第百十八話 高杉
長州藩に、役者を目指す者の身体を借り 潜伏し、名字を高杉と決めます。余命三日間の内、1日目も過ぎ去ります。また、中身を俺が演じたテレビドラマの事と、今の俺の近況報告と想いも、描かれています。では!
時代は幕末、火力だけは勝る 欧米列強の圧力と、それに屈した徳川幕府。これにより 武士の世、その分 平和だった世から、内戦 大戦につながっていく、時代の転換期を迎えていた。突出して動いた 長州藩に対し、一度失敗しているのに徳川幕府は、何の大義名分もないまま、第二次征討令を出し 平和に慣れ烏合の集の各藩と共に進軍し、長州藩に攻め入ろうとしていた。そんな中、新選組 副長、俺 土方歳三は、役者を志す 高良健吾という名の長州藩士の身体を借り、その中身として長州藩にて、徳川幕府と戦えるよう 奇兵隊を組織し、余命3日間の身体で 歴史を創り 歴史を見届けようとしていた。
元 新選組の隊士で、今は長州藩士 伊藤君と、戦える下準備 町民と農民から成る、奇兵隊を組織した。ヒットアンドアウェイを主戦術とする、鉄砲と大砲の使い手たちだ。
「じゃ伊藤君、鉄砲と大砲の訓練はしたから、あとは装備を整えよう。鉄笠、顎紐、黒服、白襷とね。同じ格好、同じ制服を着ていれば、勝手に組織として連帯感が出てくる。その事は、伊藤君も、新選組にて 体感しているだろう?」と俺。
「はい!僕では、毎日が命懸けの新選組の隊士は、勤められませんでしたけど。制服の他は、入り用のモノはありますか?」と、伊藤君。
「1番入り用なのは、時間だ。こればっかりは、しょうがないけどな。あと、この借りてる身体での名字を、高杉とするよ。そこに、高い杉の木があるからね。このままいくと、長州藩や 奇兵隊と、新選組は 戦う運命となるしね。長州藩士に、トシさん という通名が知れ渡ると、新選組の侍たちにとって、俺が裏切り者となりかねない。なので 伊藤君は、俺の事を高杉さんと呼んでくれ」と俺。
「そうか…、徳川幕府に最後まで 味方する、新選組にとっては、裏切り者になりかねないのか…。そんな状況の中、わざわざ長州藩へ来て頂き、ありがとうございます。では これからは、トシさんのことを、高杉様とお呼び致します。高杉様、長州藩が潰されず 僕なんかが生き残れたら、僕の下の名前も 名付けてください。では、装備品を至急 手配して来ます」と言い、伊藤君は 手配に向かう。
「奇妙 奇天烈、奇兵隊!」と、俺は歌いながら 奇兵隊の訓練にあたる。町民や農民から成る 奇兵隊は、人を殺した事がない者が、ほとんどだ。なので、武器の扱いに慣れたら、殺さなきゃ殺される。戦いたい者が、戦え。人を殺したくない者は、鉄砲を撃たずにいいから、弾込めや 後方からの支援にあたれ、と俺は伝える。
練度が上がっていく中、「お侍様!名を教えてください」と、尋ねられる。
「ああ。高いに杉の木で、高杉だ。下の名前は、まだ 決めていない」と俺。
「高杉…。高杉様は、お侍様なのに、髷はゆわないのですか?」と、奇兵隊の者。
「うん、俺が長州藩の為に働けるのは、今日を入れて3日間だけだ。余命が3日間だからね。ざんばら頭だけど、余命 3日の男が髪型に、こだわってる場合じゃない。じゃあ、あとは隊列を組んで 行進の仕方だけだ。鉄砲と大砲の訓練は、もう充分だ。弾も、もったいないしね」と俺。
「高杉様!これで我ら 奇兵隊も、長州藩の為に戦えますか?」と、奇兵隊の者。
「ああ。刀と槍での対決じゃなければな。それと君たちは、武士ではないから もっと大きな目で、長州藩だけじゃなく、この日の本の日本国の事も 考えてくれ。一度ならず 2度も失策の征討令を出した徳川幕府は、なくなる。日本国は開国し、武士という存在もなくなる。四民平等となる。これからは、お上を自分たちで選べるようになる。それには、この内戦 ちゃんと生き残り、人的被害を最小限にするよう努めなさい」と俺。
「我らがお上を選べるなら、高杉様がいい。分かっている事は、高杉様は強くて優しい」と、奇兵隊の者。
「俺が長州藩の為に働けるのは、3日間だと言っただろう。日本人として見れば、長州藩だけに肩入れしている場合でもない。君たちは、強くなった。あとは日本人同士の内戦、やり過ぎないようにね」と俺。
「高杉殿!装備が、整いました」と、伊藤君が、長州藩士と共にやって来た。ちゃんと鉄笠 顎紐 黒服 白襷とあり、米に日本酒まで 用意してある。
