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霊獣コカトリス

さて、さて作者殿はいつ某を出そうかという件について敢えて勿体ぶろうとしていたらしい・・喝っ!!折角の好機、やはりここは至急参上仕る。

コカトリス「お初にお目にかかる、我の名は霊獣コカ・・」

小春「コーラ」

コカトリス「おいぃぃいいいいっ」

澄み切った青空の下で賑わう教室。


早くお金も車も化粧も自由に使える大人になりたいような・・

でもお母さんを見てれば仕事に家事も怠そうだよね・・

結論ギリギリまで甘えていたいこのズルい時間を青い春と呼ぶのかな?


まぁそれは半身浴の時のネタに考えるくらいにして、私達には目まぐるしい日々と衝動が付いて回るから毎日の青春を荒川の土手で謳歌している余裕は無いんだよ!

早速、朝イチで隣の席の竹本の悪態に驚きと怒りのツインタワーを造り上げてしまっている。


「ちょいとぉ、朝イチでピザ団子は重いよ?もたれるよっ!?」


必死の呼びかけに対しても竹本はウザそうにして目を合わせようとしない。


「有りのままの事を言って何が悪い。ピザ団子」


・・・・・・・・(こんなときめかない”有りのまま”は初めてだ!!)


もし神様が居るならこの角砂糖程のモラルも無い男に裁きを下して頂きたい。

例えば読む本がポテチの油がついた他人の手で触られてふにゃふにゃになってページをめくれなくなったり、登場人物が全員キラキラネームであらすじを読むだけで3週間かかったりそれから・・・ってなんだか虚しくなる。


「いや、そもそもピザの団子って何なの!?『今日の晩御飯はピザ団子だよ!』って呼ばれて食卓を囲んだらコーラとありったけの丸いチーズが積まれててさ、十五夜のウサギはチーズ臭いの!?盗んだバイクもトマトソースまみれなの!?もご―――」


誰かに後ろから手を宛がわれて必死の論破が『もごもご』としか表現出来てないもごもご星人と化してしまった。


「ごめんね竹本君。今は朝読書の時間だもんね。大人しくするよ」


真後ろから優しい声がする。このほのかに甘い香りも含めて手を宛がわれてて落ち着く。


(香織・・)


変になった空気を正すために彼女が苦笑いをしながら手を合わせて竹本に謝ると、彼は一瞬香織を見て気怠そうに片手を上げると再び読書を始めた。


(ムキィイイ!!折角香織が歩み寄ってんのに、おのれは何スカしとんのじゃぁあああ!!!)


「ちょっ、小春!貴方の沸点は?」

「・・六本木ヒルズより高いです」


香織はずるい!去年の理科の解答の凡ミスをそうやってすぐに繰り出してくる。


「なら


香織を見てこんなクールな態度をとるくらいの男だ。結局私に優しい態度を取ってくれる事は世界が滅びても無いんだろう。

ちなみに訂正をしておくと、いかにも私が空気をおかしくした様な雰囲気になっているけど、ある意味私自身も被害者だ。でも現状打破の助け舟を出してくれた香織に”ごめんね”と竹本みたいに片手を軽く上げて謝り大人しく前を見た。


確かに今は学校が設けている朝読書の時間。でも生憎、私は彼の様に夢中になって読める本は持ち合わせていないのでポケットに入れていたスマホを取り出していかにも携帯小説を読んでいるフリをこなす。


桜の花びらの様な薄いピンク色の機体。先日迎えた自分の誕生日に遊びに来た祖母がお祝いに買ってくれて凄くはしゃいだ!

うわさに聞いて居た通り従来のガラケーよりちょっと複雑なシステムを前にして”やはり人類が機械に使われる日が来たんだな”と未来の存亡に怯えながらチュートリアルを読む毎日。でも、分からないなリにもデザインや色合いも好きだし、ボタンを使わずにディスプレイを指でスライドさせるだけの便利さも魅力的。お婆ちゃんに感謝!


