第十三話 東郷
薩摩での話です。
薩摩藩の本郷家で、暮らすことになった俺は、まずは寝床の準備に取り掛かる。有り難いことに、そんなに寒い季節じゃなかったので、もともと持っていた上着を、布団代わりにすると、何とか眠れそうだ。本郷家の隣りにある、朽ち果てた馬小屋で、寝起きしようと決めた。大工仕事が、必要だ。飯は、本郷家で食べれるとのことなので、当座の資金作りも兼ねて、大工でもやるか!
「頼もうっ頼もう!」と、建設現場の大工の棟梁らしき人に、話しかける。が、子供は寺子屋へ行けと、言われる。が、諦めない俺は、「よっ、棟梁、いや大統領!」と持ち上げてみる。棟梁らしき人、わらう。
「腹が減ったら、大工仕事に限る」と、棟梁らしき人に話しかける。
「何だ、たしかに俺が棟梁だけど、小僧っ今幾つだ?」
「もう、大工仕事をやるには、ちょうどいい頃合いで」と俺。
「見たところ五~六才といったところか。何だ、金にでも困っているのか?」と棟梁。
「はいー。お金もそうですが、大工仕事も、身につけたい。手伝いでも、何でもいいからお願いいたします」と俺。
「まあ、手伝いたいなら、手伝ってもいいぞ」と棟梁。
こうして俺は、大工仕事の勉強と、自分の寝床の改良に、時間を費やしていた。本郷家の皺くちゃばあさんとは、飯の時に顔を会わせるぐらいで、俺は、し婆婆と名付ける。し婆婆は、何かにつけて、家事を手伝わそうとしたり、俺の大工仕事のほんの少しのお給金を、寄こせと言ったり、俺とは冷戦状態になっていた。そんな中、本郷家の当主と言う、日高と名乗るボロボロの侍が、帰ってきた。絵描きを目指して、日本中を旅していたらしい。俺は『東郷 トシ』と名乗る。名前の由来は、俺がピカピカにした俺の寝床が、本郷家から見て東に建っていたので、名字は『東郷」とした。名前は『歳三』だが、こんなところで本名を名乗っても、意味無いと思い『トシ』とした。
し婆婆からは、家事を手伝えと、言われたが、日高からは、寺子屋へ行くように言われたので、それではということで、寺子屋へ行くことにした。寺子屋へ行ってみると、この感じだと何も学ぶものが、無いと思い、さっそくサボって大工仕事に、出かける。子供を働かせるのかと、し婆婆と日高が、揉めている。俺は、知らん顔しているが、確かなことはこの状態だと、侍になれない!何か、きっかけがあれば!
取りあえずは、自分の寝床に続いて自分の部屋も、絶賛改装中!大工仕事の時に、余った資材を匠の技術で、絶賛改装中!あの朽ち果てた馬小屋が、こんな素敵な住処に!そんなことをしていると、ある日、とある少年が、隣りに流れ着いた。その少年は、身なりはボロボロで、虚ろな目をしていた。
「ここに住んでも、いいですか?」と、その少年に聞かれる。
「もちろん。雨風ぐらいは、しのげるよ」と、答える。
一目みて、ピンときた。この少年こそが、俺の唯一の親友。名前は、オダギリ ジョー。ただ、本人が自分が誰だか、俺が誰だか分かっていない様なので、しばらくは放っておこうと思う。唐沢師範とトモ子さんは、もういないけれど、捨てる神あれば拾う神ありで、親友が、運命によって運ばれて来た。さて、どうなることやら。以上。
よろしければ、続編も楽しみにしてくれると、うれしいです。