「こちらも、来る者拒んで 去る者追わずの、奇妙 奇天烈 奇兵隊の訓練は、終わったよ。戦を知らない 徳川幕府の先兵たちとは、充分に戦えるし 長州藩にとって、戦力ともなるだろう。じゃあ、飯!」と俺。
奇兵隊の者たちは、握り飯を頬張っている。その間に、装備を装着させる。分かっている事は、これから攻め込まれる。時間がないからね。
「高杉殿、長州藩が 徳川幕府により、お取り潰しになるどころか、天下を取れるというのは、誠ですか?」と、長州藩士。
「ああ。徳川幕府の攻撃を凌いで、他の雄藩と同盟を結び 手を組めばね。政治家としては、調整型だけど そこに居る、伊藤君がね。まさか 長州藩で、誠という言葉を聞く事になるとは、思わなかったけどね。訳は、誠 一文字を旗とする 元 新選組 隊士 伊藤君に、聞いてくれ」と俺。
「フフッ笑。誠 一文字、懐かしいですね。僕には勤まらなかった、史上最強の剣客集団 新選組の旗印ですからね。毎日が斬った張ったの命懸けじゃ、僕は とっくに斬られてる。高杉殿、そんな僕でも 長州藩では、ちょっとした顔役なのですよ」と伊藤君。
「だろうな。すんなり 話が通る。じゃあ もうすぐ、日が暮れてしまうから、奇兵隊の連携の取れた連撃と、ヒットアンドアウェイの戦い方を見て、町民と農民から成る 奇兵隊の使い方を、考えといてくれ」と俺。
俺は、飯をたらふく食べ終わった 奇兵隊の者らを、並ばせる。装備品を整えた奇兵隊は、なかなかの存在感を醸し出している。
俺は、色々な隊列を奇兵隊に叩き込んだから、撃つ 離れる。撃つ 離れると、繰り返し まとまった弾丸を、目標に向かって 放てる事を証明した。
それを見た 長州藩士たちは、皆 驚き「これなら、徳川幕府とも戦えるかもしれない」と、歓声を上げた。
「うん、あとは大砲の使い方と、軍艦の使い方だけだね。政治は、伊藤君が頑張ればいいし。奇兵隊の存在で、長州藩がお取り潰しに成る事は、なくなったよ。長州藩 単体だけでは、天下は取れないから、どの藩と組むかも 諸々、考えといてくれ」と俺。
「だから、言っただろう。今 長州藩は、高杉殿のおかげで、日の本の中心なんだ。今日は、もう日が暮れるから、明日 明後日だけで 長州藩の栄光を、しっかり掴むぞ」と伊藤君。
そう発破をかけている伊藤君が、将来 初代内閣総理大臣に成ると、俺以外 誰が予想できただろうか?長州藩が、徳川幕府によって お取り潰しになろうとしている時にも、それをしのげば ピンチの裏にチャンスがあり、という事だった。
《役者になる男の中身か。テレビドラマ『高校教師』の時の真田広之の中身と、テレビドラマ『愛してると言ってくれ』の時の豊川悦司の中身なら、当時の俺だ。『高校教師』の時は、まだ デビューもしていない脚本家 野島伸司の、人間の内面をえぐり出させる脚本を気に入り、採用した。脚本が最後まで 描かれていなかったので、ラストシーンは赤い糸で ボカしてとなってしまったが。『愛してると言ってくれ』の時は、嫌々 出演した。元 全宇宙の支配者 クソ大和田の推薦した糞女、そして 俺の念能力を奪ったクソ常盤貴子との共演だったからね。カメラの前でしか絡まないようにして、撮影が終わったら このまま豊川悦司として生きていくのが 嫌だったので、焼身自殺で 人生を終わらせた。そんで2018/02/21今現在の俺は、東 清二という名で36歳とちょっととなり、天皇にもプロ野球選手にも なる筈が、社会の最底辺で 生き地獄をのたうち回っていたりする。俺にとっては、本当の自分 大天使長 ドン・リュシフェルに成る前の、やっと最後の最後の人生だが、最低最悪の人生となってしまった。要因は諸々あるが、書き難い。なので、残り14年間を切った 俺の寿命が尽きるか?念能力が復活するのを、今の俺は 願っている。ちなみに土方歳三なら、天国でピンピンしていて、出番を待っているところだけどね。あとは、もう離れ離れになる事はなくなる、俺の全ての人生通しての宝物 ピノコ・ナディア・哀姫に、なるべく早く 巡り逢いたいな》
こうして、自らを高杉と名付け、長州藩に潜伏しての1日目が終わった。元 織田次郎三郎信長公の俺が、職業軍人の奇兵隊を組織する事は、そんなに難しい事ではなかったりする。次回の話は、長州藩での2日目 俺の名字だけじゃなく名前も決まるのと、実戦で 奇兵隊が活躍します。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!