体育祭
今回、ちょいと長め(?)です。
宜しくお願いします。
あーあ。
またしても私が不得意とするイベントがやって来る。
それは……。
“体育祭!!”
運動音痴の私にとっては、過酷(大袈裟?)なイベント。
逆に私の彼は、このイベントが大好き。
今も、クラスの中心となって、ワーワーとやってる。
「梓。何凹んでるのよ」
朋子が、私のところに来て言う。
「うーん。だって、私の嫌いなイベントだよ」
「ハイハイ。体育祭が、そんなに嫌なんだ。あたしは、授業がなくなるから、嬉しいけどね」
朋子が、苦笑しながら言う。
確かにそうなんだけどさぁ…。
「アイツは、ヤル気充分みたいだけど…」
そう言いながら、目線を彼に向ける。
アハハ……。
本当。
さっきから、張り切ってる。
それに彼の周りには、男女問わずに詰め寄っていて、彼の隣に寄り添うように有美さんが居るんだ。
「今年は、うちのクラスが優勝間違いなし!!」
って、豪語してる。
自信過剰だよ。
私が居ること、忘れてるよ……。
ハァ……。
絶対に足引っ張るの目に見えてる。
「梓。あれ、いいの?」
朋子が顎で、指しながら小声で聞いてきた。
「何が?私が横に並ぶよりも絵になってると思うけど…」
苦笑する私に。
「何言ってるのよ。梓だって…」
朋子が、慰めの言葉をかけようとするのを遮り。
「いいよ。自分の事は、自分が一番良くわかってるから」
そう。
私が、彼と並ぶより様になってるもん。
ハァーー。
私は、そんな二人を横目で見ながら、何に出ようか悩んでいた。
私が出る種目は……。
なんと、クラス応援団員となりました。
まぁ、どんな種目に出ても足を引っ張るだけな私は、その方がよかったのかなっと思う。
エッ……。
全員参加が当たり前だって?
確かにそうなんだけど…。
気が付いたら、何故か私、外されていたんだ。
アハハ…。
朋子は、百m走に出るから、頑張って応援するんだ。
彼?
彼は、全種目に出る勢いだったけど、男女混合リレーと借り物競争になってた。
競技に出る必要なくなった私。
ホットしてたのもつかの間。
「競技に参加しない人は、応援団としての活動がありますのでお願いします」
って……。
エッ……。
それって……。
「あーあ。梓、応援団入り決定だね」
朋子の一言で、落胆した。
クラスの応援だけじゃないの?
私は、疑問に感じていた。
あの後。
朋子に詳しく話を聞いた。
うちの学校は、組での応援は不可欠なので、同じ組の一年・二年・三年生が、一丸となって応援することになるんだって(知りませんでした)。
「応援団の方も今日から、練習がありますので必ず参加お願いします!」
って、語尾に力を入れられた。
「ごめんね、梓。あたしも練習があるから、一緒にやれない」
申し訳なさそうに言う朋子。
「ううん。大丈夫だから、朋子は自分の練習を頑張って」
私は、笑顔で言った。
ああは言ったものの、ちょっと不安だったりする。
応援団の集合場所は、三年生の教室。
普段滅多に来ない、三年生の教室が並ぶ廊下をいそいそと歩く。
教室に辿り着き中に入ろうとして、戸惑った。
本当にここであってるの?
中を覗き見る。
数人の男子が、話し込んでいた。
どうしよう……。
入りづらい…。
「あれ?B組の応援団の子かな?」
その時、教室に居た一人の男子が、私に気付いて声を掛けてくれた。
これぞ、天の助け?
