友達~トモダチ~ ―前編—
「桜さん」「おいブス」「小春」「桜」
・・・・
春の暖かい日の中で聞こえてくる声
呼び方は違うのに皆にとっての私はちゃんと居るんだね。
暖かい陽だまり、木漏れ日の中心に私も連れてって欲しいな・・・。
「おいコラ、桜!」
・・・ん?・・・何かしわがれた新しい声・・此処で新キャラ?
『バコッ!』
「痛てっ!・・・あれ?」
・・・・・・・
(・・・ここは、教室?)
・・・・・シーン。
見渡すと、みんな教科書を机に置いて一生懸命ノートにペンを走らせている。
つい居眠りしちゃった罰に日誌を挟めたバインダーが頭に直撃して、ただでさえ少ない脳細胞が数万と死んだ。
「桜、お前今日寝過ぎだぞ」
「す、すいません・・」
怒っている先生の顔が逆光のせいで全然見えない。反省したくても窓の外の光が眩しすぎてそれ所じゃない。
角度をずらして見える外はそよ風に吹かれた桜の花びらやら、たんぽぽの綿毛やらが気持ちよさそうに青空の中を舞っている。
夢見心地の優しい心を乗せて一体何処へ行って何を見て来るのかな・・・。
「なぁーんて、らしくないよねっ!」
「何がだ!?」
更にもう二発バインダーで叩かれた。今日始まった訳じゃないけど、いやはや恥かしい・・松野君にもばっちり見られているわけだよね。
(振り返って目とかあったらどうしよう、テンパって絶対顔が赤くなっちゃうよ)
恐る恐る松野君の方を振り向くと、いつも通り隣の席の人と談笑している。
私の方を見ていない安心感と見てくれなくなってしまった寂しさ・・。
(何だろう・・胸の隙間が虚しさでいっぱいだよ。やっぱだめなのかな?)
目が合った訳でも無いのに逃げる様に窓の外に視線を逸らしたら、まるで鳥の羽みたいな形の綿毛が飛んでいる。
(あぁ・・・分かってるよコカトリス。この感覚から逃げちゃいけないんだろうね・・)
<五時間前>
寂しい夢を見た後でコカトリスになだめられて、彼の狩衣に思いっきり『これでもか!?』というくらいの涙と鼻水をつけていた。
『ありがとうコカトリス・・正直、ここんトコ毎日朝が来るのが怖くて・・夜、中々寝つけなかったんだよ・・』
戻れないし変えれない。どうしようも無い痛みが毎日沁み込んで来て不甲斐無くじれったい。
『小春・・思い出せ』
『え?』
落ち着いて諭すような声で話しながら、コカトリスは細長い指先で背中をさすってくれる。
『お主は松野を救いたいんだろ?だとしたら此処から立ち上がるしかない』
『・・・でもどうやって』
『簡単なことだ。いつものお主で接すればよい』
・・・・・・・・
”いつもの私”って誰?
いつもの桜子春って・・どこの誰ぞよ??
(言ってくれるよね、全然わからないよ)
『お主がこれまでに見て感じた事を表現すればよい良い』
『え?』
”松野君を見て感じた事”
『セクシーなうなじ?可愛い目?』
『その答えに手応えは?』
『私の中では模範解答だけど・・』
コカトリスからの無言の圧力に屈服して、もっとワールドワイドにしっかりと思い出す!
去年の春から始まって今年の春に来るまで色々あったなぁ・・
今年の春に入ってからは更に色々あったなぁ・・・。
”それは暖かい陽だまりの中の事”
桜の木の下でピヨリながら片思いをして
何の前準備も無いまま、いきなりスマホから出て来た霊獣が案外流暢で人の心を持ってて・・
そこから生まれた恋愛のズレに焼き餅を火災報知機が鳴るくらい焼いた。
・・・
・・
コカトリスと喧嘩したり、仲間たちとの間に生まれた溝は私にとっても寂しくて辛かった。
まるで現実逃避をするかのように携帯修理に出かけた時、咲耶が人生の最後に教えてくれた言葉。
”女は愛嬌”
元々慈しみを敬う言葉ってコカトリスが言ってた。
あんな笑顔がすぐに出せたら人生はもっと変わっていただろうに、きっと今の私は全然可愛くないよね・・。
<教室>
この優しい外の風景も、流れる時間も、毎日顔を合わせる人たちとも、もっと一緒に居たいな。
楽しい事だけじゃなく辛い事もあって、全然聖地じゃないけど・・
そんな喜怒哀楽の愛情ある世界が私は好きなんだ
「そうなんだね・・」
『パコ――』
また、後頭部にバインダーが落っこちて来た。
「コラッ桜!なにが『そうなんだ?』」
「すいません」
「アハハ桜、世界がぶっ飛んでんじゃん!?」
「この女、ついに2次元と3次元の区別がつかなくなったんじゃねーのか!!?」
「ふん、そうだよ!私は2025年のディストピアから来た未来少女だよ!!」
「意外に近未来だなっ!!」
そよ風はちゃんと幸せとか安心感とか包んでくれてるのかな?
