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異世界を架ける者  作者: ソラ
第一章 二重生活
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14.精霊術


額から汗が滴り、顎に伝ってくるのを無視しながらユートは、ひたすら手を前に伸ばしていた。

手を伸ばす先には、蝋燭に灯された火だ。

横から見ると、蝋燭の火で暖をとっているように見える。

火は時々、揺らぐように位置を変えているがユートのいる部屋に風は吹いていない。


「ぜはあ、やっぱり無理だよ」


手を下げ、後ろを振り返る。

そこにはテストを監視する教師のようにエルシェナとアルベルト先生がいた。

アルベルト先生は、額を押さえ悩むように、エルシェナは、腕組みをしてナイン、ネインとコソコソと何かを話している。


「やはり、火でも駄目でしたか……」


悩むような声で近づくアルベルト先生は、ユートの前にある蝋燭を隣の机に動かす。

隣の机には、他に3つの物が置いてある。

コップに入った水。皿に盛られら土。そして風車。

それに連なるようにアルベルト先生は蝋燭を置く。


「何だ、やっぱり駄目だったではないか」


エルシェナは、腕組みを解き、物が並べられた机の前に近づく。

そしておもむろに右手を蝋燭に火に近づける。

すると火がするすると蛇のようにエルシェナの手にまとわりつく。

エルシェナは、暑さを感じた様子もない。

次に糸のように伸びた火を三つに分裂させ。両手でジャグリングを始めた。

火はエルシェナの手には触れた様子はなく、触れる寸前で宙に浮いている。


「だって、しょうがないでしょ。こんなの僕の世界ではないんだし。そもそもナイン、ネインだって出来ないみたいじゃないか」

(私達には、……その……出来ない理由があるからだ!、う~! 一緒にすんな)


思わす言った言葉にネインがムスっとした顔を向けてくるがナインがそれを宥める。

ネインの声が聞こえたわけではないのだがアルベルト先生は、説明をした。


「精霊を操ることが出来ないのには色々と理由があるのです。代表的なのでは、魔力が足りない、魔力を体の外に放出することが出来ないなどあるのですがユウト殿には、それらはあてはまらないような気がしますな」

「イメージは掴んでいるんですけど、魔力で精霊を従わせるっていうのがどうも……」

「そうですか。……では、ユウト殿。もう一度復讐してみましょう」


ユートは、アルベルト先生に言われた通り自分の机に戻り、黒板を見る。

隣では、エルシェナが風を操り風車をすごい勢いで回し、土、水、火の三つの玉でジャグリングを始めている。まるでこっちに自慢するかのようだ。

そのことに少し悔しい思いをしている自分がいる。


「いいですか。まずこの世界について説明したのですが。理解されましたかな。この世界はマナというごく小さな物質で構成されているのです。木や土や水、もちろん私達人間もです」


アルベルト先生が朗々と話す言葉をユートは、ノートに書き留めていく。

この異世界に来て約8か月、とりあえず簡単な読み書きには苦労しないようになっていた。


「そしてマナという物質から生まれた精霊がいるのです。火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊。それら全てが私達に四元素という恩恵を与えてくれているのです。つまり明かりや、水や大地といったものです。そして、いずれも私達が作り出す魔力によって操れるものなのです。前に魔力を伝達石に込めるということは、しましたかな?」

「はい、やりました。魔力のイメージを伝達石に送り込むというものでした」

「そうです。今度は、伝達石に伝えるイメージを体の外に飛ばすという感じでなのですが、私達を体の外に飛ばした魔力を魔力線と呼びのです」


ユートは、書き込んだ手を止め両の手を眺める。

(イメージは掴めているんだけど……どうにもうまくいかないな)


「ですから魔力線を火、水、風、土に伸ばすことにより自由自在に操ることが可能になるわけなのです。応用としては相手が伸ばした魔力線を自分の魔力線で妨害するということが可能となるのです。そのほかにも、これは特別な才能が必要となるのですが、四つの精霊をバランスよく使える物は、治癒術と言って傷を癒したり、体力を回復させたりすることが出来るのです」


そう言ったアルベルト先生は、両手をエルシェナの方に向けた。

エルシェナは、なにやら土を使い芸術的といっていいほどの獣に乗り剣を構えた戦士の銅像を作っていた。

すると次の瞬間、土の銅像は見るも無残に崩れ土くれに戻った。


「アルベルト先生!なんてことをしてくれた!!」

「あっ、いや。許して下されエルシェナ姫。ユウト殿に手本を見せる必要があったため、仕方がなかったのです」

「はあっ、どうせあいつは、精霊を操ることなどできなかったのだろう。妨害の仕方など教えても何の役にも立たんだろう」


憤慨するエルシェナ姫と宥めるアルベルト先生を苦笑いで見ながら、ユートは、ノートに書き込まれた日本語を見る。

この世界の謎について大体わかったことだ。


7、この世界は、マナという小さな物資で出来ていて精霊がいるということ。


8、精霊は、僕たちが作ることができる魔力で操ることができる。


9、前に見つけた天体望遠鏡。あれは、現実世界からこの世界に持ち込まれた。


10、二重生活の謎……三位一体のとおり、肉体、精神、魂があり僕は、肉体がある現実世界から魂だけが離れ、異世界に来ている?ーーー保留。


ユートは、一つ一つしっかりと理解するように書き留めていく。

現実世界とは法則がまるで違う異世界。

まるでファンタジーと呼べる世界。

アルベルト先生から聞いた話や書物から読んだ情報によれば精霊だけじゃなくエルフ、魔物までいるそうだ。


「伝承によればヤードは、たった一度の精霊術の行使でオストラ山の氷河を溶かし嘆きの湖を作ったとされています」

「あの馬鹿でかい湖をですか!?」

「まあ、とうてい信じることは、出来ませぬが……魔王を倒したということはそれに近いことが出来たのではないのでしょうか」


あまりのスケールの大きさに呆気にとられていると丸めた水の塊をエルシェナに投げられる。顔にぶつかり濡れた。優人は、憤慨する気持ちを抑え、服で顔を拭く。


「お前とは比べ物にならないな」

「当たり前だよ。僕はヤードって呼ばれる存在じゃないんだから」


世界に平穏をもたらすとされるヤード。

僕は、そんなものじゃなく、ただ訳もわからないまま、この世界にいるだけなんだ。

もしここにいる理由があるとすれば、母さんが死んだ謎を確かめてそれからどうするか決まることだけ。

それだけだ。



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