何て一人で思ってしまった。
「は、はい。そうです」
どもり気味に返事してた。
「何年?」
「二年です」
「そう。取り敢えず中に入って、俺は三年の鳥海でこっちから、笠井、佐竹、松林な」
って、左から順に紹介してくれた。
「田口です、宜しくお願いします」
私は、慌てて自己紹介をする。
「立ってるのもなんだから、空いてるところに座ってな」
鳥海先輩が言う。
「はい…」
私は、言われた通りに空いてる席に座った。
暫くするとメンバーも集まり、話し合いが始まった。
「田口さん。もう外は暗いし、送っていくよ」
話し合いが終わり、鳥海先輩が言う。
私以外のメンバーは、男子だったので気を使ってくれたのであろう。
でも、この場に居て思ったのは、誰かに嵌められたんだって……。
どう考えたって、男子よりも女子の割合が少ないのになぜ、私だけが応援団員なんだ?
って……。
まぁ、決まっちゃったもんはしょうがないんだけどさ。
「あ、いいえ。大丈夫です。それでは、失礼します」
私は、慌てて教室を出た。
自分の教室に行き、鞄を持つと下駄箱に向かった。
「梓」
下駄箱の影から、彼が現れた。
「紫音くん。どうしたの?」
私が、声をかけると。
「うん?梓の靴があったから待ってた」
照れくさそうに言う(この顔は、私以外に知ってる人は少ないと思う)。
自信家の彼が見せる唯一私だけが知ってる顔に口許が緩む。
「ありがとう」
私は、彼の隣に並び手を繋いで歩き出した。
「梓。応援団の方はどうだ?」
心配そうに聞いてきた。
「うん。優しい人達だったよ」
って返すと。
「優しい……」
怪訝そうに聞き返してきた。
「うん。とても良くしてくれたんだ」
「へー」
彼は、納得いかない顔をする。
「なぁ、梓」
「ん?」
「他の男の所へ行くなよ。オレだけの梓なんだからな」
って繋いでいた手をギュッと握ってきた。
急にどうしたんだろう?
何か変だ。
「何かあった?」
私の問いに。
「何も……。ただ、梓だけが、応援団員になってるのが、ちょっと気になっただけ…」
って、彼が心配そうに言う。
「大丈夫だよ。こんな私を好きだって言ってくれるの紫音くんしか居ないよ」
って、苦笑する。
「梓…。そろそろ自分に自信持てよ。梓は充分に可愛いんだからな」
って、真顔で言う彼。
私が、可愛い?
何の冗談かな?
「オレが、可愛いって言ってるんだから、充分だろ」
怒ってるっぽく聞こえるのは、何故?
「う、うん……。そうだね。紫音くん、ありがとう」
私の言葉に赤くなって、そっぽ向く紫音くん。
そんな紫音くんを愛しく思った。
気付けば、体育祭当日。
空は、いい天気。
今日の私は…。
体操服……ではなくて、学ラン。
女子が学ラン着るって…。
思われると思うけどさぁ、男子の中に一人だけ女子の私。
私だけが、体操服ってめちゃ目立つじゃん。
目立つの好きじゃない私。
だから、お兄ちゃんの学ランを借りて(?)着ました。
そして、ウィッグもつけて、どっから見ても男の子になってみました。
「梓。何もそこまでしなくても……」
朋子には、飽きられたけど……。
「だって、目立つの嫌だもん」
ちょっと膨れっ面になりつつ、そう答えた。
「アイツには、言ってあるの?」
朋子に言われて、首を横に振った。
「それじゃあ、今頃……」
朋子が、溜め息をつきつつ呟いた。
今頃?
何?
私の顔を見た朋子が、呆れ顔になって、超特大の溜め息をついた。
何だろう?
朋子と連れだって、応援席にいく。
「じゃあ、頑張って応援してね」
朋子に言われて。
「うん!」
ちょっと低めの声で、返事をすると朋子が、苦笑しつつ自分の席に向かった。
それを見届けてから、私は団員メンバーが居る方へ移動した。
「遅くなってすみません」
って、声をかける。
するとみんなが誰?
って顔を向けてきた。
「田口ですけど…」
って言うと驚いた顔で見る。
エッ…。
何かまずった?