包み方はクレープみたいなのが良いなぁ。
そしたらね河川敷辺りが今日みたいな日は気持ち良いんだよ。
澄んだ川も、鉄塔っも高架線も・・・青空の下に霞む。
さて・・・
もう一回寝よう・・。
『パコっ』
・・・・・
・・・・
・・
・
最近寝不足気味だったから、今日はロクに授業も聞かずに四六時中ビューティフルドリーマーだった気がする。
起き立てのふにゃふにゃ頭で街を見るといつの間にか夕暮れに染まり始めていた。
どうにも早い・・サイクル・・くるくると廻る時間。
『ガタッ』
椅子から立ち上がって、それぞれの放課後へと向かい始める。
当然松野君も部活へ行く。その背中を不甲斐無く見送る毎日。
(このままじゃいけない!・・ってコカトリスなら言うよね)
「ま、松野君・・」
「?」
あわわ・・振り返ってくれた顔を久しぶりに見た気がするけど、逆にどういう顔をしたら良いかわかんない・・。
「あの・・その・・・」
「・・・どうしたの?」
「え?えぇっと・・」
”何で私は止めたの?”
『理由なき理由』とでも言えばこの場は、この感情は丸く収まるのでしょうか?
そもそも収める事に一体何の意味があるのでしょうか?
「実、早く行かないと遅れちゃうよっ!」
「あ・・えっと」
廊下からひょっこりと顔を出す梅原さんの声に引かれて松野君はまるで聖徳太子の様にいくつもの声を聞き分けている。
これ以上ココで止めてしまっていても迷惑になるだけだよね。
「急にごめんね、何でも無い・・」
「あ・・うん」
後ろ髪を引かれながらも松野君は背を向けて廊下へと過ぎ去っていく。
「あっ――」
「ん?」
また止めてしまった。
(どうしよう・・)
”いつものお主で接すれば良い”
(もう、いつもの私って・・?)
潜在的なコアエネルギーを秘めた中二力学も、コンプレックスだらけの緊張も要らない。肩の力を抜いてリラックスしなくちゃ・・。
「れ、練習・・が、がんば・・」
「?」
口が震える、舌が干からびたような感覚。
(まずいぞっ!おちつけ・・落ちつけ小春・・リラックス・・リラックス・・待てよ、そもそもリラックスって何だ?男のズボンはスラックス・・社会の窓からは不死鳥・・・)って下ネタか自分!
”もう、だめだ!なりふり構っている暇はない!行けぇ!!!”
「――――松野君がんばックス!!!!!」
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「え?」
「え?あれ?・・」
松野君の目が点になっている。明らかに手元の召喚カードを間違えた!
(このレマン湖の様に静まり返ったこの空気をどうする・・)
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・いや、その」
緊張する程に性もない事ばっか浮かんでしまう癖が災いしたけど、いくら上がっていたとはいえ『頑ばっクス』ってなんだ!?
スポーツシューズのメーカでも無く、アニメスタジオの名前とも違うカオスな炎上をさせた放火魔の自分にドン引き・・・。
(これは嫌われたな・・フラグ立ったな・・)
希少な巡り合わせを組み合わせた晴れた日が懐かしい・・。
・・・・・
「・・・ありがとう!」
(――つ、通じた!?)
『えぇええ!?』という反対意見を入れる隙も無い速度で一瞬、松野君はいつもの笑みを見せてくれた。こんな惨事としか呼び様のないケアレスミスを見逃してくれるというの!?
「やっぱ、桜さんの言う通り俺”がんばっクス”だからさ、どんな時でも練習だけは集中してやりたいんだ」
「あ、そ・・そうなんだっ!?」
松野君、何かがんばっクスの使い方間違ってるけど、良い方に捉えてくれたんなら良しとしよう!
