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異世界を架ける者  作者: ソラ
第八章 王都奪還
100/107

100.導かれ

目の前には神々しくも荒れ狂う風と火の猛威の光景が現れた。

ユートは、かなり離れているにも関わらず、その力を真正面から影響を受けた。


「うわっと、……ありがとネイン、ナイン」


膝からかくんと後ろに崩れ落ちそうになるが、魔族化した二人に支えてもらった。

柔らかな白い毛並みを掴み、ユートはなんとか立ち上がる。


「大丈夫ですか?ユウト」


離れて立っていたアシュレリが慌てて駆け寄ってくる。


「やはり、まだ無茶をしていたのでは……?」

「大丈夫だよ、それより……」


そこで口笛が軽くふかれ、少し顔をひきつらせたオルレアンさんがやってきた。


「まさに神のごとき猛威だ。こりゃ、何一つ残ってないだろうなあ」


真正面の砂漠には、火焔の豪火とシルフィードの豪風によって何もかも消え去った光景がある。

目標はアーミラの門から零れ落ちてくる魔神族だった。

伝達をとって誰も前に出ないようにし、ユートもアシュレリもかなり範囲を絞ったものだった。

それにも関わらずこれだ。

誰も勝利の歓声を上げることなく、ただただ茫然と目の前の光景を見ている。


「これで全て消し去ってくれてりゃ、簡単な事この上ないがな、……そうもいかないんだろ?」

「はい、……この技を放つとこのあたり一帯のマナが消滅してしまうんです。だから、一度に放てるには限りがあるんですよ。しかも、魔王とのマナの奪い合いも影響されますから……」

「厳しいってか?」

「だよね、火焔?」


オルレアンさんは、首元を掻きながら聞いてきたがその言葉で、頭を落とした。

そりゃそうだ、この力さえあれば、何人も戦士を犠牲にしなくてはすんだのだから。

そして、オルレアンさんたちは取り残した残党を確実に仕留めに行かなくてはならない。

ネイン、ナインも残党狩りに加わり、僕はアシュレリの肩を借りながら、セリアさんの所に戻る事にした。どうやら、火焔の力を自分に通したのが悪かったようだ。胸やけがする気分だ。


(?火焔、なんで黙ってるんだ?)

(うーむ。……バランスが悪いのじゃっ!)

(ん、バランス?それって何のこと?)

(主の右腕がない事じゃ、思う様に力を制御できなんでも知らんぞ。全く。ミコトじゃったら、腕や足が魔物に食われても次の日にはもう生やしておったぞ)

(は、今なんて?)

(じゃから、主がこのままじゃと、わらわの力をうまく使えぬと)

(いやいや!そうじゃなくて、なんでヤマトは腕とか足を生やせれたのって!?まさか、再生とか無くした体の一部を回復させる魔法でもあるの?)

(えとー、大昔じゃったらそんなのあった気がするがの。……あれ、そもそもあやつはどうやって生やしておったんじゃろな。おっと……ということ主、人間とは手足は生えてこぬのか?)

(当たり前でしょ!!)