(あっ、そういえば昨日の夜に寝ぼけて色々といじっちゃたんだよなぁ。変な設定とかしちゃってないと良いけど・・・)


早速画面に指を置いて昨日の思い出をなぞる様に調べて見た。パッと見た感じだと特に変わったところは無いので一安心。

いや、実際には何かかしらやらかしているのかもしれないけど、元々細かい事はあまり気にしない性分なので、不安が解決したところで自分の中では全てが解決したのだ!

そのままいつも使っている情報サイトに入ると様々なジャンルが私の気を引くネタを引っ提げてまるでナンパするみたいに出て来る。


毎回買っているファッション雑誌の新刊が出た事

暇つぶしのお供として読んでいる漫画が実写化され今日から劇場版として上映される事、お気に入りの俳優が出ているドラマのDVDがレンタル開始になった事など

心をくすぐる見出がいっぱい載っている。どうやら今日の放課後は退屈せずに済みそうだ。

そのまま興味本位で意味も無くサイトの下の方まで進むと最後に巨大なタイトルにたどり着く。


『春は新しい出会いの季節。恋愛に悩みを持っている方、誰にも会えずお困りの方は今すぐクリック』


やはり時期的にこの手のサイトは多い。


(フン、私には松野君が居るもん!・・・片思いだけど・・・)


そう、目を向ければそこには憧れの人が居る。それは誠にありがたい事だよね。


今は両想いじゃなくても見てるだけで幸せ。


それにしてもこの片思いも、始まってからもう一年になる。

そう、それはちょうど去年の同じ季節でした。

・・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・


”一年前”

『バキィィイイイッ』

放課後に私が学校探索を始めて校庭隅の大きな桜の木の下を通り過ぎようとした時、偶然校庭で練習していたサッカー部のボールがこっちに飛んできて頭に直撃した。


「うわっ!!」

『ズテンッ』


突然の事で受け身も取れずに恥かしい体勢でそのまま転んでしまった。ボールが思いのほか強い衝撃だったので頭の上に複数の天使が現れマイムマイムを始めた。<業界用語でいうピヨリ>

サッカー部側も最初は心配そうに見ていたのに、当たったのが私だと分かるなり同学年のプレイヤーはみんな腹を抱えて笑い始める。まさに鬼畜。


「もう、うるさいなぁー!!この下手くそ共めっ!」


悔しいのでそのままの体勢で叫び飛ばして反撃する。この攻防はいつもの挨拶の様な物。でも、松野君だけは急いで駆け付けて来てくれた。


「大丈夫!?」

「!!っ」


倒れたままの私が声の方を振り向いたら手を差し伸べてくれる松野君と目が合ってしまって、正直目のやり場に困った。


「あ、はい。大丈夫・・・です」


元々少女漫画よりもギャグ漫画好きの自分にとって何だか慣れないシチュエーションに急に恥ずかしくなってしまって、結局顔を下げて一人で立ち上がった。

慌てている気持を悟られない様にあえて無表情で制服に付いた土ぼこりを手で払っているのに、こっちの気持ちを理解していない松野君は逆に心配して小鹿みたいな瞳で顔を覗き込んでくる。


「どこか擦り剥いたりしてない?」

「えぇ・・?」


本人はとっても真剣な眼差しだけど、その誠意のある親切さが逆に困る。

だってあまり異性に優しくされた事が無いから、頭が真っ白になるんだもん・・・。


「ホントにどこも痛くないし、怪我も無いです・・」


冷静になりたくて、とにかく両手を振って突き放す。


(でも自分は何で焦ってんだろ?おかしいな・・・落ち着け)