「じゃあ早速、練習あるから」
「うん・・頑張ってね」
遠く目に背中を見送っても今日は寂しくない。
(喋れた・・笑ってくれたよ)
案外チャンスなんて望んでいる時には来ないくせに、突然不意を突いてやってくる。
(ぞういえば一年前もそうだったな)
『ドクン・・』
(ほっ、まだ顔が熱いし、心臓がバクバクいってる・・・)
胸に手を当ててもまだ収まらない鼓動で満たされている。反面やり切った安堵と充足感もいっぱい、いっぱい。
さっきまで不安でいっぱい、いっぱいだったのに見る角度の不思議。
人間と霊獣の境界 香織と私の境界 松野君と私の境界
境界線の向こう側を一歩踏み出すと真逆の世界観が見えてきたりする。
ガラスで区切られた玄関を一歩出ただけで陽の赤みが眩しい別世界。土の匂いも混じって十何年もこうして生きて来たんだっけなって思い出の奥に絡んでくる。
「――桜さん!!」
「へっ?」
自分の中の世界に浸りすぎていて、声を掛けられるまで梅原さんが近くに居たことに気付かなかった。
辺りを見渡せば陽も沈みかけて、くすんだオレンジに染まる校庭。
今日はサッカー部は自主練でやりたい人だけが集まるから人数はまばら、そしていつもなら先人を切っているはずの松野君が居ない。
「実を見なかった!?」
「松野君?」
グランドから走って来た梅原さんは焦っているのか、妙にそわそわした口調で手がふわついている。
「あのね、一緒に練習に行こうとしたら実が三年の知らない先輩達に呼ばれてどっかに連れていかれたまま帰って来ないの」
「えぇ・・?」
「電話にも出てくれないし、なんかサッカー部に居ないようなガラの悪い先輩達だったから、私不安で・・・」
何時になく弱気な梅原さんが居る・・確かに梅原さんにとって松野君は心の柱だったんだから脆くなって当然。
「おーい!梅ちゃん給水お願いします!」
グランドから聞こえる部活の先輩たちの声、みんな総体を前に余念がない様子。
「もう、こんな時にっ・・」
梅原さんがまるでグランドへ引っ張られる様に足早に戻る。
「桜さん!」
「はい!?」
梅原さんが大きな声を上げて校庭の中で立ち止まると真剣な眼差しで見つめられた。
「私フラれてたんだよね」
「え?」
・・・・・・。
(何の話・・?)
「貴方と喧嘩した日よりも、もっと前に告白したんだよ。そしたら『他に気になる人が居るから友達でいて』だってさ。嫌になっちゃうよね、初めてだよこんなの!」
「梅原さん・・?」
「フラれても探したいし、見つけたら手とか握りたいし、それで実が謝って来る顔を見てホっと一息つきたいけど・・・それは実の望むことじゃないから叶わない」
今は淡々と語るけど、人知れず大切な人との距離に悩んで泣いたり笑ったりしてる・・・。
咲き誇る桜に対してコカトリスが飲むお酒は似合っていたのに、同じ色の涙はなんで浮くんだろう。
「梅ちゃーん!」
「はーいっ!・・良い?桜さん・・実の気になる人が貴方なのか、他の人なのか?それは実にしか分からない」
「――え?」
私なわけないよ。華は枯れっ放しだもん・・。
「でも、可能性が少しでもあるなら・・・どうすることが好きな人というか、好きだと思う事に対する礼儀なのかわかるでしょう?」
「・・・・」
そうだよ松野君も香織もみんな好きだよ・・・。
”好きだよ”
「さぁ、行きなさい!・・というか、もう私は行かなきゃいけないから後は自分で考えなさい!」
冒険者達に助言を残す女神の様なセリフを言い残して梅ちゃん先生ならぬ、梅ちゃん先輩はサッカー部の元へと帰って行った。
一人だけ幸せを追いかけたらズルいのかな?
”女豹”と書いて”こはる”と読むようになるのかな?
建前と本音はどんどんずれていく。
”指切り拳万だ”
いつの日だったかコカトリスと松野君の事で喧嘩した後の仲直りに引っ張ってきた印。
「コカトリス」
答えは出ないけど作る事なら出来る。
松野君を護りたくて起きた数々のアクシデントは松野君を護る事でその答えにたどり着けるのかもしれない。
「梅原さん・・ありがとう」
視線の先、梅原さんは何かを吹っ切るようにみんなの分のスポーツドリンクを作り続ける。
・・・・
・・・
・
校門を潜り抜けて坂を下りて、同じ学校の人達に聞きまわる。
「松野君は柄の悪そうな先輩達と空き地の方へ行ったよ、竹本君もついてってた・・」
「え?竹本も!?」
予想もしない男の名前・・何故?
”・・・だから嫌われるっつんだよ”
私が梅原さんとモメて屋上で泣いた日、あの時竹本は確かに松野君の事をそう言ってた。
「あ、そういえば竹本君もあの先輩たちと仲良かったもん!」
だとしたら・・その先輩と竹本が松野君を?
「わかった、ありがとう」
『ダッ――』
「あ、小春っ」
友達の制止を振り切って近くの空き地をめざす。
目的地が在るのは人通りの少ない路地裏の中、元々は駐車場として使われていた小スペース。
そんな所に連れて行く理由なんてたかが知れている。
(お願い、松野君無事でいて・・竹本早まらないで・・)
人間が相手となればコカトリスは勿論ソメイヨシノを使うわけにもいかない・・。
(警察や先生を呼ぶべきか?でもそうすれば竹本まで・・)
ココはやっぱり自分達で解決しないといけない!と言いながらも解決策が浮かばないまま一歩、一歩目的へどんどん近づいて行く。
(やっぱ、梅原さんだけにでも連絡をするべきなのかな?)
