客観的には塩コショウ程度のスパイス
「おい。そこの」
学校が終わって、学校の部活をやっていない生徒はいかに早く家に着くかを競う帰宅部に入る。うそだ。
とりあえず、つまり、私は早く家にかえってごろごろしたかった。学校を出たのが五時前で今は五時過ぎ。気持ち早足である。このペースで歩いたら、家まで15分ってところで後ろから声をかけられた。
ずいぶんな引き留めかけかたである。何様じゃい!
ぶんっと勢いよく振り返った。本当なら無視してた。けど、この通りには見渡す限りで私以外が居たような気がしなかったのだ。
「えぇっと、なんですかな?」
とっさに出たのはそんな言葉。いや、だって。なんだいこのイケメンは。目の前の男をガン見してやる。じろりんちょ。
だってさ、なんていうか、さらさらな髪の毛にスッキリした顔。全体的には派手じゃなくて癖のない感じ。私のポンコツな頭からではそんなチープな感想しかでてこないけど、まぁ、イケメンでも私好みってやつなんだけど。
「あ、っとすまん!これ、罰ゲームなんだわ。紙に書いてることを知らない人に言えみたいなさ。」
ちょっと意味わかんない。なんか、目の前の爽やか系な誰得俺得なイケメンが照れながら言い訳してきた。
いやいやいや、用がないんかい。あれ?もしかして、え?ってほんのちょっと、本当にちょっと1ミクロンほどなんか期待してもうたがな!あの一瞬で、なんかいろいろ!妄想した!想像とも言うけど!なんやねん。関西弁だって使いたくなる程落ちなし!
「あっ。そうなんですね、用がないようなので」
えへへ、なんてよく分からないが笑顔で照れを隠し少しお辞儀してフェードアウトする。
初対面の人って緊張する。人見知りだし。変なやつって思われてない?むしろあの人が変な人なんだけど、いやイケメンはなにしても許されるし!なんて、あたふたする心を沈めるために。とりあえず文句をつらつら。
ほんと、なんなんだよ!!!さっさと帰らしてくれよ!意味わかんねーよ!高校生にもなって、んなばかなことするじゃねぇよ!
そういえば、あの制服。まゆみの家の近くにある私立高校の進学校の制服じゃない?
いや、ほんとなにしてるの。今どき小学生でも罰ゲームで紙に書いてあること言わねーよ。ってかあの言葉のチョイス、誰だよ。教えられても知らないけどね。
なんて日だ。でも、イケメンみた。なにもない日常にかけられた塩コショウ程度のスパイス。
明日自慢しよ。会話のネタにはちょうど良いかもしれない、と思ったところでまた声をかけられた。そして手を引かれて何かを握らされた。
「あーっと、さっきのこ!いや、本当にごめん。これ、お詫び!っといっても、ただのあめちゃんだけど。良かったらどーぞ。」
すこし、走ったのか乱れた息で言葉を吐き出したあと、バイバイといってイケメンは走り去った。
急展開に追い付かない頭で手元のあめちゃんを見る。飴ちゃんだけじゃなかった!!!飴だけど、飴ちゃんだけじゃなかった!!!半分におられた付箋が張り付いてるではないか!
パニックにパニック。だぶるぱにっく!!!
おいおいおい、凡人にはキツいぜ!刺激的すぎる。
恐る恐る、付箋を開くと
罰ゲームとか嘘。好きです。良かったら。
の言葉に続いてラインのIDがかかれている。
どうした、今日。何があった、私。なにもなかったけどそれなりに幸せだった私にも新しい風が吹く。
ってか、リアルに風が吹いてきた。
「寒い」
そういいながらも顔も体もほてって真っ赤。絶対真っ赤になってる。脳は異常なほど興奮状態。
頭回んない。寝よう、かえって寝よう。お母さんになんか聞かれても答えない。
どうなる、明日。私の明日。
塩コショウなんてもんじゃなかったハバネロ並のスパイスを私の日常にかけてきたイケメンを思い出しては、あたふたしながら家に向かった。