小学校の頃から名前は知ってる人だったけど・・別に意識した事も無い。だからこんなに目の前で見たのも、言葉を交わしたのも初めて。


そして全てが真新しい感覚だと気付いた。


「おーい松野!」


遠くからサッカー部が松野君に手招きをしている。


「おうっ、今行く」

「あ、」


サッカーボールを抱えて戻ろうとする松野君を反射的に意味も無く止めてしまった。


「ん、どうした?」


正直、何故止めたのか自分でもわからない。


「いや、ごめん。何でも無い」


でも、めてから分かった。


「そっか、じゃあ何かあったら言ってくれ。それじゃ!」


笑顔で校庭に戻っていく松野君。気が付けばその背中を目で追ってしまっている。

それは風に吹かれた桜の花びらが空に舞って地面に落ちる過程を見逃してしまうのと同じくらい、日常の何気ない一時いっときの出来事。


でも確かに心の世界ではその何気ない一瞬の中で革命が起きたんだ。


この心拍の高鳴り、体の熱さ、きっと鏡で顔を見れば頬が赤くなってしまっているのだろう・・・。

それに・・なんか・・もっと喋りたい・・・。


「・・あぁ、そうか・・そういうことか」


桜の木の下で悟った事。


(ゲームや漫画で百戦錬磨のはずだったのに・・リアルってあっけないんだね・・・)


自分の意志とは別に待った無しで来るから性質たちの悪いこの感情。



       ・・・"きっと私、恋をしたんだ・・・”



さっきとは何も変わらずにサッカー部は練習を続ける。


(落ち着け自分、落ち着け自分、落ち着け―――)


『ゴツン!』


「痛てっ!!」


居ても立ってもいられずに動いて桜の木に顔をぶつけた。もう、何よりもこういうウブな自分が痛々しい。


(もう・・こんなの私じゃないっ!)


取り敢えずしばらくは練習を眺めて心を少し落ち着かせようとしたけど、松野君の背中を追いかければ追いかけるほど逆に感情が逆立ってしまう。


(心臓が・・誰か、心肺蘇生を・・・この中にお医者様は?)


ピーっという寂しい電子音と共に心電図が波打たなくなってしまった。応急処置を施してもらうためにひとまずゾンビっぽい状態で香織へ電話をかける。


「かおかおかおおおか・・?」

「・・・あのぉ・・どちらさまですか?」


・・・・・・・・

・・・・・・

「――――――――」

「—―――――――」


繰り返し、繰り返し受話器へと吐き出される感情が先走る私の言葉を香織は丁寧に聞いてくれている。

まだ自分の気持ちが何なのか客観的に見れてなかったから誰かに冷静に答えて欲しかったのだ。


「あぁーあ、病の発症ですね」


恋の先輩、dr・香織先生からの一言食らって頭の湯気が止まらない。


(あーーもうっ、簡単に言ってくれちゃうよねこの人は!・・どうしよう・・)


初めての感覚にかなり戸惑うよ。例えるならとても心地の良い砂漠の真ん中に迷った感覚。どう動けばが良いか分からないけど取り敢えず”善は急がば回れ”・・?って色々混じっちゃったけど、勢いでサッカー部のマネージャーにも立候補したんだ!

結論から言うと「もう居るから!」って断られたけど・・・。ちなみにその時タッチの差で入った幸運な人が梅原さん。


(ちっ、世の中そう簡単には動かないか)


高校生活最初の春は爪を噛む結果となった・・。

・・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・


恋した理由はあっけないものだったけど、それからの一年間ずっと片思いを続ける形になりました。身長はちっとも伸びないけど気持ちだけは自己記録を更新し続けている。ちょっとずつ近づくこの距離感が幸せなんだよね。


あの頃は接点が掴めなくて結構くすぶっていたけど、今は違う。やっと同じクラスになったのだから産まれかけの縁を育むチャンスが出来たわけ。

それからHRが終了した後、最初の授業の前に数分だけど小休憩の時間が設けられている。


「小春、行ってきなよ」

「うん」


緊張しながらも香織に背中を押されて唾を呑む。


(よし、私はいける、私はいける、私はいける、私は・・・・)