でもとっても辛い気持ちを押し殺して背中を押してくれた気持ちをむげにするわけにもいかないし・・複雑な相関図を抱えたままとうとう路地裏に入ってしまった。
辺りは夕陽も沈みかけて暗くなってきているから裏路地が余計に暗く感じてしまう。
「あっ――」
奥の方、空き地に続く曲がり角からうちの学校の制服の人が二人・・。
「松野君、竹本・・」
二人とも顔に擦り傷を作り、よろめきながら肩を組んで歩いてこっちへと向かってくる。
「な、何で・・こんな・・」
・・・・・・・・・
(痛そう・・何で?)
松野君が傷ついているという不安敵中の展開。
「竹本、まさかアンタ・・・!?」
「・・・・」
何も言わずにズカズカと近づいてくる竹本、案の定あまり機嫌の良さそうな目つきでは無い。
「何とか言いなさいよ!」
「・・・・・・・・・」
「桜さん、違うんだ竹本は」
「黙れよ松野、俺はお前が気に入らない事にかわりは無い」
推測がブレる肩を組み続けている二人の会話。
「な、何があったの?」
「ホレ!」
『ドンっ』
竹本が松野君の肩から手を外すと彼の背中を押してこっちへと突き飛ばしてきた。そのまま松野君も力
っ気無くふらつく・・。
「うぅ・・」
「松野君!」
急いで松野君の肩に入って体勢を整えると竹本は既に路地裏の出口に差し掛かっていた。
「竹本?」
「・・・・・看病してやれよ」
そういうと表通りの飲食店の看板の光が一瞬だけ竹本の背中を映したけど、すぐに姿が消えてしまった。
「・・竹本、何で?・・」
「桜さん・・すまない」
「松野君っ、大丈夫!?」
苦しそうにする松野君を置き去りにも出来ず、竹本を黙って行かせるしかなかった。
・・・・・・・
・・・・・
・・
完全に辺りが暗くなって温度が下がり始めた春らしい夜。
あれから少し回復して歩けるようになった松野君の自らの希望でずっと前に二人で訪れた河川敷にまた来ていた。
なだらかな斜面に腰かけて川の先に光る工場の灯りを黙って眺めて過ぎて行く時間をただ流している。
「・・・松野君、大丈夫?」
「うん、骨とかも何とも無さそうだし、かすり傷だから・・」
口元に殴られた様な跡があってとても痛そう・・。
「口元にまだ血が付いてるよ。これ、使って」
香織からもらったうさちゃんのハンカチを手渡す。
「でも汚くなっちゃうよ」
「良いの、使って・・」
松野君との応援をしてくれる手紙が同封されていたプレゼントだったのだから、これが正しい使い方だと思う。
「ありがとう。桜さんにお世話になるのはこれで二回目だね」
そういえばあの時も部活で擦り剥いた傷の手当てをしたんだっけか・・。
「もう無理はしないでね。みんなが心配するよ」
「うん、気を付けるよ」
ゆったりとした夜風が吹いて草原をそっとなびかせる。
「松野君、一体今日何があったの?」
「・・・・知らない先輩から放課後に囲まれて、梅原の保証を引きかえに連れていかれる事になって」
「梅原さん?」
「うん、あいつも喧嘩っ早い所があるからなぁ・・なんか梅原にやられた”けんじ君”の知り合いって
言ってたけど、良くわかんねーや・・」
(逆恨み!?)
梅原さんにも色々あるんだろうなぁ・・・でも、コカトリス絡みでは無さそう・・。
「それで、その先輩達と一緒に竹本もつるんじゃったの?」
「・・いや、違う。竹本は空き地に着くまでずっと先輩達を説得してくれたんだ」
「え?」
”『・・・だから嫌われるっつんだよ』”
矛盾、だって竹本はあの時に松野君の事を・・。
「先輩達が俺の事を『スカしてる』とか『女子に媚び売って人気を得ようとしてる』とか言って来たけど、竹本は『ムカつく気持ちは一緒だけど理由が違う』って・・」
「ちがう?」
「『松野がムカつく理由は打算の無い所だ』って・・ついでに言えば『それでいて友達の気持ちを持って行った時には殺してやろうかと思った』っだとさ・・」
川がせせらぐ中、松野君はとても辛そうに遠くを見る。
「俺はサッカーが好きで、チームの仲間たちが好きで、クラスの人達が好きで・・でもみんなから嫌われてんのかな?」
私の中で好印象に感じていた松野君の爽やかさが、逆に誰かを傷つけて松野君自体を傷つける。
純朴の脆さが夜風に揺れている。
でも・・・
好きなら嫌いに負けないでほしい・・
「松野君・・サッカーは嫌われてでもやりたい?チームやクラスの仲間たちはそれでも好き?」
「・・・・桜さん」
地球は丸く出来ているくせに全員とは意見は合わないし傷つけあう
でも、それでも頑張ってれば誰かが見ていてくれてるもんだ
だって、やっぱり地球は丸いから見ようと思えば何だってすぐ見えるよ!