「すごい変わりようだね」
って、声を掛けてきたのは、鳥海先輩だった。
「そうですか?」
「うん。どこから見ても男だよ」
って、苦笑してる。
本当に男に見えてる?
「さぁ、俺達も応援始めるか」
鳥海先輩の一言で、周りが動き出した。
朋子が出る百m走。
私は、声を張り上げて、応援する。
「フレーフレー、B組!」
その声が届いたのか、朋子の走りが善くなり、一位は逃したものの三位に入った。
「やったー!」
って、一人ではしゃいじゃって、周りが苦笑してる。
「…スミマセン…」
恐縮する私に。
「いいよ。友達を一生懸命応援するのも大切だからね」
笑顔で、鳥海先輩が言う。
エヘヘ……。
照れ隠しのように笑う。
「ほら、まだ競技終わってない。応援するぞ!」
先輩が、私の頭をポンっと軽く叩く。
「はい!」
周りの声。
先輩って凄いな。
先輩の一声で、周りの雰囲気が変わるんだもんなぁ。
プログラムは、順調に消化していく。
『次は、男女混合リレーです』
って、アナウンスが入る。
私は、彼を探す。
居た。
彼も、何となくこっちを見てる気がする。
けど、一瞬だけ見て不思議そうな顔をする。
そして、目線が会った途端笑顔になった彼。
“頑張れ!”
って、口パクしてみる。
すると。
“応援宜しく。”
って返ってきた。
私は、笑顔で頷いた。
何てもどかしいんだろう。
大きい声で彼の事を応援したいのに……。
それができないもどかしさ。
そんなジレンマと奮闘しながら、声援を送り続けた。
昼休憩。
「梓」
呼ばれて振り向けば、朋子が近づいてきた。
「朋子。三位入賞おめでとう」
私が言うと。
「ありがとう。梓が、一生懸命に応援してくれたからだよ」
笑顔で、返された。
「いやいや。朋子が頑張ったからだよ」
って、言い合ってると。
「田口さん。ちょっといいかな?」
鳥海先輩に呼ばれた。
朋子と顔を見合わせ。
「行っておいで」
って、背中を押された。
「うん。じゃあ、後で……」
私は、朋子と別れて、先輩の後を追った。
人気の無い場所に連れてこられて。
「田口さん。俺、君の事好きなんだ。もしよかったら、俺と付き合ってほしい」
って……。
エッ……。
驚いてる私に。
「返事は、急がないから。俺の事、少し考えてくれないかな」
って、真顔で告げられた。
「午後からの応援も頑張ろうな」
それだけ残して立ち去った先輩。
えっと……。
私は、その場で立ち尽くした。
我に返り、教室に戻ると。
「お帰り」
朋子が、お弁当も食べずに待っていてくれた。
「ただいま」
浮かない顔をしてたのか。
「梓、何かあった?」
って、心配そうに聞いてくる朋子。
「うん。…ちょっと…」
上の空の私に朋子が。
「アイツが、心配そうにこっち見てるよ」
って悪戯っぽく言う。
私がそっちを向くと視線が絡んだ。
「アイツに見とれてるのは構わないんだけど、お昼食べないの?時間なくなるよ」
朋子が、からかってくる。
もう……。
私は、自分の鞄からお弁当を出して、朋子と昼食をとった。
午後のプログラムも順調にこなされていく。
『本日の最終種目。借り物競争です』
とアナウンスが入った。
ラスト一競技。
頑張って応援しよう!
って心の中で意気込んでいた。
『位置について、よーい』
パン!
スターター音が聞こえると同時に応援する。
「フレーフレー、B組」
声を枯らしながら、応援する。
そして、何組かが終わった。
彼の番が回ってきた。
『よーい』
パン!!
勢いよく飛び出し、途中にある封筒を拾う彼。
一瞬、その場で立ち尽くしたかと思ったら、一直線に私のところに来た。
えっ……。なに?
