第三十五話 出城
せっかく到着した江戸城を、出るところの話です。
京都から 江戸への旅を終え、俺と斎藤さんと沖田は、江戸城に入った。そして、三日三晩 宴会をした。なので、充分な休養は取れた。沖田は、大阪城は知っていても 江戸城は知らないから、「ウキ ウキ」言いながら、探検している。斎藤さんは、元旗本なので 江戸城が、グッとくるみたいで、これからの幕府 これからの会津藩について、幕府の家老と話し合っている。俺も同じく、幕府の家老や役人と打ち合わせをしている。
「やっぱり、ここじゃ駄目だな」と、俺。
「何が、駄目ですか?」と、家老。そう言った家老は、切羽詰まった顔をしている。
「うん。衣食住は足りてるけど、もうここは、俺の居場所じゃない。せっかく、辿り着いたんだけどね」と、俺。
「どうすればいいですか?」と、哀しげな家老。人間って、こんな哀しい顔をするんだな。
「うーん、家老が駄目とか幕府の役人が駄目って訳じゃないんだけど、時代が変わるんだ。今この時代に 遠い異国では、産業革命と言って 今まで出来なかったことが、出来る様になる。便利になって、暮らしが豊かになる。もちろん、物質的な豊かさだけどね。もう ちょんまげに、刀の時代ではなくなった」と、俺。
「トシさんっ!トシさんは、何でそんな事が分かるのですか?」と、幕府の役人。
「うん、この人生の前に、俺とか斎藤さんとか沖田で、遠い異国の英国で 過去の前世で俺達が、産業革命を起こしたんだ。苦しい戦争の果てにね。戦争は人の命が関わっているから、技術が格段に進歩する。その間 日本は、江戸幕府によって鎖国をし、平和は手に入れた。それと引き換えに、技術が進歩しなかった。そんなとこだ」
「幕府は、どうすればいいですかっ?」と、家老。
「うーん、例えば 民間人から、有能な人材を登用するとか。ただ、多分もう 間に合わない。力を持った雄藩が、徳川幕府を倒しに来るだろう。日本人同士の、内戦だね。こうなると幕府は、下手に戦わずなるべく早く 戦いを終わらすことを、優先した方がいい。じゃあ、風呂入ってくる」と、風呂に向かう俺。
風呂に向かう途中、幕府の若い役人と 宴会をしている、沖田と出くわす。まったく、人が幕府の者達と真面目な話をしている時に、沖田は宴会か。まあ 沖田は、遊ばせとくに限るので、脇腹だけ くすぐっておく。
風呂を上がって 大広間へ行く途中に、斎藤さんに出くわした。どうやら、会津藩のことと、これからの日本これからの幕府について、話し合ってたみたいだ。斎藤さんとは、お洒落について論じあっておいてくれと、助言しておいた。
そして俺は、幕府の者達が待つ、大広間へ戻った。
「もし仮に 幕府がなくなったら、日本はどうなるのですか?」と、すぐに幕府の役人から 質問される。
「富国強兵とか軍事国家とか 色々あるけど、なるようにしかならないよ。もちろん日本の近代化は、必要だろうけど。大砲と機関銃に対して、刀じゃ闘えないだろ。時代が、変わるんだ」
「時代が…」と落ち込む、幕府の家老。
「うん。幕府も倒されるし、武士の世も終わる。その代わり、幕府を倒す 雄藩の者達も、仕事とか特権とかがなくなる。自分達で、自分達の仕事を無くす為に、戦う。幕府の側の人間から見たら、それはそれで 面白いんじゃないか。武士や大名が戦に勝ったのに、ただの人になる」
「その後は?」と、幕府の役人。
「四民平等と言って、士農工商の身分制度がなくなる。あとは、志のある若者達に託そう。例えば 斎藤さんは、旗本の家の子供だったんだ。だけど今の世だと、あれだけの強さと才能がありながら、幕府にとっては たかが旗本ごときの出身という事で、埋もれてしまう。だけど そうならないように斎藤さんは、俺のいるところまで、たどり着いた。こういう人材が活躍する時代が、いい時代だと 俺は思う」
「そうなのですか…」と、家老。
「そうなんです。じゃあ そこの君、斎藤さんと沖田に、明日の朝 江戸城を西に向かって出立すると、伝えてきてくれ。もう風呂にも入ったし、宴会も出来た。俺が江戸城ですることは、もう何もない。かかれ!」
「はいっ!」と、俺に指名された幕府の役人が、急いで 斎藤さんと沖田のところへ向かった。
翌朝 すっかり旅支度をした、俺と斎藤さんと沖田で、お世話になった江戸城の人達に、最後の別れをする。
「それじゃあ、世話になったな。ありがとうございました」と、俺。
「トシさんっ!トシさんが将軍にならなかったら、我ら家老一同、腹を切るつもりです!」と、家老。
「アホか!こんな事で 詰め腹切られたら、お前達の家族にあわせる顔がない。ここじゃ、出来ない事もある。それと 俺の名前は、歳三だ。活躍を楽しみにしておいてくれ」
「お世話になりました。会津地方のことで、また 話し合いましょう」と、斎藤さん。
「ウキッ」と、沖田。沖田は、何やら幕府の若い役人に、荷物を持たされている。
「それでは!」と、俺。
江戸の城下町を歩く、俺と斎藤さんと沖田。
「じゃあ、哀姫を探して、多摩に行こう。そして 強くなって、京都で 侍になろう!」と、俺。
「そうか。哀姫が、いないか。江戸城に居ても、しょうがないのか」と、斎藤さん。
「江戸城じゃ どう考えても、哀姫には会えない。俺の宝物の哀姫は、きっと京都にいる。俺達3人が揃ったら、ちゃんと哀姫を見つけ出さないと」と、俺。
「ウキッ」と、沖田。《うん。多分、沖田は分かってないな。全然、いいけど》
こうして俺達3人は、江戸城を後にした。この後 徳川幕府は、揺らぐこととなるが、俺が将軍になって幕府を延命させても、しょうがない。平和な時代が、徳川幕府の手によって二百年以上続いただけで、もう充分だろう。次回の話は、江戸の西にある多摩に向かいます。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。続編も楽しみにしてくれると、嬉しいです。