「松野君がレギュラーになれば他の誰かは補欠になるし、松野君が誰かに慕われれば面白くない思いをする人も出て来る。少なからず誰かは松野君の幸せを良く思わない事もあるかもしれないけど・・それでも松野君はみんなの事が好きなの?」
・・・・・・・・・・
「・・・・・うん、勿論」
それでも松野君は優しい表情でそっと頷いてくれた。
(・・・良かった)
今まで陰ながらでも護ってきて良かった。
私はこの純粋な気持ちに惹かれてここまで来れた。
ありがとう松野君。
「桜さんが同じクラスで良かった。ありがとう」
「え?そんな・・」
「桜さんと話せて楽になった。勿論竹本の事も大切な仲間だと思ってる」
「それは・・」
”ボーイズラブ!?”
『プシューーーー!!』
「あ、ちょっと桜さん?しっかり、顔赤っ!熱あるんじゃないか?」
私の頭の気化熱と工場煙突から上がる煙が空で交じり合う。
「だ、大丈夫だよ。それで、不良たちと戦って竹本も怪我を?」
「いや、俺の怪我はそうだけど、竹本はその後来た奴に・・」
「?」
だって、あそこに居たのは私と松野君と竹本と・・・?
「何か変なローブを被ってたな。後ろからボウガンが飛んできてかわしたと思ったらナイフで竹本を刺そうとしたんだ。で、二人が取っ組み合いの喧嘩になって・・俺が後ろから角材で殴った」
間違いなくこの間深夜の住宅街で戦った敵に間違いない。
ついに松野君にまで近づいたのか・・。
「倒したの?」
「いや、角材は肩に当たって怯んだところに別の男が来て一緒に逃げて行った」
竹本蓬莱軒に違いない。
「そうだったんだ・・・」
「本当は警察に通報しようとしたんだけど、竹本からは『絶対に誰にも言うな』って言われたよ。だから桜さんも内緒な」
(竹本・・・)
今更一人で何を抱えようっての?
この事をコカトリスに相談しなくちゃいけないから、貴重な時間だけどそろそろおいとまタイム。
「さて、松野君・・帰ろうか」
「そうだな、今日はありがとう」
御礼を言いたいのはこっちだよ。
いつの間にかわだかまりが取れて、とても軽く心地良い感覚に変わっていく感覚が自分でもわかる。
この月はみんなを平等に照らしているのかな?
・・・・・・
・・・・
・・
松野君と解散した後に一人で夜空を見上げた。
今晩だけ本音を言うとね・・やっぱ心残りが在るんだ
本当はリア充って言われるカップルに憧れていたよ
学校帰りに一緒に洋服を見に行ったり、お気に入りの映画を一緒に見たり
時々ケンカをして、その分仲直りした後にいっぱい甘えたり・・
二人で作れる楽しい思い出にいっぱい、いっぱい憧れてた
それが叶わない現実の日々というのはとても歯がゆくて寂しい時もあるけど
・・・・・・・・・・・・・・
今、自分の中で大切に抱える感情や
大切に護りたい人が居て、その人が幸せそうに笑っててくれて
日々のサイクルで支えてくれる仲間がいて
リア充が現実の充実を意味するなら私の今はとても充実してた事に気付いたんだ。
傷や痛みは私に真のリア充な日々を護る事の大切さを教えてくれた
みんな、本当に、本当にありがとう・・・
(―――さ、物思いに更けるのは此処まで!)
静かな住宅街に入ったと同時に高架線を見ながら気持ちを切り替えた。
・・・・・・
・・・
・・
・
『バタン』
「コカトリス!」
「おう、どうした?」
コカトリスは呑気に月を見ながら一人で晩酌をしていた。
「どうしたもこうしたも無いでしょ!」
「あぁ?」
「また、蓬莱軒が出て来たんだよ、しかも今度は松野君も居たんだよ?竹本も傷ついたし・・こっちも対策を・・」
「待て」
電気を付けようとする手を止められた。
「何で?」
「まぁ、座れ」
言われた通りコカトリスの隣に座って彼と同じく窓越しに空を眺めた。
「今日は綺麗な月だのぅ。少し雲がかかっているがそれもじきに取れるだろう」
「どういう事?」
コカトリスがおちょこの中の日本酒に手を付ける。
「陰陽道の中にある旧暦と今日の月は同じ形になるに違いない」
淡くも輝いている星の命
いつから始まっていつ終わるのかもわからないけど、竹本達はそういう世界の計算をしているの?
