第十八話 出立
薩摩からの、出発の話しです。
薩摩での暮らしも、終わりが見えて来た。俺は、同世代の子供達に剣術を教えたり、単純に笑わせたりしている。オダギリは、武具を一式備えたり、もう既に旅支度を始めている。しかも、仏教の高僧の【久米】を通じて、薩摩藩では手に入らない、お洒落な品を購入している。さすがだね。そんな折、本郷家のし婆婆に呼ばれる。あえて距離を取っていたのに、きっとろくな事もないだろう。
「今度からは、本郷家に住む人は、お金を払ってもらいます」と、し婆婆。ほら、ろくな事はない。
「おれとオダギリが、住んでいるところは、本郷家の東側にある、東郷家何だけども。自分達で廃墟を作り直して住んでるのに、何で料金を払わなければならないんだ」と、俺。
「二人とも働いているみたいですし、幾ばくかのお金を貰うのは、当然です」と、し婆婆。
「お金は、ここに来た時、唐沢師範が、支払い済みなんだけども。何の世話にもなっていないのに、何で泣けなしの金を払わなくちゃいけないんだ。オダギリだって、払いたくないよな?」と、俺。
「はい。少なくても、俺は払わないですね」と、オダギリ。
「いつから、払わなくちゃいけないんだ?」と、俺。
「明日の昼からよ。その分、お昼ごはんを作るから」と、し婆婆。
「分かった。オダギリ、撤収の準備をしよう。生臭坊主に、知らせてくれ」と、俺。
「かしこまりました。トシさん、払わないですよね?」と、オダギリ。
「さあ、それはどうかな」と、俺。
俺と仏教の高僧【久米】とで、今後のことを話し合う。
「よしっ、生臭坊主すぐにでも、薩摩藩から、出立するぞ」と、俺。
「急ではありますけれど、大丈夫です。トシ君も、旅支度の準備をして下さい。私は、金子と籠の用意をしに行きます」と、久米。
「了解。うおっ、刀買ってる暇がねぇ」
オダギリは、以前から旅の準備をしていたので、身支度にそんなに時間は、かからない。刀も大小、ちゃんと用意してある。俺の方は、まずはお世話になった大工の棟梁に、お別れの挨拶に行く。棟梁には「お前らは、こんなところに収まる奴等じゃない」と言われ、「何かの足しにしろ」と、お金を貰う。正直有り難かったので、丁寧にお礼を言い、その場を後にした。あとは、東郷家に戻り、持って行く物、置いて行くものと、荷物の準備で、てんやわんやになった。それをしり目に、「これ何かどうぞ」と、オダギリが、俺の為に日本刀を用意してくれた。やっぱり、持つべきものは親友だね。侍目指すなら、刀ぐらい持っておかねば。そうこうしているうちに、明日の昼になった。
本郷家でし婆婆が、嬉しそうな卑しい笑みで、俺とオダギリを待っていた。
「それでは、料金の刻限になったので、お金を払ってもらいます」と、し婆婆。
「それでは時間になりましたので、薩摩藩から、出て行きます」と、俺。
「はっ?」目論見を外した、し婆婆が、キョトンとしてる。
「まだ正確に言うと、お昼になってないので、今を持って、本郷家と東郷家並びに薩摩藩を、出立します。よって、お金は一銭も払いません」と、俺。
「ハハハっ、さすがトシさんですね」と、オダギリが笑う。
「待って下さいっ。料金を安くします!」と、し婆婆。
「日高さんも、こんな婆婆に取り憑かれてないで、自分の人生と自分の女について、しっかり考えた方がいいですよ」と、俺。
「私は、料金を貰うのは反対だった。料金なら、東郷 トシさんが、薩摩に来た時に、もう頂いている」と、日高さん。
「それでは、俺、オダギリ、共に薩摩から撤収で」
こうして、俺とオダギリは薩摩を出て、久米さんと合流した。薩摩藩を出ることが決まって、本当に久米さんは嬉しそうだ。これで、トシ君と旅が出来るとはしゃいでいる。聞いたら、子供好きだそうだ。どうりで。そして俺の名前が、東郷 トシではなく、歳三だと、教えといた。名字が、まだないことも。相変わらず、トシ君と呼ぶみたいだから、あまり関係はないみたいだ。これで、本郷家はもちろんのこと、東郷家ともお別れだ。せっかく、絶賛改装したのに。そして、俺とオダギリと久米さんで、まずは九州を、東に向けて出ることになる。さて、どうなることやら。以上。
よろしければ、続編も楽しみにしてくれると、嬉しいです