手に人という字を描きながらお腹に力を入れた。勿論、勇気を持って歩き出す先はただ一つ。


「松野君!」


彼は楽しそうに隣の席の男子と話をしていた。


「おう、桜さん!おはよ」


いつも「おう!」とにこやかに手を振って苗字を呼んでくれる。このセットが堪らなくて、もう私の名前は『おう桜 小春』で良いと思います。


「今日の朝見かけたんだけど松野君は間に合ったんだね。私は遅刻しちゃって、オマケにいい歳してずっこけちゃったよ」


擦り剥いた膝のかすり傷を見せる。


「俺もギリギリだったけどね・・。桜さんは、なんかいつもハプニングが起きるね」


そう言われると恥ずかしいけど、松野君が笑ってくれているのでまぁ、善しとしよう。クラス替えがあった日もそうだったけど、これまでの空白の時間が無かったかのように彼は実に自然な口調で喋る。 この大らかなスタイルが人気の理由の一部なのかもしれない。


朝から何かと衝動が多くて忙しくても目の前の笑顔で気が休まる貴重な時間。これが砂漠のオアシスってもんよ!


『キーンコーンカーンコーン』


嬉しいエコエネルギーを充電した所でこれから、また一日が始まる。

・・・・・・・

・・・・・

・・・


色々な教科の授業が始まって、先生が黒板にようわからん魔術を唱えている。


大抵が教室で過ごす事になる上で、まだ新学期を迎えて間もないので勉強も本題に入る前の復習が多く、適当に受け流していても差し支えは無い。暇つぶしに机に肘を付け、頬を支えて窓の外を見れば校庭やその先の坂の下にある街並みが一望できる。


良い日も、悪い日も、案外一日というのはアッという間に過ぎて行き、気付けば眺めていた街並みがオレンジ色になりかけていた。


『キーンコーンカーンコーン』


学生の仕事終わりを告げる終業チャイムが校内に鳴り響く。この鐘の音を合図に部活で汗を流しに行く健全な若人もいっぱい居る、しかーし私も香織も健全な帰宅部なのでそのまま帰るのだ。

けれども本日、香織は用事があるらしく別々のルートで帰るみたい。寂しく一人、玄関で靴の履き替えをしていたら後ろからかすかな気配がする。


「お疲れ、桜さん!帰るの?」

「うん。そだよ・・・って、え?」


聞き覚えのある声がする方を振り返れば、ユニフォームに着替えてボールを持った松野君が靴を持って後ろに立って居た。


(おJSPJぢおのえDんC!!!)


びっくりして変にのけ反ったら足をつった。


「ぐぬぅわぁぁああっ!つま先がぁああああ!!」


座ったまま必死につった足の親指を手で反らす。鎮痛と共に正常な意識を取り戻した。


「どうかした?」


私の一連の動きを見て、笑いながら松野君がエナメルバッグから練習用の靴を取り出す。


「あぁ、ごめん邪魔だよねっ」


失態を恥じながらもローファーのかかと部分を履き潰したまま急いで壁にもたれて道を開ける。

・・けど譲った場所に他のサッカー部員が座った。


「小春、お前足つってんのか?運動不足なんじゃね。豚なるぞ豚!」

「はっ!?」


他に選べる言葉はいっぱいあっただろうに、松野君の前でそういう話は止めてもらいたい。ってか、何どさくさに紛れてそこ座ってんの!?


「なぁ松野、お前もそう思うだろ?」

「いやぁ・・・俺も冬の間体鈍ってたから、もう立派な豚だよ。一緒だな」


松野君みたいに温かかったらいいのに・・もうちょい乙女設定で居させて欲しいものだ。


「うわぁ、出たよ、出ましたよ!お前はそうやって女の子には甘くなっちゃって、このままじゃチャラ男と勘違いされて――――」


ネチネチと不男論を垂れる空気をなだめ様と苦笑いをしている松野君を見てると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


(・・長がいんだよ!女子と仲良くなれない事をひがんでいるだけじゃん!)


ただ聞き流すだけの時間が勿体なくて、奴が松野君の方を見ている間に靴紐に細工をした。


「じゃあ、私そろそろ行くよ。練習頑張ってね」


優しい人には、優しい気持ちで応えたいのが女心。松野君にはにこやかに手を振って精一杯の応援をする。


「豚、俺には?」


豚に求愛して情を媚びてくる様な変態には思いっきり「べーっ」と舌を出しながらファックサインを決めて玄関を後にした。


「んだてめぇこの野郎っ!うおっ、立てねぇええっ!!!!」 『ドカァアアアアッ!!!』


背を向けた建物の中から叫び声と一緒に派手に転んだ音がする。あっちが話に夢中になっている間に両足のスパイクの紐を繋いでこぶ結びにしておいたのだ。


(ケケケっ・・女は怒らせると怖いんだぞっ!)


