみせる。その時には、斎藤さんは親友として 同じ組織の一員として、一緒にやっていくつもりだ。もちろん沖田も、同じ組織の一員だ。今は3人ばらばらだが、そう遠くない未来 この3人だけでなく 3人以上の人達と、一緒にやっていけるだろう。あとは、きっかけが欲しい。俺の死も、大きなきっかけだろう。長くて16年、早ければすぐにでも、この敗北の人生が終わることを期待している》
多摩地区は 江戸ほど栄えてなく、人の数もそう多くない。多摩が悪い訳ではないが、将来の俺 最後の最後の人生では、ここに住むことになるのかと、どんよりした気分になる。
「トシさんは将来、こんな所に住まないと いけないのですか?」と、険しい顔になる 斎藤さん。
「具体的には 、どこに孤児院が出来るか分からないけど、最低最悪を想定すると ここ多摩地区に、10年ちょいは住むだろうね」
「トシさん、大して店も 人も、見当たりませんよ。こんなとこに、住まなきゃいけないのですか?」
「うーん、出来たら 住みたくないんだけど、俺としては。ただ、全宇宙の支配者 クソ大和田が勝手に決めるんだ。クソ大和田は、俺の言うこと 何一つ聞かず、自分で失敗して ドツボにはまって、それを俺のせいにする。すでに今も、俺対 大和田で 消すか消されるかの闘い中だから、少なくても いつかは、俺と大和田のどちらかが、消えてなくなるんだろう。出来れば なるべく早く、決着をつけたいけどね」
「トシさんが消えて無くなったら、俺は…」
「ウキ…」
「大丈夫!俺は、死んだ回数 世界一だし、消えて無くなることを選んでも、そうはならなかった。今は クソ大和田を完全にぶっ消せる能力が手に入るのを、待っているところだ。斎藤さんだって、そんな能力 欲しいだろ?」
「欲しいです!」
「今は いつか時が来るのを、待とう。とりあえず この人生では、侍になろう!」と、俺。
「はい!」と、斎藤さん。
多摩地区まで 歩いて来て、喉が渇いたので 井戸へ行く。すると その井戸端には、中年の大人の男がいた。その男は 刀を差し、水を飲んでいた。「ウキッ」と、沖田が 目を大きく見開く。斎藤さんも、懐かしい嬉しい顔をしている。俺としては、多摩地区まで 足を伸ばしてよかったと、安堵した。久し振りに会った、俺の側の人間。気付いた時には、沖田が 抱きつきに行っていた。
こうして これから先、ずっと一緒にやっていく男に出会えた。その男に出会えて、一番喜んでいるのは、沖田だろう。俺も、正直 ホッとした。わざわざ多摩地区まで、来てみてよかった。次回の話は、その男の正体と、喜ぶ沖田の話です。以上。
楽しんで頂けましたでしょうか。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。