第二十九話 風邪
京都から江戸へ向かう旅の途中、風邪をきっかけに 三人がバラバラになりそうになる話です。
俺と斎藤さんと沖田とで、京都から 江戸へ向けて、旅をしている。その旅の途中、道半ばで、斎藤さんが 重い風邪を引いた。旅館に泊まり 俺と沖田で 看病をするが、斎藤さんの症状は 一向に良くならない。でも、江戸へは向かわなければならない。二日間 様子を見て、俺がおぶってでも 出発することにしてた。
《この風邪は 沖田風邪と言って、沖田の味方をすると、こういう状態になる。沖田は 史上最も、全宇宙の支配者 クソ大和田を殴り倒した男だ。それも三日三晩、徹夜で殴り倒す。でも クソ大和田では、天才中の天才 沖田は倒せない。なので クソ大和田は、沖田に呪いをかけた。世界中の呪術師を、集めてね。その結果、沖田の味方をする者には、普通の人なら 死んでしまう風邪を引いてしまう。これが 沖田風邪。その風邪が、斎藤さんに降りかかった。ただ 沖田は、沖田風邪の存在を知らないので、気付かれないようにしなくては!》
旅館の人に別れを告げ、俺と斎藤さんと沖田の三人で、江戸へ向けて出発する。旅館の人の勧めで、風邪薬をもらった。効くかどうかは 分からないけど、もし効いたらいいな と思い、念のため 斎藤さんに飲ませておいた。荷物は最小限にして 沖田に預け、俺は 斎藤さんをおんぶして江戸を目指す。
「旅館でもらった 風邪薬が効くと良いけど。斎藤さん、病は気からと言うから 気持ちを強く持って、少なくても こんなところが、斎藤さんの死に場所ではない」と、俺。
「ウキッ」と、沖田。重い三人分の荷物を持っているのに、辛い顔を微塵も見せない。
「トシさん、俺 もう駄目なら、置いてっていいですからね」と、斎藤さん。虫の息とは、こういう人の状態を言うんだな。
「馬鹿かー、何で 俺の唯一無二の親友を、置いてかなくちゃいけないんだ。それが 侍を目指してる人間のすることか。いずれ治る、ゆっくり休め」と、俺。
「ウキッ、ウキキッ!」と、沖田。どうやら、沖田なりに 励ましているみたいだ。
時刻は ちょうどお昼時だったので、近くの木陰で少し休むことにした。
「沖田 この金で、水を分けてもらってきてくれ」と、俺。「ウキッ」と言い、沖田が 走り去った。
「トシさん、俺 もう駄目ですか?こんな時に 何で原因不明の風邪に、俺がかからなくちゃいけないんだ!」と、斎藤さん。
「原因は 分かっているよ。俺としては、そろそろかって感じかな」と、俺。
「何が 原因なんですか?俺 何か悪いこと、しましたか?」と、斎藤さん。
「斎藤さんは、沖田に優しいからだよ。何も 間違ってないけどな」と、俺。
「そんな理由で!じゃあ、沖田に厳しくしろっということですか?」と、斎藤さ
ん。
「あー、もう!別に いいや。じゃあ 斎藤さんが、重い風邪を引いた理由を教えてやるよ。斎藤さんの病名は、沖田風邪。沖田が、クソ全宇宙の支配者 クソ大和田を、会うたびに 馬乗りになって三日三晩殴り倒した。数え切れない程にね。そのぐらい斎藤さんも、知っているだろ。クソ大和田の反撃は、沖田を呪い倒すことだった。結果、沖田に味方する者は 沖田風邪にかかるようになった。だから 斎藤さんは今、風邪を引いてるんだよ。俺は 大馬鹿だから、順番が後回しなんだろう。斎藤さんは、こんなところで死ぬ男ではない。ただ 沖田が、気付いてしまうだろっ!自分のせいだと思ったら、どうしてくれるんだっ!さっきから 木の陰で、沖田が こちらの話を聞いているからよ」と、俺。
「すいませんでした!沖田のせいじゃありません!」と、斎藤さん。
両手に水を持った 沖田が、水を地面に置いて 泣きながら走り去って行った。
「沖田!止まれ!これじゃ 敵の、思う壺だ!沖田は、何も悪いことはしていない。斎藤さんも、死なない。俺たち三人は、侍になる」と、俺。
泣きながら暴れる 沖田を、俺は しっかり捕まえる。多少 殴られて蹴られるが、俺はそんなことを気にしない。沖田が本気で暴れたら、こんなものじゃ済まないからね。
「クソ全宇宙の支配者 クソ大和田の思い通りに、なっていいのか?」と、俺。
「ウキーッ!」と、激しく首を横に振る 沖田。
「沖田は、何も間違っていない。仮に間違えたとしても、俺も斎藤さんも、咎めたりはしない。こんなところでこんなことで 死ぬようなら、それは斎藤さんが弱いってだけの話だ」と、俺。
「沖田、すまん!」と、斎藤さん。何とか這いつくばって、ここまで来たみたいだ。
「沖田には、自由がよく似合う。いつも通り、明るく無邪気に遊んでいなさい。そして今は、斎藤さんが元気になるように、俺と沖田で 頑張っていこう」と、俺。
「ウキッ!」と、沖田。まだ 泣き止んでいないが、しっかり答えてくれた。
こうして三人が、バラバラになるのは 避けられた。まだ 安心は出来ないが。あとは早く、いつもの三馬鹿トリオに 戻れるように、それぞれ頑張ること。以上。
よろしければ、続編も楽しみにしてくれると、嬉しいです。