罪人、外に出れない
こいつは何を思ってこんなことを言ってるんだろうか。まさか本心ではないだろう。ないと思いたい。命乞いの内容ではなかったしなぁ。
そういえば、スキル[読心]があった。そう思いスキルを発動させる。
(暗黒神龍を痛めつける前の笑顔かっこよかったなぁ。こんな人に痛めつけてもらえたらさぞ気持ちいいんだろうなぁ)
そっとスキルを止める。初めてスキルを使ったことを後悔した。
確かに俺は生物を攻撃する時に気分が上がって笑ってしまう癖がある。でも、それは綺麗な笑みとかではなく獰猛な獣のような野蛮な表情だ。決して女の子がかっこいいと感じるようなものではない。
でもそういうところも面白いと思ってしまう俺はやはり異常者なのだろう。右手に持っている剣を彼女の顔ではなく、その横にある何もない空間に突きつける。
「今お前はここで死んだ。これからは、俺のために命を使え」
相手の瞳を見てはっきりと言う。
彼女の顔には感情を持っていないような無表情が張り付いている。俺の経験上こういう表情をしている奴はたいてい心が壊れているか狂っているような異常者だ。
魔物の死骸が散乱しているところで全身血まみれの汚れきった俺に対して、こいつは一目惚れしたと言った。
そんな奴の精神が正常なわけがなかったのだ。
俺も生物を攻撃する時以外はこんな顔をしているのだろうか。
「わ、分かりました。ご主人様」
消え入りそうな声でそう返事を返した。表情はあまり変わらないがどこか嬉しそうな残念そうなよく分からない雰囲気が伝わって来る。
「俺は坂倉悠だ。お前の名前は?」
「ユウ様ですね。私はリリムと申します」
「リリムはどうやってこんな場所に来たんだ?」
「私は、見ての通り奴隷です。最高危険大陸ディスペラーティオの調査と言う名目での実質上の死刑を言い渡されまして、首輪が付いているため命令に逆らえず転移魔方陣でこちらに来ました」
なるほど、この大陸はディスペラーティオというのか。あの神は何を考えて最高危険大陸なんて呼ばれているところに送り出したんだ? 生かす気あるのかなぁ。
後は、首輪だな。首輪が付いているから逆らえなかったと言うことは、それに何か仕掛けが付いていると見ていい。
そう思い首輪に向けてスキル[超越級解析]を使用する。
名前:奴隷の首輪
現在の所有者:ハロルド・モーン(男)32歳
所有者として登録された者の命令に逆うこと、首輪を無理にはずそうとすると、激痛が生じるように闇属性の魔法が付加されている。
製作者:カイル
制作時期:2102/8/3 16時49分25秒
……
頭の中に情報が入ってくる。まだまだ情報の開示ができるのだが、そこまで詳細には必要ない。
闇属性魔法で首輪に干渉し、所有者を俺に書き換える。
「首輪の所有者を俺に書き換えたが、問題ないな」
「はいっ。これからよろしくお願いします」
そう言い、頭を下げお辞儀をしてくる。まだこいつは俺のことを信頼仕切ってはいないだろうが出来るだけ早く堕としてやりたい。
「早速だが、転移の魔方陣があるところに連れて行ってくれないか?」
「大丈夫ですが、魔方陣では外の大陸にいけませんよ」
「どういうことだ?」
「あの転移魔方陣は一方通行なので外からここに転移することは出来てもここから外には転移できません。もしそんなことが出来てしまったら町の中に魔物が現れて大変なことになってしまいますからね」
確かにそうなのだが、それでもいい。魔方陣さえ見つかればスキル[超越級解析]と空間属性の魔法で何とかできるはずだ。
「それについては心配要らない。俺は強いからな」
「申し訳ありませんでした。それではこちらです」
「ここか。分かりにくいなぁ」
リリムについていくとそこには建物などは何もなく、いつもと変わらない荒野だった。荒野にポツンと魔方陣が描かれていた。
周りにはいつもと変わらず魔物の死骸が散乱しているので、俺も来たことはあるのだろう。
魔法陣に向けてスキル[超越級解析]を発動する。
名前:ラルネーシア式転移魔方陣
送信先:未設定
送信先が設定されている場合一定量の魔力を流すことでこの魔方陣から五m上までの空間を送信先に送る。他の転移魔方陣から送られてくることもある。
「リリムはどこから転移魔方陣を使ったんだ?」
「ラルネーシア王国の王都にあるモーン伯爵の屋敷地下ですね」
どこかは全く分からないが、この魔方陣の送信先にそこを設定するようにイメージしつつ魔法を使い、魔方陣に魔力を流す。
魔方陣に変化はない。スキル[超越級解析]で調べてみても送信先が未設定のままだった。
空間魔法は具体的に場所を知っていないとダメなのかもしれないな。
もうここには魔物がいないため外に出たい。リリムもせっかっくだから連れていきたい。
俺だけなら泳いででもいけるのだが彼女と一緒には無理がある。
そもそも方角も分からないのだから。
困ったな。どんなことでもスキルがあれば何とかなると思っていたから出来ないとなると手詰まりだ。