13.謎を解く鍵
その日、ユートは、いつものように異世界のベットで伸びをして眠りにつ着始めたころ、いきなり蹴り飛ばされた。
ユートはベットから転がり落ち、突然の安眠妨害者に向かって抗議の声をあげる。
「美咲!何するんだよ!」
体を起こし、思わず叫び返したところにはキョトン、とした顔で首を捻っているエルシェナがいた。
「美咲とはだれだ?」
「……あ~、いやなんでもない。勘違いしただけ」
「まあいい、それよりも早く起きろ!」
「起きろって……まだ真夜中じゃないか!どうしてこんな時間にエルシェナが」
「ふふん、実はアルベルト先生からあることを伝えられていたのだが、お前を驚かせようと思ってな、黙っていた」
エルシェナは、どうだ嬉しかろうとばかりに胸を張った。
ユートはそれに憤慨して、立ち上がる。
「何を黙っていたの?」
「いいからついてこい!」
エルシェナが手招きをした。
(やれやれ、どうせ僕は従うしかないよ)
思わずため息をつき、ユートは肩を落としながらエルシェナの後に続いた。
部屋の外に出た。そこには、ネインとナインが待っていた。夜の廊下は、蝋燭の光がない場所は月明かりしかなく、ほとんど真っ暗と言っていいが、先導するナインとネインは迷いなく進んでいく。
階段を何階か登り、王宮のはずれまで見えてきたところで明かりがちらちらと見え始めた。
エルシェナにここに来るまでに何があるのか何度も聞いたが答えてくれない。
ネインもナインもだ。
明かりを持っているのはアルベルト先生だった。
「おや、ユウト殿。どうして寝間着の姿で」
ユートは言われて気が付き、急いでとって返そうとする。
そこをエルシェナに背中の服を掴まれ阻止される。
「どうやらこいつは、あまりに楽しみすぎて今日の昼間から寝てたそうなのだ」
「何、言ってるの?嘘です。エルシェナに叩き起こされたんです。それよりアルベルト先生。これから一体、何をするんですか?」
ユートはエルシェナのつまんなさそうにした顔を見て、背中から手を外させる。
アルベルト先生は、優人の質問に嬉しそうに目を輝かせて答えた。
少年のような瞳だ。
「星を見に行くのです」
王宮内の西のはずれに、王立魔道研究所という建物が立っている。
その真ん中、煙突のように真っ直ぐに突き出た塔のような部分がある。
風が吹きすさぶ階段が用意されていて、優人達はそこを登っていた。
「足元に気を付けて下され」
アルベルト先生の言う通り、階段は、出来てから大分経ってるのかところどころ欠けているところがあり、もし落ちるようなことがあれば助からないだろうと思う。恐る恐る進むユートの背中をエルシェナが指でつつく。
「遅いぞ。早くしろ」
憤慨したようにいうエルシェナにユートは、理不尽だとばかり言い返す。
「いきなり人を起こしといてこんなとこに連れてくるなんて。僕は寝ぼけているんだ。エルシェナが最初から行くと伝えておいてくれたら少しは覚悟ができたのに」
「全く。呆れるほど情けないな」
エルシェナは、飽きれたように肩をすくめ、同時に腰を落とす。
次の瞬間、ばねを解き放つように飛び上がりユートの上を飛び越え三段上に立っていた。
「早くこないとおいていくぞ」
「嘘でしょ。どんなジャンプ力をしてるんだ」
こんな吹きさらしのところに置いていくつもりなの?と思い、ユートは出来るだけ早く登ろうとするも速度は変わらず。
その上をナインとネインがエルシェナと同じように飛び越えて行った。
「遅かったな」
肩で息をして、膝に手をつくユートにエルシェナが声をかける。
塔の上は、壁を四方で仕切っているだけで天上はない。
ふと、顔を上げると満天の星空にいくつもの流星が落ちていくのが見える。
うわあ、と声をあげ、ユートはつかめそうなほど近くに見える星に手を伸ばした
「星を見過ぎで、落ちんなよ」
その時、アルベルト先生の声ではない男の声がした。
まわりを見ると西側の壁の上に寝そべりこちらを見下ろす男がいる。
詳細に言うなら30代ぐらいの男だ。この国によくある金髪碧眼だが、無作法に伸ばした武将髭が目立つ。その男は、片手に酒瓶を持ち、それを煽っていた。
「オルレアン殿!またこのようなところで酒を飲まれて、もし落ちたらどうされるつもりですか」
オルベルト先生の珍しく気迫を込めた声を相手にむける。
しかし相手の男は、微動だにせず、返事の変わりに酒を傾ける。
「大丈夫ですって、落ちないですからよ。それに落ちても死にゃ~あしませんから。」
「いつもオルレアン殿はこのようなことをして、王立魔道研究所の研究員の一員として恥ずかしく思われないのですか」
憤慨するアルベルト先生だが、オルレアンは相変わらず酒瓶を傾けるだけで幾分も堪えた様子はない。
「そうです。われら王立研究員、国のため民衆のため魔道を極め、それを解き明かすことにより我らが忠誠を捧げる国家のの柱になるー~ってね。いつもの研究成果は机のほうにだしておきましたんで」
アルベルト先生は、アルレアンの報告をを聞き、押し黙る。
どうやらこのオルレアンという男はアルベルト先生と同じで王立研究員のようだ。
ユートは、この男を無視しようと決めてエルシェナの方を向く。
エルシェナは、始めから男の存在など気にしていないのか、背を向けて、何かをしている。
「何してるの?エルシェナ」
ユートが疑問に思い近づいていく。
どうやらエルシェナは、何かに興味があるようでそれを指でつついていた。
それは、……
天体望遠鏡だった!
ガリレオが使ったような古めかしいものではなく、白の金属製で地球性おそらく日本のものだ。
「そっそれ、どうしたんですか!?」
ほとんど叫ぶようにユートは声を上げた。
それに驚いたエルシェナが、思いっきり指で天体望遠鏡をつつき、倒してしまう。
「おどろかすな!!」
エルシェナが真っ赤な顔をしてこっちを睨むがユートは、それどころではなかった。
慌てて駆け寄ってきたアルベルト先生が倒れた天体望遠鏡を起こしながら、
「これは、星を見る道具です。友好の証にアスフリート国から送られてきた物なのです」
「アスフリート国から……?」
ユートはじっとしゃがみこんで、天体望遠鏡を見つめていると、エルシェナに肩をつつかれた。
それに従って立ち上がり、上を見上げる。
夜空では、今までで一番流星が輝き降り注いでいた。
ユートとエルシェナは、並んで、夜空を見上げる。
ふと、エルシェナが声を発した。
「なぜ流れ星が見えるか知ってるか?」
「知ってるよ。隕石が落ちてきて燃えるから見えるんでしょ」
エルシェナがよくやるようにユートもエルシェナにニヤリ、と笑いかける。
エルシェナは答えが気に入らなかった様子で頬を膨らませ、そっぽを向いた。
(きっと僕が答えを知らないと思って自慢したかったんだろうな)
それから二人は、黙り再び空を見上げる。
地球と見上げる天体と全く違う星達。
だが同じように綺麗だった。
流れていく流星を見ながらユートはある一点に意識が集中していた。
天体望遠鏡。
間違いなく現実世界の物でこちらの世界に持ち込まれたものだ。
一体、どこから?誰が?どうやって?
尽きる疑問がないままユートは、流れ去る星を眺め続けた。