「梓ー。一緒に来て!」
って、彼に腕を掴まれた。
ちょ…ちょっと待ってよ。
突然の事に驚きつつ、彼に付いていこうと必至。
紫音くんの足に私がついていけるはずもなく。
このままじゃ、負けちゃうよ。
他の何人かが、ゴールに向かって走ってるのが見えた。
「紫音くん。これじゃあ、負けちゃう」
って、私が言うと。
「このお題は、梓じゃなきゃなりたたないんだ。悪いけど付き合ってくれ」
って、私に振り返りながら言う。
よく、そんな余裕があるなぁ。
って、感心してる場合じゃない。
紫音くんが、私のペースで走ってるから次々に抜かされていく。
ハァ…ハァ…。
「紫音くん…。私…足手まとい……だよね」
ペースが落ちていく私に。
「しゃあねぇじゃん。オレが好きなの梓だし。こればっかりは、譲れない。梓、ちょっと失礼するな。しっかり捕まっておけよ」
って言ったかと思うと足が…足が浮いてる。って……。
エッ…。
これって……。
お姫様だっこ?
そのまま、トップスピードで走り出す彼。
キャーーー。
何……。
って、しがみついてるうちに。
「梓…梓。離してもいいぞ」
私、彼に思いっきりしがみついてた。
「ごめん…」
私は、彼から離れた。
顔が、熱い。
「えー。学校一のモテ男流崎君。お題はなんですか?」
って、マイクを通して聞こえてくる。
彼は、お題の書かれてる紙をその人に渡した。
「えっと…。“彼女”と書かれてありますが…。そちらのかたは、どう見ても男の方ですよねぇ?」
って、動揺する。
男に見えるんだ。
「こいつが、男に見える?歴とした女だよ」
紫音くんが言い切った。
「梓、悪いな」
そう言ったかと思うと、私が被っていたウィッグをとった。
バサリと私本来の髪が垂れ下がる。
「エッ…」
驚きを隠せないでいる。
「梓は、オレの彼女だよ。どこを見たら、男なんだ?」
紫音くんが、呆れたように言う。
えっと……。
その……。
恥ずかしくて俯く私。
「…と言うことは、ゴールテープを一位で切り、お題も見事にクリアされましたので、一位確定です。お疲れさまでした」
それだけ言うと次の人のところへ……。
「ったく。梓が紛らわしいかっこうするから…」
って、彼が言う。
「だって、周りがみんな男子なんだもん。目立つのやだもん」
そう抗議する。
「はい、はい」
そういいながら、私の頭を抱き締める。
「紫音くん。恥ずかしいんだけど……」
「いいの。オレがしたいから…」
これって、なんの意味が……。
「そろそろ戻っていいかなぁ?」
私が言うと。
「もう少しだけ」
って、放してくれない彼。
「こら、そこ。いつまでイチャついてるの。早く戻ってきなさい!」
朋子の罵声が飛んでくる。
助かりました。
全校生徒の前でみっともないことを……。
私が安堵してると。
「チッ!」って、頭上から舌打ちが聞こえてきた。
?
不思議に思いながらも元の位置に戻った。
「田口さん」
体育祭も終わり、鳥海先輩に呼び止められた。
「はい?」
「田口さん。アイツ…流崎の彼女だったんだな。俺が言ったことで迷惑かけて、すまなかった。忘れてくれ」
それだけ言うと行ってしまった。
あれ?
何?
「梓。何呆けてるんだよ。早く着替えて、帰るぞ」
彼、紫音くんが言ってきた。
「う、うん……」
私の背中に紫音くんの腕が回される。
「梓は、オレのだからな」
私の耳元で言う。
恥ずかしくて、それでいてくすぐったい。
顔が、次第にほてり出す。
「紫音くんのバカ…」
私は、俯きながらその言葉を言うのに精一杯だった。