「昔、『治承・寿永の乱』という戦があってな。多くの血が流れ、お主の先祖の咲耶、松野基房、某、そして竹本の家元である蘇軾や蓬莱もおった」
貴族が滅びるきっかけになった戦乱。此処で咲耶と加山の運命も本格的に交わったって聞いたな。
「その戦乱だが陰陽師の中では表記の仕方が違う」
「書き方が違うってどういう事?」
するとコカトリスは私の机からペンとメモ帳を取りだした。
「うむ、表社会では『治承・寿永の乱』と書かれているが実際の名称は『事象・寿永の鸞』となる。
月の光に反射して見える文字、うっすらと見える。
「どういう事?」
「竹本蓬莱は様々な陰陽師術を駆使してこの時代まで生き延びてきたが、その思想の究極がこの『事象・寿永の鸞』になるのだ。教科書に載っている”治承”は年号の名称だろうが竹本達が図る”事象”とは現実の出来事を意味する。そして寿永だが寿とは寿命など命を現わす言葉。そこに永遠の概念を織り交ぜた寿永。最後に鸞だがこれは神霊の精が神格化して鳳凰の姿になるのだが、それが更に進化を遂げ鸞となるのだ」
(???長いよ・・・)
「蓬莱は鸞になる事で永遠の命を現実の事柄にしようとしている」
「つまり不老不死ってこと?・・・っ!」
”『人間の上に立ち神をも伏せる存在となるのだ』”
コカトリスが咲耶の事を話してくれた時に出て来た蓬莱のフレーズ。
「じゃあ蓬莱は・・」
「そうだ、至極の生命体となって神の上に立とうとしている」
「人間が神様の上に立つなんて・・」
「儀式を行える暦は月満ち欠けで決まるが、恐らくその範囲に入ったのだろう」
竹本はそんな事実を抱えてすぐそこまでの恐怖と一緒に居るというの?
「でも、コカトリスも神様の使いなら儀式の日取りとか知ってて逆算出来たんじゃないの?」
「いや、某もある程度の気配や霊力の念は感じ取れるが使い魔である以上完璧な存在では無い。把握できる範囲も限られていれば管轄できる地区もある。それに以前に申した通り与えられた任務もまだ途中なのだ」
念を電波に例えるならコカトリスは携帯電話みたい。
辿れる電波の幅を場所でいえばそれなりの範囲なのかもしれないけど、彼の電波は時代や次元その物を越えている。
「封印を行い、時の狭間に閉じ込めた羅刹達の結界を解こうとする者がいずれ現れる情報を天国で察知はしていたが、同時に加山として生きていた頃の記憶が蓬莱に対しての啓発を促し続けてな・・だから竹本登から頼まれた『桜小春』を護衛する依頼を引き受けたのだ」
「え?ちょっと待って、じゃあ私は蓬莱軒を誘き寄せるためのおとり?」
(今まで一緒に過ごしてきた日々は?信頼関係は?道具?)
『パコっ』
「痛っ」
コカトリスが持っていたペンで私のおでこの中心を突っついてきた。
「某はそこまで非常では無い。蓬莱の情報だけなら竹本登との話し合い一つで十分だ。聞きだした後にこちらから攻め込めば良いのだからな」
「じゃあ何で私に絡んできたの?」
「・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・名前を聞いた時に、そしてお主の顔を見る度”咲耶”の存在を感じ取る事が出来た・・一度だけで良い、お会いしたかった・・」
私を通して何百年も前から待ち望んでいた願いを叶えようと・・?
逆に言えばコカトリス・・いや加山はずっと咲耶の事を慕い続けてたの?
「忠義を果たせぬまま主君を失い、時の中を彷徨っていたが子孫のお主に出会った事で再びその想いをかざせると思ったのだ。勿論咲耶と小春は別の存在だがそれでも桜家への想いを・・・」
咲耶はどんだけ信頼されていたんだろう。
コカトリス・・加山も自分が付き合う訳でもないのに儚く歯痒く切ない感覚に何百年も取り込まれて・・・
「なら、何で『松野君が死ぬ』なんて言って私を遠ざけたの?」
前に竹本の家で言っていた事、これじゃあコカトリスが桜家のために来た所か邪魔しに来たようなもんだ。
「それは竹本の一族が勝手の判断している事、某に遠ざける気持ちなど毛頭にない」
「どういう事?」
「お主がそれで松野の元から離れるのであればそれまでの話。しかし咲耶は何かを傷つけたり、富のために力を発揮する系統の人間では無かった。彼女が力を発揮するのは松野基房をそして民を護る時」
確かにあの時コカトリスは”一緒に戦ってくれる定めを感じた”と言っていたけど”それは私自身が決める道”とも言っていた。という事は私が闘う理由と咲耶が闘う理由が一緒かためしてたという事かな?