悪女では無く、イタズラっ子☆ 

甘い時間を邪魔した犯罪者に懲罰を与えた所で満足して帰路を目指す。

・・・・・・

・・・・

・・・


「右、右、左、右・・」


校門を出てから差し掛かかるいくつかの分岐路を小学校の頃にいとこの家でやったゲームの裏技コマンドみたいな道順で進む。

今日のテーマは近道!見たかった映画のブルーレイを最速で借りるためにレンタルショップへと繋がる隠し通路を抜ける事にした。

これには大通りから外れた裏道を使う必要があり、民家の裏庭やスーパーマーケットの搬入口など、建物の後ろ側に面した道路で塀やフェンスで仕切られた見通しの悪さから人通りは少ない。

だから普通、こんな薄暗い道は女子高生なんて滅多に通る道じゃないけど私は気にしない。


(だって、どうせ奪われるほどの金も無いし、襲われるほどの・・襲われるほどの・・・え~ん)


要は襲われるほど容姿に自信は無いって事。

だが、世の中にはフェチやマニアといった物好きも居るから用心に越したことはない。言いようの無い不安から自然と足取りも早くなる。

見えない嫌悪感が背中にし掛かかって来るので気を紛らわすためにポケットからスマホを取り出して一心不乱で画面をなぞる。もしかしたら今は私オーラの方が禍々しいくて不気味かも・・。


(確か借りる前にオンラインクーポンの手続きをしておけばお得だったんだよな)

レンタルショップのサイトに入って手際よく質問事項を埋めていく。指でスライドさせればすぐに作業が進む、やはり便利だ。


(よし、これで登録完了!)

『ピッ』

データ送信のボタンを押した時の事だった。


『ピカァアアアアアアアン――』


いきなりスマホの画面が激しく光りだす。


「えぇ?何、何これっ!?」


とても機械のシステムとは思えないレベルの閃光に目も眩むが、起きている事がわからない以上投げ出す訳にもいかず仕方なくスマホを握りしめたままもう片方の手で目元に来る光を遮って様子を見る事にした。

目が眩しさに慣れて来ると徐々に光の先から物体をかたどったシルエットが見えてきた。


(人?いや・・違う)


一体、ウチのスマホは何をしでかしてくれてんのか?謎の生命体らしき形はどんどん立体的に具現化してくる。

今更ポケットにもしまえない状態で、たじろいで居る内に光が弱まって来ると、物体は完全な形を成して携帯機器から分離されていた。


「え・・・ヴァーチャル?ヴァーチャルなの!?これ・・」


光が出てきている時点で普通では無いのに、目の前に立つその行き物の姿に私は思わず腰を抜かしてしまった。


180cm位はあるだろう。自分より高い身長をして、映画で見た陰陽師が来ているような着物を着て仁王立ちをしている生き物がそこに居る。けど・・。


「鳥?」

茶色をベースに所々白の毛を織り交ぜた羽に黄色いクチバシ、獲物を狩る時に冴えわたたりそうな鋭い眼光。

その姿は完全に鷹なのだ。


「我を呼んだのはお主か!?」

「いえ、違います」


二足歩行の鷹はその顔をこちらに向けしっかりとした日本語で喋って来る。逆に増々恐怖心を煽ってくる。

こんな変な生き物に関わる訳にはいかないのだ。


(これは夢。そうに違いない・・)


科学が支配するこの世界で鳥人間が存在するはずが無い。きっと夜更かしがたたってどこかで居眠りをしてしまっているはずだ。そう信じて私は腰を抜かしたまま力一杯に必死に自分のほっぺを引っ張る。