いくら宝物庫に入れられてたからって、自由に出入りしてたし、長年人間と関わって来ただろうに。

無関心が板につきすぎてたんじゃないのだろうか。

僕はため息をつきながら、オルガとヨルムの馬車にたどり着くと腰を下ろした。


「すげえ!!すげえよ!!ユウト!さっきのユウトがやったんだろ!?」


するといきなり子供たちが回りを取り囲み、えんやえんやと騒がしくし始めた。

カインに至ってはとんでもなく目を輝かせて、正直今まで一度だって見たことない尊敬のまなざしで見てくる。いや、あの僕じゃなくて火焔の力なんだけどね。


「子供たち、静かしなさい。今ユウトには休息が必要なのですから」


そこにアシュレリが割って入ると、子供たちはいきなり静かになった。

冷たくも見えるアシュレリの相貌に、エルフという存在も相まってどうやら大人しくなっているようだ。


「別にいいよアシュレリ、暗い顔をされてるより、こっちに方が十分元気をもらえるから。それに休息は今日は十分とったよ」

「そう、ですか。でも、精霊王の力は私の身にもかなりあまりあるものでした。体だけでも休めてください」

「そうするよ、アシュレリも休んで」

「はい」


そういうもアシュレリは、馬車にそってゆっくりと歩き続ける。

火焔の力加減がおかしいのでなければアシュレリも消耗しているだろうに。

こっちときたら、さっきの久しぶりの一撃での疲れといい、馬車のリズム良い振動で、まぶたが落ちそうになる。なにせ、昨日はエルシェナと美咲の女子会に付き合ってて結局、あまり眠れなかったからな。

おかげで今日はこっちで朝寝坊だ。ウェインの敵襲の知らせをカテナが知らせてくれたからよかったけれど。


「そういえば、今どこら辺になるんだっけ?」


4部族と山の民、クロムクル国、そしてエルフの意見がまとまったところで準備も整い、引き返しているはずだった。嘆きの湖を目指すのをやめたことから、砂漠を下り、カスファーン平原に降りてきていたはずだった。その方が移動速度も速くなるし、損耗度も低いからだ。

すでに何日も経過し、実際に車輪の足元にはところどころ草花が混じり始めている。


「このまま進めるならばアーミラの門まで10日といった所だ、ヤード」


独り言のようにつぶやいた言葉に対する返事が届き、思わずぎょっとした。

馬にのった皮鎧の筋骨隆々の姿は、モホーク族ダーリアだ。

驚いたのはユートだけではないようだ。

カインやアシュレリも警戒の構えをとり、ダーリアの方を向いた。

しかし、ユートの周りを固めているエルフや、クロムクルの騎士に対して、ダーリアはたった一人だ。

どうしてだ?モホーク族は、精霊王の攻撃の取りこぼしのために先に進んでいるはずだ。


「あの、どうしてあなたが?」

「ふん!ただの言葉の撤回だ。貴様は役立たずでも邪魔者でもなかったというわけだな。面白い!」

「はあ、どうも」

「その力、われらの元で生かさぬか?俺のためにその力を振るえば、望むものもなんでも与えよう。女も金も望むことすべてだ」


迷いなく豪語するが、ユートはため息をつきそうになる。昨日いや一昨日か?ナシュサさんにも誘われてたものだが、誰もかれもが自分の利になる事を望んでいる。っていうか、そういう事は火焔に頼んでくれ。出てくるはずないと思うけど……。


「そのようなもの、下劣な。精霊王の力をなんと心得ているのです?……いえ、人間は忘れ去ってしまっていたのでしたね」


アシュレリが苛烈な視線でダーリアを睨む。ダーリアは面白くなさそうに鼻で笑う、どうも本気ではないようだ。


「精霊王だが、魔女だか、魔王でもなんでもよいわ。われら一族のためになるというのならどの様な力でも手に入れようぞ!杯を交わし、毒の一滴まで残さず飲み干してしまおうとも。どうだ?お前の力も認めてやっているのだ。今宵、杯を交わしに我らの家に来るがよい」


思わずユートは尻を抑えた。いや、ナシュアの事が頭をよぎったとはいえ、これはひどい。


「お断りします。僕はただ、魔王を滅ぼさなくちゃいけないんですよ、それ以外の事を考える余裕なんてものはないです」

「ふん、つまらん」


用事はそれだけだったのか、ダーリアは手綱を引いて馬の脚を速めた。自分の部族に合流するのだろう。

それにしても族長がいなくていいのだろうか、あまり、求心力が高くなさそうだったから。

まあ、今は自分がセルランディの代表だから、人の事いえないけど。


「親父はどんな死にざまだった?」


どうでもいい事を考えていたせいで、ユートは思わず聞き逃すところだった。

今まで豪胆さが嘘の様に、呟くようにいったダーリアの言葉に、返答に詰まった。

どういうことだ?親父?って……まさか、


「ふん。なんでもない、……世迷言だ。ではな、わが誘い覚えておけ!」


そういうと、返答をする間もなく、ダーリアは駆けて行ってしまった。

まさか、前族長の息子だったのか……?