「っていうことは、咲耶が松野基房を護るために振るっていた力と私の松野君を護りたいという気持ちで湧いてくる力が同じだったら咲耶の代わりに一緒に闘ってくれと?」
「・・・・・コクリ」
・・・・・・コカトリスは黙ってうなずく。
(ほほう、ほほう・・そう来ましたか・・)
「小春、正直命が懸かる戦いになるであろう。運命と名を打って巻き込んでしまった某にも当然計り知れない責務はある。だが・・・」
『サッ――』
「!!?っ」
目の前でコカリスが堂々と土下座を始めた。
「ちょ、ちょっとやめてよっ!」
慌てて起こそうとしてもコカトリスは決して体勢を崩そうとはしない。
「お主を傷つけ、尚も不甲斐無く縋るしか出来ないがそれでも願う。どうか、力を貸して下され!」
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・
・・・・
コカトリスに比べて私は十七年しか生きていないから、それなりの知識と経験しか持っていない。
それでも、私の思い出の中にも松野君、香織、竹本、梅原さん、家族・・他にもいっぱい、いっぱい、護りたい人たちがいる。
勿論コカトリスもその中に居るよ・・・
「ったく、ナメないでよ・・」
「・・・すまない」
「貴方の土下座が無くたって私は護るよ。そのためなら戦うよ」
「小春・・!?」
相手が誰だって関係ない。私だって少しは成長したんだ!
「だから顔を上げて、もうそんな格好してないで、ね?」
そしてコカトリスは体勢を整えると狩衣を手で整えておちょこを私の顔の前にかざした。
中のお酒に月の灯りが反射している。
「・・小春、恩に着る。これは決戦の盃だ。今宵、蓬莱は竹本邸に封印を解きに行くだろう。そこを叩き潰してこの因縁に終止符を打つ!」
竹本の家が”事象・寿永の鸞”という儀式の祭壇となるのなら、その事を悟って一足先に帰ったという事か。
(何よ、格好つけちゃってさ)
仲間じゃん、最初は嫌いなタイプだったけど・・
”前よりは香織に薦めれるよ”
・・香織、長々と辛い思いをさせちゃってごめんね
蓬莱軒が香織を誘拐している可能性があるとすれば儀式の会場で手がかりがつかめるはず。
だから、もうちょっとだよ・・・もうちょっとだけ待ってて・・・
今、助けに行くから!
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
さっきまでお酒を反射させていた月の灯りは今、青白くアスファルトを照らしている。
ブレザーじゃ心もとない寒気をお気に入りのマフラーでシャットダウンしてスマホを握りしめて一人歩く。
(着替えてくれば良かったかな?)
もう夜の闇が深く支配するお巡りさんに見つかれば補導もされかねない時間帯・・・でもよくよく考えてみれば普段から童顔でからかわれてんだから、私服で歩いても結局補導をされる星の元に生まれてしまったんだろう。
「コカトリスもいきなりだもんなぁ・・段取りとか、気持ちの整理とかってあんじゃん・・人間ってさ・・」
でも、会ってすぐに説明して事務的に手伝わせて戦う訳じゃなく、私の中を巡る気持ちが作られるのを黙って待っててくれたコカトリスも人間らしいアナログな式神だよね。
「っていうか人間か・・」
(咲耶、貴方はとても素敵な人たちと一緒に居たんだね・・私も同じみたいです)
こそばゆい心を春の夜風が掻き消していく。
・・・・・住宅街の交差点を抜けて
あの桜の木の下で出会って無かったら松野君にも惚れて無かったのかな
・・・・・工場の灯りに照らし出された河川敷を越えて
あの日、寝ぼけてスマホをいじって無ければコカトリスにも会えなかったのかな
・・・・・高架線の下を潜り抜けて
あの時、梅原さんと言い争って無ければ此処まで頑張れてなかったかな
・・・・・商店街を通り抜けて
あの喧嘩や思い違いで寂しさと闘っていたの日々の中、街が優しかったんだよ
・・・・・学校の先の坂を上って
あのタイミングで凌霄が私の心に色々覚悟をくれたんだよね
・・・・・畦道を越えて
あの夢の中で出会えた咲耶が恋に悩む喜びを教えてくれた
・・・・・竹本邸の前
”あの”を”この瞬間”に変えて今、辿り着いた。
(此処か・・)
早速スマホで竹本の番号をかける。
「あ、竹本?美人で聡明なクラスメイトが来ましたよ」
「・・・あっ?何で来た!?呼んだ覚えは無いぞ!!そしてこの番号は空前絶後に馬鹿な女の番号だ!!」
「いいから開けてよっ!ってかこっちから入るからね」
『ギィイイイイイ――』
少し重い木の戸を押して開けると、竹本の部屋が見えるけど電気はついていない。
「奥の方か」
薄暗い足場の中、急いで奥の裏庭へと走る。
・・・・・・・・・・・
・・・・・
目の前の広がるのはタイマツに照らされた園庭。
炎の微かな明かりに照らされて見えるのは、相変わらず小まめに整備されている草木、白い石の床に丁寧に埋まられている桜の木。
そして、その真ん中に立っているのは紛れも無く竹本登。
「竹本!」
「桜、何故!?」
「『何故!?』じゃないでしょっ!あんたねぇ、前から格好つけたがる人だったけどこれはもうダサいよ!勘違いファッションして2chで叩かれてる人みたい!」
まるで意味が伝わってない呆れ顔で竹本は睨んでくる。
「またお前は意味の不明な」
「意味わかんないのはそっちじゃん」
「は?」
松明の火に照らされた竹本の眉間しわは最高潮だ。
「私たち仲間じゃないの?」
「は?」
「何で仲間に打ち明けてくれないのさ?全然訳わかんないぃっ!」
今、共有するべき事、繋ぐべき事がいっぱい在るはずなのに・・未知の敵を相手に独りで散り行かないで欲しい。
「お前には松野が居るだろう」
「・・・?」
「お前の護る相手は俺じゃない。松野だろ?って」
この期に及んで彼は何を頑なに拒んで意地になっているんだ?
