転校生
桜の花が散り緑が町を染めるこの頃、梅雨に入り雨が多く湿気が多い時期になった。毎日を家で過ごすような人々にとっては大して関係はないのだろうが、外で生活をする上ではかなり鬱陶しい季節である。しかも夏に近づいていくのでだんだんと暑くなり、汗が絶え間無く流れ気持ち悪い感覚に襲われる。
そんな感覚に襲われながら喜多宮星夜は普段通り登校をしていた。
喜多宮は傘を差しながら普段通り片手に文庫本を持ちながら歩いていた。別に特別親しい友人のいない彼にとって登校とは暇な時間なのであり、やることがないため結果このような形になったのだが、これが意外に暇つぶしに丁度よく日課となっていた。
特別なことは起きず、いつも通りに校門をくぐり、昇降口に入り、靴を履き替え、教室へと向かう。時間としてはSHR20分前という微妙な時間のために大して目立たずに教室に入り、席に座る。周りが何か雑談しているが自分から加わろうと思わず、興味もなかったので再び文庫本へと没頭した。
「起立、礼、着席」
SHRが始まり、いつも通り週番の連絡を聞き、先生の話を聞く。ここでしっかり聞かないと困るのでしっかり聞いておく。
「今日の連絡だけど、運動委員は体育祭の打ち合わせがあるから放課後グラウンド集合。あと、出場種目も決めるからLHRまでに何に出たいのか考えておいてね。以上終わり!」
「起立、礼、着席」
SHRが終わり次の授業の準備を始める。授業中になにを質問されても答えられるようにしっかりよるの内に予習、復習はしておく。それだけで授業の理解度が大きく変わってくる。
キンコンカーンコンとチャイムがなり授業が始まった。
昼休みになり昼ごはんを食べる。流石に一年生であってもこの時期になるとそれぞれのグループの輪をつくりその中で食べる。そんな中、喜多宮は一人でもくもくとべんとうを食べる。別に最初から一人であったわけではなく一緒に食べようといってくれた人もいたが、彼は特別話したいと思わなかったので無言でもくもくとご飯を食べていたのでそのうちに誰も近づかなくなり、結果一人になってしまったというわけだ。そのことに対して後悔はしていなかったし、興味もなかった。昼ごはんを食べ終わるといつも通り文庫本を読み始める。
LHRになって担任の先生が入ってくる。……なんだか軽く笑みを浮かべている、嫌な予感がする。喜多宮は感じた。
「えーっと、LHRを始める前に連絡することがありまーす。実は……」
まさか……
「転校生が来ましたー!」
それと同時に歓声が上がる。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
「先生、男子ですか?女子ですか?」
「どんな子だろう楽しみ〜〜」
とにかくうるさいと感じる。喜多宮にとって転校生が来たところで今までの日常には変化はない。むしろ転校生に気がいって自分が目立たなくなることのほうが嬉しい。なので特に騒がず、目立たないようにずっと担任の先生の方を向いていた。
「では、どうぞ入って来て〜。」
扉が開く
現れたのは金髪の美少女
喜多宮は釘付けになった
別にそのまるで人形のようである容姿でもなく、芸術的ともいえる体つきにでもない
ただその気配に、その存在自体に釘付けになった。
「じゃ、自己紹介して」
「わかりました。私の名前は九家 月です。趣味は家事で、好きなものは動物で、嫌いなものは昆虫です。一年間よろしくお願いします。」
九家は一言も噛むこともなく、そのまるで果実のようにみずみずしい唇から発した透きとおるような美しい声で自己紹介をした。喜多宮はもはやLHRことなどどうでもよくなっていた。ただずっと彼女を眺めていたい、そう思えるほど釘付けになっていた。
「質問は放課後にしてね。じゃあ九家さんの席は……」
「先生」
九家が先生の話を止める。
「どうしたの?」
先生が心配そうに聞く。体の調子でも悪いのだろうか?
「私、あそこがいいのですが、大丈夫でしょうか?」
そうして指したのは俺の右隣の席……えっ?
「まぁ、いいでしょう。そこに座ってくださいね。じゃあLHR始めまーす!」
「よろしくね」
彼女は俺の横を通り過ぎたときに小さくそう言って、自分の席に着いた。
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至らぬ点もありますが、よろしくお願いします。