それは後でオルレアンさんにでも確認すればいいか。


「ユウト。人間の長とは皆あのようなものなのですか?」

「え、いやどうだろ」


憤慨したアシュレリが腕組みをして、ダーリアが去った方向を見ている。

まあ、人間が出来る事なんて限られているんだ、自分たちの民の事を考えるのは当然だよな。

それをいって、エルフとして一つにまとまっているアシュレリには通じないと思うけど。


「皆、必死なんだと思うよ。世界がどうなるかわからない時、頼るのは結局、自分の経験と信念だけだと思うから」

「それは身勝手が過ぎませんか?そういう時は、己だけでなく、先人の知恵や歴史を知り、学ぶものです。一人の考えなど浅はかなものですから」

「そりゃ、エルフの長い目からいったらそうだろうけど、……自分の親が自分が大きくなるより先に死んでしまうのが人間なんだよ」


すると、こっちの考えを見透かしたのか、アシュレリは教師の様な厳しい目つきから、柔らかな雰囲気にと変え、肩に手を置いてきた。


「だからこそ、導くものが必要なのですよ、そして導かれ者たちが。そしてそれはあなたなのですよユウト」


まっすぐ純粋な、貫くような瞳で見てくるアシュレリの言葉は、僕には重い。

だってアシュレリには、僕の母親が殺された事は話していない。そして魔女に対して復讐心がある事も。

これが純粋な気持ちじゃないとわかってる。ただ魔王を倒す勇者の簡単な話じゃない事も。


(それに導くものが現れるなんてありえない……)


世界が終わってしまった様な経験をして、導くものなんて僕にはいなかった。

ただ、支えてくれる人や、希望のになってくれる人がいた。

ああ、きっとそうだ。僕は導く人にはなれない、ただ共に支えあう人にはなりたいと、思う。


「僕は違うよ。導くなんてものは後世が勝手に考えたことかもしれないでしょ。実際にヤマトだってそうかもしれないし。だって魔王の魔力も全部浄化しといてくれたらよかったのに、ついでに魔女もなにもかもあと腐れなく。案外、適当だったのかもしれないよ」

「そんなはずは……」

「だって、火焔に聞いたらわかるでしょ?ていうか風の精霊王だって……」

(少年、小娘の夢を壊してくるなよ)

「え?」


いきなりシルフィードの声が響き、ユートは言葉につまる。

頬を赤くして、首を振るアシュレリを見ていると、ああ、純粋なんだねと、ちょっとかわいそうになる。


(さー、どうだったかの)


火焔はとぼけるし、シルフィードはもう答えてもくれない。

爺さん、婆さんのわしの若いころはのー、の武勇伝かっ!