「そうだよ、私が護るって決意したのは松野君だよ・・でも、好きな人達みんなを護りたいだよ」
「・・・・偽善だ」
「何が?」
「それはエゴと偽善に満ちた自己満足だ。そんな半端な気持ちで手伝われても迷惑なんだよ」
暗い空、月の下、炎が燃え盛る中、竹本はワイシャツの胸ポケットから式札を取り出す。
「此処からは生き残れない可能性の方が早い、悪い事は居ない。帰れ!そして松野と平和な日々を送れ」
「馬鹿!竹本の馬鹿!頭良いのに馬鹿!」
「っんだと?」
私はこの男の性格を全て知っている訳では無い。でも、この日々の中で見て来た竹本なら知っている。
伊達に隣の席じゃないんだ。
「アンタがそう言って突き放す部分も含めて優しいのは知っているよ。だから尚更帰れない」
「は?」
「今ここに他の人達が居ないけど、どうせ同じような事を言って遠ざけたんでしょ。他人が傷つく姿を見たくないから」
そう、この男は見た目の露骨にクールなキャラの反して優しすぎる。
「だから、私も松野君も遠ざけた。『死ぬ時は俺一人十分』みたいな?」
「・・・・・・」
「あんた学校で何勉強して来たの?・・その答えは赤点も良いとこだよ」
「・・・」
「友達とか仲間とかこういう時のために居るんでしょ!?一人で死にになんか行かせない!!」
「・・お前・・馬鹿か?」
普段冷めていて一定の口ぶりの竹本の声が震えている。
「そうだよ竹本が一番言ってくるんじゃん」
「あぁ、馬鹿だな・・」
泣きそうなのを隠しているのか目頭を押さえている。
「でもね、これがウマシカと書いて馬鹿と呼ぼうが、鹿馬と書いてカバになっても、私は私。この性格は補習授業やHRじゃ直らない」
「・・・本当に残るというのか?」
「・・・・・」
竹本の真っ直ぐな質問に対して縦に頷いた。当たり前だろバッキャろう!
「・・・ブスな上に馬鹿だな・・留年だ」
竹本が少し照れながら空を見上げる。
「・・・竹本、その仕草・・・ダサいよ」
「っるせぇ!殺すぞ!」
戦う前に殺されては本末転倒という奴である。
『ピカァアアアアン』
そしてスマホの眩い光と共にコカトリスが現れた。
「仲良き事は美しきかな」
そしてコカトリスは夜空を見上げた。そこにはさっきから雲によって満ち欠けの激しい月が相変わらず眩い光を放っている。
「コカトリス、そろそろ奴らは来るの?」
「あぁ・・」
周りからしてみれば何でも無い、普段と同じ夜なのに・・私達にしてみれば決戦。
永遠の命を手に入れ、逆らう者はみんな邪視で石にしてしまう計画を持った悪鬼。
止まらない胸騒ぎに覚える不安。
「・・・来るぞ」
コカトリスの呟きと共に月の灯りに照らされた砂利の中央が光り出す。
「コカトリス、これは!?」
「蓬莱の登場だ」
光が人の形に変化して狩衣に袴を履いた男が現れた。
大体四十歳くらい、キツネ目に顎髭を生やした痩せ型の中年男性。
「これが、竹本の先祖」
「咲耶との因縁の決着をつける時が・・」
蓬莱軒を見るなり一歩前へと進む竹本登。
「お前は歴史の産んだ汚物だ。早々に立ち去れ」
竹本の発言を聞くと蓬莱軒は苦笑いを含ませる。
「ほぅ、お前がこの竹本蓬莱の子孫か・・歴史の事象も変えれぬ愚図めっ!」
一つ言いきるだけでも足元がすくわれそうな威圧感。
「愚図が何人かかって来ようと所詮虫けらの寄合にすぎぬ。故にまとめて葬ってやる・・かかって来るがいい!」
蓬莱軒の一言と共に歴史を掛けた殺し合いの幕が開けられた。
次回後編