第十二話 到着
旅の終わりの話です。
とうとう、俺と唐沢師範とトモ子さんの、珍道中も終わりを迎えようとしていた。途中で、長州に立ち寄り、これからを担う若者たちを見た。唐沢師範には、どうせ住むなら長州藩はどうかと聞かれるが、薩摩での『郷に入っては郷に従え』のことわざを、経験したかったで薩摩へ入ることにした。
薩摩へ入ると、取りあえず、住む家を探す。唐沢師範は、なるべく良い家をと、頑張って探してくれるが、何のツテもなくなかなかこれといった家が、見つからない。
「唐沢師範、取りあえず、雨風しのげれば何だっていい。高望みはしないよ」と俺。
「歳三っ、歳三が住む家だぞ!なるべく良い家をなるべく良い条件で!」と鬼気迫る唐沢師範。
「うーん、取りあえず、空き家とか貧乏長屋とかも候補に入れて、探しましょう。刀さえ手に入れば、金はどうとでもなる」と俺。
しばらく歩いていると、表札に『本郷と書かれた、ボロ屋があった。連なって、朽ち果てた馬小屋らしきものもある。
「もう、ここでいいよ、唐沢師範。俺が住むには、ここで十分だと思う」
「歳三っ、もう私に出来る事は、ほとんどない。せめて、いい暮らしをして欲しい。時間なら、まだある。投げ遣りになってはいけない。ちゃんとしたところを、探そう」
「うーん、取りあえず、今あるお金で、住めたらこの『本郷』とかいう家で、決定で」と俺。
本郷家に声をかけると、中から、性格のキツそうな、皺くちゃのおばあさんが、出てきた。うおっ、やっぱり、やめといた方がいいかも。唐沢師範が、ここは侍の住む家か?とか、道場には通えるか?とか、学問は出来るのか?とか、色々、聞いている。俺はというと、トモ子さんに後ろから、抱き締められている。でへへ。
「歳三っ、本当にこの家でいいのか?」と唐沢師範。
「はいーっ」と俺。
「金さえ払えば、住んでもいいらしい。私は反対だが」と唐沢師範。
「なけなしの金がー」と俺。
「もう、私達にはお金は、必要ないから。トシさんが、自由に使って!」と、優しいトモ子さん。
「お金は、おっかねえー!」と俺。
「歳三、私に出来る事はもうない。歳三なら、ただの侍ではなく、強い侍優しい侍に、なれると思う。歳三といた時間は、私にとって宝物だ。残念だけど、これでお別れだ。私とトモ子は、次の人生に行くこととなる。本当は、歳三が、立派な侍になるのを、見届けたかった。せめて、もう少し時間あれば!」と唐沢師範。どうして、別れってこう辛いものなのかな?
「唐沢師範に、見いだされ、侍を目指すことも、出来た。名字は、まだだけど、名前も歳三に決まった。ちゃんと、俺を表す数字4も、入っている。『し』か『よ』が、名前に入ること。それに何より、唐沢師範、そしてトモ子さんと過ごした時間は、貴重で楽しかった。今まで、育ててくれて、ありがとうござんした。うん?何語だ?」と俺。
「トシさん、体に気を付けて。いいお嫁さんをもらって!」とトモ子さん。
「はっ!トモ子さんが、俺の嫁さんに?」
「ははっ、トモ子は私の嫁だ。諦めろ、歳三!それでは、さらばだ歳三!」と唐沢師範。
「お世話になりました。二人とも、元気で!生まれ変わっても、ちゃんと巡り会わなければ駄目ですよ!それでは!」と俺。
こうして、俺はまた一人ぼっちになり、金もないし刀さえない。そんな中、薩摩藩の下級武士の家、本郷家に居候になることとなった。さて、どうなることやら。以上。
よろしければ、続編も、楽しみにしてくれると、うれしいです。