「ひべべべ。いふぁい」


やはり変だ、妙に痛覚が鮮明で夢からも覚めない。次は自分のお腹を叩くことでもっと強い刺激を与えて覚醒を促してみる。


『ボカスカッ』

「痛い痛い・・」


その滑稽な姿を鳥人間が黙って見ていた。


「おい・・・どこかで頭、打ったのか?」


覚めるどころか、目の前の鳥人間に確実に引かれているではないか。


こんな恥かしい夢はないだろうっ・・でも頭の整理がつかない。言葉らしい言葉も出て来ない。

本当は今すぐにでも助けて欲しいけど周りに誰も居ないし、叫べばられるかもしれない・・。


『ガタガタ・・』


心の奥から滲み出て来る動物的な本能が危険信号を感じて小刻みに震える。


”もうやだっ、引きこもりたいっ!!”


恐怖が支配する現実世界から退避するべく体育座りをしたままフリーズした。

「無視この世界は嘘・・無視この世界は嘘・・無視この世界は嘘・・」

もう自分の殻に引きこもらないとこれ以上精神を保てないので外界ぞくせをシャットアウトする。


「おいおい・・・一体さっきからどうなってんだ」


怯える私にお構いなく彼が首をかしげたまま近づいて来る。


(やばい、殺られるっ!)


「うぅ・・うううううう・・」


これ以上歩み寄られる前に自分の縄張りを見定め、うなりながら最後の力を振り絞って睨みつけて威嚇する。


「な・・・何だっ?・・・さっきから。危ない奴」


鷹の鋭い目から軽蔑する様な憐みを感じるが、こっちは自分の命が懸かっているのだ。悠長な事は言ってられない。


『トコトコ』


しかし、鳥人間は足を止めずに両手を上げて近づいて来る。

「あのなぁ、某は丸腰だ。別に取って食う訳つもりも無いのに何故その様な怯え方をする必要がある?」


(え?え?私とコンタクトを取ろうとしているの?)


だったら気分は乗らないけど、こっちも何かしら喋った方が相手の機嫌も損ねずに済むかもしれない。何かしら口を開いて早く牽制けんせいを取らなければならないっ!


「あ、貴方の、その服・・」


老人の様にプルプル震える指をさすと彼は着ている陰陽師の様な黒い着物と白い袴を自身の爪で引っ張る。


「おうこれか?この上着は狩衣かりぎぬだ。下は狩袴かりばかまと言って・・」

「違う、私が聞きたいのはそういう事じゃない!」


鳥人間が話を途中で遮られて不満そうに再び首をかしげる。


「じゃあ何が聞きたいのだ!?」

「私が聞きたいのは・・」


言葉に詰まる。だが引っ込むわけにもいかず、自分を奮い立たせるために拳に力を入れる。


「私が聞きたいのは何で鳥がその服を着こなしてるの?ってかアンタ誰なの?鳥が何でそんなネイティブなの!!?」


言い切った・・胸のつっかえが取れた。そして案の定、鷹の目が更に鋭くなる。


「なっ、なぬ!お主・・某は神の使いだぞ、無礼者!」


神の使いだか、ガキの使いだか知ったこっちゃない。余裕が無いのに大きな声を出されれば、当然びっくりして更に萎縮しちゃう・・。


「だ、だって見た事無いし、訳わかんないじゃん・・名前すら不明だし」


興奮が収まった鳥人間が気怠そうに頭をかく。


「某の名か?」


背中に夕日が浮かぶ中、その鳥はいかつい面持ちでうずくまる私の前に仁王立つ。


「その耳の穴をかっぽじって良く聞け、我の名は神に使われし式神、霊獣コカトリス!!」

「え?令嬢コカトリス?」


『ズテンッ!』


その”コカトリス”と名乗る生物は人間の様に前のめりにつまずく。


「愚か者ぉ、申している傍から聞き間違えるでないっ!れいじゅうだ、れいじゅうコカトリス!」


緊張した耳が彼の初登場シーンを崩してしまったみたいだけど、緊張しているのでその事すら気づかなかった。


ー次回に続くのでしたー


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