いや、勝手に人間に解釈されて、調子に乗ってエルフ達に伝えたのではないのだろうか。


「とにかく、実態などは重要ではないのです。何を学び取るかです!」

「えぇ~」

「ユウトにはあのような人間の長になっては困ります。あの煩わしい女たちがいない良い機会です。

今の内に高潔なる真の心を持つ魂とは、どのようなものなのか、いまだ未熟な私ですがお教えします」

「えぇ~……」

「いいですか……!」


アシュレリのおそらくは、すごく立身出世に役立つであろう貴重の長寿のエルフの講議の生徒役は、目を輝かせているカイン達に任せるとして、僕は目を閉じた。

つかの間の平和の間ですら、こっちでも道徳の授業を聞くのはごめんだ。


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土曜日の昼下がりだった。

男所帯の我が家に珍しく、ずっと女の子の声が飛び交っている。

昨日、エルシェナと美咲は二人で帰った時から、ずいぶんと仲良くなったようだ。


「これは、優人が小学校の時の運動会でね。こけて絶対痛いのに我慢してるとこ」

「ショウ、ガッコウ、でイタイ、ガマン?」

「そうそう、それがおかしくってね。あ、ほら優人、こっちの写真も見てよ。珍しー、賢治も写ってるよ。もしかしたら三人で撮った最後の写真かも」


てっきり気まずい空気になるかと思ったが、美咲はそのままエルシェナと次の、アルバム探しに移っていった。少しは、心の整理がついたって事なのかな?

全く、それにしても小学校の教科書から、地図帳までひっぱりだしておいて、果てにはアルバムまでひっぱい出して、あの、お二人さん?早くエルシェナを現代に慣れさせるんじゃなかったの?


「あーこっちにもあった!」

「みたい」


ってエルシェナも、速く魔女の手先をやっつけなきゃいけないんじゃないのかよ……。

優人はため息をつくと、視線を広げた新聞に戻した。

やっぱりめぼしい情報なんてないか……。

変わった事といえば、空き巣が多発しているから、鍵のかけ忘れに注意しましょうというぐらいだ。

あれから、逃げたオーガが捕まったという事もなく、捜索も打ち切りになってしまった。


(どこをどう探したらいいっていうんだよ……)


部長づてで、警察の事情を探ろうにも風元さんに見張られてて接触も出来ないし。

父さんは、何やら動いてくれているみたいだけど…………信じていいのかな。


その時、チャイムのベルが鳴る音がした。

美咲のおばさんかもしれない。美咲がこっちに来ているとよく、美咲が面倒かけていないかと、小さい事から心配してきているのだ。


「あ、ごめん、優人。今、手が離せないから」

「はいはい」


まったく、こっちに気苦労もわかっているのだろうか。

異世界では戦争に勝たなきゃいけないし、こっちじゃ、昨日の学校のエルシェナ乱入事件だって……。


「って……え?」


玄関を開けると、思わぬ相手がいたため、優人は驚いた。


「こんにちわ、大和くん、いや久しぶりだね。本当に。なにせ風元くんがってあ痛たたたっ!」

「全く余計な事はいわなくていいの。突然、お邪魔して悪いわね大和君」

「部長に、風元さん?なんで……」


私服姿の二人が相変わらずの関係の様で、目の前に立っている。

少なくとも卒業までは、勉強以外の事で部長に係るなと風元さんに釘を刺されていたのだけど。


「昨日の外国人騒ぎの事で、彼女の事を新聞に取り上げたいって事で、後輩たちに頼まれたの」

「そう、実は僕も気になっていてこうして役目を引退した身なれど勝手でてね」

「迷惑な話。それに留学生でもない人を勝手に記事は出来ないって言ったのに聞かなくて、それで下手な行動に出られるよりはこうして監視した方がいいかしらと思って」

「そうそう、それで大和君、彼女はご在宅かな?」


色々聞いてるうちに思わず忘れていた。

エルシェナはまだ、居間で美咲と僕をおもちゃに遊んでいるはずだ。

今までは、居間にいればお客が来たってごまかせてたけど、直接さぐりに来られたら……!


「いや、今は、父さんと一緒に出掛けてて……」


美咲!と大声で叫んで合図しようとしたところで声が止まった。

ふと視線を二人から動かすと、後ろにだれか立っていたのだ。

それまた思わぬ姿で、優人の動きが止まる。


「よう、くそ野郎」

「な、なんで賢治が……」


と、そこで大きな笑い声が居間から響いてきた。どう考えても二人分。

どう……誤魔化そう。


「あの女、あの黒い奴と関係がるんだろ?」


だが、どうする暇もなく、賢治が決定的な事を言ってきた。



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